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帰り道のスーパーで買った食料をぶら下げながら、自分の住んでいる築50年のボロアパートを目指していると、
向こう側から見知った顔の一団が来るのが見えた。
「…ちょっとアンタ、悠斗にくっつくんじゃないわよっ」
「あなたこそ悠斗君から離れてください、悠斗君嫌がってますっ」
「あはは、二人とも落ち着いて。ね?」
「むしろ邪魔なのは貴女達ですのに…」
あぁ、面倒な奴等に出くわしてしまった。そう感じてしまい、あくまで自然を装い制服の内側に着込んでいるパーカーのフードを被ってしまう。
バレるな、バレるな…、と心の中で祈りながら奴等の側を通りすぎていく。
「…あら?」
「どうかした?」
「いえ、なんでもないです。お兄様」
気づかれたかと思い、一瞬息が詰まってしまうがどうやら向こうは勘違いかと思ったようで過ぎ去っていってくれた。
通り過ぎていった奴等を振り返って見ると、喧嘩しながらも悪い雰囲気ではないようで、中心にいる男子生徒を取り合うように去っていった。
「はは…、ああいうのをハーレムとかいうのかな」
内心、面倒なことにならずに済んだことにホッとしつつ、実際にハーレムというものをみて居た堪れない気分になった。
顔も良く、頭脳も性格も良ければハーレムというものを形成できるのか?など無駄なことを考えているうちに、
一軒のボロボロ…失礼、古びた…趣のある…クソボロいアパートが見えてきた。
そのクソボロいアパートが我が家なのだが、まぁ住めば都なのである。
築60年の見かけはオンボロアパートだが、全室リフォーム済みで1DKバストイレ別なのに家賃は驚くほど安いと良い事尽くめなのだが、一つだけ欠点がある。
見かけのオンボロさではなく、このアパートのオーナーがとんでもない変人で、オーナーが気に入った人しか入れないのだ。
なので、6部屋あるうちの2部屋…1部屋はオーナーが使っているので実質住人は僕しかいなかったりする。
「お、一郎。今帰りか?」
オンボロアパート『浅葱荘』の入り口でタバコを吹かしていた初老の男…ここのオーナーである浅葱憲和さんが声を掛けてきた。
憲和さん…いつもは親父さんと呼んでいる…は自称発明家で、いつもよく判らないものを作ったり実験しているので近隣住民からは変人として白い目で見られていたりするのだが、
僕にとっては変なところもあるが頼りになり、色々世話になっているので頭の上がらない人の1人だ。
親父さんと出会ったのは今から6年前ぐらいになる、今思うと小学4年生で一人暮らしとか法律なんてゴミ箱にぶち込んだような所業だが、特殊な事情と条件が重なってしまい親父さんの所に厄介になる事になった。
当時は親父さんも僕もお互いにどう接すればいいか判らずギクシャクしていたが、ちょっとした出来事のお陰で今では家族同然のような付き合いをさせてもらっている。
「まぁね、親父さん珍しいね。この時間はいつも篭ってるのに」
「ん、あぁ…ちょいと野暮用でな。そうだ、明日から新しい奴等が来るから仲良くしろよ」
親父さんは基本的に面倒くさがりで、発明以外が超がつくほど適当なんだが変なところで面倒見が良く、困ってる人や厄介事には文句を言いながらも解決してくれる変人だ。
その変人の親父さんが"野暮用"とはきっとまた厄介事か人助けか、あまり突っ込まないほうが身のための気がする。
一度とばっちりで酷い目にあったこともあり、極力こういう時はスルーするようにしている。
それにしても新しい住人か、親父さんのお眼鏡にかなったということは訳ありな人…かな?
もう出ていってしまったが、昔住んでいた訳ありだった人を思い出し少し憂鬱になってしまう。
「了解。じゃあ僕は部屋にいくから、親父さんおやすみ」
「おう、…お前もあんまり無理するんじゃねぇぞ」
親父さんは最初学園に入学することに反対していた。検査で結果が出れば強制的に入学しなければいけないことを知っていても、親父さんは僕のことを心配していたんだと思う。
僕はある事情から判定検査を受ける前からスキル持ちだということが分っていた、そしてそのスキルは能力不明・発動不可という欠陥品であったことも知っていた。
その事をココに入居する前に親父さんへ説明していたから、入学通知書を見せた時の親父さんの色んな感情がごちゃ混ぜになった顔を今でも忘れることが出来ない。
「ごめん、親父さん。」
僕は目的の為に無茶も無理もしなければならない。自分のスキルを解明してドライバーになる、そのためならどんな苦難も乗り越えてみせる。
そして…あの悪夢はいつか現実になる気がする。その時までに力を着けなければあの悪夢と同じ結果になる、そんな確信があった。