表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

告知

 目が覚めた。辺りを見回す。虎斗はベッドの上にいた。そこまで理解して、虎斗は飛び起きた。

「…今度はなんだ?」

 一目で分かる。カーテンで仕切られたベッドが四つあり、それぞれに小さな車輪付きの棚とテレビが設置されており、ベッドには彼の名前が書かれた札が貼られている。間違いない。ここは病院だ。

 体に、異変は無い。むしろよく眠れた。驚くほど快調と言っていい。だからなおさら気味が悪いのだ。

「気が付かれたようですね」

 入って来たのは、四十代ほどの中年の医師だった。彼の質問に、虎斗は素直に頷く。

「私はあなたの主治医の武田です」

「ちょっと待ってください」

 武田と名乗る男に、虎斗は返す。

「主治医…?」

「そうです」

 表情を変えず、武田は続ける。

「木村さん、落ち着いて聞いてください」

 少し、間があった。

「あなたは、病気です」

 一瞬、視界が白くなる。しかしこれはあの時の眠気とは違う。軽い精神的ショックによるものだ。

 自覚は、あった。頭の中のまさか、は、今し方目覚めた時から、ほとんど確信に変わっていたはずだ。しかしいざ直面すると、やはり心の負担は大きい。

「なんの病気なんですか?」

 恐る恐る聞いてみる。

「病名を、過眠症と言います」

「過眠、症?」

 聞き慣れない言葉に、虎斗は体を緊張させた。

「はい、過眠症です」

 医師はやはり表情を変えずに、続ける。

「居眠りとは違う、急な気絶に近い睡魔により、強制的に体全体が睡眠状態に陥ってしまう病です」

「なんだか、変な病気ですね」

「発症の原因は未だ解明されていませんが、脳の異常、ストレス性のなんらかが原因なのではないかと言われています」

「そう、ですか。なんだか不眠症の逆みたいな病気ですね」

 虎斗も淡々と話を聞く。癌などの命にかかわる病気では無いようだ。そのためか、虎斗は内心、胸を撫で下ろしていた。少し笑みが戻る。

「…いえ、そんな生易しいものではありません」

 時間が止まった気がした。

「え?」

「伺いますが木村さん、今回の一つ前に過眠症を発症された時、何時間ほど眠られましたか?」

「半日くらい…かな」

「約十二時間ですね」

 メモ帳を開き、まるでデータを取るかのように何かを書き綴る。

「昨日は、何時ごろに?」

 まるで尋問だ。あまり気分がよくない。

「確か、午後二時くらいに」

「そうですか」

 武田はやはりメモを取る。

「それがどうかしたんですか?」

 耐え兼ねて聞く。

「過眠症の症状には、二つの大きな特徴があります。一つは先ほど説明したとおり、強制的に、かつ不定期に睡眠状態に陥ること」

 そこまで言うと、武田はおもむろに、カーテンの締められた窓際に近付き、カーテンに手をかけた。

「もう一つは、発症する度に…睡眠時間が無制限に長くなっていくことです」

 そう言い、武田はカーテンを開ける。その瞬間、眩しい太陽光が虎斗の視界を遮った。

 それが何を意味するのかを理解した虎斗の顔は、見る見るうちに真っ青になった。

「そしてこの病気には未だに、有効な治療方法が見つかっていません」

 担当医武田の一言が、冷静を保とうともがく虎斗にとどめを刺した。

 時計の針は、午後二時を指していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ