7 ジャーマンスープレックスですけど何か?
蜘蛛ですが(ry
「えーっと、ここどこ? 」
目を覚ますとベットの上に居た。
「ここはギルドの医務室だよ」
「そうよ、ミノタウルスを倒した後ガーネットちゃんと一緒に運んだの! 」
その横でガーネットとロエが座っている。介抱していてくれたのだろう。
「そうか、ありがとな」
「うん! それとキョータロー、ギルドから報酬が貰えるって」
「マジか! 」
報酬……なんと響きのいい言葉なんだ。受付のお姉さんもミノタウルスは中々強敵って言ってたから、結構弾むんじゃないか?
「そうよ、酒場はその話で持ち切りなのよ」
「酒場? 」
「キョータロー覚えてないの? この建物の大半は酒場が占めてるんだよ」
「へー、知らなかった」
なんか益々ゲームみたいな感じなんだな。二階にもなんかあったし、いつか見学してみるか。
「京太郎、受付に行きましょ! 」
「そうだな、それじゃあ行くか! 」
「「うん! 」」
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──酒場
俺たちが医務室から戻ると、酒場が急にドッと湧く。
「あの人たちよ! ミノタウルスを倒したパーティーは! 」
「あのミノタウルスを倒したのかい! 」
「やるじゃねぇか、アンちゃんたち! 」
「あんな怒り狂ったミノタウルスを倒したっていうの⁉︎ 」
何だろう…………超キモティイイイイ‼︎ こんな歓声を浴びるのはいつぶりだろうか?
……うん、無かった。初めてでした!
俺と同様、ガーネットとロエもえへへと照れている。
「ねぇ、あなた! どんな術であのミノタウルスを倒したのかしら? 」
ローブを着た女が興味津々で近づいてくる。
「あんな強そうなミノタウルスを一撃で倒すような魔法はなんて言う魔法なの⁉︎ 」
「一撃? 」
「だってそうでしょ、ミノタウルスは血を見ると凶暴になるから一撃で倒せる自信がある冒険者しか挑まないもの! 」
「──なっ! 」
何と言う事だ、そんなヤバい奴だったのか……
「それに、凶暴になったミノタウルスは強さを増して、そのうち町を襲いに来るの」
「えっ⁉︎ 」
これにはロエが口を大きく開けて反応する
「聞いた話によると、何故か最初から血まみれで怒り狂ってたんでしょ? 」
俺とロエはカタカタと震えながら見合わせる。
分かってる、お前の言いたい事は分かってる。お互い無言で会話を成立させ、コクリと頷く。
「あ、ああ、あのミノタウルスは何故か血まみれだたんダヨ〜」
「そ、そうね京太郎……一体だ、だだだ誰の仕業なのカシラネ〜」
それを見たガーネットは苦笑いをしている。くっ、一番幼いのに一番大人だ……
「ま、まあ俺たちが倒したし一件落着じゃあないか! 誰が血まみれさせたなんて……そんな話はやめようぜ! 」
「そそそうね! これで町の平穏が保たれたなら、誰がしたとか考える必要ないわ」
「「ワーッハッハッハッハ──ッ! 」」
もう笑いで誤魔化すしかない。俺とロエはひたすらに笑うしかなかった。
「そうね、でもミノタウルスの状態もあんな感じだったから報酬も弾むはずよ! 」
「そうなんすか! 」
「「ワーッハッハッハッハ──ッ! 」」
なんかすごいマッチポンプな気が……
「そんな事よりミノタウルスを倒した術が聞きたいな! 」
「それは俺も興味があるぜぇ! 」
「私も! 」
「あなた、魔法使いなんでしょ? どんな魔法? 」
いつの間にか俺の前には人だかりが出来ている。皆んなが俺に期待の眼差しで見てくる。
参ったな……
俺はぽりぽりと頭を掻きながら──
「ジャーマンだ」
「「「「────へっ? 」」」」
皆んなの目が点になる。
「ジャーマンスープレックスだ」
「「「「………………」」」」
「──ダルマ式のな」
あれー、こちらの世界では知らないのかな?
皆んな口をぽかんとさせている……
「マジカル殺法だ! 」
つまりマジック!
したがって魔法! よし!
……なんつって
「じゃ、ジャーマンって……?」
やっぱりダメかー
「あー、簡単に言ったら挌闘技だよ」
「挌闘技って── 」
ローブを着た女はプルプルと震えている。
「あなた……魔法使いでしょ? 」
「まあ、ただの魔法使いだけど」
その言葉にローブの女どころか、他の人たちも唖然としている。何だ? 何かおかしな事を言ったか?
「い、いや! だがスゲーよアンちゃん! 」
「そうだぜ、魔法使うまでも無かったんだろ? 」
「な、なーんだ、そうゆう事なら早く言ってよね! 」
何なんだこの空気は?
「ガーネット、どうゆう事だ? 」
もはや困った時のガーネット様である。
「あー、あのねキョータロー。魔法使いって言うのは──
『そいつは大した事ねーぜ! 』
ガーネットのセリフをかき消すように、その声は聞こえた。その一言でギルドが静かになる。
『そいつは魔法を使わなかったんじゃねえ、使えなかったんだよ! 』
その声の主、やや小太りの男はツカツカと俺に近寄ってくる──
「なあ! 」
そういって俺の肩に手をかける。
「なんだお前、気安く肩組んでくんな 」
俺は男の手をほどく。誰だこいつ?
「おおっと、怖いねぇ。どうやら噂は本当だったらしいな」
「噂? 」
男はニヤッと笑い──
「いいか、よく聞け! この男は魔法使いのクセに魔法が使えないんだよ! それに見ろ、この服装を。魔法使いの誇りであるローブを着ていないではないか! 」
「魔法が使えないって本当か……? 」
「確かにローブを着てないわ……」
「クヒヒヒヒ、挙げ句の果てにはこの杖だ! 」
男は俺の腰に挿してある杖を奪い、高く上げる。
「見ろ! まだこんな杖を持っているんだ! クヒヒ、これが何よりの証拠だ! 」
酒場内がざわめき始める。
「本当だ……」
「だから肉弾戦を……」
何だ? どうゆう事だ?
「あのね、キョータロー……」
ガーネットは言いづらそうに俺から目をそらす。
「魔法使いは魔法を使うことを神聖視しているの……だから手を使って戦うのは……その、恥ずべき事なの」
「あー、なるほどなー」
「そして、その杖は魔法使いが小学校に入学した時に国から貰う杖なの」
「国から? 」
「そう、その杖は強力な魔石が埋められてあって、高級な杖なの」
「マジでか! 」
なら何でこんな杖なんだ? 尚更訳が分からん。これも全部小太りの男のせいだ、許さん!
「あのー、ガーネットさん……? 」
「うーん、何から話せばいいのかな……そもそもね、杖って触媒みたいな物なの。つまり魔法使いが魔法を使いやすくするための道具なの」
「あー、小ちゃい子が自転車を乗る時にコマを付けるのと同じ感じかー」
「じてんしゃ? コマ? 」
こちらの世界は自転車も無いのか……
とりあえず、困惑しているガーネットに謝らないとな……
「そ、それでね、杖を使い過ぎると魔石の魔力が尽きて壊れるの」
「ダメじゃんか」
「──だからこそ魔法使用量が分かるの」
「使用量? 」
「さっきも言ったけど、魔法使いは魔法を使う事を神聖視しているから、壊した杖の数が一種のステータスでもあるの」
「なるほどなー」
「そしてその杖が、──魔法使いにとっての一本目の杖なの」
最後まで読んで頂きありがとうございました!