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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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5 国から送られた役人


 現在の借金 52,000,000トルカ。


 余命残り6日。


 判決──貯蓄を全てばら撒いたのち死刑!



 ……というのが、今の俺に置かれた状況である。まだこの世界に来て1週間も経ってないのにも関わらずだ。


「後は錬金術師……か」


 俺は指をクルクルと虚空に回しながら陽気に考え事をする。それは盤石へ、理を詰めていくための思考。


 一見絶望的な状況だが、俺はそこまで焦っていない。


 借金の5,000万だが、ギルドが直れば払う必要はない。そして残りの200万も返済出来るすべはあるのだ。


 それは竿殺し(ロッドアウター)だ。


 これはガーネットから聞いた知識なのだが、討伐クエストにおける報酬金が500万トルカを超えるモンスターを討伐すると、その報酬は町のギルドからではなく国から贈られるそうなのだ。


 つまり竿殺し(ロッドアウター)ことピラルクィーンを討伐した暁には国から700万トルカが贈られるのだ。


 したがって、その700万トルカで夜会で使った200万トルカを返済し、数百万トルカで凄腕の錬金術師にギルド再建の依頼を頼めば万事解決。


 更に数百万のお釣り付き!


「勝ったな、ガハハ!」


 唯一、この町に凄腕の錬金術師が居るかが懸念材料なのだが、猶予は1週間もあるのだ。何とかなる筈だ!


「そうとなればギルドに直行しなければ!」


 俺はウキウキの上機嫌で、更にスキップをかましながらギルドへ向かって行った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ──ギルド



「……ちょっと何言ってるか分からない」


「お気持ちは察します……」


 俺は今、絶望の淵に立たされている。盤石の状態から一転、詰めた理は一瞬ではぎ落とされ、崖の淵に追いやられたのだ。


「ちょっと何言ってるか分かんないんですが……」


 目の前に居るギルドの受付嬢──レイネスさんも気不味そうな顔をしながら話す。


「今回のピラルクィーンの件ですが……国から報酬金が贈られる事は無いそうです」



 絶句────……



「れ、レイネスさん……その冗談はさすがに笑えないですよ……?」


 震えながら言葉を紡ぐが、レイネスさんは顔を合わそうとしない。


「今回は私も掛け合ってみたのですが……」


 深刻な顔で話す姿を見て直感した。これが嘘では無いことを──


「あの、理由を聞いてもいいですか?」


 ここで700万トルカを貰えないと、俺のパーフェクトプランが全て潰れるのだ。


「その……500万トルカを超えるクエストの報酬は、国に申請を出し国から送られる役人が現物を確認して初めて通るらしくて……」


 ここまで言ったレイネスさんがうつむきだす。


「ま、まさか……」


「は、はい……」


 俺を含め、レイネスさんしかり、誰か国に申請をしたか?


 いや、申請だけならいつでも出来るが、現物確認って…………ならその現物はどこいった?


 ──腹の中。


「居ない──」


「…………」


 最早ここにピラルクィーンは存在しない。昨日食ってしまったのだから……


「……マジ?」


「……はい」


「…………」


「…………」


 レイネスさんは申し訳無さそうに俯く。


「…………はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアア!?!?!?」


 阿鼻叫喚の大絶句。なんじゃそりゃああ⁉︎


「申し訳ござません! この町で500万トルカを超えるクエストを達成された事が過去に無く……さらに魚が落ちてきてギルドが半壊した事も初めての経験でしたので……その、すっかり忘れておりました……」


「────」


 俺はなんて言えばいいんだ。話を聞く限り、前半はギルド側のミスだが後半は明らかに俺の責任なんだよなぁ……


「あの……」


 俺は残った可能性に賭ける為にレイネスに問いかける。


「昨日の夜会で……ピラルクィーンを討伐した事を証明出来る人が200人以上居るんですけども、それではダメなんですか?」


「ダメですね!」


「「──ッ⁉︎」」


 その声はレイネスさんでは無く、それよりも後ろの方から──


「それでは証拠不十分です」


 かつかつ、と黒のスーツを着て紫檀したん色の髪を靡かせた女が近づき答える。


「……誰?」


「先程の会話に出てきた『国から送られる役人』の一人です」


 クイッ、とメガネをかけ直しながら答える。


「あなたが朝山京太郎さんですね。噂は聞いてますよ」


「噂?」


「はい。ピラルクィーンを倒したという根も葉もない嘘を広めているそうじゃないですか」


「ちょっとシルさん!」


 挑発する様に問いただす役人に、レイネスさんが反応する。


「おっと、本人の前で失礼でしたか?」


「構わないですよ。現に倒したのは俺では無いんでー」


「なっ⁉︎」


 どこ吹く風で答える俺に唖然とする役人。


「聞いてくださいよ役人さんン! なんと700万の賞金が掛かったモンスターをウチのパーティーの15歳の女の子が倒したんですよぉ! 」


 俺は役人に不躾に近寄る。


「その女の子がぁ〜、せっかく倒したというのに! 国は報酬を払わないそうなんですけどぉ〜、どう思います?」


 ウザったらしい口調で役人を挑発する。やられたら倍返しは当然だよね。


 役人の女の額に青筋が立ち込める。


「その女の子も可哀想ですねぇ! あなたみたいな管理の悪い方が同じパーティーだったから報酬金が貰えないのですからぁ!」


 役人もウザったらしい口調で俺を煽り返す。


「ほんとですよねぇ。それにしたって200人も証人が居るのに証拠不十分なんてねぇ! 役人はどんだけ頭が固いんですかねぇ〜。地盤改良のしすぎですよねぇ〜? ァあ?」


「頭固い云々ではなくルールですからぁ! そんな事もわきまえない低俗で品の無い冒険者には困ったモノですねぇ! クソが」


 お互いイライラが募り、後半で素が飛び出している。


「あ、あの……お二人とも控えて下さい」


 見兼ねたレイネスさんが止めに入る。


「いやいやレイネスさん。随分と控えてるんで大丈夫ですよ、問題ない」


「その通りよレイネス=クリスティア。私も全然控えてるから大丈夫、問題ない」


「あァ? 控えてるだぁ? 随分とムキになってんじゃねえか!」


「そんな事ないです! あなたこそ足りないおつむで随分と私に食って掛かってきてるじゃないの!」


「はあ? ふざけんなよ?」


「あなたこそ調子に乗らないでよ?」


「ど、こ、が! 控えてるんですか?」


 レイネスさんは微笑みながら俺と役人、二人共にアイアンクローをかます。


「いだだだだだだだだ──ッ!!!」

「いたたたたたたたた──ッ!!!」


 怖い。目が全然笑ってねぇ。しかも痛い。


「いだだだ、れ、レイネスさん誤解です。なあ役人さん?」


「誤解では無い! この男は全然控えてなかった! 」


「ふざけンなてめぇ! ここは回避一択だろうがよ! どんだけ頭固ぇんだよ」


「私はあんたなんかの思い通りに動かない。そんな思考だから頭が弱いって言われんのよ!」


「この女ァ……!」


「ザマァな──」


「「痛だだだだだだだだだだだだッ⁉︎」」


 メシメシ……、と先程より強い力で絞められる。


「痛だだだだ、冗談です冗談ですよレイネスさん。な、役人さん?」


「…………じょ、冗談では無い!」


「バカかてめぇは! 冗談では無いキリッ、じゃねぇよクソバカかかかかか⁉︎ 痛い!」


 俺と役人さんのこめかみがメシメシ、と悲鳴をあげていく。


「いい加減にして下さいよ。これ以上喧嘩するならギルドの立ち入りを禁止しますよ」


「なっ⁉︎ 」


 それはマズイ。この後ギルドで依頼クエストを発注するつもりなのに! そうでなくてもギルドは頻繁に訪れるのだ。出禁はマズイ。


「いやいやいや! 僕たち凄くナカヨシ。そうだろ、役人さん?」


「は? 私があなたと仲良くですって? あり得ない!」


「ほらレイネスさん。役人さんもこう言ってますし!」


「訳分からないです」


 レイネスさんは呆れ顔でアイアンクローを解放する。


〔いいから話合わせろやクソがァ!〕


 俺は役人に肩を組み、後ろを向き小声で話す。


〔どうして私があなたと話を合わせないといけないのよ!〕


〔あぁ? 元と言えばお前のせいだろうが! ギルド出禁は流石にマズイんだよ!〕


〔あっ、そう。それは私にとっては好都合なのだけど〕


「ざけンなゴラァ! テメェの臓器ブチ抜くぞ! 」


「あ! あー! 今この男は暴言を言いました!」


 役人はわざとらしく大声で叫びだす。


「今のは私も聞こえましたよ」


「ち、違うんです。あなたの臓器は美味しそうですね、って言ったんです。決して暴言なんかでは御座いません」


「きしょ……」


「殺すぞくそアマがァ」


「あ! あーあー! 殺すって言われた!」


 ……どうしよう。本当に腹が立つ。さすがの朝山さんもプッツンしそうだ。


「二人とも落ち着いて下さい。話が進まないです」


 指をポキポキと鳴らしながら宥めるレイネスさん。その額には青筋が立っているのは見なかった事にしよう。


「ごほん。兎に角私が現物を確認しない限り報酬は出せません」


「ピラルクィーンの現物はお腹の中に居るんですが、出したら700万くれますか?」


 俺は気を取り直して控えめに話す。


「出すのは構いませんが、私がそれを現物と見なすかは別問題ですよ?」


「っち!」


「あ! この人舌打ちしました! 今舌打ちしましたぁ!」


「ふざけンな! してねぇよ!」


「しましたぁ〜! おつむの弱いのも程々にして下さいぃ〜!」


「上等だゴラァ! 表へ出────」



 ──ブチッ!



 その後、レイネスさんの目にも留まらぬ早業で俺と役人、二人共々ギルドから放り出されてしまいました。


 






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