5 俺だけの特権
前回のあらすじ
血まみれの馬が強い
オッス、オラ朝山! 訳あって魔法使いだ!
そんな俺の前世の──いや、死んでないから前世じゃないのか……。人間の時の頃の紹介をしていくぜ。
まず分かって欲しいのは、俺はニートでも引きこもりでも無かったと言う事。これは一番最初から言いたかった。どうせニートだろと思った奴……顔貸しな!
異世界に飛ばされるのは、ニートだけでは無いのだ。俺は引きこもりニートなのに、何故か木刀を毎日振ってた人種では無いのだ。
小学校の時は空手をしてたし、中学ではプロレスにハマり、高校では野球もしてた。だから人並み以上には動けるつもりだ。友達が少なく彼女が居なかっただけで、俺は基本ハイスペックなのだ。
そんな俺でも、異世界のモンスターには手を折る。物理的にも折れちゃったんだけどね。
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「ハァハァ……最初の激突は、このための布石だったのか……ハァ……食えない野郎だ……」
急に戦闘スタイルを変えたミノタウルスは、シャドーボクシングをしながら俺に近づいてくる。
「シッ、シュシュッ、シュッ! 」
俺の目の前まで来て、ゆっくり腕を振り上げ──
「ヴォォォオオオモモモモモモモモモモモモ──ッ‼︎‼︎ 」
「ナメるなァアアアアアアアア──ッ! 」
俺は突き刺さっていた杖を取り、振り下ろされるミノタウルスの拳にブッ刺す。
「グギャァアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオ──ッ! 」
ミノタウルスは堪らず叫ぶ。
「その汚ぇ顔面がガラ空きなんだよぉゴラァアアアアアアアア──ッ‼︎ 」
俺は追い討ちをかける様に踏み出し、残った左腕でミノタウルスの顔面をぶち殴る。
「うおぉラァアアアアアアアア──ッ! 」
拳を振り抜き、ミノタウルスを吹っ飛ば────ないッ!
ミノタウルスは左足で踏ん張り、右足で俺の顔面を蹴りにかかる。
「ヤバッ── 」
頬スレスレで体を翻し躱す。そのままバク転をして受け身を取る。
「ハァ……ハァハァ、死ぬ所だった……あれ、体力エグいから死なないのか」
頬には切り傷が出来ている。まともにくらったら顔が消えてしまう。
というかバク転、この歳でも出来たのか……。中学校の頃、カッコいいからとかで数少ない友達と練習したんだっけ。成功した次の日からあだ名が『アクロ=バティ男』になったんだったっけな。
懐かしいな。足が速いだけでモテるあの頃に戻りたい。
そんな事より──
「グギャオオオオオオオオオ──ッ! 」
ミノタウルスは半分以上刺さった杖を引き抜く。拳からは血がドクドクと垂れている。
ああ、杖よ。こんな使い方ですまない……
本来杖を武器として使う魔法使いなど居ない。杖はあくまで触媒でしかない。
俺には必要ないんだがな……あんなに大事そうに家に飾ってあったら持って行くしか無いよなぁ。
「さて、どうしようかな…… 」
どうやって倒す……あのバケモノを──
「キョータローッ! 」
頭上から声が聞こえた。
「わ、私も戦える! 」
ガーネットが震えそうな声で、精一杯答える。
「……まったくよ、声が震えてるぞ! 大丈夫か? 」
俺は冗談っぽくガーネットに言う。
「だ、大丈夫だもん! 震えてない」
「そうか、それと地面を柔らかくじゃなくて、硬くも出来るのか? 」
「出来るよ! 」
「分かった。ガーネットは俺の合図でその魔法を頼む! 」
「京太郎、私は? 」
「今日の晩飯は馬刺しだからな、薬味を買ってきてくれ! 」
「任せて! 」
──さて、もう逃げられないな。
「来いよくそジジイ! 馬刺し100人前にしてやるよ」
「ヴォォォオオオオオオオオオオオオモモモモモモモモモモモ────ッ‼︎‼︎‼︎ 」
ミノタウルスは猛スピードで突進してくる。
俺は地面に落ちていた手頃な石を拾い、両手を上げ、右足を一歩下げる。
「歯ァ食いしばっとけよ、元高校球児の球は速えぞ」
下げた右足を胸まで持っていき、一本足で直立する。
ゆっくり──殊更にゆっくりと足を下げ左足にタメを作る。
「ヴァォオオオオモモモモモモモモモモモモモ──ッ‼︎‼︎‼︎ 」
迫る、迫る、迫る。
ハイスピードで狂気が迫ってくる。
「この距離なら絶対ハズさねぇ……」
身体を捻り、タメられたエネルギーを全て解き放つ様に──
「うぉおおおおおッ! 相対速度200km/h越え爆裂ストレェーートぉおおおおおッ‼︎‼︎ 」
しなる様なフォームで放たれた200km/h越えの(多分)石がミノタウルスの顔面で血しぶきと共に砕け散る。
「ギャァアオアアアアアアアア──ッ‼︎‼︎ 」
猛進の勢いそのまま数メートルほど転げ回る。
「そんな勢いで突っ走って来るからだバカ者が」
しかしミノタウルスの方も、派手な損傷とは裏腹にすぐさま体勢を立て直す。
「ふん、これで勝ったとはハナから思ってねぇよ! 」
プラプラと手を振り、数回ジャンプする。
「今度はこっちの番だこの野郎」
着地と共に、減り込むほど地を蹴り──
俺は猛ダッシュで突っ込んでいき、損傷した顔面目掛けて跳躍する。
「喰らえやァアアアアッ! 」
豪華豪快な飛び蹴りがミノタウルスの顔面を捉える。
「グゴゴオオオオォォォォ── 」
クソがァ、クソ硬ェ……
「──ォォォオオオオオオオオオオッ! 」
ミノタウルスは完全に衝撃を受け止め、俺の両足を腕に挟み、振り回す
「させるかァアアアア──ッ! 」
負けじとミノタウルスの首に両足ロックさせる。
「ヴォォオオオオオモモモモモモモッ! 」
「暴れんじゃねぇクソがァアアアアッ! 」
暴れるミノタウルスの顔面を徹底的に殴る。ミノタウルスも引き剥がそうとするが、離さない。絶対に離してやらねぇよ!
「くたばれこのくそ野郎がぁッ! 」
「ヴオォオオオオオオオオオモモモモモモモモモモモ──ッ! 」
殴る、殴る、ぶち殴る──
「ヴオォオオモモモモモオオオオオオオモモモモモモ──ッ‼︎‼︎‼︎‼︎ 」
ミノタウルスは堪らず俺を持ち上げ、地面に叩きつけに掛かる。
「待ってたぜ、それを──パワーボムをなァ」
体を翻し、股の間に入り込み、
「ぶっ壊れろやァアアアアアアア──ッ! 」
油断したミノタウルスにフランケンシュタイナーが炸裂する。
「グギャァアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオ──ッ‼︎‼︎‼︎‼︎ 」
ミノタウルスは首を押さえ絶叫する。
「ハァハァ……首を盛大にへし折ってやったんだ、さすがにもう戦えないだろ……」
俺は杖を取り、土を払いながらガーネットの方を向く。
「ガーネット、終わ──」
「キョータロー後ろッ! 」
「ヴオォオオモモモモモッ! 」
──なっ⁉︎
不意を突かれ、ミノタウルスの蹴りが腹にめり込む。
「ぐほぉおアア──ッ! 」
俺の体は、くの字に折れ曲がり吹っ飛ぶ。そしてミノタウルスはフラフラしながら近づいてくる。
「ぐほぉァ……くそが、治癒するとはいえメチャクチャ痛えぇ」
俺も立ち上がり、フラフラとミノタウルスに近づいていく。
「ハァハァ……」
もう少しだ、あともう少しで倒せる──
だが、あと一手、あと一手が遠い。
考えろ、俺にできる事はなんだ、俺の強みはなんだ? 考えろ、考えろ、考えろ──
「ヴオォオオオオオオオオオモモモモモモモモモモモモ──ッ‼︎‼︎‼︎‼︎ 」
ふぅぅ
一つ、目を閉じ呼吸をする。
「──はしゃぐなよ。もうすぐ楽にしてやる」
考え、導き出される答えは一つしかない。このエグいほどの体力と治癒力のみ。
「ガーネット、魔法の準備を! 」
「あ……わ、分かった! 」
準備は整った。
「こいや、くそジジイィイイイイイイッ! 」
「ヴォォォオオオオオオオオモモモモモモモモモモモモモ──ッ‼︎‼︎ 」
ミノタウルスは渾身のパンチを──
「《地の精よ──……」
俺はそのパンチを砕けた右腕で受け止める。
「ぐあぁぁあああぅッ! 」
骨を砕いてスキを作る──俺にはそれしかできない。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……
しかし、
それでも──
「捕まえたぞォゴラァアアア…… 」
俺はそのままミノタウルスの背後に回り込み──
「《その力を以て──……」
「安心しなァ……」
俺はミノタウルスの耳元で穏やかに囁く。
「──受け身なんてさせてやんねぇから」
「グォオアッ‼︎⁉︎ 」
ミノタウルスは背筋が反る程に震え、暴れ出す。
「逃すわけ無ぇだろうが! 」
暴れる体を両腕でロックする。砕けた右腕の骨がぐちゃぐちゃに潰れるほど頑丈に。
「……地獄へ落ちろ」
ミノタウルスの両腕諸共ガッチリ掴み──
「──硬化せよ》──ッ!!!」
「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお──ッ! 」
「ヴォォォオオオオオオオオモモモモモモモモモモモモモモ──ッ⁉︎」
弧を描く軌跡が──ガーネットの魔法によって固められた地面に交差する。
「グギャァアアア──ッ! 」
ミノタウルスに、受け身無しのジャーマンスープレックスが脳天から突き刺さる。
「ガッ……ガハッ! 」
硬化された地面に反転して突き刺さったミノタウルスは、口から血を吐き、崩れる様に地に倒れ伏す。
「ハァハァ……ハァー、ハァ…………今度こそやったか……? 」
手応えは完璧だ。
「キョーータローーッ! 」
ガーネットが勢いよく飛びついてくる。
「やったよ! 私、頑張ったよ! 」
「ああ、お手柄だよ」
本当によくやっ……たよ……
俺は安堵からか、意識が朦朧とする。
「キョータロー? 」
「ああ、すまんガーネット……ちょっと寝る」
ふらふらと──
よろめいた俺の意識がついに途絶える。
最後まで読んで頂きありがとうございます!