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計画決行

「校舎の二階西棟はこれで全部だな」


 薄暗い部屋の中から大雅(たいが)の声が聞こえてくる。

 外からはまだ数発もの爆弾の爆発音が響いている。

 しかし大雅は悪びれる様子もなく、広げている校内地図に目を落とし、西棟から東棟へと視線を移す。


「次はここだ」


 そうひとりごちる大雅の手には、爆弾を爆発させるスイッチが握られていた。


 ※※※※※※※※※


 二階の西棟は校舎内の廊下の天井全てが崩れ落ちて瓦礫が散乱している。

 まるで大きな地震が起こった後のようだ。

 崩れた天井の割れ目から顔を出して、悠希ゆうきは周囲を見渡す。


(もう天井の崩れは収まったみたいだな……)


龍斗りゅうとあかね、もう大丈夫みたいだぞ」


 悠希は崩れ落ちてきた天井の瓦礫をどけながら、二人を助け出す。


「おう、ありがとな、悠希」


「ありがとう、悠希。助かったよ」


 龍斗と茜が同時にお礼を言う。

 だが悠希はこわばった表情を崩さずに言った。


「いや、安心するのはまだ早い。もしかしたらまた崩れてくるかもしれないからな……」


 悠希の言う通りだった。

 天井は所々崩れ落ちているだけで、爆風に耐え抜き残っている部分も少なくない。

 爆発は当然さっきの一回だけではないだろう。

 そう考えるとまた落ちてくると予想するのが妥当だ。


「一体なんだったの? さっきの」


 茜が、廊下のあちこちに散乱している天井の瓦礫に驚きの表情を浮かべながら悠希に尋ねた。


「さぁな……。俺もよくわからない。でも見当はついてる」


「え?」


 茜が思わず聞き返すと、悠希は少し言いにくそうに俯いて言った。


「きっとこれも、陰陽寺おんみょうじの仕業だ」


「マジかよ!」


 龍斗が叫ぶ。

 悠希は頷いて続けた。


「さっきの資料にも書いてあっただろ? 陰陽寺はターゲットに決めた学校の生徒一人を襲ってその後に校舎を全焼させたって。きっと俺たちの高校もあいつに狙われたんだ」


「くそっ! 何で俺たちの学校が狙われなきゃなんねぇんだよ!」


 悠希の説明に龍斗が怒りをあらわにする。

 たしかに、大雅が焼く高校を選んでいるのに基準も何もない。

 ただ何らかの目的があって、自分が転校した学校を次々と焼いて悲惨な事件をこれまでに何度も起こしてきたのだ。

 当然、大雅のターゲットにされた学校は不運だ。

 龍斗が怒るのも仕方ないことだった。


「龍斗、落ち着いてよ」


「落ち着いてられっかよ!」


 何とか怒っている龍斗をなだめようと声をかけた茜だが、怒りが収まらない龍斗に怒鳴られて思わずビクッと肩を縮めてしまう。

 それでも声を振り絞って茜は提案した。


「陰陽寺もまだ学校にいるはずだよ。だから陰陽寺を探し出して爆発を止めるように説得すれば、やめてくれるかもしれない」


「そんな甘い考えが通用するわけないだろ! 今まで何千人って人の命を奪ってきた奴だぞ? 話して解決するようなレベルじゃねぇんだよ……」


 龍斗はまだ怒りを抑えられない様子だったが、最後の自分の言葉に絶句したように黙り込んだ。

 そう。相手は殺人犯なのだ。

 どんな理由があっても殺人は犯罪だ。

 決して許されることではない。

 それを大雅は、無関係の学校を巻き込んで自分の計画を着々と進めようとしているのだ。

 今までずっとそうしてきた、そして自分の行動にこれっぽっちの迷いもないような卑劣な人間だ。

 話して解決するはずがない。


「それに……もし見つけてもその場で爆弾を落とされたら、俺たちは即死だ。そうなったらあいつの計画は成功して、きっとまた別の学校をターゲットにする。そうやってどんどんどんどん犠牲者が増えていくんだ。俺たちで、今終わらせねぇとキリがねぇんだよ!」


「そう……だよね……。ごめん」


 茜は龍斗の迫力に負けてうなだれてしまう。

 悠希は二人のやりとりをじっと聞いていたが、何かを思いついたかのようにパッと顔を上げた。


「いや、いけるかもしれない」


「は?」


 龍斗が聞き返す。


「どういうことだよ。お前まで正面突破しようってのか?」


 龍斗は信じられないと言った表情で悠希を見た。


 龍斗からしてみると、自分たちが死んだら大雅を止めることができずに逃げられて終わりだ。

 また別の犠牲者が出て大雅がやめない限り永遠に続く。


 今までだってたくさんの犠牲者が出た。

 罪のない人たちが殺された。

 その事件が起こらなければ笑顔で笑って過ごしていた人たちが、その遺族が悲しまなければならなくなった。

 心に大きな傷が残った。

 そしてその傷は一生癒えることはない。


 ずっと、ずっと、その人の重荷として人生に影響を及ぼすことになるのだ。

 そんな辛いことはもう終わりにしたかった。

 いや、二度と起こってはならないことだ。


「俺たちで、止めるしかねぇのに……その俺たちが死んだら……」


「大丈夫だ」


「何でそうやって言い切れるんだよ」


「俺が、何とかする」


「そうやって簡単にできる問題じゃねぇんだよ! 悠希だってわかってんだろ?」


「ああ。わかってる。だからだよ」


 悠希は龍斗、そして茜の目をまっすぐ見て力強く言った。


「俺が、陰陽寺を止める」


 その悠希の言葉に、表情に、迷いなど一つもなかった。


 ※※※※※※※※※


 ダッダッダッダ……。

 廊下を勢いよく走る靴音が聞こえる。

 ドアが乱暴に開かれると、月影先生が声を張り上げた。


「大丈夫ですか!?」

「ああ。私のことは心配ない。それより生徒たちを」


 月影先生が入って行ったのは校長室だった。

 そして彼女は校長先生の無事を確認しに来たのだった。

 校長先生は焦る月影先生をなだめるように制すると、先生に指示を出した。


「まず、先生は生徒たちを救出してくれ。ここに名簿がある。流石に全校生徒は無理だろうから、先生たちには自分の担当クラスの生徒の安否を確認するように伝えている。だから先生もそうしてもらいたい」


「はい、わかりました」


「私はこれから放送を流して生徒たちには動かずにその場に待機させるように指示する。もう何人かの先生は安否確認に向かったから、月影先生も急いでくれ」


「わかりました」


 そういうが早いか、先生は名簿をひったくるように持って全速力で駆け出した。

 先生を見送った校長はすぐにマイクのスイッチを入れて放送し始める。


『校内にいる生徒たちに連絡します。たった今爆発がありました。各担任の先生方が点呼や安否確認に行っていますので、生徒の皆さんは身の安全を第一に考えてその場に待機するように。必要があれば場所を動いても構いません。また、次の爆発に備えて頭をしっかり守る、動くものの近くに行かないなど最低限の注意は測るようにしてください』

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