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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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38 《さあ・一夜きり・無敵のショータイム》



 ピシッ──



 1枚目の11(ジャック)は弾いた。


 2枚目の11(ジャック)12(クィーン)を相殺させた。


 そして13(キング)も足止めした──


 筈だったのに──


「が……ぐ……ッ」


 目の前には……


「間に合っただとぉおおおおおッ⁉︎」


「ハァ……ハァア……」


 眼光を見開いたおっさんの数センチ手前、亀裂の入ったスペードの13(キング)が完全に本命の一手を受け止めた。


「ペトラ……」


 脂汗を噴き出しながらも、おっさんはゆっくりと嗤い──


「……ここは私の領域だぞ」


「────ッ!」


 刹那、スペードの13(キング)が受け止めた左腕を弾く。


 体勢を崩した俺に、遅れてサイドから12(クィーン)が掻っ喰らいにかかる。


「マズい──ッ」


 咄嗟。


 本命を防がれたせいか、パニックになったせいか無理やり後方に回避した──


 それは今までの俺の思考──致命傷だけは絶対に避けるという優先順位に従った思考。


 強化された両手の存在を忘却の彼方に追いやっていた。弾くだけで良かったのにも関わらず無理やり後方へ飛んでしまった。


 その悪手におっさんは口角を吊り上げる。


 ズサャ、という鈍い音と飛び散る血飛沫をあげてハートの12(クィーン)は俺の右腕を深く切り裂いた。


「ぐぎゃああああああああああああああああああッ!!!!」


 右腕はちょん切れる手前、前腕の半分以上を真っ赤な女王がえぐる。


「あががががぁああああああああああああああああッ!」


 俺は膝から崩れ落ち、斬られた部位を押さえて悶絶する。


 ドクドクドクと流れ落ちる真っ赤な血を必死に止めながら、灼熱のような激痛に叫び散らす。


「なまじ反応が良かっただけに中途半端に切れてしまったなペトラ」


「がぁぐあああああああああうウゥあああああああああ……」


 おっさんは体勢を立て直し、息を吐く。


「先ほどの連撃には肝を冷やしたよ。しかし大丈夫かね?」


「が……あァ……?」


 一閃。


 地面に亀裂が入るも束の間、真下から姿を現した11(ジャック)が俺の胴体を大きく切り裂く。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 腹から肩にかけての大部分を切り裂いた11(ジャック)は俺の血で真っ赤に染まる。


「うがぁああああああああ……ッ!」


「叫び悶えるのも良いが、ここをフルオートの領域内だと忘れてないかね?」


 二枚の盾が矛へと豹変する。


「クゾがぁアアアアッ!」


 11(ジャック)12(クィーン)13(キング)の攻勢を左腕一本で対処する。まなこ見開き集中して全ての動きに対応する。


 腕を振るう度に右腕と胴体から血液がこぼれ出す。


(クソがァ……右腕が痛すぎる)


 半分以上を切断された前腕が、動きに合わせてプラプラと揺れる。


「痛そうだね君の右腕。いっそ千切った方が良いのではないかね?」


 形勢逆転の優勢に立ったおっさんは笑いながら冗談を言う。


「ぬかせよッ!」


 左右に、上下に、フルオートで襲い掛かる13(キング)12(クィーン)に、スキができた瞬間に襲い掛かる11(ジャック)の猛攻にあいながらも前に出る。


 先ほどの後ろに飛んで回避しようとした大悪手を取り消すように、前に出ながら耐え凌ぐ。


「全く、げに恐ろしき男よな」


 背後から11(ジャック)が横腹を掻っ切る。


「うがァアアアぅ……ッ」


 それでも、たたらを踏みながら前へ


「前に来てどうするというのだね?」


「ゲハァ……殴るしかないだろうが」


 体中から血を噴き出しながらも前に出る。


 その距離1メートル。


 おっさんは冷や汗を垂らしながらも、決して後ろには退がらない。


「そうか、でもそれは叶わぬ願いだがね」


 正面から迫る13(キング)に、おっさんが操作する11(ジャック)が突如衝突する。


「──なッ⁉︎」


 予想外の行動に反応が遅れ、軌道が逸れた13(キング)は俺の左腕を大きく弾く。


「残り1メートルで君は力尽きるからだ」


 唯一対抗できる左腕が大きく弾かれ完全にガラ空き状態の俺に──


「幕引きとしようじゃないかッ!」


 狙い研ぎ澄まされたフルオートの12(クィーン)が発射された。


「ご希望通り……幕引きにじてやんよぉッ!」


 軋む体と、動く事を断固拒否する右腕を無理やり動かし、弾丸の如く直線軌道の12(クィーン)に差し向ける。


「────ッ⁉︎」


 12(クィーン)は突然現れた右腕をぶった斬り、ほんの僅かに軌道が逸れる。


「ぎゃああああああああああああああああああああぁぅうがァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!」


 真っ赤の血華を咲かせながら右腕が宙を舞う。


 その突飛な行動におっさんは勿論フルオートの13(キング)12(クィーン)までもが一瞬動きを止める。


「な、貴様……」


「助かったぜ女王様ァ……」


 虚空を舞い、光をあげる右腕を掴み、


「ッッ──ぶっ千切る勇気なんか無かったからなァアッ!」


 踏み込んだ左足を高速軸回転させ裏拳軌道で、掴んだ右腕でおっさんをぶち殴る。


「ぐおァアばッ!」


 【攻性曲芸技(アサルトサーカス)】フルオートモードの13(キング)12(クィーン)と対峙出来るほど強化された右腕はおっさんの頬に減り込み、数十メートル吹っ飛ばす。


「ぐお、ガバッ……はガッ……」


 完全に意表を突かれたおっさんは驚愕しながら俺を見る。


「ゴホッ……貴様、正気か……?」


「正気なわきゃ無ぇだろうが、ァア?」


 血反吐を吐きおっさんを睨み付ける。


 右腕の切断面からはベトベトした血液が流れ出る。左手に握る右腕は次第に光を失い元の固さに戻っていく。


 体中が震える程痛い。体中が焼け焦げる様に痛い。痛すぎて涙が出てくる。


 土の香りと鉄の臭いが混ざり合いむせ返る。全身が凍えかえり、登ってくる高熱の血を吐き棄てる。


「ハァ……ハァ……なあおっさん。キテレツ無双グレイト君って知ってるか?」


「ぐぅ……知らないが……」


「だよなぁ……。そんなクソつまらなさそうなアニメなんて普通知らんわな」


 血を垂れ流し、軋む体に無理を言っておっさんに近づく。


「だからしゃーなし、俺が少し教えてやるよ。グレイト君は魔法使いのくせに魔法が使えないんだよ」


「……何の話だね」


 おっさんは頬を押さえながらキョトンとしている。


「魔法が使えないから剣とか使ってハチャメチャに闘うんだよ。それもバカみたいにタフって設定でな、ご都合主義丸出し。普通ならあんなに怪我したら闘えないっつうの! きっと作者は手すら切った事ないぜ?」


「何が言いたいんだね?」


「まあそんなアニメでも崇拝するクソッタレも居るって事だよ。そしてそのクソッタレが俺に『友達になって下さいグレイト君』って言ってきたんだよ」


「…………」


 おっさんは未だに俺が言うことを理解していない。


「つまりだ。幾ばくばかりの友情に応えて、今宵、俺はグレイト君になる」


「…………は?」


「あんた言ったよな、『魔法を使ってみせろ』って。だから見せてやるよ、俺の魔法を」


 俺は大きく深呼吸をする。


 もう少しだからと、動くだけで激痛が走る体に無茶を言って──。


「これから見せるのは俺のとっておきだ」


「くくく……やはり君は本当に面白いな」


 おっさんはゆっくりと立ち、笑いだす。


「私の期待を裏切らないでくれたまえよ?」


「安心しな。手品なんかじゃねえ、れっきとした魔法だからよ。ただしクソ痛えから一夜(ひとよ)きりだ」


「くくく……その魔法で私を殺せそうかね?」


「それこそ安心しな」


 俺は左腕を差し出し、


「トドメはこの『(あか)大砲(たいほう)』で決めてやるから」


「紅の要素が見当たらないのだがね」


「なに、これはただの讃歌だ。クソッタレに捧ぐ歪んだ讃歌だよ」


 自己中だが貫くと決めたからな……


「そんな……今にも死にそうな体で私の元まで辿り着けるのかね?」


「それは任せな、魔法の出番だ。俺はこれから……──不死身になる」


 おっさんは目を見開く。


「見せてやるよ……」


 俺はおっさんの反応を無視して高々と笑う。




「──無敵のショータイムを」






Happy Happy Pa(ry

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