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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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14 シリアルキラー



「…………ユスタ?」


「やあ、久しぶりだね」


 高貴な雰囲気を漂わせながら、俺に片手を振るユスタ。


「カウンター席、いっぱい空いてるぜ?」


「ああ、知っているよ」


「……ですよね」


 咄嗟とっさの出来事で思わずからかってしまったが、余裕の笑みで切り返された。


「ちょうど君を見つけたからね」


「あっそう。それよか今日は1人なんだな」


 何だっけ、あの喋るブタ。乳酸菌みたいな、ハンバーガーの中のキュウリみたいな名前だった気がするんだが……。


「ピクルスなら居ないよ」


「それは残念。ついに逝ってしまったか。まあ奴も冒険者だしな。ついでに沢山怨み買ってそうだし仕方ない……か」


「別に死んでないから」


 苦笑いしながら答えるユスタ。怨みの事は否定しないんだな。


「そっか、まだ生きてんのか」


「悪意のある言い方だね」


「まあピルクルとは色々あったしな」


「ピクルスね」


「ああ済まない。ピルクルだったか」


「……君のそれはワザとなのか?」


「悪いな。こう見えて結構根に持つタイプなんだよ」


 呵々(かか)、と冗談交じりにお通しをつまむ。


「はい! 生とフライドポテトだよ」


 そして俺とユスタの間に皿が置かれる。


「ユスタも食べるか?」


「そうだね。いただこうか! 僕も生1つ」


「はいよ!」


 おばちゃんは早急に生1つ持って来てくれた。


「それじゃあ京太郎」


 そう言ってユスタは微笑みながらジョッキを近付ける。


「ユスタって本当そうゆうの好きな」


「そうだね、嫌いじゃないかな」


「奇遇だな。俺も嫌いじゃないんだよ」


 カン、とジョッキを合わせ乾杯する。


 俺は本日2杯目の生を半分以上飲み干す。


「ああ美味い!」


「君はお酒が好きなんだね」


「まあ嫌いでは無いよな」


 そんな他愛のない会話をポテトをつまみながらする。


「さっきの受付嬢との話を聞いてね」


「──ッ⁉︎」


「本当にお酒が好きなんだね(、、、、、、、、、)


 こいつ……。


「まあな。酒に溺れて死にたいくらい好きだね。なんなら物理的にでも(、、、、、、)構わないんだぜ?」


 お互いが探るかの様に遠回しに話し出す。


「まあ京太郎の余命も残り6日だから無茶するのは分かるが……」


「昨日居たのかよ!」


「はは、なにぶん僕のところにも釣り竿を背負ったおじさんが来てね」


 ユスタは俺の反応を見て楽しんでいる。


「……っち」


 あのじーさん……余計な奴まで呼びやがって。


「久しぶりにドルシャブランを飲んだよ」


「……そりゃどーも」


「あと昨日あんなに強気だったのは猩々の件(、、、、)があったからかい?」


「いんや。その件を知ったのは今日の朝だ。元々のプランは別にあったんだよ……まあ全部オジャンになったがな」


「へえ。詳しく聞いてもいいかな。」


 ユスタはビールを飲み、微笑みながら問いかける。酒の肴にするつもりなのだろう。


「別に、大した話しじゃないけどな……」


 俺もビールを飲み、ベラベラと喋ってしまう。竿殺し(ロッドアウター)の事や、国からの役人の事、そしてパーフェクトプランナーである朝山さんによるプラン──略してPPAPについても話した。


 日本酒まで行ったら『アイはヴぁッ!』と言っちゃうんだろうな。残念ながら日本酒など、この世界には存在しないのだ。だから言わない。


「なるほど。錬金術師……か」


「まあ今となっては錬金術師なんかより壺の方が欲しいんだけどなぁ」


「ははは! でも仮に壺を見つけて3億トルカを貰ったとしても、元より凄いギルドにしないといけないんだろ?」


「あっ……」


 ニヤニヤと、からかうようにユスタは問う。


 なんかそんな余計な事も言ったような気がする。ならばどの道錬金術師が必要なのか……。


 確かに猩々の件自体はギルドを直す直接の解決策では無いのだ。その後の事は全く考えてなかった。

 

「…………」


 悩みが募り、少し間が空いてしまう。


「……そこでなんだ京太郎」


 ユスタは真顔になり俺の瞳を捉え──



「──僕がギルドを直してあげようか?」



「……は?」


 心臓がドクンと跳ね上がる。ユスタのせぬセリフに思わず硬直する。


「これで全て解決すると思わないかい?」


「は?」


「だってそうだろう。僕が直せば京太郎は自害する事もなくクエストも受けなくてもよくなるじゃないか」


「はっ? え、ちょっと待て」


「全てが解決する。丸く収まる。これではダメなのかい?」


 間髪入れず発せられるユスタの怒涛の正論に、まともな回答が返せない。


「どうだろう。僕としては人が死ぬのも、町の象徴であるギルドがいつまでも惨めな姿でいるのを見過ごせないんだ」


「…………」


 人が死ぬと言うのは6日後の俺の事だろうな。確かにそんな悲惨な光景を世に見せるのはお粗末だな。


「はは……確かにそうだな」


 乾いた笑いがため息と共に溢れる。それは己の敗北を認めたかのような笑い。


「確かにそれで万事解決だな……」


「それじゃあ!」


「ああ──」


 今度は俺がユスタの瞳を捉え──



「だが断る」



「……え?」


 形成を変える会心の一撃がユスタに直撃する。


「ユスタ。──2つ、物申すぞ」


 虚を突かれたユスタは反応が遅れている。


「昨日のドルシャブランは美味しかっただろう?」


「ああ、美味しかっ……たが?」


「そうだろう。だから見過ごせないじゃない。見過ごしてもらう!」


「なっ……」


「元々そうゆう為のモンだった訳だしな。じゃないと200万も出した意味がない」


「にひゃ……」


「そして6日後に人は死なない。誰1人とだ」


 面食らっているユスタに、更に追い討ちをかける。


「魔法使いである俺が1つ未来を予知してやろう」


 チチンプイプイ、と人差し指を虚空で円を描き魔法を唱える(、、、、、、)



「6日後、ギルドは元よりも凄くなっている! そしてユスタ。この功績にお前の介入は無い!」



「……大きくでたね。それは絵空事かい?」


「違うな。ただの確定事項だよ」


「手立てはあるのか?」


「さあな。俺が予知したのは未来の結末だけだ。過程までは知らねーよ」


 お互いがひと時たりとも目を背けず睨み合う。言い切った以上、俺も引けない。


「…………そっか」


 途端ユスタの顔が明るくなる。それは望んだ回答が返ってきて安堵した様な笑顔。


「……なんで思いっきり断られて喜んでんだよ」


「さあね」


「ユスタってドMなん?」


「ははは!」


 ユスタは笑いながらビールを仰ぐ。それに釣られ俺もビールを仰ぐ。


「だが京太郎。どちらかと言うとドMは君の方じゃないかい?」


「ブフォ」


 思わずむせてしまい、口元が泡だらけになってしまった。


「自ら茨の道を進むなんて、よっぽどのドMか英雄の2択だよ」


「……英雄って選択肢はなかったのかよ」


 俺は口元を拭き、ジト目で睨む。


「靴を脱ぎ捨てて茨の道を進むだけでは英雄にはならないからね」


「だろうな。……って何の話だよ!」


 困ってる者に靴を渡さず捨てる奴なんて、ただの愚者でしかない。己を削って人を助けるのが英雄の本懐……って何の話だよ!


「……何の話だよ」


「京太郎がドMって話だよ」


「違うから」


 だがドMか英雄の2択ならドMなんだよな。強いて言えばだからな! 勘違いするなよ! 俺は縄を持参して無いし、鞭も持ってないからな!


「それでユスタは何がしたかったの? 単に俺を試したかっただけか?」


「別にそんなつもりは無いよ。ただ単に京太郎を見つけたから一緒に飲もうと思っただけだよ。……受付嬢との会話を聞くまでは」


「後味の残る言い方だな」


 受付嬢との会話って言うと……


「猩々の件で何かあるのか?」


「ああ。猩々の噂が思ったよりも広まっていてね」


 それは多分どこぞのお喋りな騎士様が原因だろう。


「そんな噂に乗じて1つ、悪い噂を聞いてね」


「悪い噂?」


「そう。あの『殺し屋』もこの一件に関与しているらしいんだ」


「あーもう名前からして嫌な臭いがプンプンしてんな」


 そして嫌な予感しかしない。なんか不意にフラグを立てられた気がするんだけど……。


「ユスタさ、あんまりポンポンとフラグを立ててくれるなよ」


「フラグ?」


 当の本人がこれときたモンだからやってられない。ただでさえ毎日忙し続きで日常がブラック企業化しているというのに……。次から次へと忙しくさせやがって。


 何なの? ユスタはブラック企業の上司なの?



「ごほん。とりあえずだ京太郎。首の後ろに逆さ蛇──それを見たら真っ先に避難してくれ」



「ちょっと待て、何なんだよそいつ等は!」


「凶悪な魔導士殺し集団の総称──と言ってもギルドが仮に付けた名前だけどね」


 穏やかな口調とは裏腹に次第にユスタの顔が険しくなっていく。


「数え切れないほどの魔導士の殺害しておいて、そのほとんどが完全犯罪……まあ、遺体のその美しすぎる斬り口から『殺し屋』の犯行と分かるんだけどね」


「何だその化け物集団は」


「そしてその集団は何故か対象が魔導士や大魔導士ばかりなんだ。だから京太郎も気を付けてくれ」


「いやいや、俺はただの魔法使いなだけだから! それより自分の心配しろよ大魔導士様」


「ははっ、心配ありがとう」


 相変わらず謙虚な男だな。自分が大魔導士という自覚はないのだろうか?


「忠告しておくよ」


「まあ俺は別に魔導士でも何でも無いし」


「それなんだが、多分ローブを目印にしてる節があるんだ」




「……明日から絶対着ないわ」




 ローブは当分押入れに入れておこうと思いました。




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