27 一番乗り
──ギルド
「いらっしゃいませ! 本日はどういったご用ですか?」
相変わらず半壊しているギルドに着くと、笑顔の美しいレイネスさんが出迎えてくれる。
「いや、今日は用があって来たわけじゃなくて……」
「そうですか……」
先ほどのおっさんの鋭い指摘に結構ダメージがきている。それが表に出ていたのか、レイネスさんは慌てて話を切り替える。
「そ、そうだ! 先日は500万トルカ頂きましたよ!」
「そうですね。僕のところに届かなかったですから」
「何かすみません」
「いやいやレイネスさん。元々返済すべきお金でしたので」
「あっはは……」
500万トルカという大金に罪悪感があるのか、苦々しく笑うレイネスさん。
「そういえば朝山さん。壺の件は順調ですか?」
「そ、そうですね……割合で言ったら75%ですかね」
「順調じゃないですか!」
「は、はは……」
思わず嘘をついてしまった。
「それで相談なんですが、壺を見つけたら国ではなくギルドに売るのはどうですか?」
「それはどうゆう……?」
レイネスさんはモジモジしながら耳元に近寄る。
「私、あの壺が欲しいなぁ……て」
「分かりました売りましょう!」
即決。耳元でそんな事囁かれたら誰だってこうなる。抗えない。
「本当ですか⁉︎」
「ええ。僕が見つけたらギルド……いや、レイネスさんに売りましょう!」
「ありがとうございます!」
レイネスさんは俺の両手を取り、上目遣いでお礼を言う。
「お礼って言ったら変ですが、モーニングくらいご負担しますよ」
「本当ですか。今ショッキングブルーなんで丁度暖かいものが飲みたかったんですよ」
「よく分からないですが丁度いいなら良かったです」
少し赤みのある顔に見惚れていると
「──あと、この事は内緒ですよ?」
人差し指を唇に当てウィンクを決めるレイネスさん。
あの……めちゃくちゃ可愛いんだが。人差し指を唇に当てるやつめちゃくちゃ可愛いんだが……。
つい先日全く同じ仕草をしたインクレディブルガールとは雲泥の差なんだが?
というかあいつガールじゃなかったし。アナコンダヴァイスだったんだが? 美女と野獣もとい月とアナコンダヴァイスなんだが。
約束なんか絶対守っちゃうんだが?
まあ、そんな訳だから、
「絶対喋りません!」
とか元気よく言っておこう。
──酒場
何というか、この酒場って本当に便利だよな。その名に似合わず朝はモーニングセットに豆薫るコーヒーが置いてある。お昼になれば定食も出てくるし、その気になれば日が落ちぬ内にお酒も飲む事も出来る。
とか考えながら、ここ数日で固定化しつつあるベストプレイス、カウンター席の端に向かう──途中に目が合った。
そいつも俺を一瞬だけ見たが、何事もなかったかのようにグループの会話に戻る。
俺自身も関わろうと思ってなかったので同様に目を逸らしたが……
「おう! 京太郎じゃないか!」
唯一の良心であるロイが笑いながら手を振ってきた。その瞬間そいつ──ヒラは舌打ちをした。そう言えばヒラは周りがよく見えるお兄さん的存在だったな。相変わらず俺が嫌いならしい。
まあ、ヒラだけに限った話じゃないんだけどね! ロイ以外皆んな睨んでやがるぜ!
「お、おう、久しぶりだなロイ」
俺はとりあえず挨拶を返し、すぐさま退散しようとしたのだが、そうは問屋が卸さないようだ。
「ちょっと待てよ京太郎。ちょうど京太郎に会いたかったんだよ!」
「俺にか?」
「そうだよ。こんな珍しい名前、京太郎以外にいないだろ?」
ロイはケラケラと笑いながら手招きをする。俺は前には距離を詰めず、横にだけ動き一定距離を開けてロイの正面に行く。
「なんで横スライドなんだよ?」
何でロイは背後の複数の殺気に気づかないんだろう? ロイに向けられてないからか。
「ちょっとお花を摘みに行きたくて、な」
適当な誤魔化してさっさと退散しよう。
「なんだよそれ! まあ手短に済ませるか」
何が面白かったのか分からないがロイはケラケラと笑っている。
「俺たちさ、猩々を殺した奴の居場所を突き止めたんだよ!」
「──なっ!」
思いがけないロイの一言に唖然とする。完全に虚を突かれた。
「え……まじ?」
「ああ、マジ!」
「…………」
開いた口が塞がらない。あまりにも唐突。先程まで殺気を放っていた5人も俺の顔を見て笑っている。
「はっ、残念だったな魔法使い。この勝負はもう着いたようなもんだな」
「あぁ、勝負ね」
そういえばしてたね、勝負。俺は猩々について何にも情報が得られなかったから、ランスの言う通り完全敗北だな。
「負けたら首吊りとかだったか?」
「違えよ」
「違うわランス。確か焼き地獄だった筈よ」
「それもちげーよ!」
「マホ、確か地下行き1050年だった筈!」
「だから違うっての!」
ここぞとばかりに楽しく振る舞うマホとシエン。こいつら意外と可愛い見た目とは裏腹に、大富豪ギャンキチ人を人ともクソ野郎が考えそうな罰ゲームを提案するから悪魔的。
「まあそうゆう事だ京太郎。何なら一緒に来るか?」
「「「「「ダメだ!」」」」」
「じょ、冗談だよ……」
5人に激しく否定されて少し焦るロイ。
「ま、まあ、ここでしっかり朝飯を食って出掛けるつもりなんだよ。後は持ち攫った男をぶっ倒して『太陽の騎士団』の完全勝利だ」
「くっ……」
「ザマァないな魔法使い」
「…………」
思わず歯ぎしりをする。勝負に負けた事が悔しいのではなく、生きる為の道が消された事が大問題なのだ。
ヒラやシールなどの実力は知らないが、ロイやランスが負けるとはとても思えない。
『太陽騎士団』に猩々の壺を持って帰られると今までの努力もレイネスさんルートも絶たれてしまう。
「あは、何だか気分が良くなってきたわ!」
「俺もなんだよなマホ!」
「俺も」
「私も!」
俺の絶句する顔を見て元気になる4人。
「ロイ、そろそろ行こう」
元気になったヒラは立ち上がりロイを焚きつける。
「そうだな、燃えて来るなぁ!」
ロイは戦闘民族なのでいつでも準備は万全だ。
「まあ、そうゆう事だ京太郎。俺たちが壺を持って帰ったら酒でも飲ませてやるよ!」
そう言ってロイは揚々と酒場を出て行った。
「じゃあな魔法使い」
ランスは鼻で笑いながらロイの後に続き、
「失せろカス」
そのあとをヒラが続き、
「息を止めろ!」
シールが、
「あんたウザい」
マホが睨みを利かせ、
「負け犬!」
そう言って最後にシエンが酒場を後にして、俺が探し求めた男の元へ向かうのであった──。




