表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
69/89

27 一番乗り



 ──ギルド



「いらっしゃいませ! 本日はどういったご用ですか?」


 相変わらず半壊しているギルドに着くと、笑顔の美しいレイネスさんが出迎えてくれる。


「いや、今日は用があって来たわけじゃなくて……」


「そうですか……」


 先ほどのおっさんの鋭い指摘に結構ダメージがきている。それが表に出ていたのか、レイネスさんは慌てて話を切り替える。


「そ、そうだ! 先日は500万トルカ頂きましたよ!」


「そうですね。僕のところに届かなかったですから」


「何かすみません」


「いやいやレイネスさん。元々返済すべきお金でしたので」


「あっはは……」


 500万トルカという大金に罪悪感があるのか、苦々しく笑うレイネスさん。


「そういえば朝山さん。壺の件は順調ですか?」


「そ、そうですね……割合で言ったら75%ですかね」


「順調じゃないですか!」


「は、はは……」


 思わず嘘をついてしまった。


「それで相談なんですが、壺を見つけたら国ではなくギルドに売るのはどうですか?」


「それはどうゆう……?」


 レイネスさんはモジモジしながら耳元に近寄る。


「私、あの壺が欲しいなぁ……て」


「分かりました売りましょう!」


 即決。耳元でそんな事囁かれたら誰だってこうなる。抗えない。


「本当ですか⁉︎」


「ええ。僕が見つけたらギルド……いや、レイネスさんに売りましょう!」


「ありがとうございます!」


 レイネスさんは俺の両手を取り、上目遣いでお礼を言う。


「お礼って言ったら変ですが、モーニングくらいご負担しますよ」


「本当ですか。今ショッキングブルーなんで丁度暖かいものが飲みたかったんですよ」


「よく分からないですが丁度いいなら良かったです」


 少し赤みのある顔に見惚れていると


「──あと、この事は内緒ですよ?」


 人差し指を唇に当てウィンクを決めるレイネスさん。


 あの……めちゃくちゃ可愛いんだが。人差し指を唇に当てるやつめちゃくちゃ可愛いんだが……。


 つい先日全く同じ仕草をしたインクレディブルガールとは雲泥の差なんだが?


 というかあいつガールじゃなかったし。アナコンダヴァイスだったんだが? 美女と野獣もとい月とアナコンダヴァイスなんだが。


 約束なんか絶対守っちゃうんだが?


 まあ、そんな訳だから、


「絶対喋りません!」


 とか元気よく言っておこう。



 ──酒場



 何というか、この酒場って本当に便利だよな。その名に似合わず朝はモーニングセットに豆薫るコーヒーが置いてある。お昼になれば定食も出てくるし、その気になれば日が落ちぬ内にお酒も飲む事も出来る。


 とか考えながら、ここ数日で固定化しつつあるベストプレイス、カウンター席の端に向かう──途中に目が合った。


 そいつも俺を一瞬だけ見たが、何事もなかったかのようにグループの会話に戻る。


 俺自身も関わろうと思ってなかったので同様に目を逸らしたが……


「おう! 京太郎じゃないか!」


 唯一の良心であるロイが笑いながら手を振ってきた。その瞬間そいつ──ヒラは舌打ちをした。そう言えばヒラは周りがよく見えるお兄さん的存在だったな。相変わらず俺が嫌いならしい。


 まあ、ヒラだけに限った話じゃないんだけどね! ロイ以外皆んな睨んでやがるぜ!


「お、おう、久しぶりだなロイ」


 俺はとりあえず挨拶を返し、すぐさま退散しようとしたのだが、そうは問屋が卸さないようだ。


「ちょっと待てよ京太郎。ちょうど京太郎に会いたかったんだよ!」


「俺にか?」


「そうだよ。こんな珍しい名前、京太郎以外にいないだろ?」


 ロイはケラケラと笑いながら手招きをする。俺は前には距離を詰めず、横にだけ動き一定距離を開けてロイの正面に行く。


「なんで横スライドなんだよ?」


 何でロイは背後の複数の殺気に気づかないんだろう? ロイに向けられてないからか。


「ちょっとお花を摘みに行きたくて、な」


 適当な誤魔化してさっさと退散しよう。


「なんだよそれ! まあ手短に済ませるか」


 何が面白かったのか分からないがロイはケラケラと笑っている。



「俺たちさ、猩々を殺した奴の居場所を突き止めたんだよ!」



「──なっ!」


 思いがけないロイの一言に唖然とする。完全に虚を突かれた。


「え……まじ?」


「ああ、マジ!」


「…………」


 開いた口が塞がらない。あまりにも唐突。先程まで殺気を放っていた5人も俺の顔を見て笑っている。


「はっ、残念だったな魔法使い。この勝負はもう着いたようなもんだな」


「あぁ、勝負ね」


 そういえばしてたね、勝負。俺は猩々について何にも情報が得られなかったから、ランスの言う通り完全敗北だな。


「負けたら首吊りとかだったか?」


「違えよ」


「違うわランス。確か焼き地獄だった筈よ」


「それもちげーよ!」


「マホ、確か地下行き1050年だった筈!」


「だから違うっての!」


 ここぞとばかりに楽しく振る舞うマホとシエン。こいつら意外と可愛い見た目とは裏腹に、大富豪ギャンキチ人を人ともクソ野郎が考えそうな罰ゲームを提案するから悪魔的。


「まあそうゆう事だ京太郎。何なら一緒に来るか?」


「「「「「ダメだ!」」」」」


「じょ、冗談だよ……」


 5人に激しく否定されて少し焦るロイ。


「ま、まあ、ここでしっかり朝飯を食って出掛けるつもりなんだよ。後は持ち攫った男をぶっ倒して『太陽の騎士団』の完全勝利だ」


「くっ……」


「ザマァないな魔法使い」


「…………」


 思わず歯ぎしりをする。勝負に負けた事が悔しいのではなく、生きる為の道が消された事が大問題なのだ。


 ヒラやシールなどの実力は知らないが、ロイやランスが負けるとはとても思えない。


 『太陽騎士団』に猩々の壺を持って帰られると今までの努力もレイネスさんルートも絶たれてしまう。


「あは、何だか気分が良くなってきたわ!」


「俺もなんだよなマホ!」


「俺も」


「私も!」


 俺の絶句する顔を見て元気になる4人。


「ロイ、そろそろ行こう」


 元気になったヒラは立ち上がりロイを焚きつける。


「そうだな、燃えて来るなぁ!」


 ロイは戦闘民族なのでいつでも準備は万全だ。


「まあ、そうゆう事だ京太郎。俺たちが壺を持って帰ったら酒でも飲ませてやるよ!」


 そう言ってロイは揚々と酒場を出て行った。


「じゃあな魔法使い」


 ランスは鼻で笑いながらロイの後に続き、


「失せろカス」


 そのあとをヒラが続き、


「息を止めろ!」


 シールが、


「あんたウザい」


 マホが睨みを利かせ、


「負け犬!」


 そう言って最後にシエンが酒場を後にして、俺が探し求めた男の元へ向かうのであった──。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ