唐突な試験
すみません。だいぶ改稿してしまいましたが
やっと終わったので最後まで読んでいただけると嬉しいです。
それはある日、突然やって来た。
教室ではピリピリとした空気が漂い、東雲先生がいつもより真剣な表情で席に座っている生徒達を見ていた。
「これより、実力検査試験を執り行う」
実力検査試験とは、要するに新入生の実力を図る試験だ。
しかし、当然のように成績や順位は出され各学年及び各支部の上位十名は名前を貼り出され、それ以外の他の誰かの順位は学園の関係者しか見ることのできない裏サイトで見れる為、皆がこの試験に本気で挑むつもりで各自座席に座っている。
勿論、俺も他の人よりも頑張らなければならない理由がある為。今回の試験はいつも以上に張り切っている。
まぁ、理由といっても赤点取ったら即退学というようなものではない。
単に実恋から出された条件を満たすだけだ。
俺は先日の出来事を思い出していた。
◆◆◆◆◆
「条...件?」
下げていた頭を上げて眉間に皺を寄せながら実恋さんに聞き返した。
「そう...条件」
「一体、どんな?」
「わ、わた、私の...と...ぎ...の...いん...すけ」
小間切れに囁くような声量でなにかを言っていたが、全くもって何を言っているのか、さっぱり分からない。
「...無理...だよね」
「ゴメンもう一度言ってくれないかな。全然聞き取れなかった」
「わ、私の、男嫌いの原因への手助け!!」
俺は実恋さんが何を言っているのか理解ができず思考が停止した。
実恋さんの男嫌いには何か理由があると、そう伝えるかのように。
自分が最初から異性を嫌っているわけではないと言っているように聞こえた。
「もしかして男嫌いってのは、お前自身が最初から持っていた訳ではないということか」
「原因は違うのよ。昔は男女共に分け隔てなく接してたの」
「でも俺、実恋さんみたいに相手の心情を察するのに優れてないぞ。そんなに優れた洞察力があるなら今頃クラスの中心人物にでもなってるよ」
「さん付けやめてよ。協力関係になる上で敬語だと避けられてるみたいじゃない。それに協力するなら遠慮なく名前で読んでよ。それに原因に関しては心当たりがあるけど、私一人では解決できるようなことじゃないから」
さん付けをやめてくれと言われるとは思ってもみなかった。しかし、彼女とはまだ数回ほど話しただけの仲でしかない。いきなり呼びすてしていいものなのだろうか。
どれだけ深く考えても俺の中では答えは決まっている。
「・・・・それは無理かな。俺、実恋さんのこと何も知らないし、馴れ馴れしい奴みたいなことだけは周りから思われたくないから」
「そ、それでも、協力してくれるよね」
「俺が力になれるとは思わんが、男嫌いを直す手伝いをすることで俺に協力してくれるなら最善を尽くすけど」
「なんでそんなに自信なさげなの?」
痛いところを突かれてしまったな。だが紛れもない事実だ否定のしようがない。そもそも、物事に自信をもって取り組むことができる奴なんて限られていて、多くの人が不安を抱いたままなんだ。自分の行動に自信を持ってる人はごく一部の奴らだけなんだぞ。
「実際に足手まといになる気しかしないからなんだけど。自信を持てみたいなことを遠回しに言われてもなぁ」
「そっかー。あ、それならさ三日後にある試験で橋内君の実力を示してよ。その結果次第で私と君の協力関係検討する。それならどうかな?」
なるほど、それは一理ある。俺の試験の結果次第で登の交際に協力してもらえるし、実恋さんの手伝いをすることにもなるからな。
「うん。それでいいよ。但しお願いがあるんだけど...」
「何?」
「俺のことはさ、要って呼んでくれないかな」
「わかった。でもその代わりに私のことさん付け禁止で」
ん?今この子なんて言った。
「え、ちょっと待って」
「それじゃあ要また明日」
◆◆◆◆◆
なんてことがあったため俺も実恋から出された条件を満たすためにも、できるだけ好評価を得られる順位を取らなければならないからだ。
去年の体験入学の時に、当時二年生だった先輩から入学後直ぐに試験が行われると聞いたことがある。
十一月に開催される支部祭の代表者は各支部の生徒会長と各学年の文武の優れた人物が選ばれる為、この試験で好成績を叩き出した者は、代表者に一歩前進する。
支部祭の代表者は学園から評定の低い教科の単位が貰えるためか、文か苦手な人は武で、武が苦手な人は文で好成績を修めて代表者を目指し、苦手な教科の単位を貰う人達が多いようだ。
東雲先生はクラスの座席の先頭の人達に試験用紙を数枚渡して、それを受け取った人達が一枚とってから後ろヘと回していく。
チャイムが鳴り、先生の開始の合図から試験が開始した。
配られたプリントを見てみるとたった五問の問いだったが内容が予想外だった。
従来の五科目に出てきそうな問題ではなく、模範解答が存在するのかすら不明な生徒を試すような問題ばかりだった。
問1
『【罪】と【罰】、二つの言葉の貴方が思う違いと使い方を述べよ』
問2
『1+1の可能性が産み出すものは一体いくつだとあなたは思いますか』
問3
『命で買えるものと時間で買えるもの、もし本当に存在するとしたらなんだと思いますか』
問4
『平等性と現代社会において、あなたが一番納得がいかないものは何か』
問5
『才能と知能どちらかを失ったとしたら、人類が前進できなくなるのはどちらだろうか』
「(単純にこれって模範解答とかあるのか)」
と思うしかないのだった。
悶々と悩みを抱えながらも思考を巡らせて一問一問全身全霊で向き合った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「で?出来の方はよろしかったですか?」
試験終了後、翌週には試験の結果が発表されるため。
その日の授業はなく各々帰路に着く者や遊びに行く者達は教室から居なくなった。
そして何故か俺は実恋と一緒に教室に残っていた。
と言っても単に実恋のクラスの教室に呼び出されただけなんだがな。
「その前に聞いておきたいんだけど...」
「何?」
「条件ってこれだけだったりは...」
「そんな訳ないでしょ」
「デスヨネェー」
ほんの少しの希望をそんなに早く即答するなよ。
「それよりも気になることがあるんだよね」
「どうした茶髪の?」
「あんたの黒髪むしり取ってあげてもいいよ」
真剣な眼差しで俺の目を見て言い放たれたその言葉に、一体どれほどの優しさがあるのだろうか。
答えは言うまでもなだろう。
これっぽちの優しさなどありはしない。
「真顔でそういうこと淡々と言うなよ。実恋ならマジでやりかねない」
「やってほしいからって求めないでいいよ」
ニコニコしながら彼女の口から発せられる言葉の数々は、俺に対しての脅迫に近い台詞ばかりである。
おそらくそれはこれからも変わらないかもしれない。
「求めてねぇよ。早う本題に入れや」
「要の問題の内容はどうだった?」
「おい。俺の名前は要じゃなくて要だから次は間違えるなよ」
「詩野ちゃんの問題の内容を見せてもらったんだけど私の内容とは全く違ったんだよね」
問題の内容が違う?確かに変だな。クラス分けは文と武の両方の均衡が成り立つように行われていると入学式の時に聞いた。それなのに問題の内容が全く違うなんてことありえるのか?
「そんな事ってあるのかよ特進クラスとかが設けられてる訳じゃあるまいし」
「特進クラスなんて必要性ないでしょ。特にこの高校の場合は」
確かにその通りだ。逸材や天才、未来に名を遺すような人達を世にだしている学校だからな。
全クラス全生徒が特進クラスの生徒のような扱いをされるだろう。
「成績は出るのに問題が各自もしくは、各クラスで違いその問題の意図が実は何かと密接に繋がっていたりしてな」
問題の意図か。言ってはみたもののかなり難しい事象だろうな。
この学校に入学したものの、文武両道のこの学校で各支部の生徒会長はどうやって選出されているのかすらもわからないからな。
「ところで、なんで俺は寮に帰らせてもらえないのだろうか」
このままでは埒があかない。そう思い俺は実恋に呼び止められた理由を訊ねた。
なぜ俺がそんなことを気にするのか理由は単純且つ明確で、早く心休まる自室に戻りたいのだ。
「それは依頼が来たからだよ」
「なら尚更なんで?」
「なんでって、要が手伝えることなら協力するって言ったんでしょ」
「でも俺、まだ条件満たしてないんだけど」
「...でも協力はしてくれるんじゃ──」
何を言っているんだ。この茶髪の女子は自分に有益な情報しか耳に入ってきていないのか?
「いやいや」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」
「嘘でしょ」
「俺が条件を満たしてから、俺に協力してくれる代わりに俺も協力するって事だろ」
「屁理屈並べないでよ!」
屁理屈だろうか。理屈はかなっているが屁理屈なのだろうか。もし今俺の手元に広辞苑があるのならば早急に引いていただろう。
「いや、何お前だけ楽しようとしてんだよ」
「なら協力はしないよ」
「せめて駆け引きさせろ」
「依頼主だけどね」
「スルーすんなよ」
俺の意見をスルーをして俺と向かい合って座っていた実恋は立ち上がり、教室のドアに近づき先ほどから解放状態だったドアから頭だけを廊下に出し誰かを手招きしだした。
「なぁ、帰っていいか?」
「それじゃあ協力関係の話は無かったことでいいよね」
ほんの少しの冗談のつもりで言っただけだったんだが、こちらを振り向いた実恋の目は今迄で一番冷めていて、何よりマジのトーンで返答してきた。
俺が実恋の塩対応に唖然としていると、実恋の後ろから顔を出した実恋と同じぐらいの背丈に、緑色に染め上げられたセミロングの髪と赤いフレームの眼鏡をかけた女子生徒が教室に入って実恋の隣に立った。
「今回の依頼人です」
実恋は俺に向かって手のひらを上に向けて隣に立つ彼女に差し出し緑色の髪の子を紹介してきた。
「は、初めまして。矢鯨 芽依那です。恋愛奉仕の依頼できました。よろしくお願いします」
どんな子が来ても全力でサポートするつもりではいたが、まさかこんなに目立つ頭髪をしている人が来るとは思いもよらなかった。というかもう少しまともな奴が来てもいいのではないだろうか。
初依頼が厄介な依頼ではないことを俺は願ってやまなかった。
そして、この依頼が後々面倒なことになるなんて、この時俺も実恋も全く思ってはいなかった。
次回
私立といえど寮生である二人に休日などありはしない。
みたいな感じにする予定です。