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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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4 黒の奇術師は喋らない

夜会の次の日です



 ──朝


 こちらの世界には雨という概念が無いのか! とツッコミたくなる程の快晴。


 只今朝の7時。起きたは良いものの、する事が全く無いのでリビングでダラダラ〜と転がる。


「あ、キョータローお早う」


 首を向けるとそこにはガーネットが居た。いつも通りのガーネットだ。


 昨日ドキッとさせられたり、いきなり『童貞!』と言い放ったガーネットとは違う。いつものガーネットだ。


「ああ、お早うさん」


 だから俺もいつも通り、お早うの挨拶を交わす。


「なあガーネット」


 何の気なしに俺の家に居るが、結局のところ答えを聞けてないんだよな。


「どうしたの?」


 呼ばれたガーネットは妙に上機嫌で何かを待ち望む様な顔をしている。


「…………いや、何でも無い。気を付けて学校に行くんだぞ」


 聞けねぇ! 聞ける訳ねぇ!


 やっぱりアレだろうか? 顎クイして『行かせない。お前は俺のモンだ! キリッ』と言うべきだったのだろうか……


 うん、無理。そんなん言えてたらとっくに童貞なんか卒業してたわ! 舐めんな!


「……キョータロー大丈夫? 」


 壁に頭を叩きつけて苦悩する俺を見て、ガーネットは不審がっている。


「うーん。大丈夫じゃないかな……色々と」


「色々……? そう言えばどうやってギルドを直すの? 」


「何も考えてない」


「────えっ?」


 ガーネットが凍りつく。


「何も考えてないっす!」


「────」


 そして空間も凍りだす。それはサンサン太陽ですら融解できないほど冷たく凍る。


「…………え? キョータロー……何か、案が……あったんじゃあ……」


「いや、マジで何も無い」


 ガーネットが大真面目に絶句している。それは『明日世界が滅亡します』と宣言された時くらい深刻だ。


 小学生の時、隣の席の真面目な女の子に冗談で『明日で世界終わるって』と言った時もそんな顔をしてたから間違いない。


 因みにだが、俺が友達が少なくなったのもその時期辺りだ。訳は言及するまでも無いな。


 ここは何か言って落ち着かせなければいけない。


「ガーネット、落ち着いて聞いてくれ」


 俺は組んだ両手を顔の近くに掲げ、いかにもって程のシリアス顔を作る。


「俺は30年という時間で二つの世界を見てきた……」


「う、うん……」


「共通点も有れば全く異なる概念も有るという事がはっきりと知らされたよ」


「???」


「水は自力で上には登らない。これは共通──というか絶対だ。絶壁を登っていく水があるだろうか? いや、無い」


「?????」


 悪いなガーネット。正直俺も何言ってるか分からないが、丸め込むには相手に理解させずそれらしい事を最初に言うのが鉄板なんだよ。


「降ってきた雨が自力で天に昇っていく事はあり得ない。──ただしそれは自力に限る(、、、、、)


「────?」


「元々住んでた世界では『ポンプ』やら『噴水』やらと先人の技術から生まれた物で水を登らせる事が可能になった」


「ポンプならこの世界にもあるけど……」


「……まあ聞け」


 ごほん、くじかれたので一つ咳払い。


「だがそれを作るために労力と多大な時間を要するんだよ。つまり人間の力を時間と労力をかけて機械に変換させ、間接的に成就する……それがちっぽけな人間が世界を牛耳るまでに発展した所以(ゆえん)──すべだ」


「…………?」


 ガーネットは『何を言っているか分からないが何か凄い事を言っているんだろう』……みたいな顔をしている。


「だがどうだ? 魔法使いって奴は自分の力──魔力で直接変換させ成就してみせる。人間が時間を掛けて成した事を、杖を一振りしただけで成してしまうではないか! 全く以て素晴らしいではないか!」


 俺は息を吸い、


「つまり、魔法が使えるこの世界なら! こんな事態くらい何とかなる。何とかなる筈なんだよ! 」


 ビシッ、と宣言してみせた。


「……つまり、何も案が無いって事だね」


「グハァアッ!」


 ──閃光一文字


 ガーネットは、長々とベラベラと話して作り上げた濃霧をいとも容易く掻き分け核心をひと突きしたのだ。


「キョータロー……」


「はい、すみません。この後ギルドに言って情報を仕入れてきます……」


「全く……本当、昨日のは気の迷いだったみたい……」


「ん? 昨日? 」


「うんん、何でも無い。どうせキョータローはダメダメだから」


「うぐっ、その通りでございます」


 何か会話が噛み合ってない様な気もするが、俺がダメダメの馬鹿野郎なのは間違いないだろう。


「行ってきます!」


「おう、行ってらっしゃい」


 ガーネットはクスッと笑いリビングを出て行った。


「…………はぁ」


 バタン、とドアが閉まる音が響いた直後、俺は盛大にため息をつく。


 何も案が無い──


 ガーネットに現実を叩きつけられ、またしても振り出しに戻ってしまう。


「やはりガーネットには通じなかったか」


 もしかしたら誤魔化せると思ったが……まあロエにはどうせ(、、、)通じるだろう。


 だってあの娘……アホッ子だし!



 ──数十分後



「おはよ〜京太郎」


 眠たげな目を擦りながらリビングに入ってくるロエ。


「ああ、お早う」


 くぁあ〜、とパジャマのまま体を伸ばし欠伸をする。


 どうでもいいけど体を伸ばすと、しなる様な肢体の曲線とおへそが見えちゃうから自重してね。


「そうだ京太郎。昨日あんなに強気に宣言してたけど、何か秘策はあるの?」


 思い出したかの様にロエは俺に問う。


 まあ、来ると思ってたけど。


「落ち着いて聞いてくれ」


 俺は再び両手を組み、顔の近くに掲げ、いかにもって程のシリアス顔を作る。



「いいかロエ。水って言うのは────」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ──朝8時


 朝の陽射しを浴びて、メインストリートの喧騒をトボトボ歩いて行く。ストリートは出店が並び賑わっている。


「はぁ……」


 無意識にため息が出てしまう。


「ロエはあれで大丈夫なのか? 朝山さん心配になってくるぞ……」


 先ほど、有無を言わせず完璧にロエを論破したのだが……あれはあれで心配になってくる。


 天然なのか、アホなのか、アホなのか……


 ロエの行く末が不安だ。


馬鹿ばか阿呆あほうか……」


 そんな2人の歳上がパーティーメンバーのガーネットもまた、色々と心配だ。


 そしてその馬鹿はストリートの喧騒を離れて、財布から500トルカ玉を取り出して、とある場所(、、、、、)へと向かって行く。


「今日も居るかな………………居た!」


 大木の日陰にひっそりと佇む黒のタキシードを着た老人。黒のハットをかぶり黒の革靴を履き、全身に黒を着こなす謎の老人。


 その老人は何故かストリートから離れた場所で淡々と手品を披露している。そこにプライドや生き甲斐などは無く、機械のように滔々(とうとう)こなしている(、、、、、、)


 熟練された手捌きに、服とは対極色の白髪と白髭が更に雰囲気を醸し出す。


「よっこいしょっ……と」


 俺は前回同様、向かいの芝生に腰掛ける。おっさんも俺の存在に、一度は目を向けるものの直ぐさま背けて手を動かす。


「…………」


「…………」


 おっさんは何も喋らず坦々と手品を披露する。俺も何も喋らずその手品を眺める。


 一見、異様な光景にも見えるが、俺自身この時間は嫌いではない。おじさんがしているのは手品であって魔法ではない。


 とどのつまり奇術──魔術とは違い、人間にも出来る芸当なのだ。


 突然住む世界が変わった俺からしたら、この芸を見ると落ち着くし安心する。


 もう一つは、おっさんをへし折りたい。俺から折れる訳にはいかない。何とも厨二チックだが、男には退けない闘いってモノがあるのだ。


 このおっさんを喋らしてみたい!


「…………」


「…………」


 俺の気持ちとは裏腹に、おっさんは只々無言で手品を繰り出す。


 まあ、手品自体も面白いから良いんだけどね。



 ──1時間後



 おじさんの手品は大体一時間で終わる。トランプやステッキなどを片付け始める。


「そろそろ……」


 俺はさっと立ち上がりあっさんの元へ歩み寄り、


「これ、閲覧料……」


 一時間ずっと握りしめてた500トルカ玉を差し出す。


「…………」


 おっさんは俺の顔と500トルカ玉を交互に眺める。しかし受け取ろうとはしない。


「ぐっ……早く取ってくれ。なんか恥ずかしいだろ!」


「……フン」


 そう言っておっさんは白い手袋をした大きな手を広げる。


「相変わらず口下手だな」


 だから俺は皮肉を叩きながら、その手に500トルカ玉を置いた。


 そしてこれ以上会話が続きそうにも無いので、きびすを返してギルドに向かった。


 べ、別に負けた訳じゃ無いんだからね。これはあくまで戦略的撤退だ。


 2日目にして会話が成立したのなら上等だろう(会話はしていない)。



 そんな事を思いながら俺はギルドへと歩いていった。




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