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完全犯罪は可能なのか

「それで? 朝言おうとしたこと何だったんだよ悠希(ゆうき)


 昼休み、茜の机に集まった悠希、龍斗(りゅうと)(あかね)早絵(さえ)は今朝と同じ不可解現象の動画について話を続けていた。

 龍斗が朝礼が始まるチャイムの直前に悠希の言いかけていたことを尋ねる。


「あぁ、いや、仮に犯人が動画で『ドン!』って言ってた女子高生だとして、その子だけで犯行が可能なのかなって思ったんだよ」


「なるへそ」


 自分から聞いておいて龍斗は納得するだけだ。


「確かに気になるかも。女子高生ってことは私たちと同い年だよね?」


 茜の言葉に頷いて早絵が続ける。


「うん。私だったら流石にそんなこと出来ないよ」


「まぁ、早絵は絶対出来ねぇよな。そんな性格だしよ」


 龍斗が早絵をからかうと、早絵は怒ったように言った。


「ど、どんな性格よ。悪くはないと思ってるんだけど……」


 不安そうに後頭部を掻きながら微笑する早絵の肩を叩き、茜が宥める。


「違う違う。早絵は優し過ぎるからそもそも犯罪なんか犯せないだろってこの馬鹿は言いたいんだよ」


「ば、バカ!? おい、茜、バカってなんだよバカって」


「だってバカだもーん」


 文句言いたげな龍斗にベーッと舌を突き出して目を瞑り変顔をお見舞いする茜。

 すると龍斗は急に両手で顔を覆い隠した。


「え? どうしたの?」


 早絵が驚いて真面目に心配するが、悠希は必死に笑いを堪える。

 実は龍斗はこの高校に入学した時から茜に一目惚れしていて、本当は彼女のことが大好きなのだ。だが本人に言い出す勇気など勿論なく、こうして馬鹿言い合いながらも心の中では嬉し過ぎてて飛び跳ねる始末だ。

 それを知っている悠希は、龍斗が急に顔を覆った理由もすぐに分かったため、笑いを必死に堪えているというわけだ。


「まぁ、まぁ、とりあえず動画のことは母さんも捜査してるから色々聞いてみるよ」


 話を元に戻して悠希は言う。未だに龍斗の顔は見えないし、茜も早絵もきょとんと首を傾げてお互い顔を見合わせている状態だが、そろそろ本題に戻さなければ話が進まない。

 だが今回ばかりは悠希たちの出る幕はないだろう。何故なら独自に動いて調べようにも手がかりが何もない。警察でさえ明確な見立てが出来ていない状況なのに素人の悠希たちが新たな証拠を見つけられるわけがないのだ。

 こうして例の如く四人で話を始めてしまった以上は悠希が千里から捜査で分かったことなどを聞いて三人に伝えるしかない。


「サンキュー悠希!」


 龍斗が悠希の背中を思いっきり叩く。久しぶりに受けた幼なじみからの"平手紅葉"に悠希は思わず顔を歪めて叫ぶ。ちなみに"平手紅葉"の名前の由来は、平手で背中を叩くと制服越しでもくっきりと赤い掌の痕が背中につくからだ。悠希にとってはそれを見るだけでも痛みが再発するほど嫌なものだ。


「何だよ! 痛いな! お前それマジでやめろ!」


 唾を飛ばす勢いで言うが龍斗に反省の色は全くない。何事もなかったかのように無音でスカスカの口笛を鳴らし天井を仰いでいる。それに苛立った悠希は歯を食いしばり、さらに唇を噛み締めて、


「お前覚悟しろよ」


 と呟いて、バッチーン‼︎‼︎‼︎

 仕返しに龍斗の背中に"平手紅葉"をお見舞いしてやった。


「いっでぇぇぇぇ!」


 思わず椅子から立ち上がって絶叫をあげる龍斗。目尻にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 悠希はザマァみろと鼻で笑いつつスッキリして弁当の白米を口にした。


「うるさい龍斗」


 一方10秒間ほど叫び続けていた龍斗は茜にぴしゃりと怒られてうなだれている。

 茜がキッと鋭い目で睨む姿も茜LOVEの龍斗には効果なし。寧ろ逆効果だが。


「ま、まぁまぁ、落ち着いて。もうすぐ昼休み終わっちゃうし早く弁当食べちゃお。悠希くんはお母さんから色々聞けそうだったら聞いてみて」


 最終的に早絵が取りまとめて昼休みは終了。龍斗だけが悔しそうに悠希を見ていた。


(にしても……)


 弁当を食べ終わり自分の席に戻ったあと、悠希は一人で考えを巡らせた。


 この動画が撮られた後、その場所のある住宅が火事になっていたというニュースを思い出したのだ。

 現在の不可解事件は言うまでもなくメディアに取り上げられていて咲夜(さくや)が起こした殺人事件並みに世間を騒がせている。

 だが一向に犯人の足取りも事件の手がかりも何一つ掴めないまま刻々と時間だけが過ぎている。

 こんなにも警察が太刀打ち出来ない事件は悠希の知る限りでは初めてだ。

 犯人が警察に慣れているという場合も考えたが、だからと言って証拠まで綺麗に隠滅できるとも限らない。それに動画まであるというのに現代の最新技術でも何もつかめない状況を作るのは余程の超人ではない限り不可能だ。

 悠希たちが今考えている犯人像は女子高生。とても一人だけで完全犯罪を作り上げることができるとは思えない。必ず協力者がいるはずだ。それも警察に慣れていて綺麗に証拠隠滅が出来る人間。

 複数人での犯行ならば完全犯罪を作り上げるのも不可能ではない。

 そうなれば可能性は一つだけ。


(もしかして警察内部の人間が事件に関わっているのか……?)

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