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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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30 キテレツ無双グレイト君!


 ズズズ……


「ぬるい」


 にっが苦の熱々だったコーヒーは既に冷めて、ヌルくて苦いだけの豆水へと姿を変えた。


 随分と長居をしたな。かれこれ一時間。飲み終わったら、飲み終わったらと何かにつけて留まる言い訳をしてきたが、ついにコーヒーカップの底が見えたのだ。


「いい加減行くか」


 重たい腰を上げてギルドの二階を見渡す。


 つい最近分かった事なのだが、ギルドの二階は大型転送装置があり、金銭を払い各地のギルドへとワープ出来るそうなのだ。


 ちなみに魔王ラストが7年前に出現した地はここから数千キロ離れており、毎年調査を行うそうなのだが調査員が毎年帰ってこない事から、未だ魔王がその地にいるのだと確定させているらしい。


 ちなみにちなみに移動費は42万トルカ。バカみたいな移動費に『行ったら帰ってこれない』という噂も広まり、その地に行く者は現在では居ないらしい。


 極たま〜ぁに、名を馳せる為に、金が無いからとその地に赴く愚者(、、)も居るらしいが、例のごとく帰還した者が居ないので受付嬢は勧めない。


 どうせまた帰ってこれないと、死地へ出向かせている気分で心苦しいらしい。


「行く……前に、ちょっと外の空気を」


 外に出るとき、ホッと胸をなでおろすレイネスさんの姿が見えた。


 少しの罪悪感を抱きながらも、空気を吸いに外に出て────ッ⁉︎


 すぐに確認できた。ギルドを出てすぐの広場に人が倒れている。しかも5、6人も。


「ちょっと、だ、大丈夫ですか!」


 俺はすぐさま駆け寄り──


「ロイッ⁉︎」


 倒れているメンツがまさかの知り合いに驚愕する。


「ロイ! 大丈夫か⁉︎」


 俺はロイをかかえ応答を要求する。何故とかどうしてとか色々あるが、兎にも角にも安否の確認を。


「ロイ、ロイ!」


「ぐっ……」


 ロイは大小の傷を抱えて悶絶する。ロイに限らずランスまでもが重症。他の4人は2人ほど傷は酷くないが気絶している。


「おいロイ! 大丈夫かッ⁉︎」


「ぐっ、京太郎……か?」


 ロイは瀕死ながらも意識を取り戻す。


「大丈夫かロイッ⁉︎ 何があった?」


「悪い京太郎……何も思い出せねぇわ」


「はっ?」


 ロイは血塗られた手を頭に当てて必死に考えるが、何も思い出せないらしい。


「……これも魔法の影響か」


 つくづく何でもありだな。記憶消去魔法とかそんな感じか?


「分かるのは、負けたって事くらいだな」


「ロイ……」


 ロイの口から敗北の文字が出た事に驚きが隠せない。実力は言うまでもない。そしてロイには【超攻撃特化(ベルセルク)】もあるのに……。


「なあ京太郎……京太郎なら勝てたかな?」


「客観的に考えて負けるだろ。騎士団総出で負けたんだから」


「そうじゃガハッ……そうじゃない。単に実力勝負の話じゃなくて……」


「何言ってんだよロイ?」


 傷の深さに悶えながらも必死に喋るロイ。


「もういい。これから医務室に連れてってやる」


 喋ろうとするロイを抱えて立ち上がろうとした時に左胸付近の傷に目がいった。



 十字紫閃──。



「これは……」


 美しい斬り口にどこか見覚えのあるクロスの傷痕…………


「ロイ、まさか相手──」


「俺はさ、京太郎なら勝つと思ってたんだよ」


 ロイは抱えられても、俺が喋ろうとしても尚喋り続けていく。


「何言ってんだよ。前から思ってたんだがロイって俺のこと過大評価してないか?」


「別に、そんな評価した覚えは無い。ぐっ、……正当な評価だ」


「それを過大評価って言うんだよ。お前が勝てない相手に勝てる訳ないだろ。単純な戦闘力で言ったらロイやランスはおろか、マホやシエンにだって勝てねえよ」


「そうだな。京太郎強くないもんな」


「おいおい」


「でも勝っちゃうだろ?」


「は?」


 ロイは口内の血を吐き捨て俺を見据える。


あんなに苦戦した(、、、、、、、、)竿殺し(ロッドアウター)にだって結局勝っただろ?」


「何でお前知って────」


 こいつ何言って……



「俺さ、実は竿殺し(ロッドアウター)戦を見てたんだよ」



「だったら何で……」


「もちろんヤバくなったら助けるつもりだった。ガハッ、ガハッ……でもさ、お前、俺の理想に似てるんだよ」


「理想に?」


 ロイはいつもみたいにケラケラと笑いだす。


「俺さ、昔、人生が変わる程の出会いをしたんだよ。しかも2回」


「出会い……」


 そう言えば以前ランスが話していたな。確か人体発火現象の原因を解いた医者だって言っていたな。


「ランスが言ったらしいな」


「医者だろ? 聞いたよ」


「はははっ、そっちかよ」


「そっち?」


「言っただろ、2回したって。もう1人と似てんだよ京太郎」


 懐かしそうな表情を浮かべるロイ。


「京太郎、昔テレビでやってた『キテレツ無双グレイト君』ってアニメ知ってるか?」


「いや、知らねえな」


 昔は日本に住んでたからな。あとアニメのタイトルに時代を感じるな。


「その主人公のグレイトが京太郎と似てるんだよ」


「出会いってアニメのキャラかよ」


「おかしいだろ。俺はさ、特殊な環境で育ってきたから中々人に会えなかったんだよ。だからずっとテレビを見てた。そしてその時出会ったこのアニメには感銘を受けたんだよ」


「そうか……」


 特殊な環境という言葉に、 ランスとの会話を思い出す。


「グレイト君は俺の生き方を示してくれた。そんなグレイト君がさ、京太郎に似てんだよ」


「何だ? グレイト君は拗らせ君なのか?」


「何言ってんだよ京太郎」


 ちょっと気になるな『キテレツ無双グレイト君』。帰ったら動画を漁ってみよう。


「ちなみに全1214話だ」


「多過ぎだバカッ!」


 やっぱり漁るのはいいや。


「グレイト君はさ、魔法使いなのに魔法を使わないんだよ。刀1つで無茶苦茶に闘うんだ」


「何で魔法を使わないんだよ?」


「グレイト君は世界を崩壊する程の魔力を持ちながら使い方を知らないんだよ」


「無茶苦茶だな」


「皆んなにバカにされながらも、泥臭く剣闘士(グラディエーター)の様にハチャメチャに闘うグレイト君に心を打たれたよ」


「成る程な」


 だが妙だな。俺とグレイト君の接点って魔法が使えない事だけじゃね?


「京太郎はさ、何で竿殺し(ロッドアウター)戦で魔法を使わなかったんだよ?」


「そ、それは……」


 言うべきか? 魔法が使えない事を……。


 いいあぐねる俺を見てロイは笑う。


「あの日、偶然、見ず知らずの奴の闘いを見て、体が動かなかった。もっと観ていたいと思った。グレイト君が画面から飛び出して来たかと思った」


「それは言い過ぎだろ」


「あんなハチャメチャな闘い方は他にいない。食われに行ったり、杖で攻撃したり、巨大魚をぶった斬るなんてあり得ないだろ」


「必死だったんだよ」


 つくづく魔法が使えないって不便だなって再認識した。なんちゅう闘い方をしてたんだ俺は。


「グレイト君は俺の憧れだ」


「そうか」


「そんなグレイト君と同じ闘い方をする京太郎と仲良くなりたかった。そうしたら俺も何か変わると思ったから」


「…………」


 ずっと不思議だった事。何故『太陽の騎士』と謳われる奴が俺なんかに関わるか。


 出会いを神聖視するから──と勝手に結論付けていたが……こうゆう事か。


「だが俺は負けた。だから京太郎は勝つよ」


「無茶苦茶だな。それはロエだぞ?」


 前の文と結び付かない結論に『だから』を使ってはいけません。


 だがそうだな──。


 そこまで言われたんならやるしかねぇな。


 納得はしてないがな。純粋に考えて、泥臭く闘うより魔法とかぶっ放して闘う方が格好良いだろ?


「分かったよ。そいつをぶっ倒して来てやるよ。ロイの仇は取って来てやる」


「はは、カッケーな」


「だからさっさと医務室に運ばれろ」


「はははっ! だったら安心だな……」


 ロイは笑いながら、ゆっくりと目を閉じた。


「全く……誰がグレイト君だよ」


 眠り行くロイの寝顔を横目に、独り言を漏らす。



「まあ、……悪い気はしないがな」



 俺はロイを担ぎギルドの医務室へと向かって行った──。






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