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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
55/89

13 隣いいですか?


「おーい!」


 ロイの【ベルセルク】を見た一件から程よくしてヒラとマホと、えーと、シールとシエンが遠くから現れてきた。


「さっきの爆発は何だった──って地獄絵図⁉︎」


 森の一端が完全に焼失した現場に驚愕するマホ。何ならシールやシエンも一緒にポカンと口を開けている。


 ただ1人、ヒラだけが深刻な顔をしてランスに近づいて行く。


「まさか……【ベルセルク】を使ったのか?」


「ああ、あそこの魔法使いに実力を見せるって嬉々としていた」


「何で止めなかったッ!」


 ヒラは激昂しながらランスの胸ぐらを掴む。


「お前なら分かるだろ。するって言ったロイに何を言ってもダメな事は」


「……っち!」


 歯噛みしながら手を離す。


「あれもこれもあの魔法使いのせいか?」


「間違いないな」


「待てこらランス!」


 全ての責任を俺に転嫁されたんですけど大丈夫ですかね?


「ヒラー、なんか顔が険しいけど大丈夫?」


 シエンが覗き込むようにヒラを見る。


「全部あのクソ魔法使いのせいだよ」


「……っち!」


 なんか物凄い顔でガン飛ばされてる……そう言えばシエンは断トツで俺の事嫌いなんだったな。


「マホ、全員揃ったし用も済んだし帰ろ〜ぜ」


「そんな……二人だけの家に帰ろうだなんて」


 相変わらず幸せな耳をしているマホにヒラはため息をこぼす。


「そうだな帰るか」


「分かったわ。皆んな近くに来て!」


 マホは【テレポーテーション】の準備をする。


「あっ、あんたは10メートル離れて!」


「ですよね……」


 俺は大股10歩、太陽の騎士団から離れる。


「《がれ、ゆがめ、もつれたまえ、むす二点にてん観測かんそくすべしは同質どうしつなり》──ッ!」


 包まれる光に思わず目を閉じる。


 行きの時もそうだが、何も感じない。ワープしている感覚がまるで無い。


「着いたか……?」


 俺はゆっくり目を開ける。


 そこには森の一端が焼失し炭と化した悲惨な光景が──


「アレ? ……ワープしてナクネ?」


 俺は更に周りを見渡す。そこにはロイの姿は無い。勿論ランスもシールもヒラもシエンもマホも……


「えっ……?



 …………。




 ………………。





 あんのクソアマがァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア──ッッ!!!」





 そんな怒声が誰も居ない広々とした山奥で木霊するのであった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 ──17時


「ハァハァ……し、死ぬ……」


 ギルドの外の時計は5時を指していた。ヒュドラと戦ったのが大体お昼前だから5時間以上遭難した事になる。


 下山途中に道に迷うわ、変なドラゴンに遭遇して思わず石投げて襲われるわ、変な怪鳥に追いかけられるわで体はボロボロ。すねより下は泥だらけ、途中で見つけた木の棒にすがりようやく町についたのだ。


「あのアマ絶対に許さねぇ……今度あったらドラゴンスクリューで足バッキバキにさせてやる」


 今の俺はマホに対する憎悪がハンパない。だって5時間以上の遭難はさすがの朝山さんでもプッツンするぞ。


「……疲れた。飲んで帰ろ……」


 俺は半壊したギルドの入り口を開ける。



 カランカラン!



 素っ頓狂な音色が俺を出迎え、


「いらっしゃいませ!」


 美しい声色のレイネスさんが歓迎してくれる。ギルドに帰ったのだと実感する。思わず「ただいま!」とか言っちゃいそうだ。


「朝山さんお疲れ様です! どうでした? 何か成果はありましたか?」


「それが全く無くて……」


 それを聞いたレイネスさんは途端にシュンとなる。


「大丈夫ですか? あと5日ですよ?」


「人の余命をカウントダウンするのやめてもらえます?」


 とは言え、今日何の成果もなかったので実質5日なのは間違いないんだよな……


 せめてヒントみたいなのがあれば……


「レイネスさん、壺を持ち去った男ってどこら辺で見かけたんですか?」


「そうですね。教えても良いんですが、猩々の殺害現場と壺の目撃場所は既に色んなパーティーが捜索しておりまして、今行っても大した成果はあげられないかと……」


「成る程……それもそうか」


 確かに3億円だもんな。皆んな血なまこになって探すわな。特に目撃現場なんか一番最初に。とすると、どこを探せば良いのやら……あー分からん! とりあえず疲れた! 酒が飲みたい!


「今って酒場の席空いてます?」


「そうですね、今の時間から混みだすのでまだ大丈夫です」


「ありがとうございます。あとはゆっくり飲みながら考えます」


「はい。頑張ってくださいね!」


 丁寧に手を合わせ、可憐な笑顔で頭を下げるレイネスさん……結婚したい。


 まあそんな冗談は置いといて、俺は隣の酒場に向かって行く。



 ──酒場



 レイネスさんが言った通り、丁度客が入り組み団体席は埋まっている。俺は一人なのでカウンター席で問題ない。


「いらっしゃいませ!」


「どうも」


 俺はゆっくりカウンターの端の席へ行く。カウンター席は結構空いているな。


 そしてぱらっとメニューを覗く。


「どうだい、ギルドは直せそうかい?」


 カウンターからニタニタしながら話しかけてきたのは調理のおばちゃん。昨日の解体ショーの手伝いをしてもらったので覚えている。


「……順調かな。もう少し時間は掛かるけどね」


「そうかいそうかい! 早く直しとくれよ。使いづらくてしょうがないからね!」


「うぐぅ……任せといてよ。前のギルドより凄くしてみせるから!」


「あっははは! なら今日はサービスするよ」


「本当! とりあえず生1つで!」


「はいよ」


 おばちゃんは笑いながら厨房へ帰っていった。



 …………やっちまった。



 何が順調? 凄いギルド?


「はあぁ…………」


 盛大にため息をこぼしてしまう。


「あと5日かぁ」


「何が5日なんだい?」


 俺の独り言に反応したのは片手にビールを持ったおばちゃん。


「……ギルドが改良するまでだよ」


「ははは! そうかい。楽しみだね。長生きしてみるもんだね」


「ははは、期待してて下さいよ!」


 精いっぱい汗をかいたビールが机に置かれ、再び厨房へと帰って行った。


「ははは……期待、かぁ」


 やばいな。どんどんハードル上げてる気がする。何だよ期待って……何だよ順調って……。


 グイッ、とビールを仰ぐ。やはり至高。ビールは美味い。略して美味。


 そしてお通しをつまみつつ、更にビールを飲む。


「かああ! 美味い!」


 居酒屋に行った時ほど自分の老いを再確認させられるものはない。これが三十路ってやつか……


 メシよりも飲み物に手を出すあたりオッさん。……フライドポテトでも頼もうかな。


「すみません、フライドポテト1つ」


「はいよ」


 注文後、ついにビールを飲み干す。


「あと生も1つ」


 はぁぁ……。ついでにため息も1つ。


 品が来るまで頬杖をついて考えを1つ──


 猩々の壺と柄杓か。多分2つで1つの物なのだろう。そもそも壺ってどんくらいの大きさだよ。柄はどんなんだよ。どんな形なんだよ…………


 知らない事多過ぎだろ。前途多難もいいところだ。またため息をしてしまいそうだ。


「隣、いいかな?」


 すると突然背後から声が掛かる。


 隣は別に構わないがカウンター席は結構空いているんだよな。何で隣?


「別に構いませ──……」


 許可しようと背後を振り向いた時、意外な人物に声が止まる。




「…………ユスタ?」



 



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