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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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33 邂逅



「じゃあ俺は行くから。大魔導士様は依頼を全うしてくれ」


「君こそ、勝てるのかい?」


 踵を返す寸前、ユスタの核心を突く質問に足が止まる。


 だが──


「……さあな。俺は俺のすべき事を全うするだけだよ」


 引いたって死ぬのだ。だったら進むしかない。全く、化け物と戦う選択肢が最善とかあり得ないだろ。一体どんな準備をしたらこんな結末が待ってるのやら……


 俺は止まっていた足を再び動かす。


「待って京太郎」


 ユスタは俺を呼び止め、


「《(てん)(ほどこ)しを》──」


 虚空に右手を添えて呪文を唱える。


「……何だこれ?」


 ユスタの詠唱後、俺の両腕が白色はくしょくの光に包まれる。


「ただの御守りだよ。君が死んだらその光は消えて僕に伝わる。また僕が死んでもその光は消えて君に伝わるようになってるんだ」


「……あっそ」


 ユスタは何が嬉しいのか、俺を見て笑い出す。


「まあ、死ぬなよ」


 俺は完全に振り返り、背中を向けたまま声を掛ける。


「僕は大丈夫だよ」


 顔は見えないが多分自信に満ちた瞳で笑っているのだろう。


「言ってろ!」


 俺は『殺し屋』に背を向けて走り出す。



 この焼け焦げた地獄絵図の先へ──。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ──山奥



 俺は走る。ロイの【超攻撃特化(ベルセルク)】でえぐれた山道を辿ってその先へ。


 ユスタと離れてから割と走った気がするがまだまだ続く破壊された道を見ると、ロイの【超攻撃特化(ベルセルク)】がどれだけの攻撃威力だったのかが伺える。


 周りに立っている木はほとんどない。全て灰と化して瓦解している。


 そのため月明かりを防ぐものがなく、高圧的な満月が近付いている様に錯覚する。


「そろそろ──……ッ⁉︎」


 月ばかり見てたお陰で分かった。


 巨大な満月の明かりを唯一遮る大きな建物を見て、思わず鼻で笑ってしまう。


「……あれか」


 俺は走るのをやめ、ゆっくりと近づいていく。


「何だこの建物、RC? いや、土……?」


 例えるなら土の箱。地面から生えてきたと例えればいいのか、盛り上がった土が壁を作り箱を作った様な建物。


 所々にある窓と、堂々としながら『入るな』と言わんばかりの大きな入り口が1つ……。


「悪いな……そんなに入るなって言われると入りたくなるだろう」


 こればっかりは仕方ない。日本人のさがってやつだ。『押すなッ!』って言われたら誰だって押すだろう?


「お邪魔します……」


 俺はゆっくりと扉をくぐる。


 シン、とした空気に思わず手足の末端部が震え上がるも、状況の把握に努める。


 ゆらりと舞う粉塵が窓からの月明かりを乱反射させる。


(誰も居ない……?)


 この薄気味悪さと、吹き抜けでさらに広く感じるこの空間に、緊迫しながら様子を探る。


 この空間にはほぼ何もない。向かいに大階段があり、それ以外は──


「……何だ?」


 階段の上で何かが光った……?


 俺はこの薄暗い空間で目を凝らし光の正体を探る。


「…………」


 よく見えないが何かが光った……


「カー……ッ⁉︎」


 もう一度光った瞬間にその光がくうを切り俺に差し迫ってきている。それは高速で、鋭いやいばが意志を持っている様に俺の心臓を貫きにかかる。


「──なッ⁉︎」


 完全なる不意打ちに体勢を崩し、遅れながら真横に緊急回避する。


 刃は俺の頬を斬り裂き、土の床に突き刺さる。


「ちっ、」


 俺は頬を伝う鮮血を腕でぬぐいながら立ち上がる。


「何だこれ────」


 土に刺さる刃を確認したと同時、先ほどまでは無かった人の気配がした。


 それは階段の上、すぐさま振り返り身構える。


「私は……」


 カツ、カツ……と、その声の主は大階段を2、3歩降りる。


「次に向かって来る相手は……」



 運命は残酷だ──。



 毎度の事だが、自分の運の悪さには反吐がでる。


 思えばヒントは幾らでもあったのだ。


 『もう(、、)探していない』とか妙に引っかかるセリフ──


 ロイの胸の十字の傷であったり──。


 それは全て偶然であって欲しいという希望的観測でここまで来たが……先ほど俺を襲った刃を見て確信した。


「君なんじゃないかと思っていたよ……」


 途端に空間に電源が入った様に、照明が一斉に照らし出しその男の姿が晒される。



「──なあペトラ」



 黒のタキシードに大きなハット。妙な色気を醸し出す対照的な白の手袋。白髪にそれと同色の長い髭──




 いつもストリートの喧騒から離れて機械の様に手品をするおっさんの姿が────。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 


 ──同時刻



「随分とあっさり見逃してくれるんだね」


 ユスタは朝山京太郎の姿が見え無くなるのを確認してゆっくりと振り返る。その振る舞いは国を騒がしてきた『殺し屋』を前にしているとは思えない。


『あの雑魚とは向かう場所が一緒だからな。お前を殺してその後即刻殺すんだよ』


 『殺し屋』の総大将──暗殺者(サイレントキラー)もまた、大魔導士を前にしたとは思えない程落ち着いている。


「雑魚……とは心外だね」


『何だ? 知り合いを馬鹿にされて怒ってんのか?』


「元──ね」


 ユスタを中心に冷酷な風が巻き起こる。ローブを揺らしポーカーフェイスを気取るユスタだが内に秘めた殺気が溢れ出たのだ。


「元、親友だよ」


 ユスタの殺気に『殺し屋』は身構えるが、総大将はそれでも冷静に佇まう。


『へえ、喧嘩とかか』


「そんなんじゃないよ。説明すると面倒くさいからこの話は終わるけど、雑魚は撤回してもらおうかな」


『そこ、そんな拘るか?』


「ああ。一番大事だよ。京太郎はライシエルに似てるんだ。だから強いよ。特に、──君たちみたいな奴とは違ってね」


『──あ?』


 ユスタの含みのあるセリフに、今まで冷静を保っていた暗殺者の顔が歪む。


「君たち『殺し屋』は魔法が使えないんだろ?」


『…………』


「その逆さ蛇──神を拒んだ君たちを象徴するかの様なマーク。違うかい?」


『ご名答だ大魔導士。俺たちは生まれた時から魔力が無かった。ほんと……神を呪ったな』


 暗殺者が放った殺気がユスタを貫く。それは一般人なら腰を砕き震え慄くほどの殺気。


『いいよなお前らは。大した努力もせず年月を重ねるだけで魔導士になれるんだからなぁ』


 今まで冷静だったユスタの顔が、一瞬だけ曇った。


「そうかな。僕は君たちが羨ましいよ」


『……なんだと?』


「早々に魔法を見限れたんだからね」


『早々にだと……』


 暗殺者の額に青筋が立ち込める。それを見た残りの『殺し屋』は暗殺者から一歩後ずさる。


『貴様……殺されたいのか?』


「事実だろ?」


『事実な訳あるかッ! あれほど……血が滲むほど努力した。貴様には分かるか?』


「それは悪かったよ。でもね、君たちのその努力では僕が大魔導士になるまでの努力には勝てない。だから君たちは僕に勝てない!」


 ユスタは、似合わぬほど大きな声をあげて語る。




「──だから君たちはライシエル=ユーマに絶対勝てない」






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