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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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29 コールドブルー


「はぁ、はぁ……」


「…………」


 それはあまりにも一方的に。


「くそ、俺たちとじゃあ相性が悪すぎるな」


「全くだな。残るは俺とお前だけ……か」


「ああ。結構キツイかもな」


「らしくないな。いつもなら1人で突っ走ってくくせによ」


「はははっ! お前だってしっかり着いて来んじゃねえか」


 残った2人は体に幾数の傷を作りながらも互いに皮肉を言い合って笑っている。


「活路は見出せそうか?」


「そうだな、このままじゃあジリ貧もいい所だしな。あれを全部撃ち落とす前に負けるかもな」


「本当にらしくねぇな」


「数が多すぎるんだよ! やり辛くて仕方ねぇよ」


 男は燃え盛る大剣を地面に突き刺してため息をつく。


 そしてポケットをゴソゴソと漁り、小さい石を取り出す。


「……やるのか?」


「もうこれしか思いつかねぇや」


「良かったな。あいつが倒れてて」


 もう1人の男は笑いながら、倒れた仲間に目をやる。


「そうだな。あいつはお前と違って賢いからな」


「違ぇねぇな」


 そして体よりも長い槍を振るい前に出る。


「その燃費も体にも悪い技の為に時間を稼いでやるよ」


「死ぬなよ」


「それはこっちのセリフだよ」


 男は振り返らず突っ込んで行った。


「すまねぇ……」


 すうぅ、と息を吸い魔石を握り締め──


「《目醒(めざ)めよちから、──」


 ゆっくりと。


「《爆発(ばくはつ)火種ひだねもつて、──」


 殊更にゆっくりと。



「──発火(はっか)せよ》──ッ!」



 体を蝕む禁術を唱えた──。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ──翌朝


 公開処刑まで残り1日──



 外は晴れ。門出を祝うかの様な快晴。今日、俺はBIGなって帰って来る。具体的に言うと魔王を倒す。


 後ろは崖、最早引き返す事など出来ない。だが前を見たところで先の見えない大嵐が待っているのだ。したがって足取りは重くなる。


 だからせめて心に傘を、いっときでも落ち着く為にもいつもの場所へ寄り道する。


「おかしいよなぁ、魔法が存在する世界で手品を見て落ち着くなんて……」


 本当に、笑いがでる。何をやっているんだ俺は。


 背筋の曲がった肢体はゆっくりとストリートの喧騒から外れた木陰へと向かって行く。


「あれ……?」


 居ない──。


 いつもの場所に居ない。機械仕掛けの、生き甲斐のないような、そして何故か落ち着く手品は披露されていない。


「何で今日に限って居ないんだよ」


 思わず舌打ちが出てしまう。


「まあ、いいか」


 それでも意外とさっぱりとしていたのか、ため息をついて踵を返した──



 ドォオオオオオオオオオオッ!!!



 それは突然。


 耳を破壊するほどの衝撃音がどこからか響き渡る。


「──なっ⁉︎」


 そして遅れてやってくる一陣の風。


 堪らず片手で顔を隠し、隙間から遠方を凝視する。


「何だったんだ……?」


 どこまでもさっぱりと──もしくは冷めているのか、風が止むと同時に振り返りギルドへと歩みを進めた。



 ──ギルド



「いらっ……しゃいませ」


「お早うございます。昨日ぶりですね」


 レイネスさんは俺と目が合うと苦々しい表情になる。


「本当に行かれるのですか?」


「昨日言った通りですよ」


「…………」


 昨日はレイネスさんにワールドクエストを挑戦すると告げたのだ。もう後がないからと。


「本当に行かれるのですか? この町の方は優しい方が多いです。一生懸命にお願いしたら期間を増や──」


「ダメですよレイネスさん」


 俺はレイネスさんの口を優しく止める。


「僕は臆病者なんですよ。だから──」


 悟りにも似た笑顔ではぐらかした。これ以上は言わなくても──と。


 重症拗らせ臆病高二病という病気を患った俺の思考をレイネスさんは理解できない。当然だろう。自分でもあまり分かっていないのだから……


「コーヒー一杯、いいですか?」


「あっ、は、はい。コーヒーですね! サービスしますよ!」


「にっが苦の熱々にしといて下さい。今日はコールドブルーなんで」


 本当に訳が分かんねぇ。だから笑いがでる。


「ふふ、何言ってるんですか?」


 レイネスさんも釣られて笑みを1つ。


「何なんでしょうね」


 甘くミルクの様な会話は苦々しい会話をも誤魔化す。


 混ざり合ってもほんの少ししか満たさないと知りながらも、


 今だけは──と。


 押し付けにも似た笑顔を残し、カウンターの端の定位置へ向かって行ったのだった。






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