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動画の考察

「ああ、それ私も知ってるよ」


「私も。ニュースでやってたよね」


 教室で悠希(ゆうき)(あかね)早絵(さえ)にもその話をしたが、それだけ有名なのか二人も知っていた。


「ほら、有名だって言っただろ?」


 話題を振った張本人である龍斗(りゅうと)がドヤ顔をしそうな勢いで勝ち誇ってみせた。


「うるさいな」


 ただ茜と早絵にも聞いてみただけなのに腹が立つ言い方で言われて悠希はムッとする。龍斗はこういう奴だと腹をくくってもついついイライラしてしまうのだ。


「でもこればっかりでさ。一向に進展ないんだよ」


 ニュース番組で何回もこの不可解現象の報道を見たのか、茜がつまらなさそうに唇を尖らせる。


「そうそう。警察も捜査の仕様がないみたいでね。証拠とか目撃証言も一切ないんだって」


 早絵が賛同して追加情報を言う。


「証拠はまだしも目撃証言がないっていうのは驚きだな。普通誰かしら見てるものだと思ってたよ」


 悠希の言葉に女子二人が頷く。


 龍斗が自分のスマホで不可解現象の動画を何回も再生しながら、


「夜中に犯行してるとかじゃねぇの?」


「毎回か?」


 悠希が尋ねるとコクリと頷き、龍斗は続ける。


「このたまたま撮られた動画って言うのも撮影時間は夜だし」


「その動画から場所とかの目星つけられそうだけどな」


 何度もリプレイされる動画を見ながら悠希は考えた。だが警察の捜査が行き詰まっている時点でこの動画からの解析は不可能だったのだろう。


「この動画を撮った人のスマホ端末が古すぎてそこからの位置情報とか分からなかったんだって」


 茜が頬杖をついて言う。


「最新まではいかなくても最近のスマホだったら良かったのにね」


 今更言っても仕方がないのは充分承知だが、早絵が微笑をたたえる。


「でも多分犯人は女だな」


 スマホに耳を当てて動画の音声を聴いていた龍斗が何度も頷く。


「女?」


「ほら」


 尋ねた悠希の耳にスマホを当てて龍斗がもう一度動画を再生させる。


 するとガヤガヤという騒音の後に「ドン!」と言う高いトーンの声、そしてその直後に炎の燃える音がした。


 そこで動画は終了した。


「言われてみればそうだな」


 悠希は動画をもう一度聴いて納得した。


 先ほどの声の高さから考えてもやはり龍斗の推測は正しい。明らかに女性の声だった。しかもそこまで歳ではない、ちょうど悠希たちと同じ高校生のような声質に感じられた。


「この子の声だけでも解析出来なかったのかな」


 未だに進まない警察の捜査に不満が止まらない茜は不服そうな表情だ。テレビドラマで見かける解析などでは手早く犯人のものと一致し、あっという間に犯人にたどり着くことが出来ていることが多いため、きっとそのような展開を予想していたのだろう。


「何せスマホが古いからね」


 不服そうな茜をなだめるように早絵が言った。


「仮に犯人がこの声の女子高生だったとして、本当に一人で犯行が可能なのか?」


 悠希は一人ある疑問を抱いていた。


「へ?」


 龍斗が聞き返し、茜と早絵も悠希の方を見る。


「あ、いやぁ、仮にさ……」


 ピーンポーンパーンポーン。


 悠希が疑問を説明しようと口を開いた瞬間、朝礼開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。


「うわっ、ヤベっ! 先生来るじゃねぇか!」


 龍斗が慌てて席に戻る。


「ヤバイヤバイ」


 茜はそう言いつつも最初から自分の席に座っているため焦る必要はない。


「口だけじゃねぇか!」


 龍斗につっこまれて茜はペロリと舌を出した。


「じゃ、席戻るね!」


 本当に急がなければいけなかったのは一番席が遠い早絵だ。


 言うが早いか自慢の俊足で三秒も経たないうちに自分の席に戻っていた。


(やっぱり早絵足速いなぁ)


 悠希は苦笑いしたあとに


「続きはまた昼な」


 近くの席の茜と龍斗に言って足早に席に着いた。











 その頃、都内の警察署でも同じ不可解現象の調査会議が行われていた。


「ではまず、この動画についてもう一度話し合おう」


 会議室の前方に座って刑事たちに指示を出すのは警察署長だ。


 以前、破壊者(デストロイヤー)で現在は裁判の結果から少年院に入院している中学生、百枝咲夜(ももえさくや)が悠希を拉致した際に刺されて病院で入院生活を送っていたが、治療の甲斐あって無事に復帰することが出来たのだ。


 彼が指示出しをする久しぶりの姿を見て女性警察官、早乙女千里(さおとめちさと)は安心したように笑みを浮かべた。


「動画を撮って情報提供をしてくださった方がいたが、残念なことにその方のスマホの型が古すぎて動画解析が難しい。だが、同時にこの動画のおかげで分かったこともある」


 署長の言葉と同時に後方のスクリーン映像に「ドン!」という音声のみが流れた。署長はそれを指差しながら、


「まず、犯人と思われるこの「ドン!」という掛け声をかけた人物は、声色、声質から推測するに女子高生の可能性が高い。それから動画からは分からなかったが、昨日この動画を提供してくださった方に話を聞くことができた」


「つまり、その情報提供をしてくださった方の住所の近くに犯人と思われる女子高生が住んでいる……ということですか?」


 千里が署長の言葉を次いで質問する。


「そう考えるのが妥当だろう」


 署長も首を縦に振る。


 そして動画を流しながらの調査会議は幕を閉じた。


「この動画の提供者さんはどこに住んでおられるんですか?」


 警察官たちが次々と席を立ち会議室を後にする中、千里は署長の元に駆け寄った。


「都内だ。幸いここから遠すぎるということもない」


「それならその方のご自宅周辺の高校生を徹底的に調べれば犯人にたどり着けるかもしれないですね」


「そんなに簡単にはいかないと思うが……」


「私に任せてください、署長。住所を教えていただければ私一人で捜査できます」


 前のめりの千里をなだめるように署長は制しながら、


「ま、まぁ、考えておくよ。流石にお前一人に任せるなんて鬼みたいなことはわたしもしないさ。任せるとしても、黒川と組ませる」


「それが黒川なんですけど」


 署長の言葉に千里が目を伏せる。


「ん? どうした?」


 千里の顔を覗き込んだ署長に千里は言った。


「最近全く出勤してきていないんです」

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