13 隣いいですか?
「おーい!」
ロイの【ベルセルク】を見た一件から程よくしてヒラとマホと、えーと、シールとシエンが遠くから現れてきた。
「さっきの爆発は何だった──って地獄絵図⁉︎」
森の一端が完全に焼失した現場に驚愕するマホ。何ならシールやシエンも一緒にポカンと口を開けている。
ただ1人、ヒラだけが深刻な顔をしてランスに近づいて行く。
「まさか……【ベルセルク】を使ったのか?」
「ああ、あそこの魔法使いに実力を見せるって嬉々としていた」
「何で止めなかったッ!」
ヒラは激昂しながらランスの胸ぐらを掴む。
「お前なら分かるだろ。するって言ったロイに何を言ってもダメな事は」
「……っち!」
歯噛みしながら手を離す。
「あれもこれもあの魔法使いのせいか?」
「間違いないな」
「待てこらランス!」
全ての責任を俺に転嫁されたんですけど大丈夫ですかね?
「ヒラー、なんか顔が険しいけど大丈夫?」
シエンが覗き込むようにヒラを見る。
「全部あのクソ魔法使いのせいだよ」
「……っち!」
なんか物凄い顔でガン飛ばされてる……そう言えばシエンは断トツで俺の事嫌いなんだったな。
「マホ、全員揃ったし用も済んだし帰ろ〜ぜ」
「そんな……二人だけの家に帰ろうだなんて」
相変わらず幸せな耳をしているマホにヒラはため息をこぼす。
「そうだな帰るか」
「分かったわ。皆んな近くに来て!」
マホは【テレポーテーション】の準備をする。
「あっ、あんたは10メートル離れて!」
「ですよね……」
俺は大股10歩、太陽の騎士団から離れる。
「《曲がれ、歪め、もつれ給え、結ぶ二点で観測すべしは同質なり》──ッ!」
包まれる光に思わず目を閉じる。
行きの時もそうだが、何も感じない。ワープしている感覚がまるで無い。
「着いたか……?」
俺はゆっくり目を開ける。
そこには森の一端が焼失し炭と化した悲惨な光景が──
「アレ? ……ワープしてナクネ?」
俺は更に周りを見渡す。そこにはロイの姿は無い。勿論ランスもシールもヒラもシエンもマホも……
「えっ……?
…………。
………………。
あんのクソアマがァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア──ッッ!!!」
そんな怒声が誰も居ない広々とした山奥で木霊するのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
──17時
「ハァハァ……し、死ぬ……」
ギルドの外の時計は5時を指していた。ヒュドラと戦ったのが大体お昼前だから5時間以上遭難した事になる。
下山途中に道に迷うわ、変なドラゴンに遭遇して思わず石投げて襲われるわ、変な怪鳥に追いかけられるわで体はボロボロ。すねより下は泥だらけ、途中で見つけた木の棒に縋りようやく町についたのだ。
「あのアマ絶対に許さねぇ……今度あったらドラゴンスクリューで足バッキバキにさせてやる」
今の俺はマホに対する憎悪がハンパない。だって5時間以上の遭難はさすがの朝山さんでもプッツンするぞ。
「……疲れた。飲んで帰ろ……」
俺は半壊したギルドの入り口を開ける。
カランカラン!
素っ頓狂な音色が俺を出迎え、
「いらっしゃいませ!」
美しい声色のレイネスさんが歓迎してくれる。ギルドに帰ったのだと実感する。思わず「ただいま!」とか言っちゃいそうだ。
「朝山さんお疲れ様です! どうでした? 何か成果はありましたか?」
「それが全く無くて……」
それを聞いたレイネスさんは途端にシュンとなる。
「大丈夫ですか? あと5日ですよ?」
「人の余命をカウントダウンするのやめてもらえます?」
とは言え、今日何の成果もなかったので実質5日なのは間違いないんだよな……
せめてヒントみたいなのがあれば……
「レイネスさん、壺を持ち去った男ってどこら辺で見かけたんですか?」
「そうですね。教えても良いんですが、猩々の殺害現場と壺の目撃場所は既に色んなパーティーが捜索しておりまして、今行っても大した成果はあげられないかと……」
「成る程……それもそうか」
確かに3億円だもんな。皆んな血なまこになって探すわな。特に目撃現場なんか一番最初に。とすると、どこを探せば良いのやら……あー分からん! とりあえず疲れた! 酒が飲みたい!
「今って酒場の席空いてます?」
「そうですね、今の時間から混みだすのでまだ大丈夫です」
「ありがとうございます。あとはゆっくり飲みながら考えます」
「はい。頑張ってくださいね!」
丁寧に手を合わせ、可憐な笑顔で頭を下げるレイネスさん……結婚したい。
まあそんな冗談は置いといて、俺は隣の酒場に向かって行く。
──酒場
レイネスさんが言った通り、丁度客が入り組み団体席は埋まっている。俺は一人なのでカウンター席で問題ない。
「いらっしゃいませ!」
「どうも」
俺はゆっくりカウンターの端の席へ行く。カウンター席は結構空いているな。
そしてぱらっとメニューを覗く。
「どうだい、ギルドは直せそうかい?」
カウンターからニタニタしながら話しかけてきたのは調理のおばちゃん。昨日の解体ショーの手伝いをしてもらったので覚えている。
「……順調かな。もう少し時間は掛かるけどね」
「そうかいそうかい! 早く直しとくれよ。使いづらくてしょうがないからね!」
「うぐぅ……任せといてよ。前のギルドより凄くしてみせるから!」
「あっははは! なら今日はサービスするよ」
「本当! とりあえず生1つで!」
「はいよ」
おばちゃんは笑いながら厨房へ帰っていった。
…………やっちまった。
何が順調? 凄いギルド?
「はあぁ…………」
盛大にため息をこぼしてしまう。
「あと5日かぁ」
「何が5日なんだい?」
俺の独り言に反応したのは片手にビールを持ったおばちゃん。
「……ギルドが改良するまでだよ」
「ははは! そうかい。楽しみだね。長生きしてみるもんだね」
「ははは、期待してて下さいよ!」
精いっぱい汗をかいたビールが机に置かれ、再び厨房へと帰って行った。
「ははは……期待、かぁ」
やばいな。どんどんハードル上げてる気がする。何だよ期待って……何だよ順調って……。
グイッ、とビールを仰ぐ。やはり至高。ビールは美味い。略して美味。
そしてお通しをつまみつつ、更にビールを飲む。
「かああ! 美味い!」
居酒屋に行った時ほど自分の老いを再確認させられるものはない。これが三十路ってやつか……
メシよりも飲み物に手を出すあたりオッさん。……フライドポテトでも頼もうかな。
「すみません、フライドポテト1つ」
「はいよ」
注文後、ついにビールを飲み干す。
「あと生も1つ」
はぁぁ……。ついでにため息も1つ。
品が来るまで頬杖をついて考えを1つ──
猩々の壺と柄杓か。多分2つで1つの物なのだろう。そもそも壺ってどんくらいの大きさだよ。柄はどんなんだよ。どんな形なんだよ…………
知らない事多過ぎだろ。前途多難もいいところだ。またため息をしてしまいそうだ。
「隣、いいかな?」
すると突然背後から声が掛かる。
隣は別に構わないがカウンター席は結構空いているんだよな。何で隣?
「別に構いませ──……」
許可しようと背後を振り向いた時、意外な人物に声が止まる。
「…………ユスタ?」




