エピローグ 魔術師の最期
──魔王の地。
朝山京太郎と《魔術師》が死闘を繰り広げた場所から数千キロ離れたこの地。
その荒れ果てた土地の様子から人が生活しているとはとても思えない。
かつてはこの地も活気に溢れていた。そして『魔王の地』という名前でもなかった。
しかし7年前突如起きた大爆発によって人口は激減。そして、瞋恚の炎を体現するかの様な真っ赤な瞳をした白髪の少年──《魔王》の出現により完全に人は消え、退廃を辿った。
その地の中心には、かつてどこかの宗教が用いていた大聖堂が存在する。
その大聖堂の一室、広すぎる部屋に見合った大きな円卓が中心に据え置かれ、そこにはとある7人が座っていた。
その中には腹部の傷から流れ落ちた血液で服を真っ赤に染めた、元《魔術師》の姿もある。
他のメンバーも只ならぬ風格を醸し出し、一般人がこの部屋に迷い込もうものなら、その雰囲気に潰されてしまうだろう。
「ったく、毎度毎度めんどクセェな」
「私語を慎めよ《爆弾狂》。《魔王》の前だぞ」
ドカッ、と机に足を乗せてあからさまな態度を取る《爆弾狂》と呼ばれる男に、1人の男が注意をする。
「アァ? 《大号令》テメェ舐めた口聞くなよクソ落ちこぼれ風情が。殺すぞ」
「誰が落ちこぼれだ。お前こそ殺すぞ」
注意した男──《大号令》は《爆弾狂》のあるセリフに反応して激昂する。
「その辺にしろ《大号令》、《爆弾狂》。まあ君たちが戦ってみるのも面白そうではあるんだけどね」
見かねた白髪の子供が内心面白そうにしながらも注意をする。
大男で目つきの悪い《爆弾狂》や既に成人を過ぎた《大号令》を15程度の子供が注意をしたのだ。
「やめてくれ《魔王》。俺の固有魔法内緒にしてるんだ。それに君にしか見せた事がないんだよ」
「そうだったね《大号令》。これは確か内密事項だったね」
白髪の少年──《魔王》はニッタリと嗤いながら《大号令》を見る。
「おい、そこで勝手にくっちゃべってんじゃねぇよ」
「おっと《爆弾狂》がお怒りのようだ」
「てゆうか情けねぇな《大号令》。こんなクソチビにへーこら頭を下げやがってよ」
「何だとクソ野郎?」
またしても《爆弾狂》と《大号令》に不穏な空気が流れる。
「実際そうだろ? テメェら揃いに揃ってこんなクソチビに負けたんだろ?」
《爆弾狂》は更に円卓を囲んだ全ての者に矛先を向ける。
「どうせ君も戦ったら負けるよ《爆弾狂》」
その矛に眉を動かし反応した男が、ため息を吐き、静かに言葉を紡ぐ。
「ンだと《守護者》テメェから殺すぞ?」
「君は僕に勝てないよ」
「守るしか能のねえテメェに負ける訳ねぇだろうが」
「爆発させる事しか能のない君に僕が負けるとでも?」
《守護者》という男、落ち着いた言葉遣いとは裏腹に、目を尖らせて《爆弾狂》を睨みつける。
「ほらほら、すぐ喧嘩するのは止してくれ」
収集が付かなくなったこの場を《魔王》が、静かに。
「それとも──ぶっ殺されないと静かにならないかな」
余りにも静かで、犀利な眼光が全てを震わせる。
まるで辺り一帯に冷徹の風が轟き、凍傷にかかる程冷たく──。
「まあ、そんな冗談はさて置き、皆んなに報告があって呼んだんだよ」
「でも《魔王》、例の如く《支配者》と《永遠者》が居ないわよ」
ずっと黙って腕を組んでいた女、《指揮者》が周りを見回して報告する。
「やれやれ、相変わらずだな。問題児でも招集には必ず来てくれる《爆弾狂》を見習ってほしいものだよ」
「「くっくっく……」」
そんな冗談に《大号令》と《守護者》は腹を抱えて笑い散らす。
「テメェら殺すぞ」
「まあ落ち着いくれ。これから重要な話があるんだから。──なあ《魔術師》?」
《魔王》は咳払いをして仕切り直す。
「何やら頼んだ事以外にも色々報告する事がありそうだしね?」
《魔術師》のボロボロの体を一瞥して《魔王》は報告を促す。
そして他のメンバーも、その空気に《魔術師》を眺める。
「……やれやれ、あまり気が進まないがね」
元《魔術師》はため息を吐いて、これまでの事を報告した──。
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「……という事があったんだがね」
元《魔術師》の報告が終了したにも関わらず誰1人として喋らない。
別に皆が《魔術師》の実力を知っている訳ではない。しかしこの円卓会議に足を踏み入れる者だから相当な実力だろうと。
そして唯一実力を知る《魔王》の表情が曇った事が何よりもこの雰囲気を作り出した。
「へえ、負けたんだ?」
そしてその空気を察した《魔王》は慌てて喋りだす。
「あの町は確か……流石の《魔術師》でも《大英雄の再来》と言われるユスタリエ=アンノリーは荷が重かったかな? それとも《太陽の騎士》のロイ=アストロフラムにでも──」
「どちらでもないよ。ただの魔法使いにやられたのだよ」
思い出し笑いをしながら喋る元《魔術師》の台詞に、全員が絶句した。
「ただの魔法使いに──? 君がか?」
壺の回収とその為に数年前に具現させた猩々の始末、特殊な反応の調査に赴かせた《魔王》は特に動揺する。
《大英雄の再来》、《太陽の騎士》
確かにマークしなければならない相手は知っていた。用事がなければ決して行く事のないちっぽけな町に、この2人だけマークしていればと思っていたが……
そのどちらでも無い、
ただの魔法使いに────?
「ああ。魔力だけで言ったら君よりも凄いかもしれないがね」
その台詞に円卓が震える。
《大号令》、《守護者》、《指揮者》は一度《魔王》に敗北を喫した過去がある。
《魔王》の圧倒的な実力と、その大いなる野望に付いて行こうと決意した集まりなのだ。
《爆弾狂》は《魔王》と対決した事は無いが只ならぬ奴とは認識している。
「へえ、」
そんな《魔王》よりも魔力では勝るただの魔法使いが居ることが信じられないのだ。そして《魔王》本人もそれは素直に信じる事ができない。
「《魔術師》……その男の名前を聞いてもいいかな?」
「ラヴ=ファントムと名乗っていたがね」
「ラヴ……聞いた事ないな。まあ、あの町には壺もあるだろうし、そして別件で用事もあるから……」
顎に手を当て喋る《魔王》の小言を掻き消す様に《爆弾狂》が荒々しく立ち上がる。
「情けねぇな《魔術師》のジジイよ。この《爆弾狂》があんたの敵でも取ってきてやろうか?」
「その必要はないのだよ」
「どうしてだよ?」
「その男に《魔術師》を剥奪されてしまったからね」
「アァ?」
その台詞の意味を汲み取れない《爆弾狂》は首を傾げる。
「そうか、……なら君は《魔術師》ではなく、ただの侵入者と言うわけだ……」
その意味を誰よりも早く理解した《魔王》が静かに語りかける。
「そうだね。私は最早ただの老人だよ」
「そうか。僕たちの事を知り過ぎた部外者となれば、…………僕は君を排除しなければならないが」
元《魔術師》を捉える《魔王》の瞳は、言葉とは裏腹にどこか儚げに。
「もちろん覚悟をしている。──が」
死ぬ覚悟はしている元《魔術師》も、これだけは聞かないと死ぬに死ねない事がある。
「その前にミハヤ=オノウエ、1つ聞きたい事が有るのだが良いかね?」
元《魔術師》は1人の女性に目を向けて話しかける。
ミハヤ=オノウエと呼ばれた白衣を纏った女性──それも日本の科学者が着る様な、この国では珍しい格好をしている。
そして他の者とは違い威圧感が全く無い。只ならぬ雰囲気が全くなく場違い、ハタから見れば1人だけ何処から迷い込んだかの様にも見える。
最後まで沈黙を続けていたミハヤ=オノウエという女性は何も言わず元《魔術師》を見る。
「君はキョウタロウという名前を知っているかね?」
「……知らないわ」
ミハヤ=オノウエは少しだけ考えて結論だけを発した。
「そうかね」
「何だいその名前は?」
この不審なやり取りに《魔王》が問い詰めるが。
「何でもないよ」
最早何も残した事は無いと、その顔を見て《魔王》は悟ってしまう。
「……そうか。ならサヨナラだな。今までのよしみだ。苦しませずに最期を迎えさせてあげよう」
「ふっ、助かるね」
優しく笑った元《魔術師》の口から赤い血が噴き出る。
「グフぉ……」
元《魔術師》の心臓を1つの刃が貫く。
「最高級の敬意だ。その心に13を刻んで逝くといい」
元《魔術師》の心臓1突きした13は真っ赤に染まり床に突き刺さっている。
瞳孔の開いた老人は重力に任せ崩れ落ちていく。
これが《魔術師》と呼ばれた老人の最期の瞬間。
そんな姿を尻目に《魔王》は固有魔法を解く。
「今日は解散だ。時間を掛けたね」
決して振り返る事なく、《魔王》はこの広い部屋を後にする。
(……ラヴ=ファントム、ねぇ)
《魔王》は、元《魔術師》が死に際に出した名前を頭で浮かべながら、ガタンと扉を閉めて消えていった──。
これにて二章・『魔術師と猩々』完結です。
元々早い内に世界に触れる、ユスタを活躍させる為に作ったお話です。
猩々にはコナンの開幕で死亡する被害者の様な役をさせてしまいましたが、壺にはまだまだ頑張ってもらいます。
次の章は最近色々焦ってるあの娘に白羽の矢を立てます。
これからもよろしくお願いします!




