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凛の家族

 こうして未央(みお)、黒川、(りん)は最初の会議室に到着した。


「ここ適当に座っていいんだよ〜」


 凛に言われて未央と黒川は適当な椅子に腰掛ける。


「じゃ、あたしは未央の隣〜」


 先程一瞬見せた無理やりの笑顔とは違った明るい表情で凛はちょこんと未央の隣に座った。そして黒川にウインクする。


「やっぱりカップルは隣同士じゃないとね」


「だからカップルじゃないってば!」


 未央は全力で否定した。

 未央の大声に何事かと会議室に集まった組織のメンバーが一斉に未央たちの方を見る。


「あ、す、すみません……」


 急いで未央は謝り、肩を竦めた。

 そして未央が注目の的になったことを面白がってニヤニヤしているクラスメイトを思いっきり睨みつけてやった。

 だが心の中では凛らしさが戻ってきたことに安堵していた。凛の恐怖に怯えた無理やりな笑顔を見るのは初めてだった。


(ちょっと言い過ぎちゃったかな。嫌な予感がしたのは事実だけどそれをそのまま凛に伝えたのは間違いだったかも)


 お腹を抱えて笑っている凛の横顔を見つめながら未央はそう思った。


「えへへ〜、ごめんごめん。冗談だよ〜」


 まだ笑いを抑えきれないまま舌を出して手を頭にやる凛に未央は何度目か分からないため息をついた。少しでも凛に申し訳ない気持ちを抱いた自分を後悔しながら。


 すると、会議室のドアが開かれて森と男が入ってきた。


「遅れてすまんなぁ。ガッハッハ!」


 応接室と同じように大声で笑う森の横で、眼鏡をかけた男が会釈した。


「初めまして。私、この度副代表に就任致しました、和泉(いずみ)と申します」


(副代表の人なんだ)


 未央が納得しているとその横で、


「何か本格的になってきたね」


 と凛も嬉しそうに囁いた。


「森代表には直接ご指名を賜りまして本当に感謝しております。ありがとうございます」


 群衆の前で和泉という男は森に頭を下げた。


「いやいや、これからよろしく頼むよ。副代表」


 森は和泉の肩をポンポンと叩いた。


「えー、それでだな、新メンバーも入ってくれたことだし」


 そう言いながら森が未央と黒川を見て微笑みを浮かべる。


「改めて組織の活動をこれまで以上に本格化していこうと思っている。その為に皆にも協力してもらいたい」


 森の言葉を合図に和泉がメンバー達に小さなスマホのような機械を手渡していく。


「今、和泉に配ってもらっているのは見ての通りスマホみたいなもんだ。ちょっと小さいがな。これで何処にいても俺たちと連絡が取れるようになってる。流石に組織全員と回線を繋ぐと重たくなっちまうから連絡先として登録できる人数にも制限をつけさせてもらった」


 森は自身の小型スマホ画面を掲げて説明をし始めた。


「まずは代表の俺と副代表の和泉。これは必須な。あと追加で三人追加できる。つまりこの端末を使って連絡し合えるのは五人までってことだ」


「へぇ〜! 凄い! じゃあさ、未央と黒川さん、あたしと連絡先交換しよ〜!」


 凛は早速配られた小型スマホを片手に提案してきた。


「うん、いいよ」


 黒川の了承を得て飛び上がらんばかりに喜ぶ凛を見て、


(さすがイケメン大好き)


 未央は呆れつつ配られた小型スマホに凛と黒川の連絡先を追加しておいた。


「おぉ〜! 凄いね! 本物のスマホみたい!」


 小型スマホを見つめながら目を輝かせる凛に未央は尋ねた。


「凛は自分用の携帯とか持ってないの?」


「あたしんちは親が厳しくて駄目って言われてるんだ。最低でも大学生になってから。最終的には大人になって自分で稼げるようになったら買いなさいだってさ〜」


「ケチだよね〜」と頰を膨らませながら凛は不満そうな表情をする。


「でもその方がいいよ」


「何で?」


 未央の言葉に凛は不思議そうに訊ね返した。携帯を持っていない立場から見れば自分専用のスマホを持っている人たちは羨ましくて仕方がないのにそれを肯定されたのだから不思議でたまらなかった。


「私も一応スマホは持ってるけどフィルターかかってて厳しいし見たいサイトもろくなの見れないしすぐブロックかかるし使用上限は9時までだし何のためのスマホか分かんないくらいなの」


 自笑しながら未央は言う。未央からすれば何のフィルターもかかっていないスマホを持たせてもらっている友人の方が断然羨ましい。


「そっかぁ。じゃあ高校卒業して大学進学してバイトしてお金貯めて、自分でフィルターかかってない自由なスマホ買う方がいいかな〜」


「フィルターに助けられることもあるけど大人になってから持つなら要らないと思うわ」


 未央の言葉に頷いて凛は言った。


「ありがと未央。何かすっきりした。今まで何であたしだけこんな厳しい親の下で生活しなきゃいけないんだって思ってたんだ」


「そういえば親御さんは?」


 先ほど見た凛の部屋を思い出しながら未央は尋ねた。組織の基地に自室を持っているなら実家には帰っていないのだろうかと不思議になったのだ。


「今は海外で仕事してるんだ。ママがモデルで世界中飛び回っててパパはママのマネージャー兼デザイナー。ニコイチじゃないと仕事が成り立たないから仕方ないんだよ」


 凛の瞳が寂しげに下を向く。


「そっか。……そのうち会えるといいね」


 未央が言うと凛は笑顔で頷いた。


「じゃあ聞いてくれ」


 森の声がして未央と凛はハッとして前を見る。

 森は小型スマホを掲げながら群衆に呼びかけた。


「今から実際にこれを使ってどんな感じの連絡の取り合いをすればいいか体験してもらう。準備をして出来た奴から順番に外に出て行ってくれ」

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