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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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23 実力主義のリンゴ



「だったらワシが処してやろう。この老害」



 ハグレコフコフ氏の発言で場が凍りつく。


「な、何言ってん──言ってるんですか?」


 聞き間違いかも知れない、俺はそんな淡い期待を抱きながら問いかける。


「この汚らわしいピエロは毎日毎日神聖な魔法でくだらない事をしているのだ。これは冒涜だ。万死に値する!」


「くだらない……だと?」


「ああその通りだ。全く以ってくだらない」


 追い討ちをかける様に従者も加勢する。


「ラヴ=ファントム。貴様のせいで本題が遅れてしまったが、本来我々はそこの老人に魔法を貶める行為をやめさせる為に赴いたのだ」


「魔法を貶める……」


 以前喋る豚が言っていたセリフを思い出す。


 ──無理。無理でした。あんな記憶の中で顔にモザイクがかかる様な奴のセリフなんか覚えてない。


 だが乳酸菌とのやりとりでの事はまばらながらに思い出す。


 魔法は神聖なもの──。


 このハグレコフコフの高価なローブを見る限り、彼もまた魔法使いなのだろう。


 だが──


「くだらない……か」


 妙な、苛立ちが体中を渦巻く。


「貴様の様な奴が魔法を貶めてるのだ。この王がそれを許すとでもお思いか?」


「別に貶めてるとは思ってないのだがね」


「貴様の意思は関係ないのだ。神聖なる魔法をこんな低俗な事に使うな。低俗、低俗!」


 おっさんの言葉に耳を貸さず、罵倒を浴びせるハグレコフコフ。


「お言葉ですがハグレコフコフ様。この老人は魔法を使って無いですよ」


「黙れ民草。魔法を冒涜している事が問題なのだ! 奇術ごときで魔法の猿真似などあってはならんのだ!」


「ごときだと?」


 体の中を渦巻く苛立ちが、



 ──少し外に出た。



「ハグレコフコフ様」


「何だ民草」


 俺は沢山ある真っ金金のリンゴを1つ取り上げ、適当な鋭利な小物で十字の傷をつける。


「例えばこの真っ金金のリンゴ。たった今私が傷をつけた世界に1つだけのリンゴです」


「それがどうしたと言うのだ!」


「ハグレコフコフ様はこのリンゴを魔力無しで消す事が出来ますか?」


 俺の問いかけに、少しだけひるむ王様。


「はっ、ワシは魔法を冒涜するような低俗な事はせん!」


「出来ないんですね? ちなみにそこのおっさんは余裕らしいですよ」


「ふふ、言ってくれるじゃあないかね。まあ容易いがね」


「ぐぐぐ、舐めるなよ貴様! そんな事奇術など使わずとも──ッ!」


 王様は腰から勢いよく杖を取り出し──


「《がれ、ゆがめ、もつれたまえ、むす二点にてん観測かんそくすべしは同質どうしつなり》──ッ!」


 すぐさま詠唱し【テレポーテーション】を発動させる。


「見たか民草! あのリンゴをどこぞの彼方まで消し飛ばしてやったわ」


「流石ハグレコフコフ様。見事な【テレポーテーション】です」

「なんという詠唱スピードでしょう」


 ドヤ顔で威張るハグレコフコフ氏を、2人の従者が祭り上げる。確かに以前『太陽の騎士団』所属していたマホが唱えた時間よりは短かった。


「さすが王様だけはありますね」


「当然だ民草! そこの魔法から逃げて奇術などにすがっている低俗な輩と一緒にするな!」

「そうだ。所詮は奇術師、本物には勝てんよ」

「それが分ったならここから消え失せろ」


 ハグレコフコフ氏に続き、2人の従者も加勢しておっさんをはやし立てる。


 当のおっさんは顔色1つ変えず、只々黙っている。そして何故か俺が怒りに打ち震えている。


「王様の実力は分かりました。あと申し忘れてたのですが、先程消し飛ばしたリンゴ──実は100万トルカするリンゴなのです!」


「「「──なっ⁉︎」」」


 声をあげて驚くハグレコフコフ氏とその従者。


「そうだろ、おっさん?」


 俺はニヤリと口角を吊り上げておっさんの方を向く。


 おっさんは目を見開き、次第にニヤリと嗤いだす。


「そうだな。あのリンゴは100万トルカで仕入れた大事なリンゴだ」


「だ、そうなんですよハグレコフコフ様〜。どうか先程のリンゴをここに持ってきて下さい」


「ば、バカな。そんな事不可能に決まっとるだろ! どこぞの彼方まで消し飛ばしたのだぞ!」


 驚異の100万トルカにハグレコフコフ氏は慌てふためく。


「おや? では100万トルカでも払って貰いましょうかね?」


「き、貴様ァア。まさかハグレコフコフ様に対して詐欺を働くつもりか!」


「詐欺だなんて失礼だな。金色のリンゴなんだ。高価な事くらい予想できただろ、賢い方なら」


 俺は倒置法を使い、遠回しに3人を小馬鹿にする。


「ふざけるな! 処刑にされたいか!」


「構わなくないけど100万トルカは払って貰いますよ?」


「詐欺だ! 横暴だ! 通るかそんなモン!」


「だったら魔法で────そこの輩とは違うと豪語したその実力で、ここに持ってきて下さいな?」


「ぐぅ……」


 王様はおし黙る。


「貴様ァ──」

「再びここに持って来られたなら鑑定すればいい。そうしたら嘘か真か瞭然でしょう。それともあなたが仕える王はそれしきの魔法も出来ないとでも?」


「「ぐっ……」」


 これで従者も捩じ伏せた。


 自分が詐欺まがいな事をしている事は重要ではない。この流れに持って来ることが大事。


 ユスタ曰く、魔法はイメージと決意──。


 この王様は『どこぞの彼方まで消し飛ばした』と言った。そこから召喚するなど不可能だと考えたのだが……


「ぐ、ぐぐぐ……」


 悔しそうに歯ぎしりをするハグレコフコフ氏を見れば案の定不可能そうだ。


 これで詰みだな。さっさと帰ってもらおう。


「では100万トルカでも払ってもら──」

「その必要は無いのだよ」


 意外にも、俺のセリフを遮ったのはおっさんであった。


「……どうゆう事だよ」


 100万トルカを請求すれば遠吠えしながら撤退すると思ったのに、それをおっさんが止めるとはどうゆう事だ?


「なに、私ならそこの王様が消し飛ばしたリンゴを召喚できるからね。──私なら」


「「「「────ッ‼︎‼︎⁉︎」」」」


 これには俺までもが驚愕した。


「な、な……嘘だ! ペテンだ! 出来るわけがない!」


 1番顕著に表に出したのがハグレコフコフ氏。


「そうだ老人! 王様でも出来ない事が出来るか!」


 そして遅れて反論する従者。


「嘘では無いのだがね。なんなら詠唱も無しで召喚してみせようかね?」


「「「──なっ!!!」」」


 自信に溢れたおっさんのセリフに遂には絶句する3人。


 ……成る程なぁ。


 俺は事が穏便に済めばいいと思っていた。しかし、このおっさん。顔には出してないだけで相当頭にきていたようだ。


 ちゃっかり反撃までしている。やはりロクな死に方しないだろうな。


「くくくっ!」


「何がおかしい民草ァア!」


 つい溢れた笑いにハグレコフコフ氏は激昂する。


「いや、王様が出来ないならそこの低俗な輩にして貰おうかと考えてまして……」


「ぐうぅ……騙されるな民草! この老害は嘘をついている! 出来るはずがない! 根っからの詐欺師だ!」


「だったらして貰いましょうかね」


「やめろ!」


「何故?」


「ぐっ……」


 顔を真っ赤に染め上げ、必死に止めるハグレコフコフ氏。


 多分不可能だ、そうは思っていても妙に自信のあるおっさんを見ると確信が持てない。


 自分がけなした相手が、万が一でも自分を超えてみせたらと思うと気が気でならない。


 しかも召喚するだけであらず、自分の得意であった詠唱時間の短さを遥かに凌駕する無詠唱。


 メンツは丸潰れ。従者に顔向けも出来ない。しかもそれが町の王様なのだから──。


「わ、分かった。100万トルカを払おう。無くしてしまったのなら仕方がない」


「別に払う必要は無いのだがね。私が召喚するから」


「貴様は黙ってろ!」


 額に脂汗が吹き溢れ、ムキになって阻止する王様。


「まあまあ、いいじゃないですか王様。彼が召喚してくれるって言ってるんだし!」


「黙れ民草! はぁ、はぁ……」


 呼吸は乱れ、肩で息をする王様。見かねた従者がフォローする。


「ハグレコフコフ様、あの老人は多分嘘を突き通すおつもりです。この展開は奴らの思う壺です」


「……分かっている」


 普通に考えたら不可能。分かっているが決断が出来ない。万が一は起こってはいけないのだ。


「……おい老害」


「何かね王様」


「貴様は魔法を使えるのか?」


「当然。私も魔法使いの端くれ、魔法の1つや2つは容易いとも」


「容易いか。ならワシが飛ばしたリンゴを召喚するのも容易いか?」


「ああ」


「どこに飛ばしたかも定かでは無いんだぞ!」


「──容易いとも」


「ぐうッ!」


 圧倒的な自信にひれ伏す王様。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 呼吸はさらに荒れ、過呼吸気味になる。


「召喚してもいいかね?」


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 王様は喋らない。喋らない。喋れない──


「構わない!」


「なっ!」


 だから代わりに従者が答えたのだ。


「安心してください。あれはブラフです」


「なっ……貴様、勝手に……」


 歪んだ顔が従者を睨みつける。それを諭す様に従者は言葉を紡ぐ。


「ハグレコフコフ様。大魔導士でもその様な芸当は厳しいかと。十中八九ブラフです」


「ハァ、ハァ……本当か」


「間違いないかと」


「ハァ……くはっ、はは、ははハァ! そうか、そうか! そうだな!」


 従者の言葉で覇気を取り戻す。それにしてもあの従者は優秀だな。


「おい老害、召喚できるものなら召喚してみろ! ただし失敗すれば処刑だ!」


「了解したよ」


「ふん、その余裕もこれまでだな。失敗した瞬間をひっ捕らえて豚箱に詰め込んでやる!」


 下品に笑い自信を取り戻した王様。依然強気なおっさん。


 それを固唾を飲んで見守る。



「では、──始めようか」



 そう言っておっさんは哄笑した──。






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