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(そうは言ってもなぁ……)
夜の電車に揺られながら未央は考えた。
世間にインパクトを与えると言っても余程の事をしない限りは注目してもらえない。
世間を変えることなど不可能だ。
(何かすぐ注目されるようなことしなきゃダメだよね)
なぜ未央がこのような考えに至ったのか説明しづらいが、世の中を変えるのに躊躇していてはいけないと思ったからだと思う。
世間を変えるといってもやり口は五万とある。
まず今日の現代社会で最も有効な手口であるインターネットなどのSNS。これを使って自分の考えを国内のみならず世界に発信することができる現代においては最も簡単且つ拡散されやすい。
次に未央自身が世間を変えられるような職に就くことがある。例えば教師にでもなれば子供の精神状態にいち早く気付くことが出来そうだ。心配になった生徒と根気強く話し合えば本音を暴露してくれるかもしれない。
あるいはカウンセラーという職に就くのも良い考えだ。周りには相談できない悩みでもカウンセラーになら話そうと思ってくれるかもしれない。秘密はしっかりと守り生徒との信頼関係を築けば、話すことで犯罪意識がなくなるのなら、和解世代の犯罪を一件でも阻止できる可能性は充分にある。
つまり、なんでも今行動を起こす必要はないのだ。焦らずゆっくり対策を考えてより適切な処置が出来るようにするためには時間をかけることがむしろ必要になってくる。
だが未央は今すぐにでも世界にインパクトを与えたかった。それ以外の選択肢は彼女の中に無かった。
(やっぱり大雅くんみたいなことするのが手っ取り早いかな)
どうしても具体例を知っているからこそそのような卑劣な考えに至ってしまう。
(いや、でも、ここで犯罪を犯したとして世間に私の伝えたいことが何一つ伝わらなかったら意味がない。何も伝わらないままあんな苦しい生活に逆戻りになっちゃう)
慌てて否定し、未央は新しい方法に考えを巡らせる。だが世間にインパクトを与えて若い世代の犯罪を防止する、二つを同時に叶える方法など考えつかない。
(やっぱり……)
結局同じ考えにたどり着いてしまった。
電車が駅に着き、ろくな考えも見つからないまま未央は電車を降りた。
ICカードを改札に通して駅を出たあと、自宅に向かう。既に辺りは真っ暗になっていて視界も見えづらい。
スマホを見ると時間は6時半だった。スピードを速めて家路を急ぐ。
「あれ?」
家に着いた未央は家の前を見て驚いた。
「やぁ、こんばんは」
そこに立っていたのは千里の部下である警察官・黒川翔だった。
「どうしたんですか? こんな夜に」
「様子を見にきたんだ。どうしても仕事の都合でこんな夜にしか来れなくて。ごめんね」
両手を合わせ申し訳なさそうに黒川は謝罪の言葉を述べた。
「いいえ、大丈夫です。わざわざありがとうございます」
両手を振って謝罪に応じ、未央は頭を下げた。
黒川は腕につけている腕時計に目をやりつつ独り言を言っている。それを見て未央はあることを思いついた。
「せっかくですし、ちょっと休まれたらどうですか?」
「え!? で、でもダメだよ。高校生の家にこんなおっさんが、しかも警察官が上がり込むなんて」
「わざわざ来てくださったお礼がしたいんです」
そう言って鍵とドアを開けて黒川に微笑みかける。
「どうぞ」
黒川はしばらくその場に立ち尽くしていたが、
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
と家の中に入っていった。
お陰さまで100話目に到達いたしました!
ここまで執筆を続けてこられたのも読んでくださっている皆様のおかげです。本当にありがとうございます!
新章はまだ始まったばかりですがこれからもよろしくお願いします!
次回もお楽しみに!




