予行演習
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「凄い! 今からコレ使えるんだね〜!」
外へ出ようと長い廊下を歩きながら、凛は初めて使う小型スマホを両手に持って目をキラキラと輝かせていた。
「うん、いきなり使うのね」
予想外の展開に若干戸惑う未央だが、小型スマホに興味がないわけではなかった。
このような活動が出来るのも地下組織ならではだし、何より誘ってくれた黒川のおかげだ。
お礼を言おうと黒川の方を見上げると、黒川は小型スマホを片手に表裏を見ながら顔をしかめていた。
(警察だからって機械に強いわけじゃないのね……)
未央は彼を見ながらそう思った。
ドラマや漫画で目にする警察官と言えば、トランシーバーや無線を使って離れた仲間同士でもコンタクトを取り合っているような様子が描かれているため、機械にも慣れているものだと思っていたのだ。
だがこの男は違うようだった。
「ねぇ、これどうやって使うか分かる?」
既に使い方をマスターしたのか、小型スマホに口を当てて「もしも〜し」と言ってみたりしながら子供のようにはしゃぐ凛に聞いている。
「え? これ? 電源入れて……耳に当ててみてください」
凛は黒川に指示して自分の小型スマホで黒川宛に「もしも〜し」と話してみせる。
すると黒川の小型スマホから凛の音声が聞こえてきたようで、黒川は「うおっ! 出来た……!」と顔をほころばせた。
「出来た? やったぁ〜!」
自分のことのように喜ぶ凛とハイタッチを交わして黒川は嬉しそうにしている。
「警察官だからって機械慣れしてるわけじゃないんですね」
未央が凛に聞こえないようにそっと言うと、
「これでもまだ新米なんだよ。仕方ないだろ」
口を尖らせて黒川が言うので、
「今でも充分新米に見えますよ」
とからかってやった。
「え〜? なになに〜? 二人だけで内緒話しないでくださいよ〜」
途中で凛が割り込んできたため、黒川の抗議は聞けなかったが、悔しそうに歯ぎしりしていた。
地下からエレベーターを使って地上に上ると、エレベーター前の広場には既に群衆が多く集まっていた。
広場には組織のメンバー以外の人気は全くなく、寧ろ組織のために設計された広場と言っても過言ではないほどだった。
「おぉ〜! 何かこうやって集結すると『組織』って感じ!」
凛がはしゃぎながら言った。
「えー、じゃあ皆聞いてくれ」
地下組織副代表の和泉と共に前に立ち、マイクを使って森が群衆に呼びかけると群衆の騒めきは一瞬にして静かになった。
「まずこれは予行演習だ。だが一つだけ注意してもらいたいことがある。絶対に組織のメンバー以外に怪しまれることのないようにしてくれ。もし訝しげに思われたら地下組織として成り立たなくなっちまう。それだけは頼んだ」
「「はい!」」
群衆の声が重なった。
「追加で。予行演習では実際に普通の街での活動となります。一般の方々もいらっしゃるのでトラブルにならないようくれぐれも気をつけてください」
森からマイクを借りて和泉が言った。
「あ、あと、ここは俺が買い取った土地だから心配すんな。皆には見えねぇかもしれねぇが、でっかいテントになっててな、ほらあそこに」
森は天井を指差して続けた。
「ビニールみたいなのが見えると思う。この土地一帯をビニールで覆ってるんだ。まぁ言わば「も巨大ビニールハウス』って感じだ。だから予行演習中でも何かあったらここに逃げ込んでくりゃ身の安全は確保されるってわけだ」
「おぉ〜! 優しいね!」
感激した凛に未央も頷いて同意する。
「よし、説明はこんくらいでいいだろ。じゃあ皆! 今から実際に街に出て歩き回ってもらう! さっき連絡先交換したメンバー同士でコンタクト取ったり色々試してみてくれ!」
森の言葉を合図に組織の群衆は一斉に巨大ビニールハウスの外に出た。
「じゃあ、あたしたちも行こっか!」
「うん!」
凛の言葉に未央は頷いて、黒川も含めた三人でビニールハウスを出た。
「とりあえず距離置いたりしてどれくらいまで電波が飛ぶか試してみようか」
黒川の提案により、三人は後退りしながら電波の届く距離を調べることにした。
「じゃ、あたし中心〜」
凛の独断で凛を中心にして未央と黒川が後退りすることになった。
「ん?」
黒川は凛から距離を取って後退りしながら自分の視界に疑問を持った。
手を振っている凛の後方で何かが光ったような気がしたのだ。
「凛ちゃん、後ろに何かある?」
「え?」
凛が後ろを振り返って確かめるが、すぐに黒川の方に向き直って、
「何もないですよ〜!」
と親指を立てた。
(おかしいな。何か光った気がしたんだけど)
眉を潜める黒川を心配そうに未央が見つめる。
嫌な予感と共に胸がざわつく感じがするのだ。凛と組織の基地内で出会したときにも感じた不安だった。
「凛ちゃん! 後ろ!」
只事ならぬ黒川の叫び声に未央はハッと顔を上げ、凛は後ろを振り返る。
「え?」
直後、発砲音とともに凛の右肩___顔を肩の間を素早い風が吹き抜けていった。
そして凛の長いツインテールの毛先が何本か地面に落ちた。
「凛ちゃん大丈夫か!?」
慌てて駆け寄り、黒川は凛の肩に手を置く。
「う、うん、大丈夫……」
何が起こったのか理解できていない様子で凛は宙を見たまま頷いた。だがその唇はわなわなと震えている。間違いなく自分に命の危機が迫っていることを少なからず実感したような表情だった。
「凛!」
未央も駆け寄り、後方を確認する。
人影はなく、怪しい行動をしている人物もこちらを伺っている人物もいなかった。
「良かった。銃弾が髪の毛をかすめただけだ」
黒川が胸を撫で下ろす。
凛は自分の長いおさげの毛先が少し切られているのを見つめて、
「未央の言う通りだね」
「え?」
唇を震わせ、無理やり笑顔を作った。
「あたし、ヤバイかも」




