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平穏

「それで森さん、奴らどうしますか。下手に嗅ぎつかれると面倒ですよ」


 そう声をかけたのは、唯一組織の中で出入りがあった丸刈りの男である。

 奴らというのは千里(ちさと)と黒川、そして悠希(ゆうき)たち高校生のことである。

 男にとって悠希たちは危険視している者達なのだろう。

 だか、彼の目の前でふんぞり返っている丸々と太った体型の森は余裕しゃくしゃくといった表情で、


「決まってんだろ」


 さらに挑戦的な瞳を光らせ、歯を見せて笑った。


「全員ぶっ潰す!」


 そんな森に忠誠を誓うように、丸刈りの男を初めとする組織のメンバーは膝をついて頭を垂れた。


「はっ!」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



麗華(れいか)ちゃん、元気そうで良かったね」


 翌朝、悠希たち四人は森にターゲットされたとも知らずにそんな会話をしていた。

 朝礼前の教室は他の生徒も話しているため、割と騒ついている。

 だからあまり他人の目を気にする必要もなく、好きな話をする事が出来るのである。

 麗華の無事を案じたのは、高校一年も終わる頃だというのに未だに眠そうにしているあかねだった。


「そうだね。悠希くんから聞いた感じではもうちょっと危なそうな感じだったけど」


 視線を送る早絵(さえ)にたじろいで悠希は言い訳をする。


「いや、だって母さんから聞いたからそれを皆に伝えただけだよ」


 最終的には実の母である千里に責任を押し付けた悠希。

 だがそれは事実なので誰も悠希を咎めることもできない。


「ふふっ、冗談だよ。聞いた通りの状態じゃなくて良かったじゃない」


 悠希に送ったややキツめの視線を緩め、早絵は笑った。

 そんな彼女に悠希も頷き、肯定の意を見せる。


龍斗(りゅうと)が空気読まないせいで早く帰らなきゃいけなかったけどっ」


 茜は嫌味たらしく言って龍斗を軽く睨みつける。


「わ、わりぃ。そんなつもりじゃなかったんだよ」


 しどろもどろで人差し指を突き合わせながら、龍斗は言い訳をする。

 彼は昨日の病院で空気を読めない発言をしてしまったのだ。


「まぁまぁ、龍斗くんもわざとじゃないんだし、茜ちゃんも許してあげて」


 早絵が龍斗と茜の間に割って入り、仲裁をする。


「本当にもう、普通あり得ないんだからね。トラウマを復活させるような言い方するなんて」


「分かってるって。悪かったよ。俺もあの時は正直動揺してたんだ。それで、あんな事言っちまった」


 頭を掻きながら、龍斗はもう一度謝罪する。


「でも確かにびっくりだよね。実の父親にあんな酷い怪我負わせられるのって」


 早絵が表情を曇らせる。

 早絵達は実際の現場は見ていないが、麗華の怪我の具合から相当な暴力を振るわれたと推測するのは容易だった。


「俺も早絵と同じ事思ってたんだよ」


 同じように表情を曇らせる龍斗の頭を小突き、茜が叱責する。


「いでっ!」


「いでっ! じゃない! 早絵と同じ事思ってたって、あの場で言っていいとは限らないでしょ! ていうか、絶対言っちゃダメ!」


 頭を押さえて痛がる龍斗を睨みつけ、茜はさらに畳み掛ける。


「仮にも高校生なんだからそれぐらいちゃんと弁えなさいよ! 第一ね、龍斗には気遣いっていうものが足りないの! しかも麗華ちゃんは歳下でしょ? 歳上らしくちゃんとした事言いなさいよ! バカ!」


「ば、バカ⁉︎ 」


「当たり前でしょ!」


「まぁまぁ、落ち着いて茜ちゃん。龍斗くんもちゃんと分かってるから。ね?」


 龍斗は頷いて、文句言いたげに唇を尖らせた。


 一方、早絵に言われた茜は、ため息をついてから腕を組み、龍斗を一瞥した。


「仕方ないなぁ。でも私じゃなくてちゃんと麗華ちゃんに謝ってよね」


 重要な点はそこである。

 昨日の龍斗の発言で麗華が少なからず気を悪くしただろうことは事実であり、今ここで龍斗が謝罪を述べてもそれは本来の効果を発揮しない。

 昨日の麗華は龍斗の発言を事実と受け止め、気にしないようにと龍斗にも告げた。

 だが、その丸々全てが彼女の本心ではないことは明白である。

 病院で入院している麗華に向けて麗華の前で述べてこそ意味があるのだ。


「あぁ。勿論だ」


 素直に頷き、龍斗は親指を立ててみせた。


「じゃあ許してあげる〜」


 ぬぼっとした様子で言った後、茜はその言葉を最後に机に突っ伏した。


「散々人の事ボロクソ言って殴った挙句に自分は寝んのかよっ!」


 そんな茜に、龍斗は唾を飛ばす勢いでツッコミを入れた。

 だが、当の眠り姫には聞こえるはずもなかった。


「それで、最近まで話題になってた不可解動画の件も無事に解決したぞ」


 話を変えるべく、悠希は皆に報告をした。

 不可解動画というのは、少女の『ドン!』という声と共に家が燃え上がるような音が聞こえる動画の事である。

 あまりにも情報網が無さすぎるために、不可解な動画として一躍話題になったのだ。


「え? その動画の女の子が誰か分かったってこと?」


 早絵が食い気味に尋ねると、悠希は頷いた。


「あぁ。あの動画の声は未央(みお)先輩だった」


 寝ていたはずの茜もハッと身を起こして悠希を見る。

 目を見開く龍斗、茜、早絵の三人の頭には、病室内で見た黒髪ロングの少女の姿が浮かんでいた。

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