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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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31 乱入者



 カランカラン!


 申し訳ない程度に付けられたドアベルが素っ頓狂な音を立て、とある男を招き入れる。


「いらっしゃいませ! お待ちしておりました」


「やあ、待たせたね」


「とんでもないです。わざわざ来て頂きありがとうございます!」


 男を招いたその女は低姿勢で振る舞う。


「それでライシエ──……京太郎の件について早速聞きたいんだけど」


「その事なのですが、朝山さん帰られてしまいまして……」


「帰った?」


 女は申し訳なさそうに言葉を紡いでいく。


「それが『夜に用事が出来た』と言い残し、ワールドクエストを破棄して帰って行きまして……」


「用事……?」


「はい。私もイマイチ状況を掴めてなくて、朝ごろに重傷の『太陽の騎士団』を突然医務室に連れて来たと思ったら、険しい顔をして帰ってしまいまして……」


「ロイ=アストロフラムが……重傷?」


 男は女のセリフに驚愕する。


 『太陽の騎士団』──この町随一のパーティーと称されているが、全国のパーティーと比べても圧倒的な実力を誇っている。


 『太陽の騎士』であるロイ=アストロフラム。


 『一番槍』のランス=グリムフォード。


 世界的に名が轟いているの2人に、バランスの良いメンバー構成に『不敗神話』と比喩されている。


 ただ『太陽の騎士団』は活動範囲が狭く、あまり町を離れない為、町随一として収まっている。


 しかしこの男は『太陽の騎士団』の実力を知っている。


「誰にやられたとか聞いてますか?」


「それが記憶を弄られたらしく何も分からないと……」


「そうですか……」


 男は顎に手を当てて考える。この町に『太陽の騎士』と『一番槍』を倒せる者が本当に居るのかを。


(『殺し屋』────)


 真っ先に思いついたのは、最近何故かこの町に現れるようになった凶悪な、魔導士殺し集団。


(どうなっているんだ? この町に何が起こっているんだ……?)


 何故急にこの町に『殺し屋』が出現したのか?


(京太郎は何かを知っている……?)


「すみません、京太郎は他に何か言ってませんでしたか?」


「朝山さんですか? そうですね……」


 女は目を瞑り記憶を逆再生する。


「あっ」


 そして目を開け、




「──飲みに行くと」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ──深夜12時



 今宵の月は満月。嘲笑うかの様に夜を照らす月に向かって、俺は息を吐く。


「グレイト君か……」


 ロイを医務室に運んだ後家に帰り、『キテレツ無双グレイト君』の1話だけを視聴した。


 内容はこうだ。大量の魔力を持ちながら魔法が使えない主人公──グレイト君がモンスターや悪の組織に立ち向かうお話。


 バカみたいにタフで体力の多い設定で、刀を振り回してモンスターを倒した所で一話が終わった。


 正直クソつまらなかったから一話で切ってしまった。残り1213話も見る元気は無い。だが強かった。確かにグレイト感は強かった。


 やはり俺とグレイト君は似てない。俺は強くない。だから夜襲を仕掛けた。ロイが勝てなかった相手に正攻法で勝てる訳がない。


「後は……逃げてないといいけどな」


 今朝の爆音はロイの【超攻撃特化(ベルセルク)】だろう。そして『居場所を突き止めた』と言っていた。


 だからそこを辿れば『太陽の騎士団』を倒した──猩々を殺して壺を持ち去った男に逢えるだろう。


 スタスタ、と俺は夜の山へと登って行く。


「……今日が満月で助かった」


 威圧する月明かりが夜道を照らしだす。思っていたよりは明るい気がする。黒のシルエットの木々の隙間から夜をかき消す命の光が俺を誘う。


 つられる様に上へ、奥へと歩いて行く。


 正直ガーネットとロエを呼ぼうとも思った。俺一人で勝てるかなんて分からないから。


「まあ、これで良かったのかな……」


 ぐっすり寝ている顔を見たら起こす気が失せた……という建前で自分を精一杯誤魔化す。


 そして竿殺し(ロッドアウター)戦から何も変わってない自分に舌打ちがでる。


「相変わらず臆病だな……俺は」


 スタスタ、と誘われるがまま……。


 落ち葉を踏みながら闇の中をひたすらに歩いて行く。



───


───


───



「そろそろだと思うんだが……」


 大まかな位置は分かるが、いかんせん目印などが無いため正確な位置は把握できない。


 そんな事を思いながら歩いていると、ふと炭のような臭いが漂う。


「何だ?」


 先ほどまで踏んでいた落ち葉の感覚がまるでない。踏み込んだ足が少し埋まる程土が柔らかい。


 更に奥へ進むと焼け焦げた臭いが強くなり、辺りの木々が炭と化している。


「こ、これは……」


 俺はこの現場を見たことがある。


「ロイの【超攻撃特化(ベルセルク)】を見た時と全く同じ光景──……」


 大地を、木々を、全てを燃やし、嵐が起きた後の様な悲惨な現場。


「と言う事────ッ⁉︎」


 突如、胸を貫かれた様な感覚に陥る。


「──なっ⁉︎」


 悪い予感からすぐさま後退して戦闘体勢をとる。


「何だ……全身が震え上がる気色悪い感じは」


「へー。今ので退がるんだ」


「──ッ⁉︎」


 常闇に紛れて声が聞こえてきた。足音は全く聞こえないが、近付いてきているのは確実に分かる。


「な、何でお前がここにいるんだよ……」


 満月に照らされてその姿が露わになる。それは黒装束に包まれた姿で……。


「あれー? この姿の俺を2度見た奴なんて居ない筈なんだけどなー?」


「ちっ……」


 俺は更に一歩後退る。


「何で逃げるのー? どうせ殺すのにー」


「お前の実力を知っているからだよ」


「へぇー。尚更殺しとかないとなぁ」


 黒装束の男はニヤリと嗤う。


「でも可笑しいなー。俺はお前なんか見た事ないし、あった奴は片っ端から殺してるのになぁ」


 ああ、なるほどなぁ。


「お前らの所の1番下の奴にお世話になってな。全く、揃いも揃って同じ様な格好しやがってよ。あいつが化けて出てきたかと思ったじゃねえかよ」


「かはっ! あいつ帰って来ねえと思ったら死んだのかよ。それで、お前が殺したの?」


「違うな。あいつが勝手に死んだんだよ」


「へぇ……」


 まるで蛇に睨まれてるようだ。こいつ顔は隠れてるくせに……。


「分かった。とりあえずお前は殺すよ」


「ふざけんな! 俺はあいつを殺してねえよ!」


「勝ったんだろー? あいつに。だったら殺したのと同じだよ」


「だからふざけんなっての! 勝手に人を犯罪者にすんじゃねえ! そもそもあいつから仕掛けてきたんだぞ」


 俺は叫び散らすが、目の前の男には響いてないらしい。問答無用で俺を殺す気でいる。


「──ちっ」


 どうする……? 一人だけなら……いや、前回と同じように勝てるか?


「とりあえず──」


 幸いな事にこいつと会うのは初めてだ。前回みたいに油断してくれたら俺にも勝機が──ッ⁉︎


「サヨナラ」



「待てッ!」



 どこからか聞こえてきたその一言で、いつの間にか目の前で短刀を突き付ける男の手が止まる。


「……ブハァ!」


 俺は後ろに飛び下がり、止まっていた呼吸を再開させる。


 相変わらず全く見えなかった。覚悟していても心臓が止まりそうになる。


「ねー。タイミング悪くない? あと少し遅かったら殺せてたのにー」


 黒装束の男は闇に向かって話しかける。


「殺さないタイミングで声をかけたんだよ」


 声の方から──


「お前は殺すのが早いんだよ」


 気配が……


「そうそう。だからいつまで経っても弱いんだよ」


 複数の気配が……ッ!


「あー? お前から殺すよ?」


「喧嘩はやめろ。今日は総大将も来てるんだぞ!」


 ダラダラ、と額から脂汗が噴き出る。


「お……おいおい…………」


 体が自然に後ろへ慄く。3、4、5人……。


 『殺し屋』のメンバーは5人。しかもさっき「総大将が来てる」と……


『こいつがペーペーを殺した奴か』


 一人だけ顔を晒した男が近付いてくる。


「そうなんですよー大将」


「こ、こいつが……」


 闇に包まれていると言うのに顔がしっかり見える。凶悪な、魔導士殺し集団の『殺し屋』の総大将である男の顔が──。


『どんな奴かと思えば、雑魚みたいな野郎じゃねえかよ』


 総大将はため息をつき、踵を返す。


「ですよねー」


 黒装束の男は嗤いながら俺を見据え──


「だからー、死ねッ!」


 男は一瞬で消えて、



「──させないよ」



 俺を貫くはずだった男の短剣が、透明な柱によって阻まれる。


「何だぁ?」


 黒装束の男は距離を取り体勢を立て直す。


「これは……氷?」


「その通りだよ京太郎」


 上空から、誰かが降りてくる。


 高度から落ちて来たのにも関わらずゆったりと着地し、見惚れるほど高貴なローブを靡かせる。


「誰だーお前は?」


「僕かい?」


「そうだなー。どうせ殺すけど俺の攻撃を防いだんだ。一応名前を聞いといてやるよ」


 何故……


「そうだね。だったら自己紹介をしようかな」


 こいつがここに……ッ!



「僕の名前はユスタリエ=アンノリー」



 ユスタは優雅に佇まい、




「──君たちが狙っている大魔導士だよ」





 にっこりと、挑発する様に笑った──。






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