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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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26 錬金術


 ──翌日


 公開処刑まで残り2日──



「ねえキョータロー大丈夫なの?」


 朝。リビングで小1時間放心していたら、起きてきたガーネットに心配された。


「へ? おいどんは大丈夫でごわすよ、へへへ」


「キョータローおかしいよ……昨日の晩からずっとおかしいよ。約束の日まで時間もないんだからしっかりしてよ!」


「大丈夫ですよ〜割合で言ったら75%だから」


「何が?」


 ガーネットは訝しげな瞳でジロリとこちらを眺める。


「もしかして何も進展が無いの?」


「ドキッ」


「はぁ……」


 ガーネットは分かりやすくため息をつく。


「キョータロー。私も何か手伝う──」


「まあ待てガーネット!」


 俺はガーネットの言葉を封じる。手伝ってもらう事は非常にありがたいが、自分で蒔いた種なのだからガーネットの手を煩わす訳にはいかない。


「実は3億トルカが手に入る手立てがあるんだよ」


「何その怪しい響きは……」


「大丈夫だ。宝くじとか臓器売ったりとかじゃ無いから」


「そう……」


 疑いの眼差しが晴れる事は無かった。


「まあ、聞いてみそ」


 俺はガーネットに猩々の事を話した。案の定欠落が多い事を指摘されたが、残りの日数を考えれば妥当だと結論付いた。


「そうゆう事はもっと早く言って欲しかったよ」


「悪い。隠すつもりは無かったんだが、タイミングが悪くてな」


「もう……」


 ガーネットは分かり易く落ち込む。俺はそんな頭を優しく撫でる。


「まあ戦いになったらガーネットに頼るよ。こう見えても信頼してるんだぜ?」


「う、うん……ありがと」


 ガーネットは少し俯きながらポショポショと言葉を紡ぐ。


「それまでは任せておけ!」


 ぐっ、と親指を立ててガーネットを見る。


「そ、それなら安心だね。私もゆっくり学校に行けそうだよ」


 そう言って玄関まで行き、


「行ってきます!」


 元気一杯に扉を開けて出て行った。


「……さて、俺もやりますか」


 気合いを入れるために両頬を叩く。ガーネットに任せておけと言ってしまった。だったら頑張るしかないよな。


 俺は外に出て、いつもの場所に足を運んだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「よお、おっさん」


 手品を行う手が止まる。


「また君か。昨日は再三断った筈なのだがね」


 そう。あの後おっさんに断られてしまったのだ。確実に見込みがあった分反動が大きかった。だが、今朝ガーネットと話して切り替えたのだ。


「そうだな。だから今日も来た」


「君は営業向きだね。その鋼のメンタルは尊敬に値するがね」


「崖っぷちに立たされた三十路はネズミより厄介だから覚えといてくれ」


 おっさんはため息をこぼす。


「ペトラ、他の道という選択肢はないのかね?」


「他の道?」


「そうだ。別に猩々に拘らなくても良いんじゃあないのかね?」


「と言われてもなぁ……」


 正直猩々に固執している訳では無いのだ。他に手立てがないから縋り付いてるだけであって良い手があればいつでもスイッチは出来る。


「ペトラ、冒険者なら討伐クエストでお金を稼ぐとかあるんじゃないかね?」


「最初は考えたよ。だがこの町では俺の借金を返済出来るほどの高額なクエストは無いんだってさ。あるとしたらワールドクエストとか」


「────」


 ワールドクエストというワードにおっさんの眉がピクリと動く。


「ん? おっさんワールドクエスト知ってんの?」


「どこの国にも張り紙があるのだから知っているとも。確かに1億あれば容易い……くくくっ」


「笑うなよ。いっときは本気で考えたんだからよ」


「くく、済まない。が、案外大した事ないかも知れなのではないのかね?」


 おっさんはわらいながら俺を見る。


「どうゆう事だよ」


「なに、組織に所属しているだけで1億トルカの賞金がかけられているだけで、実際は大した事ない者も居るのではないのかと思うのだがね」


「少数精鋭に限ってそれは無いだろう」


 大組織なら居ても何ら不思議はないが、少人数の組織にその望みは薄い。先日俺を殺しにかかった『殺し屋』がいい例だ。


 ユスタが管理したその後、あの男に尋問を行った際に組織の人数と自分の立場を吐いたそうだ。それ以上は何も吐かず、舌を噛み切って自害したそうだ。


 『殺し屋』は総勢6名。総大将を筆頭に5名の部下で構成された組織。そしてあの男は一番の下っ端という衝撃の事実。


 1番下であの実力なのだ。ワールドクエストもおっさんの言ったことは期待できないだろう。


 ちなみに近年大量の魔導士に手を掛け、世界中を悩ませてきた『殺し屋』の1人を倒し、貴重な情報が手に入ったという事で俺には報酬金として国から500万トルカが贈られたのだ。


 しかし贈られた先は俺ではなくギルド。あの役人さんが、「良かったわね! 借金が500万も減ったわね〜!」とニヤニヤして言ってきた。やっぱりあの人は嫌いだ。


「あっ、そうだ。おっさんも『殺し屋』って連中には気を付けなよ。奴ら魔導士は容赦なく殺すらしいから。あと猩々の件にも絡んでるらしいから」


「なら私は対象外じゃあないかね」


「そうかな、あんな固有魔法を使える奴はほっとかないと思うぞ」


「私は魔法使いであっても魔導士では無いのだよ。まあ、頭の片隅には入れておくがね」


 おっさんはあくまで自分には無害だと主張する。しかしこのおっさんは固有魔法まで使えるのだ。大層な魔法使いだか……ら、


 大層な魔法使い……?


「なあおっさん?」


「どうしたのだねペトラ。そんなに震えて」


 俺は重大な事に気付いた。『殺し屋』の一件で取り敢えずは弥縫策で使った飲み代は返済できたのだ。後はギルドが直れば全て解決する──。


「おっさんって錬金術とか使える?」


 突然の質問におっさんは少し困った表情を見せる。


 おっさんは大層な魔法使いである。だったらギルド規模の建物も直せるんじゃあ……?


 そんな希望を胸に、おっさんの返事を待つ。


「まあ、使えるがね」


「────ッ!」


 その言葉に心臓が飛び跳ねた。


「それじゃあ──」


「だがペトラ」


 おっさんは表情を変えぬまま言葉をかける。


「君の考えはこうだろう? 錬金術の使える私にギルドを直してもらって全てが解決する──と」


「…………」


 迂闊だった。焦がれ、物欲しさのあまり、考えるより先に動いてしまった。


「先に言っておこうペトラ。確かに私ならあのギルドを直せるかも知れない。だがね、錬金術は等価交換が基本だ」


 おっさんの鋭い眼光が俺を貫く。


「ペトラ、君に5000万と等価な何かを差し出せるのかね?」


「────」


 俺は何も言い返せない。


 ──甘かった。


 数百万出せばいけると思っていた自分が恥ずかしい。


「まあ、そうゆう事なのだがね」


 そしておっさんは手品の道具を片付け出す。


「差し出せる何かがあれば直してあげられるのだがね」


 そう言っておっさんは帰ってしまった。



 俺はそんなおっさんを止める事ができなかった…………。






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