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悠希の決意

 何度も何度も、校長先生の放送が校内に響いている。

 その放送に負けないくらいの先生たちの声があちらこちらから聞こえてくる。

 それを合図に大勢の生徒がバラバラと校舎から走って出ていた。


悠希(ゆうき)、私達も出なきゃ!」


 放送を聞きながら生徒たちが校舎内から出ていくのを窓から見ながら、あかねが焦ったように悠希に呼びかける。

 既に龍斗りゅうとと茜は放送を聞いてすぐに教室の近くの階段を下りようとしていた。

 ところが、悠希がいつまでも大雅(たいが)の情報が書かれた冊子を見つめたまま動かないので、茜だけ教室に引き返したのだ。


「何やってんだよ、早く出ないとやべぇぞ!」


 たまりかねた龍斗も引き返し、悠希に向かって叫ぶ。

 それでも悠希は動かなかった。

 じっと資料の山を見つめたまま。

 まるで何かを考え込んでいるかのように。


「おい! 悠希!」


 龍斗がもう一度呼ぶと、ようやく悠希は顔を上げて龍斗と茜を見た。


「お前らは先に行っとけ」


「は? 何言ってんだよ。お前だって……」


 龍斗が悠希の言葉に驚いて言った。


「行っとけって言ってんだろ」


 龍斗の言葉を遮って、しかし落ち着いた様子で悠希はもう一度言った。


「だから何でだよ! いつまた爆発するかわかんねぇんだから悠希だって逃げないとダメだろ!」


「じゃあ誰が陰陽寺(おんみょうじ)のこと止めるんだよ」


「そ、それは……」


 龍斗は思わず言葉を濁してしまう。

 確かに悠希の言い分は間違っていない。

 自分達が逃げたらまた大雅を泳がせておくことになってしまう。

 そうすれば大雅はまた違う学校を爆発させるだろう。

 これは紛れもない事実だった。

 言葉を濁した龍斗を見て、悠希はなおも続ける。


「ただ逃げて自分達さえ助かればいいって問題じゃないんだよ。二度とあんな悲劇を繰り返させないために、俺たちで終わらせるって言っただろ?」


「誰も逃げるなんて言ってないよ!」


 急に茜が声をあげた。

 悠希も龍斗も驚いて茜を見る。


「悠希は間違ってないよ。陰陽寺を止めるのは私達しかいないよ? でもだからこそ、今は逃げて絶対生き延びなきゃいけないんじゃない? 私達がこのまま残って、もしまた爆発に巻き込まれたらここまで計画を立てた意味がないよ!」


 茜の言葉に悠希は俯いて黙りこんだ。

 茜の言葉を脳内でループさせて考えているようだった。

 しばらくの沈黙の後、悠希がようやく口を開いた。


「……そうだな。わかった。でもちょっとだけ後に出てもいいか? 陰陽寺の居場所を確認しておきたいんだ。そうすれば次どこが爆発するか見当がつくし」


 言いながら悠希は鼻を触る。

 龍斗は少し考えた後怒った風に言った。


「わかった。その代わり騙したら許さねえぞ」


「ああ」


 龍斗の言葉に悠希は笑顔で力強くうなずく。

 龍斗も頷き返してしばらく悠希を見つめた後、意を決して階段を足早に下りていった。

 茜はまだ教室に留まっていた。

 悠希は茜に尋ねた。


「何で先に行かないんだ?」


「別に。気分じゃない」


「何だよそれ。先に逃げようって言ったくせに」


 少し笑いながら悠希は言った。

 だが次に茜の方を見たとき、悠希の笑顔は消えた。

 茜は今にも泣きそうな表情をしていた。

 目にいっぱい涙を溜めていた。

 目が涙で煌めいている。

 悠希は心配そうに尋ねた。


「どうした? 茜」


「悠希の嘘つき」


「は? 何でだよ」


 悠希はまた笑った。

 でも茜はいたって真面目に自分より背の高い悠希を見つめた。


「悠希、いっつも嘘つくとき鼻触るもん」


 悠希は黙ることしかできなかった。


「やっぱ、茜には叶わねえな」


「当たり前じゃん。これでも何ヵ月かは悠希のこと見てきたんだからね」


「ははっ。そうだな」


「笑い事じゃないよ……」


 ついに茜の目から涙が流れた。

 一旦流れてしまうと次から次へと流れてきて止まらない。


「もう……泣くつもりじゃなかったのに」


 茜は必死に目を擦って涙を拭っている。

 恥ずかしそうに笑って、でもどこか力強さが感じられる口調で言った。


「悠希はどうせ、陰陽寺のことも助けようって思ってるんでしょ」


「何でそこまで見抜いてんだよ。怖いな」


「悠希だったらそうしそうだから……言ってみただけ」


「まぁ、ヤバくなったらすぐ俺も逃げてくるから」


「絶対だよ」


「意外だな。俺のこと止めないんだな」


「悠希、案外頑固だから止めても無駄だもん」


「よくわかってんじゃん」


「何よ」


「大丈夫だから。早く出ろ」


 茜は少し黙って悠希を見つめた後に笑顔になって言った。


「わかった。約束だからね」


 そう言って茜は階段を駆け下りていった。

 悠希は、階段を下りていく茜を見つめた後、深い深呼吸をして独りごちた。


「よし、じゃあ行くか」


 悠希には勿論、大雅を連れて生きて帰れる自信はそこまでなかった。

 失敗したら死ぬ。絶対に失敗は許されないのだ。


 窓の外を見ると、茜が校庭を走っている姿が目に入った。

 絶対に、生きて帰る。

 悠希はまた深呼吸をする。

 そして、意を決して、教室を走り出て行った。

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