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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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11 超攻撃特化



「ダーーもうっ! どうしてこうなった!」


 俺は駆ける。木の根元の探していた行為が無駄になる程ムチャクチャに走る。


 何そんなに慌てて走ってんの? とか言ってくれるなよ。こちとら生命の危機を感じてんだよ。


「キシャアアアアアアアアアアアっ!」


「着いてくんな! ぶっ殺すぞッ!」


 俺は全力で逃げながら、後ろから全力で追いかけてくるヒュドラに激昂する。


「キシャアアアアア″ア″ア″──ッ!!」

「ウッセェ! 羽もぐぞクソが!」


 何故かヒュドラが全力で俺を追いかけてくる。心当たりなど、出会い頭にパニックから石をぶち投げた事くらいしか思いつかない。


 そしてこのヒュドラ。高さ10メートルはあるであろう巨体の割に中々と足が速い。俺の全速力の逃走に負けず劣らず、その距離を詰めてくる。


「キシャアアアアアアアアアアアアッ!!」


 そして長く9つある首を大きく振り回し威嚇をする。ヒュドラは何故かキレている様なのだ。


「ハァ、ハァ……だからこっち来んなよ! 散れ! 飛べ! ついでに死ね!」


「グォオおおおおおおおお!!!」


 ヒュドラは俺が俺が叫び立てる度に、怒りを増して追いかけてくる。


「クソ! 何で毎度こうなるんだーー!」


 俺の嘆きはヒュドラが動く度に起きる衝撃音に掻き消される。


「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア″アア″ア″ア″──ッ!!」


 木の葉が千切れそうな程の波動。体に響くヒュドラの咆哮。そう、ヒュドラは何故かキレているのだ。


「ハァ、ハァっ、ハッ、ハァア!」


 俺は全力で逃げる。残像で手が尖って見えるくらい腕を振る。そして木と木の間をぬって必死に逃げる。


 ヒュドラも負けじと追いかける。ちょこまかと逃げる俺の策略など皆無に等しく、目の前にある木を全て蹴散らして猛進する。


「来んなブス! もっかい石を投げてやろうかァ!」


「キィェエエエエエエエエエエッ!!!!」


 ヒュドラは首を大きく旋回させ、今まで以上に怒りを露わにさせる。


 ──まるで暴言に怒っているみたいに。


(まさかな)


「……このハゲ!」


「ギィイイアアアァアアア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″──ッ!!」


 やはりだ。このヒュドラ言葉に反応している。言葉が通じているのだ。


「…………一生ハゲ!」

「グォオアアガぐギィイイアアアアアアア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″アッ!!!」


 うん、やはり間違いない。一度の事象で決めつけるのは理系として良くないからな。


 しかし、その変なプライドが余計にヒュドラを怒らせ荒れ狂う。


「ギィエアアアアア……──キシャッ!」


 ヒュドラは9つの口から溜められた紫の霧を一気に放出する。


 禍々しいオーラに、直感する──これはヤバい!


 俺は勢いそのまま左に飛びこんだ。


「いでっ!」


 そのまま三回転して緊急回避する。ついでに木にぶつかってしまった。まあまあ痛い。


 霧は俺が元いた一帯を紫に掌握し、


 シュゥうううううう……


 そして触れた木々を一瞬に溶かしていく。


「……おい、それはシャレにならん奴やん」


 震える声で戸惑う俺をギロリ、と睨む。次はお前だと言わんばかりのヒュドラの眼光が突き刺さる。


「その眼……ヤバいやつやん。ゼェ、ゼェ。見たらわかる、ヤバいやつやん」


 焦りと緊張でお祭り口調になってしまった。現状はお祭りどころの騒ぎではない。


「ゼェ……いや、捕まれば血祭りか……」


 それくらいヒュドラの眼は鋭く、激昂しているのだ。それもそうか、あれだけ暴言吐いたし……


 だってドラゴンが言葉理解するとか思わないじゃん?



 ……ん? 



 ……言葉が通じる?



 もしや……



 もしかしてだが、謝れば許してくれるのではないだろうか?


 このドラゴンは言葉を理解する。『ごめんなさい』と言えば謝罪と理解してくれるのではないだろうか?


 ズシーーン


 ヒュドラが一歩俺の方へ進む。


 最早迷っている暇はない!


 ズシーーン!


「ちょ、ちょっと待ったヒュドラ!」


 俺の決死の問いかけにヒュドラが、なんと止まったのだ。


 いける。誠意を込めて謝ればいける。何たって共通言語は誠意と謝罪だからな。


「ヒュドラ様」


 俺は一歩前に出てヒュドラを見据える。


「本当にすいませんっしたぁ! 」


 直角にビシッと頭を下げる。プライドなど一欠片もない圧倒的な謝罪。


 プライド? なにそれ美味しいの?


 捨てたプライドには価値など無いが、プライドを捨てる事には価値があると思っている。


 カッコよく言うと、プライドを捨ててでも守りたい物がある──と言う事だ。


 ここまで潔いと逆に清々しいまである謝罪に、ヒュドラは若干引いていたが「グォオおお……」とため息をついて許してくれたのだ。


「ありがとうごさっっス!!!」


 俺は感謝の意を込めて再び頭を下げる。


 ……凄い。ドラゴンに誠意が届いた。正直ここまで上手くいくと思ってなかった。だが予想に反してヒュドラが心の大きいドラゴンで助かった。


 これで一件落着だ。


 ヒュドラが山奥に戻ろうと……


 きびすを返したその瞬間────



 音速を超えた槍がヒュドラの喉元を貫き、首が落ちる。



「──なっ⁉︎」

「グォオアっ⁉︎」


 間髪入れず誰かが俺の横を高速で通り過ぎ、


「はぁあああああああッ!」


 真っ赤に燃えた大剣を振るい、更に3つの首を斬り落とす。


「なっ……」


 息をつく暇もなくヒュドラの首が4本討たれた。そしてそのヒュドラの前にそびえ立つ剣士──


 まるで太陽のように真っ赤に燃え盛っている剣士。


「間に合ったようだな京太郎」


「……ロイ⁉︎」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ……なんだこの複雑な心境は。



 ……これほどまでに嬉しくないヒーローの登場があっていいのか?



「加勢しに来たぜ京太郎!」


「お、おう……」


 ロイには悪いが、正直来て欲しくなかったんだが……


 俺は申し訳なさそうにヒュドラを見ると、殺意に満ちた眼で見返された。ですよね、そうなりますよね。


「しかし京太郎。急に居なくなったと思ったら……こうゆう事かよ!」


「……? どうゆう事だよ?」


「1人でヒュドラと戦おうとしてたんだろ?」


「違ぇよ!!」


 そもそも居なくなったのはお宅らのマホのせいだからな。


「しっかし、1人で()ろうだなんてズルいぜ京太郎〜!」


「だから違うっての!!!」


 俺は恐る恐るヒュドラを見ると、「今の話詳しく聞かせてもらおうじゃねえか」と言いたげな眼をしている。違うんだ、誤解だ!


「……しかし大した奴だ。ロイが気にかかるだけはある」


 ガサッと背後から草をかき分けて現れるランス。


「は?」


「いち早く俺たちの存在に気付き、ヒュドラを討ち取り易い場所に誘導するなんてな」


「違ぇよバカ! だから誤解を生む様なセリフは──」


 ゴゴゴ、とヒュドラの圧力を感じる。違うんだ、本当に誤解なんだよ。


「やっぱ()るつもりだったのか」


「ちょっとお前は黙ってろ」


 これ以上話をややこしくする訳にはいかない。


「ヒュドラこれは違うんだ! 本当に誤解なんだ! 俺は戦うつもりも()るつもりも無いんだよ」


「誘導した後はそうやって油断させてたのか」


「お前も黙ってろ。話がややこしくなるから」


「グォオアアアアアアアア″ア″ア″!!」


 俺の弁明も虚しく、ヒュドラは怒りから叫びをあげる。そして斬られた首から顔が再生し臨海態勢に入る。


「も、もうダメだ。ごりごりの戦闘態勢じゃんかよ……」


 地を揺るがすヒュドラの咆哮。


「燃えてきたな京太郎!」


「燃えるのは剣だけにしてくれ」


 どんだけ戦闘民族なんだよ。それかいっそ真っ白に燃え尽きてくれ。


「悪いが俺は戦わないぞ?」


「構わない。元々京太郎に実力を見せるのが目的だったからな」


 ケラケラと笑いながら答えるロイ。


「という事だランス。いつも通り俺の合図で頼むぜ」


「任せとけ。──はっ!」


 ランスの一喝。ヒュドラの首元を貫き木々も貫いて最終的に数100メートル先の木に突き刺さった槍が猛スピードでランスの手に戻ってくる。


 多分、何らかの合図で戻って来る様な魔術をあらかじめ槍に付与(エンチャント)させていたのだろう。


 ランスが槍を握ったのを確認して、ロイはポケットから小さな魔石を取り出す。


「《目醒めざめよちから、──」


 ゆっくりと、


「《爆発ばくはつ火種ひだねもつて、──」


 殊更にゆっくりと、魔石を握り詠唱する。


「──発火はっかせよ》──」


 詠唱完了後、ロイに凄まじい質量のオーラが纏う。


 そしてそのオーラを見たランスは、勝利を確信した笑みを浮かべ──


 ロイは解き放たれた猛獣の如く、ニヤリとわらう。




「いくぜ…………──【ベルセルク】」





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