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破壊者の過去

「おはよ」


「おはよう」


 眠そうに教室に入ってきたあかねが眠そうに挨拶をする。悠希ゆうきはそんな茜がおもしろくて思わず微笑んでしまう。


「あ」


 不意に茜が声を上げた。

 悠希が茜の方を見ると、茜が悠希の後ろの方をじっと見つめていた。

 つられて悠希も後ろを振り返ると、大雅たいがが机に突っ伏して眠っていた。


「今日は、来てたんだね」


 茜は少し微笑んで安心した様子だった。

 悠希も胸をなでおろした。

 あの事があった翌日、茜は大雅が学校を休んだことにホッとしていた。

 だから今日大雅がいることを知ったら恐怖でどうにかなってしまうかもしれない。

 だがその心配は不要だったようだ。


「……大丈夫なのか? 茜」


 悠希は一応確認するため茜に尋ねた。


「ん? 何が?」


 茜は悠希の質問の意味が分からなかったのだろうか。

 キョトンとした表情で悠希を見ている。


(覚えてない、ってことはないよな。こうなるとますます言いにくい……)


 悠希は意を決して言おうとしていた続きを口にした。


「……その、陰陽寺おんみょうじのこと」


 小声で悠希に言われて、茜は改めて大雅の方を見た。

 なんとも言えない、何か考え込んでいるように黙ったまま、茜は大雅を見つめ続ける。

 やはり、あの日のことがフラッシュバックしてしまっただろうか。

 悠希は言わなければよかったと後悔した。

 茜はまだ大雅を見ている。


「……別に大丈夫だよ」


 しばらくの沈黙の後、やっと茜が口を開いた。

 悠希が茜を見上げると茜は笑顔でこちらを見ていた。

 その笑顔を見て悠希は心の底から安心した。


「そっか、良かった」


「もしかして私のこと心配してくれたの?」


「う、うん、まぁな……心配だし。ほら、あんな怖い思いしたんだからさ」


「まぁね。……でも、もう大丈夫。あの時に悠希がいてくれたおかげで気持ちの整理は出来てるよ」


「そっか」


「意外と優しいじゃん、悠希」


 急に茜がからかうような笑みを浮かべて言った。

 悠希は少し顔を赤らめて照れながら慌てて否定する。


「そ、そんなことねぇよ。単純に心配だっただけで……」


 思わず小声になってしまう。

 急に褒められたものだから、悠希としてもどう反応していいかわからない。

 照れているのを見られたくないと思った悠希は下を向いて俯いた。


(最後まで言い切らねぇとまたからかわれる……)


 悠希は急いで続きの言葉を考えた。


「ふーん」


 悠希がパッと顔を上げて横を向くと茜が納得したように席に座っていた。


(あ、あれ? からかわねぇんだ……)


 悠希はホッとした。

 すると、ドアが開いて月影先生が教室に入ってきた。

 まもなく朝礼が始まる。

 悠希は急いで姿勢を正し、先生の方に目を向けた。


 ※※※※※※※※※※


 放課後、悠希が教科書などを整理していると、龍斗りゅうとが後ろからものすごいスピードで走ってきた。


「悠希!」


 悠希の目の前に立つと机をバン! と力強く叩いて前にのめり込むように悠希を見る。


「お前……顔近いよ」


 悠希は特に意識もしていないが、自然と顔が赤らんでしまうのがわかった。

 当の龍斗はそういうことに疎いため、なぜ悠希の顔が赤いのか分からず不思議そうな表情をしたがすぐに悠希から離れた。


「あ、悪い悪い」


「おう……」


「そうそう、それでな! お前に言いたいことがあってよ」


「な、なんだ?」


「さっき茜と話しててさ、陰陽寺のこと」


「ちょ、おま……」


 悠希は慌てて龍斗の口を塞いだ。

 龍斗は驚いてモゴモゴと言っているが、それには構わずに悠希は急いで後ろを振り返った。

 だがそこには大雅の姿はなかった。


「はぁ、なんだよ、驚かせるな……」


 悠希は安堵のあまり椅子にへたり込んだ。

 一方の龍斗は急に口を塞がれて不機嫌そうに言った。


「なんで急に口塞ぐんだよ! 息止まるかと思っただろ?」


「悪い。いや、陰陽寺がいると思って」


「いねぇよ。終礼終わったらすぐ教室出て行った。ていうかいくら俺だってすぐそばにいる相手の話なんかしねぇよ」


「お前だったらしかねないだろ……」


「しないって!」


「はいはい。……で、陰陽寺がどうしたんだ?」


「あ、そうそう! それでな、茜があいつの情報掴んできてくれるって!」


「え!?」


 悠希は驚いて思わず声をあげた。


「なんでそんな驚くんだよ」


「いや、だって、どうやって情報掴むんだよ」


「知らねぇのか? 悠希」


 悠希にはなんのことか分からない。

 でも龍斗は知っているようだ。

 一体何のことだろうか。

 龍斗はわざとらしく咳払いをすると、鼻高々に話し始めた。


「実はな、俺たちの学校にはそういう裏情報を持ってる奴がいっぱいいるんだよ。で、そのうちの一人が茜の友達だから〜って言って、今そいつの所で情報聞いてきてもらってんだ」


「そ、そんな奴いるのか?」


「大体みんな知ってるぞ」


「いや、俺は知らなかった」


「だろうな。そういう友達が周りにいないと知る由もねぇしな」


「ってことは龍斗もそんな友達いるのか?」


「おう!」


「すげぇ……」


 悠希は驚きを隠せなかった。

 今まで、いや、ついさっきまでこの学校には何の特徴もないと思っていた。

 生徒たちも平凡、学校内も平凡、特に目立ったことをしているわけでもないこの高校に、そんなスパイのような人間たちがいたなんて、と。


「おまたせ! 大漁だよ!」


 ドアがガラッと開いて、茜が笑顔で入ってきた。

 走ってきたのか、息が上がっていて、汗もかいている。


「おぉ〜! ありがとな!」


 龍斗がご機嫌にお礼を言う。

 茜はドサっと音を立てて机の上に大量の紙を置いた。

 なんと『陰陽寺大雅の裏情報』という見ただけでわかる見出しで、ホッチキス留めで冊子のようにしてあるレポートのようなものがいくつかあった。


「こんなの見られたら即刻わかるだろ」


 悠希は呆れた。

 いくらバカな人間でもここまでわかりやすい見出しをつける者はいないはずだ。

 もし万が一大雅に見られでもしたらと考えると背筋が凍る。


「一応私の友達全員あたってこの量かな。本当ならもっとあるはずだけど、知ってる人しか聞けなかったから許して。見ず知らずの人に話しかけるなんてコミュ障には無理無理」


 ポケットから出したハンカチで額の汗を拭いながら茜は側にあった机に座った。


「これで十分だぜ! サンキュー! 茜!」


 呆れている悠希とは違って龍斗は上機嫌だ。

 その冊子をパラパラとめくりながら目を輝かせている。


「すげぇ……すげぇ!! これならバッチリ陰陽寺のことわかるぜ! 細かいところまで書いてある!」


「逆にこれを書いた奴らはどうやってこんな情報手に入れたんだ……?」


「まぁ、そこは知らない方がいいんじゃねぇか?」


「やっぱりそうだよな……」


 途端に龍斗が目を輝かせて悠希に言った。


「じゃないと俺たちまで裏情報の闇に……」


 言いながら龍斗は満面の笑みを浮かべている。

 こういうのが好きなのか、興奮していていかにも楽しそうだ。


(こいつ、こんな奴だったのか……)


 悠希は初めて見た龍斗の姿に圧倒された。

 にしても、こんな裏情報を隠し持っている人と友達である茜も龍斗と同じくらいすごい。


(これが、人間の表裏ってやつか……)


 悠希は衝撃のあまり言葉も出なかった。


「なぁ! 悠希! これ見ろよ!」


 不意に龍斗が大声を出した。

 悠希は龍斗が指差している冊子を覗き込む。

 そこにはあらゆる新聞の記事が貼り付けられていた。

 しかし見出しはどれも同じだった。


「『校内連続殺人事件 生存者はたった一名』」


 悠希が見出しを読み上げる。


「前に悠希が見せてくれたやつか」


「……あぁ」


 悠希の肯定を見て、龍斗はさらにその資料に目を走らせる。


「生存者は……ほら! 陰陽寺大雅! あいつだ! 名前も写真もちゃんと載ってるぜ!」


 龍斗がその記事の切り抜きにある大雅の顔写真を指差した。


「本当だ……」


「ねぇ、見て!」


 茜も声を上げる。

 悠希と龍斗は急いで茜の指差す冊子を見た。

 そこには大雅の年表のようなものが書かれてあり、出身小学校から今の悠希たちの高校まで学校の写真と名前が掲載されていた。そしてその写真の横には、大きく二文字。


『全焼』


 大雅が今まで通っていた学校は全て焼けて今はもうなかったのだ。


「あ! これ……」


 そんな中、悠希は信じられないものを見つけてしまった。

 それは年表の欄外にメモ書きのように小さく書かれていた言葉だった。


『なお、全ての全焼事件でどれも生き残った生徒は陰陽寺大雅一人だけ』


「嘘でしょ!?」


 茜が口を覆った。

 バラバラだったパズルのピース、その最後が埋められる感覚。

 悠希は力強く言った。


「よし、これで確証が持てた」


「え?」


 茜が尋ねる。

 龍斗も黙って悠希の方を見つめている。


「ここまで酷い状況の事件の中で助かるなんて奇跡としか言いようがない。それにこの事件が起きるって知っていないと生き残ることは不可能だ」


 悠希の言葉に、暫く考えていた龍斗がパッと顔を上げて叫んだ。


「じゃ、じゃあ! やっぱり陰陽寺が!」


「ああ」


 悠希は龍斗の言葉に頷き、静かに言った。


「あいつが全ての事件の首謀者だ」

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