決意
十二月三十一日、大晦日。朝九時過ぎ。鳩の羽音すら聞こえない、静かな午前の一時に、虎斗は目を覚ました。
「目覚められましたね。気分はいかがですか?」
声の主は、武田医師だった。
「……まずまずです」
半分寝ぼけた様子で、虎斗は答える。
「お友達の事に関しましては、ご冥福をお祈りします。大変だったようですね」
「いや、いいんです。もう落ち着きましたから、ありがとうございます」
武田医師の気遣いを察し、頭を下げる。その様子に、武田医師も安心した様子だった。
「春……橘さんは、寝てしまいましたか?」
「そうですね。でも、一か月近く再発しなかったのは奇跡的と言ってもいいです。平均的に一週間、長くて二週間が常ですから。きっとこの一か月間、木村さんがいたおかげで、心身的にも安定していたからでしょう」
「俺のおかげ、ですか?」
「すぐ近くに心の許せる人がいたからこそ、クリスマスまで頑張れたのだと考えています」
春菜の再発。それは虎斗にとっては一番受け入れたくない事実だったが、非科学的な根拠でも、少しでも春菜の心をケア出来たのなら、それだけで、虎斗は救われた気がしていた。
「でも、これでまたしばらくは、静かになってしまいますね」
苦笑する。屋上での出来事が嘘のように、虎斗は落ち着いていた。
「頑張らなきゃな」
ぼそりと呟く。どうかしましたか? という武田の質問には、笑顔で受け流した。
「(頑張ってください。春菜はそう言った)」
武田医師が去った後、虎斗は大きく深呼吸をし、窓の外に広がる空を見た。