3 200万の弥縫策 sideガーネット
今回はガーネット視点です
──夕方5時
(大丈夫なのかな……)
私は端っこで、ステージ上のキョータローを見つめる。
(一応仮設ステージと大量の机とイスくらいは作ったけど……)
2時間前、私はキョータローからギルドに通う人数分の机を作ってくれと頼まれた。
具体的な案までは話してくれなかったが、取り敢えずキョータローの言われるがままに作業した。
(まあ……ギルド半壊は私の責任でもあるし……)
何か言われるかと思って身構えたけど、キョータローは何も言ってこなかった。それに留まらず迅速に解決策を見つけ動き出した。
(やっぱり大人なんだなぁ……)
普段はだらしなくて、お酒ばっかり飲んでて、戦いだっていつもギリギリで──
「フフッ……」
そんな事を考えると、クスっと笑いが出た。すぐさま口を手で覆う。
(そうだよね。いきなり住む世界が変わって、体も変わって、それなのに魔法が使えなかったら驚くよね……)
私は『魔法使い』が『人間』に変わったのを見た。同じヒト科でも『魔法使い』と『人間』は大きく異なる。変わった瞬間を見る事は無かったが、明らかにヒトが変わっていた。
(いきなり抱き着かれた時はビックリしたけどね……)
あの時はキョータロー夢だと思ってたんだっけ? 会社に遅刻するとか言ってたし。
私はそんなキョータローをチラリと見る。
意を決してマイクを握り、息を吸い、第一声を──
「えー、本日はお日柄も──」
キィイイイイイイイイイイイイイイン!
突如、耳に響く甲高い雑音が空間に広がる。
「なっ……」
そしてキョータローも不意をつかれた様に動揺する。
ざわ、ざわ……客席も同様。
しかしキョータローは直ぐ様仕切り直し、
「えー、本日は──」
キィイイイイイイイイイイイイイイン‼︎‼︎
「…………
──Fu○Kッ‼︎‼︎‼︎‼︎ 」
ダメだったみたい。何やら汚らしい言葉を吐き、マイクを地面に叩きつけた。
「はぁ……」
私は一つため息を零し天を見上げる。
(やっぱり気の迷いだったみたい……)
「…………ぷっ、クスッ」
キョータローが15歳も年上の人とはとても思えない。どうも30歳の大人と一緒に居る気がしない。だから一緒に居易い。だから波長が合う。だからこそ調子が狂ってしまう……
「どうしたのガーネットちゃん? 」
「えっ⁉︎ いや、何でも無いよ!」
私は急いで笑い顔を抑える。キョータローよりスカーレットちゃんの方が大人びて見える。
「……どうしたの? 」
「うんん。何でも」
私はそっと微笑んで、そう答えた。
「ゴホポむ、あ──あ──」
視界の端ではキョータローが仰々しくマイクテストを行っている。
「本当……」
あんな姿だけを見ると、情けなく、ただの頼りない人にしか見えない。
『──前へ来いッ‼︎ 三人でぶっ倒すぞ! 』
でも……どうしてだろう……?
竿殺し戦で、キョータローが私に力強く放ったセリフがいつまでも頭の中に残っている。
それは強く。いつまでも強く。
キョータローとは、まだ会ってそんなに経って無いのに……
「────1週間ッ‼︎‼︎ 」
そうそう、大体それくらいかな。なんなら1週間も経って無い。それなのにキョータローが私にもたらした影響は大きい。
キョータローと一緒に居ると何故か、学校の友達と居る時に抱く謎の焦燥感が消えてしまう──
「うんん、違う……」
何故か、なんて嘘。
本当は分かってる……
何となく想像は付いてた。
「私は……」
私は──
──クエストが好きなんだ!
キョータロー会ってからの数日、たったの数日なのに、私が今まで受けてきたクエストより密度が濃い。
そして再認識させられた。私は闘うのが好きだった。それは昔から。
しのぎを削って勝つのが好き。ギリギリまで競って、競り勝つ闘いが好き。きっかけは覚えてない。それでも、その為に冒険者を目指した。
魔力ランクも高く、恵まれているとも言われた。だから自信を持って冒険者の扉を開いた。
でもそれは驕りだった……
中々パーティーに入れて貰えなかった。入れて貰えても雑用が多かった。
──幼いお前は後ろに引っ込んでろッ!
──女のくせに前に来るなッ!
──どうせ弱いんだろう!
目を瞑ると思い出す誹謗中傷の数々。私の自信は一気に壊された。
誰も私を見てくれない。誰も私をちゃんと評価してくれない。だから私がダメな訳ではない……。そう思う事で私は私を維持した。
もしかしたら、実力を見せたら評価してくれるのではないかと思った。
万が一、前線に立てたら結果が残せるんじゃないか。
これは私に対する嫉妬なんじゃないか。
そんな小っぽけな希望を胸に宿しながらパーティーに参加した。
──小っこいのは黙って補助をしろッ!
──精々足を引っ張らない様にするんだな
それでも私が前線に出る事は無かった。後衛で支援しても「そんなの出来て当然だろ」と罵倒された。
誰も……私を、見てくれ無……
違う……きっちり評価されてる。私は弱いんだ……。全然凄くないんだ……。誰も見てない? 違う。見た上での評価なんだ。
──もっと自信持てよ。
宥める様に微笑む顔がフラッシュバックされる。
──お前は強いよ!
──お前は大したやつだよ!
今までの評価とは全く反対の評価。
キョータロー……私は強いの? 役に立ててるの?
──お前の強さを証明してやるよ!
ちゃんと証明してくれた?
私は……
私は…………
──言っただろう、お前は出来るって!
優しさに包まれた暖かな言葉が今までの中傷を上書きしていく。
「私ってこんなに我が儘だったんだ……」
もう一度聴きたいと思ってしまうなんて。
私はステージ上のキョータローを見る。何やら客席と揉めている様にも見える。そんな事よりも──
聴きたい。
早く聴きたい。
満たされたい。
全てを埋め尽くして欲しい。
甘えたい。
一度外に出た欲望が噴出していく。止まらない。
もう一度言って欲しい。
確信したい。
見つめる瞳は動かない。只ひたすらに見つめたまま……
いつまでも居て欲しい。
幸い……というかキョータローはもの凄いタフだ。そして回復が早い。今回だっていつの間にか傷が全て消えてた。そしてミノタウルスの時だって。
だから私よりも長生きしそう。冒険者という職業なのに死ぬビジョンが浮かばない。
そうゆう面でならいつまでも一緒に居れそうな気がす──
「出来なかったら煮るなり焼くなり好きにしてもらって構いません」
…………へ?
「きょ、キョータロー⁉︎ 」
何かとんでもないセリフが聞こえた気がする。
「何なら私の貯蓄全額をここでばら撒いて自害してもいい」
「「「「「なっ‼︎‼︎‼︎‼︎」」」」」
私を含め、ロエさん、スカーレットちゃん、おじさん、客席全てが動揺する。
「じ……自害って……」
何の躊躇も無く放つキョータロー。
策は本当にある……の? 二時間前は『執行猶予を貰う』としか言ってなかった様な気がするんだけど……
そして、その強気に騒つく客席からも反論が返ってこない。有無を言わせず押し倒した。
これは只の弥縫策、言ってしまえばその場しのぎでしかない……はず。
なのに、
「なんであんなに……」
キョータローは堂々としたまま頭を下げた。傍ら、多分殆どの人が見逃したタイミング、位置で、ニヤリと口角を上げて嗤う姿が見えた。
「──ッ!」
本当に秘策があるって……ことなのかな?
未だにキョータローが考えてる事が分からない。
それでも私は付いていく。
私を──ガーネット=リズベルンを一番最初に見てくれた、存在意義をくれたちょっと頼りない私のリーダーの事だもん!
きっと策はある筈だよね!
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──午後7時
太陽の光は消え、辺りを灯す灯篭の数々が夜空を照らす。
そして飲みはしゃぐ冒険者の数々。活気に溢れたパーティーが夜を先延ばしする。
「ガーネット〜飲んでるか?」
そして1人、夜を賑わす主役が私の元にやって来る。
「飲んでいいの? 」
「ダメ!」
酔っていても意外とキッチリしているキョータロー。即答されちゃった。
「ふぁあ〜、今日は疲れたぞぉ全く」
お酒を片手に千鳥足で話し掛けてくる。顔には出てないけど、既にフラフラの状態になっている。
「フラフラだね」
「まあな、飲まんとやっとられんからな」
そういってお酒を豪快に仰ぐ。
「それで? どうだったガーネット? 」
「ん? 何が?」
「さっきのでだいぶ勧誘の奴等が来たんじゃないのか? 」
「さっきのって……」
夜会が開催される前、竿殺しの解体ショーでの出来事を思い出す。
「ん〜? どうだった? 」
ニヤニヤと、まるで分かりきった回答を待ち望む様に私を眺める。
「もう、あの後大変だったんだからね!」
「はっはっは! それでいいんだよ」
「え? 」
キョータローは胸を張って高笑いをする。
「出来る奴ってのは、何かと大変なモンなんだよ。だからガーネットはそれでいいんだ。俺もリーダーとして鼻が高いぞ」
「……キョータローってズルい」
「ははっ、社会に浸った大人はズルいんだよ」
キョータローは笑いながら私のおでこをつつく。
本当にズルい……
私は両手でおでこを押さえながら、キッ、とキョータローを睨む。
「それで、答えは出たか?」
「答え? 」
「そうだ、色んなパーティーから勧誘が来たんだろ? 選択が訪れたなら決めんといかんだろ? 」
「選択……」
私はとっくに決めている。言ってしまえば初めから選択肢など無かったのだから。
ちらっと目が合う。
「?」
やっぱり私は子供だなぁ。いくら大人の様に振舞っても中身は子供のまま。
我が儘で甘えん坊──
「ねえキョータロー」
「どした? 」
私に出来る精一杯の色香で、
「キョータローは、……どうして欲しい?」
「────ぶファッ‼︎⁉︎ 」
キョータローは口に含んでいたお酒を吐き、取り乱す。
恥ずかしい、顔が熱い、心臓がうるさい。
今までこういった事には無頓着だったから初めての感覚だ。多分顔は真っ赤に染まってるかも……
「ブッ、ごほっ、ぼほっ……」
キョータローは慌てて口を拭き、真っ赤に染まった顔を手で覆い、覗かせたジト目で私を見る。
「……ど、どうって?」
「そのまま、だよ……」
「「………………」」
((〜〜〜〜ッ!!!))
……何だろう。すっごい恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「…………俺は」
気まずい沈黙を断ち切る様にキョータローが言葉を紡ぐ。
「俺は……ガーネットが必要だ。……だからこのパーティーに、残って欲しい」
羞恥に塗れ、歯切れの悪いセリフなのに、私の胸に突き刺さる。
嬉しい。どうしよう、嬉しい。それだけで勧誘を全て蹴った甲斐が──
「だが──」
だが?
「もしガーネットが行きたい所があるなら、俺はその旅路を見送るよ」
「──えっ? 」
「ガーネットは何となくだが、クエストで闘うのが好きなんだろう? このパーティーに居たらそんなに闘えないし、ガーネットの成長も遅くなるだろう」
「…………」
「今回の件でガーネットの強さは周りに知れ渡っただろうし、別のパーティーで邪険にされる事も無くなるだろう」
「え……」
もしかして、もしかしてキョータローはその事を全て含めてこの夜会を開いたって言うの? 私の、冒険者からのイメージを塗り替える為に……
「もしかして、その為に……? 」
「んあ? まあ…………いや、違うな。本当は俺の為なのかも知れない。俺の傲慢だ」
「どうゆう事? 」
そう聞くと、キョータローはジョッキのお酒を飲み干し、天を仰ぐ。
「以前ガーネットが前のパーティーで良い待遇を受けなかったって言ってただろ? 」
「……うん」
「なんかな、それが凄い許せなかったんだよ。本当、只の傲慢だけどな」
「…………」
「だから見る目の無かった奴等にギャフンと言わしてやりたかった。後悔させてやりたかった。ガーネットは凄い奴なんだぞって知らしめてやりたかった。そしてそれと同時に……自慢したかったかも知れんな」
文末に力が無くなり始める。
「全く、人の事を考えている様で自分の事ばっかり考えてやがる。本当に情けない」
「……そんな事ないよ」
キョータローは驚いた様に目を見開いて私を見る。
「そうか……。ガーネットは優しいな」
私は頭を優しく撫でられた。
違うよ。優しいのはキョータローの方。何もかも自分の手柄にすれば良かったのに……
それに留まらず、私の今後の事も考えて行動してくれた。
本当に優しい。私に選択肢までくれるんだもの。キョータローは優しいよ。
でもだからこそ分かった。今までずっと分からなかった事が。
「キョータロー!」
「ん? 」
「キョータローって本当に魔法使いだよね」
「んあ? まあな」
頭にハテナを浮かべ私を見る。
本当に……
選択肢なんか必要ないんだよ。そんな親切なんて要らないんだよ……
我が儘で甘えん坊な私にそんな物は必要なかったのに。
そんなんだから──
私はテテっと2、3歩ステップを踏み、クルっとターンをしてキョータローを見る。それはもう満面の笑みで、
「童貞! 」
「ガバはっッ!!!」
キョータローは盛大に血を吐き倒れ臥す。
これはダメダメなキョータローへの罰。
「〜〜〜〜♪ 」
私は振り返る事なく、ニヤニヤした顔をキョータローに見せる事なく、軽やかな足取りでスカーレットちゃんの元へ歩んでいった。




