10 迷ったならば北へ行け!
──山奥
「よし、着いたぞぉ!」
到着の歓喜に喘ぐロイ。
「そうだな」
ぐうぅ、と伸びをするランス。
「ありがとうなマホ」
「そんな、愛してるだなんて……ロイってば大胆なんだからぁ〜」
そんな事は言ってないぞ、と心の中でツッコミを入れるヒラが一つの異常に気づく。
(あれ……あの囚人魔法使いが居ない?)
どんな時でも冷静で周りが見えるヒラだからこそ気付いた事態。
(あのクソ野郎……あれ…………居なくてよくね? むしろ好都合じゃないか。ならば全く問題ないな)
素早く的確な状況判断が出来るのも彼の持ち味だ。
「よし、では行こうか!」
「「そうね!」」
ヒラの促しに、シエンとマホが賛同する。
だがそのマホの顔色は少しばかり曇っている。
(おかしいわね……)
「どうしたマホ。顔が険しいぞ。悩み事か?」
こんな些細な変化にも気が付き声を掛けるヒラ。
「そうか? いつも通りじゃね?」
「うんそうね。大して変わってないわよ?」
シールやシエンは眉を八の字に曲げながらマホを凝視する。客観的に見ても大した変化は見られない。
(相変わらずヒラは鋭いわね……)
だが、誰も気付かない様なことにもいち早く気付くヒラだからこそパーティからの信頼も厚く慕われているのだ。
「何でもないわ。【テレポーテーション】で魔力を使い過ぎただけよ」
「大丈夫かマホ?」
「結婚だなんて……ロイったら気が早いわよ」
ポッ、と頬を染めるマホ。いつも通りの展開にヒラはこれ以上考えるのをやめた。
(しかしあの魔法使い……)
皆の意識が離れたのを確認して、マホはもう一度考え事をする。
(気にくわないから、私たちから100メートル離れた場所にテレポートする筈だったのに……)
歪んだ──
捻れたのだ。マホが自分を含め7人に【テレポーテーション】をかけた時、朝山京太郎の軌道だけが歪んだのだ。
(確かに同じ場所に送るつもりは毛頭無かったけど……さっきのは明らかに私の意思とは違う……技を捻じ曲げられた感覚……)
マホは辺りを見渡す。
「《開け、澄ませ、全てを見渡す真の眼よ》ッ!」
誰にも聞こえないほど小さな声で、マホは【テレスコープ】を発動する。術者の半径1キロメートルの全てを見渡す眼であいつを探すが見つからない。
(全く……どこ行ったのよ…………)
本来テレポートさせるつもりだった100メートル先には居ない。それどころか1キロメートル先にも居ない。あるのは木、木、そして木のみ……
(はあ、もういい。居ないなら居ないでいいわ。そもそも何で私があんな奴に魔力を注がなくちゃいけないのよ)
ぽっと出の癖に、妙にロイと仲が良い憎き魔法使い。
昨日、魔術を改変してみせた若い生娘には肝を冷やした。そんな高等テクニックは……悔しいが私にはできない。
そんな生娘のリーダーの魔法使いなのだから、ドラゴンに出くわそうが、ヒュドラに出くわそうが容易に帰れるだろう。
(まあ? 元々あんな奴なんかに実力を見せるつもりもなかったし……どこに行こうが関係ないわ)
「おーい、行くぞマホ!」
「どこまでも一緒に行くわロイ!」
マホは邪念を振り払う様に顔を振り、パーティの元へ駆けて行った──
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──その頃
「ふざけんなよあの野郎ォ……」
俺はマホに一杯食わされたらしい。
「クソ! 今度会ったらモンゴリアンチョップでも喰らわしてやる!」
地面の落ち葉を踏みしめ歯噛みする。とは言え、いつまでもこうしてはいられない。
「さっさと避難しないと……」
どうやらこの山奥はドラゴン級のモンスターがウジャウジャ居るらしい。念のため言っておくが俺はドラゴンには勝てない。勝てる訳ないよね!
俺は魔法の使えない魔法使いだぞ? 言ってしまえば人間だぞ? 勝てる訳ないよね!
となると第1に避難が先決。だがどうだろう、俺はここがどこだか分からない。分かる訳ないよね!
ならば先人の知恵に従おう。
古人、曰く、迷ったならば北へ行け──
正直意味がわからない。北極まで行ってオーロラでも見ろと言いたいのだろうか?
だが、こうゆう話は案外役に立つものだ。昔から疲れたら南、迷ったら北へと定石みたいなのが決まっている。
因みに東西は無限大の世界なので迷った時に進む方角では無い。
「ならば北にでも行くか……」
人生において方角を知る術は知っておいた方がいい。「そんなもの使う時なんて来ない」と思ってる人も多い筈だ。俺もさっきまで思ってたから強くは言わない。
だが今の様な計算外な事態に冷静に対応する為にも、やはり必須なのだ。
例えば星。北には北極星が有るものだ。
一つの方角が分かれば、東西南北の全てが分かるので頭を使う必要はない。
例えば太陽。太陽は東から西へ進むものだ。従って朝は東に、夕方は西にあるものだ。夕方は西日が強いので分かりやすい。
例えば住宅。南は太陽が当たるので大開口(窓)が多いものだ。しかし今回は山奥なので却下。
例えば植物。彼らは太陽の光を求めるので、光の弱い北では吸収する面積が大きくなる。住宅といい、実に理にかなっている。
もっと分かりやすく言うと、木の根元の葉っぱは南よりも北側の方が大きい。余談だがクローバーも日向よりも日陰の方が四つ葉率が高いのだ。理由は言う必要ないな。
「ンな事どうでもいいか……」
俺は「わ〜四葉のクローバーだぁ! 栞にしよっと♪」と、幸せを見つけて現実逃避してる暇は無いのだ。一刻も早くここから避難しなくてはいけない。
その時不意に、ロイとランスが言っていたセリフを思い出してしまった。
そう、この山には『不死の百頭竜』という聞くからなヤバそうなモンスターが居るのだ。何でも不死身で、尚且つ毒を吐き散らすらしい。
「…………」
ブルっ、と体が震える。ヒュドラにぶっ殺される想像をしてしまい、恐怖の箍が外れる。ヤバい、勝てる訳ねぇ。さっさと北に避難しなければ。
俺は猛烈に木の根元の葉っぱやコケを探した。それはもう鬼の様な形相で。這いつくばる程必死で──
(一箇所ではダメだ。数カ所探して平均をだして……)
恐怖で頭がフル回転する。もの凄い集中力だ。今話し掛けられたらビンタするくらい。
「あった……ここはこっちの方が大きい!」
二ヶ所、三ヶ所、四ヶ所と──
猛烈に地面の落ち葉を掻き分け、手が泥だらけなのも気にせずひたすらに。
五ヶ所、七ヶ所、十ヶ所──
(大体これくらいでいいだろう、後は)
半ばパニック。毒を吐く不死の竜なんかに遭遇したら生還は不可能……変な想像が頭をよぎり急いで集計する。
ガサガサ……っシ、ズシ……
(ええと、確かあっちの木はあっちであっちは……)
ガサッ、ガサッ……ズシ、ズシン!
(えー、それであっちがあっちで、それでえーと、あっちが……)
ズシン、ズシーン!
(それで、えーー…………)
ズシーーッン!!!
「ウッセェえええええ! 誰だおりゃぁぶっ殺すぞゴラ──────」
謎の雑音がする方に大激怒しながら振り向いて硬直した。
「────ァアあ?」
それは全長10メートルは堅いであろう大きな体。鋼の様な光沢を持つ翼を靡かせ、9つの首を胴体に据え付け、紫の吐息を吐いている。
大蛇の様な、はたまたドラゴンにも似た歪な容姿──
「これって…………」
尖り尖った菱形の瞳孔がギロリ、と俺を捉える。
「ご無沙汰してます……ははっ……はは」
思わず乾いた笑いがこぼれる。
ヒュドラは鋭利な牙をチラつかせながらこちらに一歩近づく──
「ははっ……。
…………。
………………。
キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア──ッ!!!」




