21 リベンジマッチ
「リベンジ、していいか?」
その一言で、全てをシャットアウトするピリついた雰囲気が覆う。
まあ分かる。一昨日の出来事を考えれば当然だろう。だが許して欲しい。だって人1人の命には変えられないだろう?
雰囲気に呑まれぬ為に目は逸らさない。
「…………」
「…………」
お互いポーカーフェイスを貫く。おかしいね、中々折れてくれない。お互い譲れる所ってあると思うんだよね、俺。
「…………」
「…………」
だからと言って俺は譲らない。譲らない。譲れない。死ぬから。うん。明快。
たらり、と頬に一筋の冷や汗が滴る。
「……ふん、いいだろう」
「──ッ!」
タメにためられたセリフに目を見開く。
しゃ、しゃべったぁ……
「お、おおう、助かる……」
思わず驚いてしまったが、ポケットからトランプを取り出し仕切り直す。
「ではリベンジとして、一枚カードを選んでくれよ」
カードをシャッフルして、前回と同じ様に束を裏向きにして差し出す。
「また、失敗するんじゃないかね?」
「安心しなよおっさん。俺、エクスキューズミーで噛んだ事無いから」
「……ほう」
おっさんはニヤリと笑いカードを一枚取る。
これから行うのは前回大失敗した手品だ。だが俺は失敗をしないと断言したのだ。妙に強気な俺におじさんは静かに嗤う。
「くっく、では、前回通りこのカードを束の中に入れようか」
前回通り、という言葉を強調して喋るおっさん。挑発のつもりなのだろう。
「スムーズで助かるよ」
安い挑発はサラリと受け流しカードをシャッフルする。
おっさんは口角を吊り上げ、俺の道化を期待するかのように一挙手一投足を見守る。
そして充分に満遍なくカードを切り、動きを制止させる。
「答え合わせの時間だ」
あくまで強気に、高らかにカードを掲げる。
「くっく……」
「行くぜ!」
おっさんが嗤うと同時、俺はカードを勢いよく射出させ落下させる。
バラバラバラ、と弾ける音と共に真下に散らばっていくカードを見極め──
「せいッ!!!」
力強く手を突っ込む。
パラパラパラ……。
jokerを含む54枚から1枚を引いた53枚が全て地に落ちる。
乱雑に、無秩序に散らばるカード。裏面や絵柄がまばらに重なる光景をおっさんは見つめる。
「……ふん」
どうやらぱっと見では自分が選んだカードは見つからなかったらしい。
「なあおっさんよ。今回は確実に1枚掴んだわけだが……」
俺はゆっくりとおっさんに照準を合わせる。
「答え合わせの前に、おっさんはこれが成功したと思うか?」
「怖気付いたと言うのか?」
「な訳無いだろ。確実に成功してるよ」
「だったらこのやり取りは必要かね?」
「いや、ね。このまま俺が手を開いて、おっさんの選んだカードがありましたって展開だと面白みに欠けるだろ?」
「……なに?」
おっさんの眉が僅かに動く。
「どうよ?」
「…………」
おっさんは人差し指と中指で口元を触れ、少しの間静止する。
「ふっ、くっく……おもしろい。続けたまえ」
「ふはっ、さすがエンターテイナーは話が早くで助かるぜ」
そう、エンターテイナーならば前回と同じではダメ。そんなんでは心は掴めない。まあ、俺はエンターテイナーでは無いが……。
少なからず上を行かなくてはならない。このまま開いただけでは距離はつめれない。前回通りという体たらくはアウト。
今、おっさんともようやく会話が成立した。今がチャンス。未曾有のチャンスなのだ。だから越えなければならない。期待を。
「そうだな。だったらこの握りこぶしの中のカードを瞬間移動させようか」
「なにかな、また異次元に飛ばすのかね」
「ぐっ……」
くっく、と嗤い、揶揄するおっさん。
「二回も同じ手品は見せねぇよ。そうさな」
俺は逆の手を広げておっさんに見せる。
「こっちの手に瞬間移動させてみるとか良いんじゃない?」
「それを奇術で行うと言うのかね?」
「まあ魔法使えねぇしな」
「使えない……?」
「あー何でもない。使わないんだよ。言葉のミス」
俺は失言に慌てて弁明する。ナチュラルに魔法が使えない事を暴露してしまった。
「魔力を感知したら言ってくれればいい。使わずに成功させてみせるから」
「……くっく、いいだろう。見せてみたまえ」
「──上等」
俺は逆手を、内に巻き込むように強く握りしめる。
因みに最初に突っ込んだ手が右の手。ここで言う逆手が左手という事になる。
つまり右手が空で、たった今握りしめた左の拳の中にトランプが入って、尚且つおっさんが選択したカードなら成功となる。
「さてどうしようか? 最早入れ替えて手品が完了した訳だが……どうゆう答え合わせがおっさんの好みかな?」
「なら、最初に右手を広げてみてくれないかね」
「成る程。ジワジワといたぶるタイプか」
「楽しみは最後に残しておく──と言ってくれないかね」
「悪かったよ。じゃあ右手を広げるぞ」
俺は右手を広げた。何かがあれば重力に従い落ちる様に広げた。しかし何も落ちない。
そしておっさんに手のひらが見える様に、ゆっくりと手を旋回させる。
「────」
「おっさんが何を引いたか気になるなぁ」
ニッタリ、とおっさんに向かい笑ってやった。
「その左手を開けば分かるんじゃないのかね」
「それもそうだな」
俺はゆっくりと手のひらをとじたまま表にする。
「では……」
決め台詞が尽きたので、殊更にゆっくりとその手を開帳させる。
「────ッ!」
そのにはグチャグチャに握り潰された絵柄の見えないカードが入っている。
ここまでは認識できていた。あとは絵柄だけだな。
「おっさんが選んだカードは……」
シワシワのカードを確認する。
「スペードの13──で、合ってるか?」
「──……ああ。間違いない」
「いよっしッ!!!」
思わずガッツポーズをする。そして正解の安堵から体が脱力する。
「あー緊張した……。こんなに緊張したのは一年目の年末以来だぞ」
実はこの手品。最初の手品よりも難易度は低い。しかし一昨日の失敗もきいて迫力はある。
だから最初からそのつもりで展開していたのだ。おっさんが話に乗らなかったらまたもや失敗していたのだ。
「はあ、出来て良かったぁ……」
「一日休んだ甲斐があったじゃあないか」
「一日? あー! そういえば昨日はおっさんの手品見に行けなかったなぁ」
もしかして……
「もしかして待ってた?」
「断じて無い」
「あっそ」
ボケるも無くマジ真顔。これはツンデレの類ではなさそうだ。あっそ……。
「まあ汚名が返上出来て良かった」
「それは構わないのだが、結局何しに来た? いつもいつも、私の道化に足を運ぶのは君くらいだが」
「道化? というか何をしてるはこっちのセリフ。おかしいだろ毎日毎日。そもそもこの真っ金金のリンゴは何に使うんだよ!」
俺はおっさんが纏めた荷物から真っ金金のリンゴを乱雑に取り上げる。
「それは100万トルカのリンゴだ」
「危なっ!」
衝撃の事実に手がすっぽ抜ける。
「マジ?」
「ウソ」
「ウソかいッ!」
俺はリンゴを地面に叩きつけた。
「因みにあと34個あるんだが」
「全部潰してりんごジュースでも作ってやろうか!」
どっさりと机に置かれた大量のリンゴ。一体何十個あんだよ。……34個か。バカかよ。
「なあおっさんよぉ。話を戻す……というかこれからが本題なんだがよ」
目に入るリンゴは無視してシリアス顔に戻る。
「おっさんって猩──」
『今日も居るなぁ……汚らしいピエロが』
「誰だ?」
この喧騒から外れた場所で、誰かが話しかけて来たのだ。
俺は声が聞こえた背後を振り向く。
ブクブクと太った肉付きに、ぱっと見て分かるほど高価なローブを羽織った中年。何だろう、典型的な貴族のイメージをそのまま引っ張ってきた様な身なりと容姿をしている。
そしてその後ろに従者的な人が2人、合計で3人が……。
えっ……。
「……誰?」
マジで……




