7 ワールドクエスト
──ギルド
「それで、大金が稼げるクエストとかないですかね? もしくは借金全て返済できる様なクエストとか」
「そうですね……朝山さんクラスの借金となると、クエストの難度も格段に上がるんですが宜しいですか?」
先程の謝罪が功を成し、無事にギルドに入れる様になったのだ。やはり世界の共通言語は謝罪と誠意で間違いないな。
「格段に上がる……とりあえず内容だけ拝見してもいいですか?」
「はい! と言っても、この町はそんなに大きくないのでクエストも500万トルカを超える物は中々無いんです」
「そうなんですか」
「はい。それこそ前回の様な大型モンスターの討伐とか……そして望みは皆無に等しいですが、ワールドクエスト……なんて」
冗談、とばかりに笑いを交え話すレイネスさん。
「ワールドクエストですか?」
「世界を脅かす大罪人──A級以上の戦犯者の討ち取るクエストをワールドクエストと言います。このクエストは世界中のギルドに発布されたクエストです」
「つまり世界中から指名手配中ってことか」
スケールのデカさに思わず唾を飲み込む。A級戦犯者が何をやらかしたかは知らないが、世界中から狙われるって事は大層な事をしでかした手練れなのだろう。
「そんな大罪人を倒して借金返済……絵空事もいいところですね」
「あっはは……ですよね。今のは冗談ですので忘れて下さい」
俺は軽くいなす様にワールドクエストの掲示板を見る。そこには賞金首のチラシが貼ってあり、A級が7枚。S級が1枚ある。
A級
《魔術師》 100,000,000トルカ
《爆弾狂》 240,000,000トルカ
《守護者》 100,000,000トルカ
《指揮者》 100,000,000トルカ
《大号令》 100,000,000トルカ
《永遠者》 300,000,000トルカ
《支配者》 570,000,000トルカ
S級
《大魔王》 700,000,000トルカ
顔が割れている奴と割れてない奴が居るのか。現在顔が割れているのは爆弾狂、永遠者、支配者、そして──大魔王の4人。
しかも大魔王に至っては随分と幼い。それこそガーネットやスカーレットよりも幼く見える。白髪の子供じゃねぇか……
俺がチラシを注視していると、横からレイネスさんが解説を入れる。
「S級戦犯の大魔王。本当に幼いですよね。でも騙されないで下さい! 彼は7年前に突然現れて町を破壊し周ったり、A級7名を率いる敵のリーダーですので」
「何っ⁉︎」
思わず震え上がってしまう。こんな子供が1億超えの大罪人達の総大将だと……?
色々考え事が進んでいく。7年前に一体何があったのか……とか、もしこのチラシの奴らに実際会ったら……とか、確かに借金返済も楽に出来るが、その場合勝てるのか? 逃げた方が賢明なのか……とか……
──パンっ!
俺の悪い方へ進む思考を全てシャットアウトするかの様に響く音。
「済みません朝山さん。余計なクエストを勧めてしまいましたね……」
俺を正気に戻した音の正体は、レイネスさんの手から響いた音。ジンジンとするほど強く叩かれた手の平は少し赤くなっている。
「はっ、いや、こちらこそ。見苦しいところをお見せしましたね」
俺は慌てて弁明する。変な気を遣わせてしまった。
しかしどうだろう。ワールドクエストは最低でも1億トルカだ。もし捕まえたら借金返済どころか数千万のお釣りがくるのだ。
どうせ借金が返済できなければ死刑なのだから勝負を賭けても良いのか?
「……さん」
しかし奴等は1億の賞金が掛けられた手練れだ。地球みたいに鈍器や飛び道具を持って暴れる輩とは訳が違う。
刃物を持った人間が人1人を刺し殺す間に、魔法で数十人も殺せる世界なのだ。そしてそんな世界の大罪人……俺に──人間風情に勝てる見込みがあるのか?
「朝山さん!」
「はっ!」
またしてもレイネスさんに呼び止められてしまう。
「すみません。ぼー、としてました」
今の俺は、自分で思っている以上にこの現状に焦っているのかも知れない。ユスタに頼る云々以前の問題。頼りにしていた竿殺しも儚く消え、全く解決案が無いのだ。
とあるグループのNo,2のお偉いさんは言った。
ぶち殺すぞ…………ゴミめら……!
──と。
……これは違うな。このセリフでは無くてもっと今の状況に合ったセリフがあった筈。
金は命より重い……! と──
理由はどうあれ借金を背負ってしまった。それも驚異の5,000万。ハンパなやり方では返せない。
だがしかし、たった今、目の前に返済できるチャンスがやって来た。もうこんなチャンスは他に無い……
ならば……ならば! 張るべきなのだ。ここが正念場。命を賭けて倒す。世界を騒がす大罪人、平和を脅かすA級戦犯者を──!
虚無の世界に一つの花が咲いた様に、俺の中にちっぽけな勇気が湧く。だがまだだ。もっと、もっとだ。
天は人の上に人を造らず──
日本人なら誰でも知っている、誰からも愛され、1億分の1億の支持率を誇るあの福沢さんのセリフだ。
彼は人間ではなく人と言ったのだ。
つまり、人間も魔法使いも吸血鬼も大罪人も大魔王も関係無い。人間にだって勝機はあるのだ。
それは福沢諭吉からの威光。だったら間違い無いじゃねぇか。なんたって日本人全てに愛されているのだからな。
俺は一つ呼吸をして、せせら笑う。
決めたのだ。覚悟した。己の心の中で。
「レイネスさん」
後は、その覚悟の具現。表面に現す為にレイネスさんに声を掛ける。
「ワールドクエストの詳さ──」
カランカラン!
俺のセリフを遮るように鳴るドアベル。
竿殺しの一件で破壊された入り口に、申し訳程度に付けたその素っ頓狂な音色を奏でたドアベルが俺の覚悟を削ぎ落とす。
そしてそんな音と共にギルドに現れた6人の男女──
「お、お前らは……」




