41 これがあんたに披露する最後の手品だよ
全てを白に染め上げて大爆発を起こしたjoker笑いながら消し炭と化していった。
鼓膜を張り裂くほどの轟音を起こし建物を半壊させた。
屋根は崩壊して常闇の中の満月が爆破した建物を照らしだす。壁も殆どが崩れ落ち、ギザギザとした無残な形と化し、爆破音を残響させる。
「がはっ、ガホッ……」
瓦礫を掻き分けて私は姿を現わす。
「がはっ……まさか、jokerまで使ってしまうとはね……」
鉄の味がする口内の液体を吐き出し、膝に手を当て呼吸を整える。
「ハァ……ハァ……危なかった……」
思い出すだけで全身が震えてしまう。それはjokerが引き起こした大爆発などではない。
ペトラ……君は一体何者だね……?
隠しきれず溢れ出てしまっている魔力が禍々しいオーラと姿を変えていた。背筋が反り返ってしまう程の威圧感。
懐まで迫られた時は発狂しそうになった。だから堪らず目の前で大爆発を起こした。
ただの魔法使いの威圧感に恐怖し、回避する為だけに、たったそれだけの為に目の前で大爆発を起こした。
12も13も全てを犠牲にしてでも逃げたいと思った。
大爆発から私を守った代わりに12と13は粉々となり炭と化していった。
「爆弾狂程では無いが……」
辺りを見渡すとjokerの大爆発の悲惨さが伺える。
照明は全て壊れ屋根もない。ただ大きな満月が私を嘲笑うかのように構えている。
「さて、ペトラは何処かな……」
私は全身打撲した体を動かし、ゆっくりと歩く。
不死身になると宣言したペトラの姿は見当たらない。さすがに目の前で起きた大爆発をノーガードで受けたらひとたまりも無いだろう。
スタスタ、と歩く私の足が止まった。
「うっ……うう……キョータロー……なんで……うっぐ……」
そこには途中で乱入してきた女2人が倒れている。
ピンクの髪の女は頭から血を流し意識を失っている。琥珀色の少女は杖を手放し無防備な状態で地面に伏している。血を流し涙を流している。
──気を付けろよ。俺なんかよりも警戒すべき相手がいるんだぜ──
「確かに……」
フルオートの唯一の欠点を一瞬で突いてきた頭脳。そしてペトラも知らなかったらしい時限式の魔法……あれは転送魔法を改変したのか。
「厄介ではあったよ……」
またそれをたった一度の肉薄した場面で行う度胸。この歳で大したものだ。
私はそのまま、倒れ臥す女を背にして歩き出す。
あくまでも私の目的はペトラ。彼とは色々あったが壺を盗みに来たのであれば排除しなければならない。
うちの大将といいペトラといい、あの壺がそんなに大事なのかね。
「ぐっ……」
ボロボロの体が早く休みたいと嘆いている。
「やれやれ、老いぼれてしまったものだ……」
ふう、とため息をつき歩いていくと、
「……見るに耐えないな」
そこには、私以上にボロボロとなったペトラが仰向けで倒れていた。
右腕を失い、胴体がバックリと切り裂かれて白目を向いて倒れている。
先の大爆発で全身に火傷を負い、身体中の傷が大きく開いている。
しかし未だ左手の輝きは失う事はない。そしてその輝きが1つの事実を突きつける。
「はぁ……君はゾンビなのではないかと疑ってしまうよ、全く」
ペトラはまだ生きている。あれだけの傷を負いながら、常人では二度は死んでいるだろう傷を負いながらも……。
今は気を失っているだけで生きているのだ。少なくとも死んではいないのだ。
ゾクリ、とその事実に身体が勝手に震える。
「君にはニホンという国について聞きたかったが、最早生きている方が辛いだろう」
私は胸ポケットを漁り、二枚目のjokerのカードを取り出す。
ジェスターハットを被ったjokerは悪魔のような笑みを零し、口からゲロゲロと鋼の刃を排出する。
両手で長い刃を引っ張り出していき、次第にjokerが、カードが刃となっていく。
実に悍ましい工程で一枚のカードが銀光放つ刀身となる。
「実に滑稽な姿だが仕方あるまい」
魔法使いが刀を使って決着を付けるなど笑ってしまう。そんな奴は他にいないだろう。
私はその刃を高々と振り上げ、白目を向いて倒れているペトラに向けて構える。
彼とはここ一週間ばかりの付き合いだ。ただそれだけ。ただそれだけなのに少し思いとどまってしまう。
いや、早く殺した方が彼の為だ。
無残で瀕死で慈悲のかけらもない姿をこれ以上見る事が出来ない。
「お休みだ……ペトラ」
刃を持った右手をさらに上げた時──
グンッ──、と。
まるでゾンビのように、背中だけがつき上がりペトラが起き上がる。
それは一瞬の出来事。完全に油断した、このタイミングを流せば次は無いくらいの絶好なタイミングでペトラの背中の土が盛り上がる。
「なっ、時限し──」
首だけが遅れて起き上がり、白目を向いたままのペトラが私の目の前で直立し、嗤いかける。
「おはよう──。」
──と。
全身が震え上がり恐怖で発狂する。
「うわぁあああああああああああああああああああああああ──ッッ!!!!」
発狂。狼狽。恐慌。
どうすればいいかの判断も付かず、ただただ恐怖を逃れる為に振り上げた刃を大振りした。
冷静に、ちょいと心臓を突き刺すだけで良かったのにも関わらず大振りで刺し穿つ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお──ッッ」
この時を待ってたと言わんばかりのペトラの迷いのない拳が私の刃より速く捉え──
頬にめり込み。
「──ッッらぁああああああああああああああああああああああッ!!!!」
頬にめり込んでいく。
「ぐぉほああああああッ!」
振り抜かれた拳は脳天から体の末端までに衝撃を響かせ、私を数十メートル吹っ飛ばし壁に激突させる。
「グボァああ……」
痛みで気絶しそうだ……。
眩む視界は、フラフラと体勢を立て直すペトラを映しだす。
「ハァハァ……言ったろおっさん。俺なんかより警戒する相手がいるってな」
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jokerが俺の目の前で光を上げた時、全てがスロウモーションに感じた。
死の間際に感じるこの現象。車に轢かれそうになった時も、もしくは高い所から落ちそうになった時もそうだ。
極限の最中、脳の演算力が爆発的に上がり辺りがスロウモーションになったと錯覚しているのかも知れない。
jokerが光を上げた瞬間、ガーネットが何かを仕掛けようとした──。
それが何だったのかはガーネットしか知らない。知る由もなかった筈なのに、俺には土の壁を精製して俺を守ろうとしたんじゃないかと頭で思った。
寸前で見せた土の壁と時限式の指定座標転送魔法を見たせいか、ガーネットが念のために土の壁の呪文を時限式で既にセットしているんじゃないかと思ってしまった。
ほんの一瞬だ。ほんの一瞬でこんな事を思ってしまったのだ。だからスロウモーションの世界になったと錯覚したのかも知れない。
だから俺はガーネットに叫んだ。
そしておっさんに悟られない様に、声には出さず『信じろ』と──。
そしてjokerは大爆発を起こした。
「ハァハァ……言ったろおっさん。俺なんかより警戒する相手がいるってな」
しかし本当に時限式呪文をセットしていたとは……
この一週間、自分の事でロエとガーネットの事を見てなかったが……
ロエは形状操作を少しながら上達させていた。ガーネットも、元々のポテンシャルを知っていたがそれ以上に実戦慣れしていると言うか……何でこんなに強い子がバカにされていたのかが分からん。
俺は急いで入り口付近のロエとガーネットの元へ駆けていく。
グチャグチャと、動くだけで体から歪な音が聞こえる。アドレナリンのお陰か、今はそこまで痛みを感じないが気を抜いたら死んでしまうと思ってしまう程の重傷だ。
「大丈夫かロエ、ガーネット!」
「キョータロー……ごめん……私……」
ガーネットは涙を流しながら俺に謝る。
「謝るのは俺だよ。後味の悪い事をさせて済まなかった」
「キョータロー……体が……」
「知ってる。だがどうせ明日には元に戻ってるから安心しろよ」
「うっ……うう……うっぐ……」
「ありがとな。後は俺に任せてゆっくり休んでろ」
「うっぐ……うぅ……」
ガーネットは泣きながら、ゆっくりと目を閉じた。
「すまねえ…………ッ⁉︎」
俺はロエとガーネットを抱え、壁に背中を預けさす。
「2人ともありがとな……突破口が見えたわ」
そう言って背中を向けておっさんを見る。
「さて、ケリをつけようじゃねえか」
「ぐぅ……」
おっさんは垂れた鼻血を拭いながら立ち上がる。
「ペトラ……君の体は私より酷いはずなんだがね……」
「言っただろう。今宵はグレイト君になるって」
左腕を構えてポーズを取る。
「ぐふっ、追撃をすれば勝っていたんじゃないかね?」
「なに、一発で良かったんだよ。今のはロイの分だから」
「……くく、そうかい」
「ああ、生憎『太陽の騎士団』の団員には好かれてないんでな」
だから一発。先の大爆発で12と13を失ったおっさんに最早負ける気はしない。
「ペトラ、最早負ける気はしないという顔をしてるが忘れてないかい?」
「あ?」
その瞬間、どこからか一枚のカードが飛来してくる。
「11だろ、忘れる訳──ッ無いだろ!」
俺の首元向けて迫る11を、眼光見開いて人差し指と中指、親指の三本指で摘まみ取る。
「何ッ⁉︎」
「何度も殺されかけた11を忘れる訳無いだろうがよ」
「ぐ……」
完全に手詰まり、万策尽きたおっさんの眉間にシワが寄る。
「なあおっさん。ここであんたに1つ手品を披露してやろうか?」
「は?」
期せぬセリフにおっさんは本気で戸惑っている。
「これがあんたに披露する最後の手品だよ。どうする?」
「…………く、ふふ、君は、本当に面白いな」
「おっさんこそ、そうでなくちゃな」
俺は左手で持った11を背中に隠し、チッ、と口を鳴らす。
「……?」
「さて……」
俺は再び11をおっさんに見せる。
「右手が無いから背中で隠して、指パッチンを口でやったんだが……どうだった?」
「ああ、そうゆう事かね」
「全く、ハートの女王様は容赦が無いぜ」
俺はそんな事を言いながらほくそ笑む。
「さて、これから俺はこの11でおっさんを貫くんだが、どうなると思う?」
「無理だね。忘れたか? 11は私が操作しているのだよ。でなくても【攻性曲芸技】を解呪すればいいだけの話なのだがね」
「まあそう言うと思ったよ」
至極当然な意見だ。しかし、無理だ、不可能だ、という観客の声は手品をする上で欠かせないものなのだ。
「だからよ、あんたみたいなのに豆鉄砲を喰らわすのが手品の醍醐味って奴だろう?」
「──ッ!」
「魔法使いとして予言してやる。あんたの腹にカードが突き刺さり片膝をつく」
「──……今度は君の番という訳かね」
「やられたらやり返す主義なんだわ」
ふっ、と笑い11をおっさんに飛ばす。
「無駄だよ」
おっさんは右手を広げる。
それと同時、おっさんに差し迫る11が空中で動きを止める。
「フン……」
当然とばかりに鼻を鳴らした瞬間、おっさんは驚きから目を見開く。
「……──なッ⁉︎」
止まった筈の11が二枚に分裂して再度おっさんに差し迫り、ザックリと腹部にめり込んでいく。
「ぐああああ……」
腹にカードが突き刺さったおっさんは上半身を前に崩し、膝をつく。
じわり、じわりと、腹部から赤い血が溢れ出していく。
「な、何故だ……」
「ヒントは俺が居る場所だよ」
「場所……?」
「まだ分からない? 更にヒントを出すなら一番最初に俺の頬を切り裂いたのは何だったでしょうか? まあ分かんねえなら腹に刺さったそれを見ればいいさ」
おっさんは腹に刺さったカードの柄を、恐る恐る確認する。
「なっ……」
「そうだよ、あんたの方こそ忘れてた様だな」
──スペードの1。
それは一番最初に入り口付近で奇襲にあったカード。ロエとガーネットの元へ駆けた時に気が付いた。
そしてスペードの1が【攻性曲芸技】を解かれてないことに気付いた。おっさん自身、その存在を忘れていたのかもしれない。
「ぐっ、ぐうぅ……」
抜き去ったスペードの1は真っ赤に染まり、腹部からは壊れた蛇口の様に血が溢れ出す。
「そこからじゃあ二枚重ねている事には気付かないだろう。当然だ。至近距離で披露しても気付かれなかったんだからな」
俺は倒れ意識の無いロエに目をやる。まさかあの時の手品がこんな事で役立つとはな……
「しかし……何故カードが……」
「──引っ付いていたかだろ? 俺の血って常人より粘っこくて癖になるらしいぜ。これは吸血鬼情報だから正確だぜ」
「なっ……」
たったそれだけなのだ。たったそれだけのタネで敗北したのだ。
おっさんは絶句する。
だから締め言葉を言わなければならまい。
「あんたの負けだよ──《魔術師》」




