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通りすがりの出会い

「え? 未央みお先輩ってあの優しそうな人だよね」


 早絵さえが病室での記憶を呼び覚ましながら悠希ゆうきに尋ねる。

 悠希はコクリと頷いて、


「全部俺に話してくれたんだ。『悠希くんは知っておいた方がいい』って」


「マジか、何だその特権は」


 何故か悠希だけに与えられた特等席に龍斗りゅうとは分かりやすく困惑する。

 同時に彼の胸の中には『何故幼馴染みの悠希だけがそんな風に扱われるんだ』という嫉妬心も芽生えていた。

 実際、悠希が『破壊者』と呼ばれて世を騒がせていた陰陽寺大雅おんみょうじたいがを捕まえたという功績は意外にも各地に広まっていたのだ。

 それを知っていた未央も『悠希ならば』という思いで全てを打ち明けたのだ。

 知らずのうちに芽生えた嫉妬心を何とか仕舞い込んで、龍斗は続きを尋ねる。


「それで結局あの動画は何だったんだよ」


 最大の謎は動画の正体である。

 動画の犯人が未央ということが分かった今、尚更不思議なのは動画を撮ろうと思った動機だ。

 龍斗の質問に頷いて、悠希は答えた。


「あぁ。強いて言うなら社会に対するメッセージってところかな」


「メッセージ?」


 今度聞き返したのは、未だに欠伸が止まらないあかねである。


「未央先輩、少年院で会った花奈かなさんっていう子と仲良くなったらしくて、その子の相談にものってたんだって。その時に実は咲夜さくやくんの罪を花奈さんが被ってた事が分かって。子供が犯罪に手を染める世の中があって良いはずがないってそう思ったみたいなんだ」


「咲夜って、まさか悠希を拉致した奴か?」


 龍斗が信じられないとばかりに目を見開く。彼にしては頭の回転が速かったことに驚きつつも、


「まぁ、そうだな。でも根は良い子なんだよ。だから未央先輩も余計に可哀想になったって言ってた」


「罪には問われないの?」


 早絵が質問すると、悠希は考え込むようにして手を顎にやり、


「いや、放火したと思われてた住宅の火もすぐに消したって言ってた。先輩の言い分が事実なら現状注意くらいで済むだろ。もしくは器物損害罪かな」


「でも、その家も燃えてなくて放火される前と殆ど変わってないらしいぞ」


 龍斗が言った。おそらく昨夜のニュースなどで耳にした情報なのだろう。


「そっか。それなら厳重注意だけで済みそうだな」


 悠希は安堵して笑みを浮かべた。

 悠希が話し終えたところで朝礼を知らせるチャイムが鳴り、四人は解散することにしたのだった。



 時は過ぎて放課後。


「今日も麗華ちゃんのお見舞い行く?」


 早絵の提案に賛成し、皆で麗華が入院している病院に向かった。

 悠希達が麗華の病室の前に着くと、何やら中から話し声が聞こえていた。


「誰かいるのか?」


「そうみたいだな。暫く待つか」


 龍斗の言葉に悠希は同意。先客が去るまでロビーで待つことにした。


「さっきの、男の人の声だったよね」


 ロビーのソファーに腰をかけながら、茜がポツリと言った。


「確かに。でも誰なんだろう。『麗華ちゃん』って呼んでたからお父さんがこっそり刑務所から抜け出して会いに来たわけじゃないよね」


 早絵が先客の正体に考えを巡らせつつ、実際に起きると最もマズい事態を否定する。

 麗華の父である和泉いずみは、麗華に暴行を加えたとして現在警察に身柄を確保されている。

 それにも関わらず、脱走して麗華に会いに来たとなれば大問題である。

 加えて実の父親が娘をちゃん付けで呼ぶというのも考えにくい。

 麗華が幼稚園や小学校低学年の年齢ならばそれも充分あり得るが、麗華はもう中学生である。

 そんな彼女をちゃん付けで呼ぶのは少なくとも身内ではない。


「あ、出て来たぞ」


 龍斗の小声に、三人が病室の方を見やると、でっぷりと太った男性と丸刈りの男が麗華の病室を後にしていた。

 二人はロビーを通って病院を出て行った。

 男二人がロビーを通った時に悠希達は目を合わせないようにと、そっぽを向いたり寝ているフリをしたりと様々な工夫を凝らした。

 そのため、でっぷりと太った男、森と彼の部下である丸刈りの男が悠希達をじっと見ながらロビーを抜けて行ったことには気付かなかった。


「誰だろ……」


 病院の外に出た森達の背中を見ながら、茜が首をひねる。

 視線こそ合わせていなかったものの、悠希達も視界の隅ではしっかりと森達を捉えていたのである。

 だが、少なくとも森と部下の男は悠希達が見知っている相手ではなかった。


「とりあえず麗華ちゃんの病室に行くか」


 悠希の鶴の一声で、四人は再び目的地へと足を運んだ。


「麗華ちゃん」


 病室のドアを開けて手を振ると、ベッドに上体を起こして座っていた麗華が顔を輝かせた。


「皆さん、来てくださったんですね」


「当たり前だろ? 一回会ってんだから俺達はもう友達だ」


 笑いながらさらっとカッコいいことを言ってのける龍斗に悪寒を感じて顔をしかめながらも、茜はベッドの側に駆け寄って、


「体調どう?」


「大分良くなりました」


「そっか。良かったね」


 茜が頬を緩めると、ドアがまた開いて未央とりんがひょこっと顔を覗かせた。


「あ、未央さん、凛さん」


 麗華が入り口を見て笑顔を輝かせる。


「ヤッホー! 麗華ちゃん!」


「元気にしてる?」


 凛が相変わらずのハイテンションで麗華に手を振り、未央が落ち着いた様子で尋ねた。


「ありがとうございます。お二人にまで来て頂けてすごく嬉しいです」


 麗華が顔をほころばせた。


「あ、ヤッホー! 悠希くん達も来てたんだー!」


 凛は悠希達にも元気に手を振る。


「あ、そうだ」


 思い出したように麗華が言った。


「さっき森さんが来てくれたんですよ」


 その言葉に未央と凛の顔が凍りつく。まるで聞きたくなかった名前を聞いてしまい恐怖感に苛まれているかのように。


「……どうしたんですか?」


 悠希が尋ねると、顔を引きつらせて汗を浮かべた未央がゆっくりと話し始めた。

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