4 狂気・ミノタウルス
モンスターボギャ貧……
──ミノタウルス
大体の人はイメージできると思うが、ギリシャ神話のあれだ。半人半牛の怪物だ。
しかし──
「なあ、あれ本当にミノタウルスなのか? 」
「そうだよ、あれがミノタウルスだよ」
「そうね、あれはミノタウルスね」
「…………」
おかしいな、俺にはムキムキのおっさんが馬の被り物を被った様にしか見えないんだが……しかもブリーフ一丁。
確かに、あんなのは野放しに出来ない。一刻も早く討伐しておかなければ……
「よーし、ロエ! あのミノタウルスに血の雨を降らせてあげたまへ」
「分かったわ京太郎。 見ててっ! 」
そういってロエは空高く飛び、おっさ──ミノタウルスに狙いを定めて、
「行くわよっ! 」
そして、両手を広げ──
血の雨を降らせた。
────はっ?
ロエが降らせた血の雨は、ミノタウルスにピシャピシャと飛び散り、それを見たロエは満足げに俺の方に戻ってくる。
「血の雨を降らせたわっ! 」
ロエは褒めて欲しいのか、目をキラキラさせながら俺を見る──
んー、違うんだよなぁ。そうじゃないんだよなぁ……
血の雨を降らせる! って言って、本当に血の雨を降らせた奴を初めて見た。さすが異世界だ……
「よ、よーし、良くやったぞロエ! そして、今日はもう帰ろう」
ロエは褒められて嬉しかったのか、へへんと胸を張る。その服であんまり胸を張らないでほしいなぁ。
「ガーネット、ロエ。帰ろうっ! 」
受付嬢のお姉さん曰く、ミノタウルスは中々の強敵らしい。気性が荒く、凶暴であるため、割と高めの懸賞金が掛けられている。そして、血を見ると更に凶暴になるので注意が必要らしい……
今──
おっさんは血まみれだ。
「────撤収ッ‼︎ 」
俺はロエとガーネットを抱え、全力で来た道を折り返す。
すると──
「ヴゥモモモモモモモモモモッ‼︎‼︎ 」
雄叫びをあげ、全力で追いかけて来る。走り方がモロ人間で怖い。そして超速い。
「やばいやばい! ガーネット! なんか魔法で足止め出来ないか? 」
「足止めになるか分からないけど……」
ガーネットは杖を持ち──
「《地の精よ、その力を以て沈めたまえ》」
すると、ミノタウルス周辺の地面が沼に変わる。
「ヴォモもマママママママママ──ッ⁉︎ 」
勢いよく走ってた分、沼に深く沈んでいく。胸の部分までドップリと浸かっている。
……もはや馬じゃねぇかよ!
顔から首までしか見えない状態なので、どう見ても馬にしか見えない。
「よし、良くやったガーネット! 」
「えへへ! 」
ガーネットは褒められたのが嬉しかったのか、ニコニコしている。
それを見たロエは、むうぅっと口を膨らませ──
「京太郎、 私も見ててね! 」
ロエはそう言ってミノタウルスの頭上まで飛んで行き──
ま……まさか、あいつ……
「ちょっ、ロエさんストッ──」
「食らいなさい、ミノタウルス! 」
両手を広げ、血の雨を降らせる。
「ヴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ──ッ‼︎‼︎‼︎‼︎ 」
おっさんがブチ切れてしまった。もがき、沼から徐々に体を現していく。
やばいやばいやばいヤバいヤバいヤバイ!
そしてロエはスイーと帰ってくる。
「見て、京太郎! ミノタウルスが叫んでるわ。大ダメージよ! 」
「………………」
ロエは褒めて欲しそうにこちらを見ている。
でもね、あなたのそれ。火事の時に、水と間違えて油をぶちまけてるのと同じなんすよ…………
「ヴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオモモモモモモモモモモモモモモモモモモモモモ──ッッ‼︎‼︎‼︎‼︎ 」
見ろ! 大火事だッ‼︎
しかし──
「…………」
キラキラとした目で何かを期待するロエを見ると怒るに怒れない。悪気がない分怒りづらい……
「よ、良くやったぞぉ……、作戦通りだ! 」
俺は引きつった顔で親指をグッと立てる。
「フフっ、褒められちゃった」
ゴフッ……いかん、吐血してる場合じゃ無い。この状況……どうする?
ミノタウルスは遂に沼から出てきてしまった。
「ヴォォォオオオオオオオオオオモモモモモモモモモモモモ──ッ‼︎‼︎‼︎ 」
耳に響くミノタウルスの咆哮。
完全にキレている。
しかしその叫びで、数人の冒険者たちが駆けつける。
助かった。天はまだ俺たちに希望を──
「おい、ミノタウルスがめちゃめちゃキレてるぞ」
「あんなにキレてるミノタウルス初めて見るわ」
「俺たちじゃあ敵わないッ! 」
「撤退だ、撤退! 全員退避‼︎ 」
駆けつけた冒険者たちは急いで回れ右をして帰っていった。
「……ふざけんなッ! 」
どうする、どうする、どうする、どうする、どうするッ!
「そうだ! ガーネット、もう一度沼に変えてくれ」
「う、うん《地の精よ、その力を──」
「ヴォォォオモモモモモモモモモ──ッ! 」
「ヒィィっ、」
ミノタウルスもさせまいとガーネットに向かって猛追してくる。
「ガーネットちゃん、こっち! 」
咄嗟でロエがガーネットを持ち上げ飛行する。
「ガーネットちゃん大丈夫? 」
「う……うん、ヒック…… 」
ガーネットはこぼれ落ちそうな涙を必死に隠しながら返事する。
「ガーネットちゃん…… 」
躱されたミノタウルスはそのまま走り抜け、壁に激突する。壁はガラガラと崩壊している。
「……まったく、あんなバケモンどうしろってんだ……」
しかしやるしかない。ガーネットの泣きそうな顔を見ていると、ミノタウルスに殺意が湧いてきた。
「ロエ! ガーネットを頼む」
「任せて! 」
よし、後は──
そしてミノタウルス方も瓦礫の中なら出てきて、俺を睨みつける。
「何ニラんでんだよ! 腹が立ってるのはこっちのセリフなんだぜ」
俺は呼吸を整え──
「おい、そこのおっさん! 」
俺は腰に刺してた杖をミノタウルスに突きたて宣言する。
「テメーはもう許してやらねぇ」
そして鋭い眼光で睨み殺す。
「──今日の晩飯にしてやんよ 」
「ヴォォォオオオオオオオオモモモモモモモモモモモモ──ッ‼︎‼︎ 」
ミノタウルスは猛スピードで突進してくる。
「はっ、突っ込んでくるしか能のない駄馬がぁ! 」
先ほどの突進を見る限り、ミノタウルスは途中で止まれないと見た。
俺は左に飛んで回避し、すぐさま振り返り攻撃態勢に入る。
──その刹那
ミノタウルスは躱された瞬間左足で急ブレーキをかけ、体を捻り、タメられた拳を振りかぶる。
「──なにッ⁉︎ 」
「ヴヴヴォォォオモモモモッ! 」
俺は咄嗟に右腕でガードするが、ミノタウルスの拳は俺のガードを──腕の骨を易々と砕き、俺を吹き飛ばす。
「うがぁアッ──ッ!」
「京太郎っ! 」
「キョータロー! 」
持っていた杖も吹っ飛び、地面に突き刺さっている。
ミノタウルスはというと──
「シッ、シシッ──」
ガードを固めて構えを取り、シャドーボクシングしている。
「はぁ、ハァ……ただの格闘ジジイじゃねぇかよ」
ハァハァ……
冗談を言う余裕はまだあるが…………
ズキズキと右腕から全身へ激痛が走る。
ハァ……どうしたもんかな
最後まで読んで頂きありがとうございました!