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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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15 ハートの女王様


 ──自宅



「ただいま〜」


「あら、おかえり」


 玄関を開け、フラフラとリビングに向かうと煎餅を頬張りながらテレビを見るロエが居た。


「あれ? ガーネットは居ないのか?」


「ガーネットちゃんならスカーレットちゃんの家に泊まるって言ってたわよ」


「お泊まり、か……」


 お泊まり会……俺とは全く縁遠い単語だな。と言うのも誰かの家に泊まった事など一度も無い。


 大学の研究室でなら泊まった事はあるが、寝心地は最悪だったな。起きたら課題が山積みだったし……。


 そんな訳でお泊まりという言葉に良い記憶は無い。


「まあいいか……」


 俺はキッチンからコップを取り水を入れ、椅子に腰を掛ける。


「ねえ京太郎。私すごく暇なんだけど」


「テレビ何もやってないのか?」


「そうじゃなくて!」


 ロエは頬を膨らませ床をパンパンと叩く。


「ガーネットちゃんはお泊まりだし、帰ったら京太郎も居ないし……」


 むぅ、と睨むロエの視線がズキズキ刺さる。確かにこの娘、友達居ないもんなぁ。


「分かったよ。こっちに来な」


 ちょいちょい、とロエを向かいの椅子まで手招きする。そしてポケットから帰りに買った新品とトランプを出す。


 おっさんに対抗するために買って来たが、久し振りだからロエには実験台になって貰おう。


「なになに! 何かあるの?」


 手招きされたロエは、先ほどとは打って変わって満面の笑みになる。


「まあ見てな。魔法使いである朝山さんがアメージングな魔法を披露してやるよ」


「えっ⁉︎ 京太郎って魔法使えるの⁉︎⁉︎」


「ちょっとちょっと、真顔でそんな事言わないでくれる? 俺を誰だと思ってんの?」


「魔法が使えない魔法使──」

「よし、張り切って行こうか!」


 俺は袋に入ったトランプを盛大に開封し、シャッフルする。そして1番上のカードを取る。


「いいかロエ。ここに一枚のカードがあるだろ?」


「あるわね。スペードのエースね」


「そうだ。このスペードエースを……」


 片手で持ち、ユラユラと揺らし──


「はっ!」


「えっ⁉︎」


「あっと言う間に消しました!」


「えっ⁉︎ 何で何で⁉︎」


 突然の出来事に縋り付く様に食いつく。


「そして、こう!」


 さらに俺は消した(、、、)筈のカードを出現させる。


「えっ! どうして⁉︎ もう一回して!」


「はい!」


「消えた⁉︎」


「さらに、はい! はい! はい!」


 ロエの反応が面白く、やってる側からして気持ちいい程驚くので調子に乗って消したり出したりする。


 そんなに難しい芸ではないが、掴みとしてはバッチリだろう。


「凄い! 京太郎って本当に魔法使いだったのね!」


「え、お……おう」


 目をキラキラさせ、尊敬の眼差し向けて言われると罪悪感が生まれてしまう。まあ魔法使いなのは間違いないから続けよう。続行だ。


「次は、ロエが選んだカードを魔法で1番上に持って来てやろう」


「どうゆうこと?」


「まあまあ、とりあえず一枚カードを引いてみな」


「うん」


 ロエは裏返しにしたカードの束の中から、慎重に一枚引く。


「ハートの12(クィーン)だったわ」


「ばっか、そうゆうのは言うんじゃないよ」


 これだから天然は……。


「まあいいや。そのカード、裏返しのまま貸してみな」


「はい」


「じゃあこのカードを適当な場所に入れます」


 すっ、とカードを束の中に入れる。


「もちろん1番上にハートの12(クィーン)は無い。ましてや1番下にもありません」


 俺は1番上をめくってカードを見せる。数字はハートの9、1番下はスペードの5。


「まあ当然ね」


「ここから俺が魔法を掛けて……──」



 パチン!



 と、格好良く指を鳴らし1番上のカードを開く。


「ハートの12を持ってくるぅ!」


 現れるはユダヤのヒロイン・ユディト様。それは間違いなくロエが引いたハートの12である。


「えっ⁉︎ 何でよ⁉︎」


「さらに……」


 俺はハート12をもう一度裏返す。そして1番上のカードを取り、適当な場所に入れる。


「摩訶不思議は追従する」



 パチン!



 決め台詞を吐き、もう1つ指を鳴らす。


「めくってみな?」


 ロエはゴクリと息を飲みながら、ゆっくりとカードの束に指を近づける。


「12な筈がないわ。きっと違う……」


 言葉の意志とは裏腹に、震えた指の感触がカード越しに伝わってくる。


「めくるわよ」


「おうよ」


 ロエは意を決してカードをめくる。


「何で12なのよっ⁉︎」


 クィーンは2度指す。そして再度合間見えるユディトの絵柄。ハートのクィーン。


「はっはっはァ! どうだロエ! これが社会人8年目の実力だ!」


 入社一年目でムチャぶりをされ、それがうけたら毎年披露しなければならない地獄ループ。8年目は伊達ではないのだ。


「……見直したわ京太郎。ちょっとやり方を教えてよ!」


「仕方ないな。実は簡単で、最初ロエから貰ったハートの12を上から2番目に入れただけなんだよ」


「えっ、あれそんなに上に入れてたの?」


「正面からだと見え辛いんだよ。まあ見せ方の問題だな」


 子供の様に食いつくロエに優越感を感じてしまう。思ったより腕は落ちてないのかもしれない。


「それで指を鳴らして上から2枚を同時にめくるんだよ」


「気付かなかった……」


「さらに裏返して1番上を今度は本当に適当な場所に入れて指を鳴らす。これで2回上に持ってきたことになる」


 ネタをバラしてトランプを渡す。ロエはうーむ、と首を傾げながらカードを覗いている。単純な手順なだけに、どうにも腑に落ちないようだ。


「うーん。こんな簡単なのに気付かなかったなんて……京太郎、もう一回やって!」


「悪いな。ネタバラシしたマジックは披露しない主義なんだよ」


「なら血を吸ってもいい?」

「いいわきゃねぇだろ!」


 ……ビックリしたァ!


 唐突すぎて驚いてしまった。話の流れもクソもないな。この天然は何故いつも会話の終点が吸血なんだよ。


 因果関係は大切にした方がいいと思います!


「まああれだ。今日は少し早いが寝ようぜ」


「京太郎の血を吸ったら寝るわ」


「吸わせないよ?」


 何で吸わせる前提で話が進んでんだよ。


「だって今日は暇だったんだもん! だから血の1リットルや2リットルくらい良いでしょ!」


「リットル単位で血を持って行こうとすんな」


 ポコポコと俺を叩いてくるロエの暴論を看過する事は出来ない。流石に無理。


「嫌に決まってんだろ」


「いいじゃないのよ、3リットルくらい!」


「増やすな。交渉下手か!」


「じゃあ2リットルで!」


「わーすごい! 1リットルも減った……ってバカか! 2リットルでも多いわ! アクエリアスか!」


 2リットルも吸われたら死んでしまうわ。


「大丈夫! 死んだらしないから〜」


 ハートの瞳のロエが八重歯をちらつかせながら近づいてくる。まさしくハートの女王様(クィーン)が顕現した瞬間である。


「分かってんのか⁉︎ 2リットルって献血5周分だぞ! 間違いなく逝くぞ!」


「大丈夫だってば〜。京太郎の血は美味しいから!」


「さっきから理由がメチャクチャ過ぎんだよ! 順接的に話──ッハ⁉︎」


 ユラユラと伸びるロエの手が俺の肩を捕まえる。そして妖艶な顔を首筋まで近づける。


 荒々しく溢れる吐息、滑らかな曲線を描く肢体、サラリと垂れる髪を掻き分けて現れる火照った素顔。


 甘く、鼻孔をくすぐる香りが俺の思考を崩壊させる。


「……俺の血の感想をA4用紙一枚にまとめてこい」


「フフッ、そんな事しなくても直接聞かせてあげる」


 柔らかな唇の感触が首筋に伝う。生暖かい湿り気に思わず鳥肌が立つ。


「…………。


 ごめん、やっぱ無し。側から見たら可笑しな光景だぞ! 考え直せ!」


「もう……止められないわ!」


「ちょ──ちょちょちょ!」



 ガブっ!



「いやァあああああああああああああああああああああああああああああ──っ!!!」




 僕の血は常人より少し粘っこくて癖になるそうです……。




 ンな情報いらねぇ…………。





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