地下組織
「では改めて」
その日の夜。黒川が未央に紹介した例の地下組織が使用している秘密基地から低い男の声がした。
「今回新たに我々の組織に入ってくれることになった二人だ」
男が手で指し示す方には、大勢の群衆を前にしてガタガタに緊張している黒川と未央の姿があった。
「よ、よろしくお願いします」
「お願いします……」
黒川に続いて未央も頭を下げる。
見かねた男が笑いながら言った。
「別にそんなに緊張しなくてもいいんだよ、お二人さん。これからは協力する仲間になるんだから。気楽にやっていこうぜ」
バシバシと黒川の肩を叩いてその男は微笑む。そして自らを示して言った。
「ちなみに俺がこの組織の代表やらせてもらってる者だ。森という。よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
黒川の緊張は大分解けてきたようだが、隣に立つ未央はまだ緊張していた。
森は大きな声で笑ってから「じゃ、座ってくれ」と言って二人を群衆の元へやった。
「さてと、改めて皆」
黒川と未央が席に着いたのを見計らって森は群衆に呼びかける。
「新メンバーも入ってくれたことだし、心機一転頑張ろうな!」
「おーーーー!」
群衆が拳を突き上げて歓声を上げた。
「すごい熱意ですね」
「そうだね」
あまりの迫力に未央と黒川は若干引いてしまった。
そして無事に自己紹介も済んだ後、黒川と未央は長い廊下の先にある応接室のような所に通されていた。相手は勿論この地下組織代表の森だ。
「まぁ、どうぞ座ってくれや」
森はそう言って中央のソファーを指し示した。黒川と未央が座ったのを見届けて自らも腰をかけ、話し始める。
「さっきはすまんかったな。いきなり自己紹介なんてさせてよ。緊張したろ」
ガッハッハと反省の色がまるで見えない笑いをかまし、森は言う。
「いや、大丈夫です」
呆れながらも黒川は丁寧に返す。
「そうか? なら良かった。見ての通り俺らの組織は人数が多くてな。新しく入ってくれたメンバーをすぐには把握できねぇ。だから自己紹介してもらったってわけよ」
「確かにすごく多いですね」
未央はあの部屋でキツキツになりながらも歓声を上げていた群衆を思い出す。
そんな未央を見て森が言った。
「そういや、あんたはすげぇな。まだ子供なのにこんな組織に入るだなんて。気に入ったぜ」
親指を立ててニカっと歯を見せる森に黒川が言った。
「いえ、僕が誘ったんです」
森は二人を交互に見て、
「ほー。なら二人はカップルってわけか」
「「え!?」」
森の言葉に二人の声が重なる。お互いを見つめるその表情は少し照れ気味だったが、二人ともが首をブンブンと振って、
「「違います。ただの知り合いです」」
二人の絶妙なハモリに森は大笑い。目尻に涙を浮かべお腹を抱えるほどだった。
「いいコンビだな。俺らにぴったりだ」
「違いますよね」
黒川の耳元で未央が確認する。
「当たり前だろ。僕だってそんなふうに意識したこと一回もないよ」
黒川も声を潜める。
「奇遇ですね。私もです」
「ていうか、まだ数回しか会ってないのにそういう関係に発展したら逆に凄いと僕は思うね」
黒川の言葉に賛同の意を示すべく未央も相槌を打って数秒間にわたる再確認は終了。
「あ、そうだ。お嬢ちゃん」
「はい?」
森は未央を見てこう言った。
「あんた学生だろ? 実はな、この組織ん中にも学生は何人かいるんだよ。もしかしたらあんたの友人もいるかもしんねぇ」
「そうなんですか?」
未央は驚きを隠せなかった。普通このような裏組織に子供が入ることなどないと思っていたからだ。第一子供にしてこのような組織の存在を知っている方が極めて稀だ。未央だって黒川に誘われていなければ知る由もなかった。
「前置きはこんくらいにして。本題に移ろうか。お二人には俺らの組織について説明しようと思ってわざわざここに来てもらったんだ」
そう言って森はこの地下組織について話し始めた。
彼によると、この組織の発足は数年前。若者による犯罪率の増加が懸念され始めた時期だった。何とか阻止しようと森は寄付を募り、政府に見つからないようにメンバーを集めてここに留まることになった。
幸い森のように若者の犯罪を食い止めたいと願う者はたくさんいて、予想以上のスピードで組織は拡大化していったという。
そんな折に世間を騒つかせたのが「破壊者」と呼ばれた少年、陰陽寺大雅だった。彼は幼い頃に火を触ったのがきっかけでどんどん放火魔として成長していった。おまけに自分が所属していた学校を次から次へと爆破していき、証拠も校舎とともに跡形もなく隠蔽するため、爆破が子供によるものだとは誰も気付かなかった。爆破事件が起こっても唯一生還する奇跡の少年として寧ろ讃えられていたほどだった。陰陽寺大雅はとんとん拍子に校舎を全焼させていたが、ある時高校に転校した際の爆破は上手くいかなかった。後にそれを食い止めたのが高校生だと世間に公表され、大きな話題を呼んだ。
「それで俺は思ったんだよ。若者の犯罪は防げる。無理なんかじゃないってな」
それから徐々に活動の範囲を広げていこうという方針に至ったと言う。
「まぁ、説明はここまでで良いだろう。もし何かわからないことがあったら遠慮無く聞いてくれ」
こうして黒川と未央は応接室をあとにした。
「何か、凄かったですね」
「ああ。この組織の存在を知ったのがつい最近だったけど、意外と活動するのはこれからみたいだ」
「私たちも頑張らないといけないですね」
二人が話していると、突然未央の名を呼ぶ声がした。
「あれ? 未央?」
未央が顔を上げるとそこには、
「凛!」
未央のクラスメイト、佐々木凛が立っていた。




