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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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34 月の爆撃機



『……ライシエル=ユーマ? 誰だそりゃ』


「僕が知る限りで誰よりも魔法に執着のある人物だよ」


 ユスタは満足げにライシエル=ユーマと言う人物について語る。


「だから僕が唯一負けるとしたら彼だけだろうね」


『…………』


 暗殺者(サイレントキラー)は若干呆れている。この暗殺者を前に『負ける気がしない』と堂々と宣言するたわけがまだ存在したのかと──。


 大魔導士という肩書きだけで自分が世界で一番凄いと勘違いした輩は大量に殺してきた。


 そういった輩の決まり文句は『相手になるかな?』


 正直相手にならなかった。まるで雑魚。魔法は使ってくるが実戦的ではない。そんな奴らを(ほふ)ると虚しくなってくる。



 こんな雑魚にも魔法が使えるのに──



 と。


 どうせこの大魔導士も同じだろう。


『分かったよ。お前は殺す。死んだと実感させないまま殺してやるよ』


 暗殺者は後ろ髪を掻きながらユスタを見る。


『だから最後に何か言うことはないか?』


 なんて事はない。遺言でも残せと……


「そうだね。だったら撤退してくれないかい?」


『は?』


 暗殺者は思わず目を見開く。ここにきて命乞い?


 ……いや、この男はまだ自分が勝つ気でいるのだ。あの自信に満ちた目が何よりの証拠だ。


『……はぁ、 するわきゃねえだろ』


「そうか残念だ。ならば大魔導士として君たちをここから一歩も通さない」


『なんだ? 宣言までして即刻死んだら恥ずかしいなぁ』


「違うよ。これは宣言では無いよ」


 挑発気味に答えた暗殺者のセリフを軽くいなしてユスタは見据える。


「──断言だよ」


『はぁ? 舐めくさってんなよ』


 さすがに限界がきたのか、暗殺者がユスタに迫ろうと右足を上げようとした時、



 ──パキパキ、と大地が凍る。



「君たちこそ、……随分と舐めて掛かってくるじゃないか」


 鋭く、冷徹なユスタの殺気を具現したかの様に、辺り一帯取り巻く広大な範囲の気温が一気に氷点下に達する。


(う、動かな……)


 暗殺者、そして『殺し屋』3人全ての足を氷漬けにして動きを封じる。


 ほんの一瞬の出来事──。


 それは暗殺者のスピードに匹敵するほど刹那の時間──。


『一瞬にしてこの範囲に精度……そして震える程の魔力……てめぇ何モンだ?』


「言ったじゃないか。只の大魔導士だよ」


『ありえねぇ……只の大魔導士な訳がねぇ! 今までの自称大魔導士の雑魚とは比べ物にならねえ程の魔力……』


「今まで君が戦ってきた大魔導士は知らないが、僕は只の大魔導士だよ……



 ──魔力ランク10のね」



『「「「────ッ!!!」」」』


 ユスタを除く全ての者が絶句した。


『ランク10だとォ⁉︎ ありえねぇだろ! そんなお伽話(とぎばなし)みてえな事を信じる訳ねぇだろが!』


 魔力ランクは0から10までの段階があり、8を超えると大魔導士でも珍しく、10などこの世に存在するかも怪しいレベルなのだ。


『信じねぇ。只のハッタリだ。そもそもランク10なんて見た事も聞いた事もねぇ。それこそ神の域と称される値だぞ』


 かつて大英雄と呼ばれた魔導士達でさえもランク10には及ばず、長い歴史を辿っても存在したのかも怪しいレベルなのだ。


 ランクは比例的には上がらない。分かりやすく言えば指数関数のグラフ的なイメージなのだ。


 従ってランク8とランク9では雲泥の差であり、そのランク9とランク10でも神と人くらいの差があるのだ。

 

 そんな神の域と称されるランク10。それを目の前の男は達していると宣言したのだ。


「僕の話はどうでもいいんだよ」


 ユスタは広げた手のひらを相手に向け、右から左にスライドさせる。


 すると暗殺者と『殺し屋』3人を拘束していた氷が全て消えて常温へとかえる。それは今まで拘束が全て幻だったかの様に──。


「「「…………」」」


 この圧倒的不可解な出来事に『殺し屋』は押し黙ってしまう。


「さて、もう一度問おう。撤退してくれないかな?  今ので実力差も分かったはずだが」


『……実力差だと? 舐めるな、ふざけるな、調子に乗るな! 俺は暗殺者(サイレントキラー)なんだぞ!』


 暗殺者は激昂する。しかしすぐさま我に帰りすぐさま呼吸を整えて、


『俺らが撤退するときは、……この世の魔導士を全員殺しきった後だ』


「そうか。ならばいよいよ撤退させれなくなったね」


 パキパキ──、とユスタが踏みしめる地面が凍り始める。


『テメェのそれ。一つの技を特化して作り上げた芸当だろう。そしてランク10発言。ハッタリにしては上出来だよ。まんまと騙されかけたぞ』


 クックック、と邪悪に嗤いだす。


『そしてそれも地に付いてないと意味が無いと見える。ランク10乙、大魔導士破れたな』


 この短期間で技を解析しきった暗殺者。単純な実力とは別に、頭の回転の速さが今までの実績を残した要因でもある。


『あとなァ……』


 暗殺者はゆったりと嗤いを止め、


(奴の氷……確かに驚かされはしたが、地に付かなければ怖くない)


『こちとら最初(ハナ)から逃げるつもりなんか──』


 雷光一陣


 その瞬間に世界が止まる。


 ただ1人──暗殺者を除いて。


『──ねェんだよッ!』


 ──否。


 世界が止まったと錯覚させる程のスピードでユスタの背後に差し迫ったのだ。


 凄腕魔導士、更には大魔導士をも殺してきた『殺し屋』の総大将──


 サイレントキラーと呼ばれ世間を騒がせた『暗殺者』の神髄。残像が消えるまでの間に相手を殺す。まるで分身。何が起こったかも、死んだ事も自覚させないまま殺す絶技。


 甚大な被害を与えたにも関わらず顔も名前も割れなかった所以。


 ──0.00001秒


(────死ネッ!!!)


 暗殺者が腰からナイフを取り出し、ユスタの首を掻っ切る手前──



 パキパキバキバキッ!



 ──暗殺者の動きが止まった。


『は⁉︎』


 それが暗殺者(サイレントキラー)と呼ばれ数多の凄腕魔導士を暗殺してきたそいつの最期のセリフ。


 ユスタの後方0.3メートル。


 超人的なスピードを封じた巨大な氷の柱が全てを飲みこみ、暗殺者の氷の標本を作る。


「破れたのは暗殺者(サイレントキラー)の方だったね。一つの技を特化しただけでなれる程大魔導士は甘くないよ」


 一歩。


「さて君たちはどうする? 抵抗するなら彼の様に手荒になるかも知れないが……?」


「……舐めるなよ。こっちは3人掛かりだぞ」


「舐めてるのはそっちじゃないかい? 3人掛かりで僕の相手ができると思っているのかい?」


 ユスタは『殺し屋』の残党に睨みを利かせる。


(総大将を抑えれば戦意喪失すると思ったが……さすがは『殺し屋』か。個が強──)


「──ッ⁉︎」


 刹那、3人が同時に消えた。


 今、3人組は完全にユスタの不意をついた。ユスタが考え事をした僅かな時間を見逃す事なく殺しに掛かった。


 サイレントキラーの暗殺術を間近でみてきた『殺し屋』の幹部だから出来るすべ


 しかし──


「「「な、なんだと……?」」」


 3人全てが空中で止まる。正面、左右からの波状攻撃も虚しく地面から伸びた氷の柱によって胴から下を拘束されたのだ。


「言っただろう。ここから一歩も通さないと」


「ありえねぇ……だろォ」


 視界に死角がある様に、タイミングにも死角が存在する。たった今ユスタが見せた様に。それを見逃す幹部ではない。その時3人が同時のタイミングでユスタを殺しに掛かった。


 通常なら死亡。死んだ事にも気付かずその生涯を終える筈だった────。


「き、貴様ァ……」


「さてどうする?」


 パキパキっ……


 拘束された氷の柱を、這う様に登っていく新たな氷。その氷は確実に殺す為の氷。


「総大将と同じ運命を辿るか、大人しく捕まるか……」


 パキパキパキっ……


 徐々に氷が上昇していく。人1人位は丸呑み出来るほどの質量。


「…………」


 幹部は喋らない。命乞いをしない。たった今目の当たりにした残酷な死が自分に迫っているにも関わらず。


 それどころか鋭い眼光でユスタを睨みつける。


「……野蛮な眼だ」


 そのユスタの一言が、『殺し屋』幹部の3人が聞いた最期の言葉。


 迫り来る氷は無残にも3人を吞み干す。


「…………」


 終わってみればユスタの圧勝。しかし『殺し屋』の本丸を崩したのも関わらずユスタの顔は晴れない。


 ユスタは儚げに天を仰ぎ、片手を伸ばす。そこには真ん丸い満月だけがあり、浮かないユスタを嘲笑っている。


「……誰も死なない、か」


 それは朝山京太郎が6日前にした未来の予知。



「済まない京太郎……僕がその未来を壊してしまったね……」




 誰も居ないその場所で、ユスタは1人虚しく月を眺めるのだった──。






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