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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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37 本命の一手



 咄嗟に出した右手が11(ジャック)を弾き返した──。


「────は?」

「────ッ⁉︎」


 その光景におっさんは目を見開く。


 俺は唖然とする──。


 【攻性曲芸技(アサルトサーカス)】で強化された11(ジャック)の矛を素手の右手が弾いたのだ。


「……参ったね。私の自慢の矛をそんな容易く弾いてくれるなんて」


 おっさんの頬に冷や汗が垂れる。


「御守り……御守りねぇ……」


 俺は白色はくしょくの光に包まれる両手を見る。ただ光っているだけだと思っていたこの光──。


「部分的な自強化魔法、それも恐ろしいほど高密度な魔力……それが君の魔法かね?」


「違うよ。これはただの天の施し(、、、、)だ」


 あの野郎……なにが御守りだよ。


 あくまでも天の施しという事にして、俺はゆっくりと立ち上がる。


「あくまでしらを切るのだね。まあ、ギリギリまで隠したいほどの魔力の持ち主ならそれくらい容易だろう」


「魔力なんか無いんだがなぁ……」


「──無い?」


 ぽろっとこぼしてしまった本音におっさんの眉が大きく動く。


「あ、いや、そんなに無いって事だ!」


そんなに(、、、、)……か。ペトラ、その台詞は余り言わない事をお勧めするよ。前に話に挙がった『殺し屋』連中なんかには特にね」


「どうゆう事だよ」


「さあね」


「……ッ」


 おっさんは呆れ笑いをしながら俺を一瞥する。


「さて、余計な話をしてしまったね」


「全くだ。不眠症になったらどうすんだよ」


 おっさんは二枚の11(ジャック)を構える。


(しかしこの光……強化魔法ねぇ)


 俺は階段付近の壁に近寄り、白色に光る左手でコンコン、と叩き──


「ほリャッぱァアあああ──ッ!」


 そのまま左手で壁を貫いた。


 すると壁は一気に粉砕し瓦解していく。激しい衝撃と爆風に大きな煙が巻き起こる。


「…………………………え?」


 破壊。まるでガラス細工のように崩壊する。


「…………なあ、おっさん?」


「……何かね」


 予想の斜め上を飛び越えていった結果に、殴った本人が一番唖然としている。


 いくら土から作ったと言えど……


「ロケットパンチとダイナマイトパンチ……どっちが格好良いと思う?」


「どちらも変わらないと思うがね」


「まあどっちかって言ったらバズーカだよなぁ。日本っぽく大砲……良いな!」


「そうゆう訳ではないのだがね」


 俺はため息をつくおっさんを見据える。


「余計な話返しに俺も余計な事を教えてやるよ」


「ほう」


「あんた……多分初手を間違えたぜ?」


 残り二枚となった11(ジャック)の矛。


 そして切り札である13(キング)12(クィーン)の盾。


 確かに厄介だが、それでもあと4枚だけなのだ。勝ち筋が見えない訳ではない。


13(キング)12(クィーン)なんかのために多くを犠牲にしたのは間違いだったな」


 この盾にも矛にもなりうる両腕の輝きに勝算を見いだす。


 最初から10数枚に攻められたら一瞬で死んでいただろう。ましてや52枚が一挙に襲い掛かってくるなんて狂気の沙汰でしかない。


 ロイ……


 『太陽の騎士団』はおっさんが万全な状態で挑んだのだ。52枚という、空を覆い尽くすほどの矛と対峙したのだ。


(ロイ……やっぱお前は強いよ)


 笑いながら目を閉じたロイの姿を思い出し、握りこぶしに力が入る。


「待ってなおっさん! すぐそこまで行ってぶっ飛ばしてやるよ」


 土が減り込むほど強く地を蹴り、一気に階段を駆け上がる。


「速いッ⁉︎」


 おっさんは一歩後退るも、すぐさま二枚の11(ジャック)を射出する。


「残り……」


 俺は走りながらも歩幅を合わせ右足を大きく踏み込み、


「3ッ!」


 向かってくる11(ジャック)を豪快に振りかぶった左手で地面に叩きつける。


 残り5メートル──


 叩きつけられた11(ジャック)は衝撃波と共に一帯を破壊し砂塵を生む。


「そしてぇえええッ!」


 踏み込んだ右足を軸に体をハーフターンさせ、更に加速して左足を軸にハーフターンして、両手を握り空想のバットを構え──


「2ィイ1ッ!」


 砂塵でくらむ視界で、迫り来るもう一枚の11(ジャック)を捉えて右手の甲で打ち返す。


 アッパースイング。階段の上でふんぞり返るおっさんに猛烈なピッチャー返し。


「なァっ⁉︎」


 至近距離からの不意打ちに反応が遅れるも、フルオートのハートの12(クィーン)11(ジャック)をぶった斬る。


 残り2メートル──


 俺は止まる事なく更に距離を詰め階段の頂上に到達し、左足を振り上げる。


(しまっ……蹴りが来るッ!)


「ぐぅ……ッ」


 おっさんは堪らず後ろに飛ぶ。


 残り3メートル──


「掛かったなッ!」


 体勢を崩したおっさんに回し蹴り軌道で思いっきり靴を飛ばす。


「何っ⁉︎」


 完全に虚を突いた。おっさんは全く動けない。


 しかしこの虚を突いた一手も虚しく、フルオートのスペードの13(キング)が嘲笑うように靴を真っ二つに両断する。


「惜しかったなペトラァ……」


 冷や汗を垂らしながらも、真っ二つになった靴を見ておっさんはニヤリ、と嗤う。


 だから──


(ゼロ)だよおっさん」


 そう言って俺も嗤い返してやった。


 信じていた。そのフルオートのポテンシャルを──


 俺は止まらない。左足着地させ体を旋回、旋回、勢いそのままツー回転させて右足をおっさんの目の前まで踏み込む。


 残り0メートル。懐。──捉えた。


 打ち返した11(ジャック)も、蹴りと見せかけた靴飛ばしもデコイ。


 全てはとっておきの一手の為の囮。距離を詰めるのとおっさんから盾を引き剥がす為に、完全に虚を突いた一手をも二番手に回して。


 フルオートを逆手に取った。飛ばした靴なんかは少し外れていたが13(キング)は察知して斬りに掛かった。



 したがって今──おっさんを守る(カード)は一枚も無い。0枚だ。



「倒してやるよ。──1撃で」


「がっ、ぐ……」


 俺は血管が浮き出るほど強く握った左拳を振りかぶる。


「スペードのキングゥウウウウウウ──ッッ!!!!」


 おっさんは咄嗟に叫ぶ。そしてその叫びにスペードの13(キング)は慌てて戻り、危険因子を排除にしかかる。



「間に合うかよォオオオオオオオオ──ッッ!!!!」



 旋回して溜めに溜められた本命の一手を、おっさん目掛けて振り抜いた──。




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