36 あまのじゃく
──少し遡って
静か。余りにも静か──。
時計は午前12時くらいを指す。
普段は寝ているこの時間も、ごく稀に目を覚ましてしまう時がある。
私はそぉっと、音を立てずに階段を降りる。真夜中の階段も、いつもはリビングの明かりやテレビの音が聞こえてくるというのに今日は一切無い。
──怖い。
静寂と闇を司るこの階段に足がすくむ。そして訪れる胸騒ぎ。
私は階段を降り、リビングの戸を開ける。
(……キョータロー?)
リビングのその暗さに思わず電気を付ける。
あまりにも静かな原因──そしてその異変に気付く。
「居ない……」
夜遅くまでテレビを見て、静寂と闇を搔き消していたキョータローの姿がない。
(なんで…………ハッ!)
私は急いで玄関に向かう。
「靴が……ない」
キョータローの靴だけないのだ。そして最後まで音に気を使ったのか鍵が開いたままの状態になっている。
「…………ッ」
私はすぐさま階段を駆け上がり自分の部屋に向かう。今まで静かにしていたのを忘れたかのように物音を立てて。
(キョータローのバカ。バカバカバカ)
──こう見えても信頼してるんだぜ?
以前キョータローが私の頭を撫でながら言ってくれたセリフを思い出す。
(バカバカバカバカバカ!)
急いで着替えて杖を取る。万全とは言えないが急遽準備を整え部屋を出る。
「────ッ⁉︎」
部屋を出るとロエさんが立っていた。そして自分が、自分の事だけで動いて配慮が足りなかったことに気付く。
「ごめんなさいロエさん。起こし──」
「何でガーネットちゃんまで謝るの?」
「え……?」
ロエさんの言った意味を上手く汲み取る事が出来なかった。それでも表情でロエさんが悲しそうなのは分かる……。
「ロエさんどうゆう……?」
「その杖……行くんでしょ?」
「──ッ!」
私は思わず杖を背中に隠してしまった。
「私、途中で起きたの」
「途中……?」
ロエさんは黄昏ながら言葉を紡ぐ。
「京太郎ってバカでしょ? 私達にバレない様に静かに行動してたのに、私の前で5分以上も葛藤してたの」
「葛藤って……」
「多分起こすか起こさないかで悩んでたんだと思うの。ガーネットちゃんの所にもきっと来たわ」
「そんな……」
「そして『ごめんな……』と一言残して出て行ったの……」
「…………」
全然気付かなかった。その行動もだけど、キョータローがどんな気持ちで1人で出て行ったのかも……。
「ずっと悩んでたの。私が一緒に行っても何も出来ないから」
「そんな事ないですッ!」
「でもガーネットちゃんは私を起こした事に謝ったでしょ?」
「…………」
最低だ。バカは私だ──。
押し黙る私を見て、ロエさんは乾いた笑いを漏らす。
「いいの……。実際私が付いて行った所で何の役にも立たないの。それどころか足手まといになる事だって分かってるの」
「…………」
否定しきれなかった自分に腹が立ってしまった。
信頼されてなかったのだと、1人で嘆いていたのにも関わらず私自身が同じ事を無意識の内に行っていたのだ。
キョータローは葛藤して苦しそうに決断していたというのに……私は酷く勝手だ。
「ごめんなさい……」
「ガーネットちゃんが謝らなくていいの。私が弱いから……」
「──ッ」
「それでも……」
私を諭す様に優しく告げるロエさんの瞳に涙が溢れて──
「──それでも呼んで欲しかったな。一緒に戦いたかったな……」
「────」
その言葉は私に酷く貫いた。涙が溢れそうになった。
「──……。」
だって私も呼ばれなかったから……。
「…………。」
私の気持ちをロエさんが吐き出してくれたのだと錯覚するくらい同じだがら。
だから……
「……──ッ」
だから──
「ロエさんッ!」
「えっ⁉︎」
私はロエさんの腕を強く握った。
「ロエさんごめんね。あと、──ごめんなさい」
私はロエさんに二回謝った。ロエさんは突然の事で困惑している。
「ロエさん行こうッ!」
「でも……」
「足手まといなんかじゃないよ。だってパーティーなんだもん!」
「…………」
「ずっと悩んでたんでしょ? だったら行くべきだよ!」
「私は……」
「私はロエさんが必要なの! それに2人でキョータローにガツンと言わないと気が済まないもん!」
「……ガーネットちゃん」
私はにっこりとロエさんに笑顔を向ける。
「……ふふっ」
ロエさんは私の顔を見て笑みをこぼす。
「ガーネットちゃん。ダメな年上でごめんね」
両頬をパシパシと叩き、喝を入れる。
「そうよね。京太郎にもう一度謝ってもらわないといけないもんね」
「そうだよロエさん!」
「ふふっ」
「くすっ!」
「「あっはははは!」」
私とロエさんは大笑いする。
「それじゃあ行こう!」
「うん!」
私たちは勢い良く扉を開けて闇へ姿を消した。
そんな常闇など気にならない程、私の心は今満ちているから──。
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「うぉおおおおおおおおおお──ッ!」
攻め狂う11を杖で弾きながら俺はおっさんの元へ駆けて行く。
「全く、勇ましいよ」
大階段の上で13と12の盾を兼ね備えたおっさんは優雅に嗤う。
「いつまで杖一本で耐えきれるか見ものだがね」
「クソッタレが」
当然いつまでも拮抗出来るはずもなく、三枚の11は徐々に腕を、太腿を、背中を切り刻んでいく。
(集中しろ……重症だけは避けるんだ)
「オラァアッ!」
正面から迫る11に杖を思いっきり振り抜く。
軌道を大きく外れた11は地面に突き刺さる。
「そして喰らえやァアッ!」
地面に突き刺さった11のカードの面に杖を真上から振り下ろす。
ドス、という鈍い音を立て杖は11を貫く。貫かれた11は光を失い、ただのカードへと戻る。
「私が知っている魔法使いはそんな杖の使い方をしないのだがね」
「は、だったら魔法を使わせてみるんだな」
おっさんを睨みながら更に虚勢をはる。強がったは良いものの、各所の出血が地味に堪える。しかも杖が土に深く刺さって中々抜けない。
「末恐ろしい眼だよ」
一枚の11が上空から俺を目掛けて飛来する。
(やべ、抜けねぇ)
「──ちっ」
俺は杖を離して後方に翻しながら回避する。
「さて、これで君の盾が無くなった訳だが……」
体勢を立て直すスキも与えずもう一枚の11が首元に襲い掛かる。
「ほら、魔法を……──使ってみたまえよッ!」
「やべ──」
俺は咄嗟に右手を犠牲にして11を弾き返した────
「────は?」
弾き返した…………?




