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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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25 崖っぷちの30代



「──あんた何が目的でこの町に来た?」



 俺はようやく本筋に軌道をもっていった。


「何が……とはどうゆう事かね?」


「そのままの意味だよ。別に手品を披露する為にこの町に来た訳ではないだろ?」


「別に言う程の事でもない」


「例えば、──何かを探す為に来た。とか」


「──ッ!」


 無表情のおっさんの眉が微かに動く。


(……ビンゴか)


 おっさんも猩々の件に絡んでいるのだろう。手品中の鋭い視線は壺を盗み去った男を探していたと考えて間違いないだろうな。


「君は、どこまでを知っている?」


「何にも知らないから質問してるんだぜ」


「……そうかね」


 あくまでも強気で、へえへえと揺れる尻尾を隠して慎重に探る。


「実はさ、俺も探し物があるんだよ」


「それは何かな?」


「多分おっさんと同じだと思う」


「奇遇だな」


「ああ、奇遇だな」


 本当に奇遇だと思う。だがこれが良い傾向なのかは定かではないがな。


 壺と柄杓だなんて、埋蔵金の様に山分けできる代物ではないのだから。分母がいくら増えようとも分子は変わらない。1なのだから。


 しかし分母が増える事で見つかる可能性は格段に上がるのもまた然りだ。


「そこで提案なんだが手を組まないか?」


「私とかね?」


「そうだ。情報提供しあうってのはどうだろうか。単純に考えて見つかる可能性が倍になる。確かにデメリットもあるが一生見つからないのも困るだろ?」


「……ふむ」


 おっさんは腕を組み熟考する。


「1つ……君は何故そんなに必死か聞いていいかね?」


 ドキリ、と体が震え上がる。


「……必死そうに見えるか?」


「随分と焦っている様に見えるがね」


「そうゆうのは俺の方を見て言うもんじゃねえの?」


 おっさんは目を閉じ、熟考しながら問いかけている。だと言うのに完全に図星。的確に急所を突いてきている。


「まあ、この命も長くないから焦ってるのかもな」


「笑えない冗談だな。老体を前によく言えたものだ」


「本当に笑えないよなぁ。この命もこのままだと残り3日だ」


 自虐ぎみに、天に吐息を漏らすようにこぼす。


「……処刑は免れたのではないのかね?」


「悪いな。別の件の執行が猶予されてる状態なんだよ」


「成る程、罪人だったか。なら処された方が良かったのかね」


「冤罪なんだけどなぁ……」


 竿殺し(ロッドアウター)の件を思い出すと、毎度毎度ため息が出る。


 俺はおっさんにギルドを半壊させた件やら借金の件、そしてそこはかとなく猩々の件についても話した。



───


───


───



「……成る程。5000万の借金を背負ったから3億の猩々の壺を探していると」


「大きくはそんなところかな」


「だが数日探したが手がかりすら見つからず私に協力を求めていると」


「恥ずかしながらな」


 はぁ、とため息をつく。改めて現実が突き付けられた気がする。


「成る程。だが君の提案は承諾しかねるよ」


「えっ!」


「私にメリットが無いのだよ」


「いや、まあ、あれだ。見つかる可能性が上がるだろう?」


「違うのだよ」


 おっさんは俺の言葉を制止する。「話が噛み合ってない」と、会話を修正するように。


「私はもう猩々の壺は探してないのだよ」


「──ッ!」


 衝撃の一言に体が硬直する。


「今は人を探していてね」


「そ、それは壺を持ちさらった──」


「そんな男は探してないのだよ」


「──……。」


 無意識のうちに冷や汗が頬を伝う。片足が震える。目が泳ぐ。


 今の話が本当なら俺は一体……。


 手品を再三閲覧して披露もした。貴重な日数をかけ、王様に因縁を付けられながらも、ようやくここまで来た……と、言うのに……


「な、あ、じゃあおっさんは何を探してんだよ!」


 おっさんが何かを探している事は紛う事なき事実。だからおっさんが嘘をついている可能性もある。


 半ば希望的観測にも近い考えに縋り付く。


「言っただろうペトラよ。私は人を探しているのだと」


「人って……あん、ペトラ? 俺のこと?」


「この状況で君以外の誰がいると言うのだね。もっとも、幽霊が見えるのであれば話は別だが、生憎私はただの奇術師であってね」


「分かってるよ。ただの確認だよ」


 ペトラって外人かよ。まあ、俺も名前は教えてなかったが……しかし、


「誰が崖っぷちだ!」


「この状況で君以外の誰がいると言うのだね。もっとも──」


「リピートやめろ。ドラクエか」


「ペトラ30(サーティー)


「おい、年齢教えてなかった筈だぞ」


 最近の手品は個人情報まで分かるらしい。怖すぎて笑えない。そして三十路は本当に笑えない。


 と、上手い具合に話を逸らされた気がする。やはり猩々の件は嘘なのか?


「ちなみに誰を探してるんだよ?」


「誰と言うわけではないのだがね」


「何だよそれ」


「私も困っているのだよ。全く、変な命令が下されたものだ」


 やれやれ、とため息をつく。


「おっさんってどっかの組織に入ってんの? ほら、今の上の命令とか言ってたけど」


「そんな大したものではないよ。ただほっとけないガキが居てね。それが道を外さない様に見守ってるだけだよ」


「老婆心ってやつか」


「そうかも知れないね」


 ほっとけないガキねぇ……。孫みたいな感じなのかなぁ……。


 …………結婚したい。


 1人でダメージを受けていると、おっさんがゆっくりと言葉を紡ぐ。


「どうやら君や私とは顔立ちが違う、異国の人を探しているらしくてね。どうもこの町周辺に居ると言うことなのだがね」


「なんじゃそりゃ。ヒントは他に無いのかよ」


「その国の名前が“ニホン”と言うらしいのだがね……」


「────は?」


 今、日本って────。


「ちょ、ちょっと待て!」


 なんでここで日本が出てくるんだ……?


 眉間にしわを寄せ目を閉じ、勝手に暴れる思考を抑える。日本って日本?


 何故日本人がここに……いや、何故日本人を知っている……?


「もういいかね?」


「あ、ああ……悪い。続けてくれ」


 聞き間違いなどでは無い。このおっさんは間違いなく日本と言った。そしてそれは俺が思っている日本で間違いないだろう。


 それでも、兎にも角にも情報を集めないと。


「一週間前くらいかな。私が別件でこの町に滞在していた時に特殊な反応があったらしいのだよ」


「特殊な反応?」


「私も分からないのだがね。常人には分からない様な反応があったらしく、捜索の命令が来たわけなのだが……」


「“ニホン”なんて国は聞いた事も無いし、他にヒントも無いからお手上げ……と?」


「その通りだ」


 おっさんは、あからさまに肩を垂らし脱力する。


 まあ当然か。地図にも教科書にも載ってない国の人を探しています、と言われても不可能だ。それが上からの命令なのだからたまったモンじゃない。


 だが──


「ふっ、く、くくく!」


 つい笑みがこぼれてしまう。


「そんなに可笑しいかね?」


「くく、可笑しいのは否定しないが、それじゃないんだよ」


「どうゆうことかね?」


「いや、ね。崖っぷちに立たされると下ばかり見てしまうだろ? だがな、そんな時に前を、上を見るとさ、救済の糸──チャンスって奴が意外にも転がってる物なんだなって思ってな」


 おっさんの日本の話。これは猩々の件を匿うための嘘という訳では無さそうだ。だが猩々の件について全くの無知って訳でも無さそうなのだ。何かを隠してそうな気がする。あくまで勘だが……。


「おっさん、俺と協力しないか?」


「先ほど断った筈だがね」


「日本人を見た事がある──と言ったら?」


「────ッ!」


 おっさんの目が大きく見開く。


 確かに猩々の報酬3億は大きい。したがって情報を人に教えるのはハイリスクだろう。


 おっさんの中で“猩々”と“日本人”の優先順位は分からないが、情報の少なさに日本人捜索が滞っているのもまた事実。


「…………」


 おっさんは黙り込み、考える。


「いいぜ、しっかり考えてくれ。何せ俺の命がかかってるからな」


「……ペトラ、本当に知っているのか?」


「任せておけよ」


 俺はしたり顔で即答する。


 おっさんは悩みあぐねる。そこまで迷うと言うことは命令はかなり重い物なのだろう。


 あと一押しでいける!


「俺は日本という国を知っている」


「────」


 あり得ない、と言いたげな表情をするおっさんは、ぎこちなくこちらを眺める。


 何もおかしくない。俺は生粋の日本人だったのだから。


 だからこの強みを活かすのは当然ですよね。




「おっさん、──協力、しないか?」







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