表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
44/89

2 200万の弥縫策

今回はちょいと長いです



 ──夕方5時



(ここまでは完璧だ……)


 俺は仮設ステージの上に立っている。その横にはワガママミラーハートの竿殺し(ロッドアウター)が佇まう。


(学校帰りのロエも連れ出して、看板を作ったり宣伝もした……)


 ステージに広がる客席には200は超える数の客や冒険者が集まっている。


(受付嬢には俺が出来る最大の土下座『ゼロバースト・改』をして了承を得た……)


「なんだ、なんだ……」

「どうなってんだ、ギルドが壊れてるぞ」

「それよりステージのアイツは誰だよ」

「いやいや、魚のスケールバグってね?」


 飛び交う客のガヤ。だが想定内だ。突然呼ばれたら誰だってそうなる。


(大丈夫。ギルドのキッチン担当の主婦達の手も借りれたのだから……)


 遠くからロエとガーネットとスカーレットとおじさんが、ステージ上の俺を心配そうに見守る。


(あとは第一声で噛まなければ完璧だ)


 俺はマイクをギリっと握り息を吸う。


「えー、本日はお日柄も── 」

 キィイイイイイイイイイイイイイイン!


 俺の挨拶を遮るハウリング。


「なっ……」


 突然のアクシデントに、完全に出鼻を挫かれる。


 ザワザワ……ざわ……


 客席がざわめく。


「なんだ! 」

「どうしたのかしら」

「何なんだ一体! 」


 ここぞとばかりに騒ぎ出す客席。だが許容。これくらいのアクシデントくらいなら過去に経験済みだ。修正可能。


 ふうぅ……一つ息を吐き、仕切り直す。


「えー、本日は── 」

 キィイイイイイイイイイイイイイイン‼︎‼︎


「…………


 ──Fu○Kッ‼︎‼︎‼︎‼︎ 」


 思わずマイクを叩きつけてしまった。


「何やってんだ!」

「やばくねww」

「おい、ステージの奴がキレだしたぞ」

「だから一体何なんだ! 」


 またしてもざわめきだす。


(しまった……つい)


 俺は忍び足でマイクを取りに行き、


「ゴホポむ、あ──あ──」


 咳払いとマイクテストを行い再度仕切り直す。


「えー、お見苦しい所済みません。そしてもう1つ謝る事が御座います」


 先手必勝──とは訳が違うが、こうなったらまどろっこしいのは抜きにして端的に伝えてやる。


「私こと朝山京太郎は、不運にもギルドを半壊させてしまいました。大変申し訳ございません」


 単純明快に伝えてビシッと頭を下げる。


「ふざけんな! 」

「何やってんだお前は! 」

「帰れ、帰れ! 」

「どんな不運な事故が起きればギルドが半壊するんだよ! 」


 巻き起こるヤジと怒声の数々。分かっている、こうなる事は予想出来た。だから言葉巧みに誤魔化しながら進行するつもりだったのに……


 流石の俺も2回連続ハウリングは予想出来なかった。


「ふざけんじゃねぇ! 」

「誰かあいつをひっ捕らえろ! 」


 だからと言って主導権は握らせない。


「ふざけんな! 」

「何とかしろ! 」

「弁償しろ! 」


「────1週間ッ‼︎‼︎」


 頭を下げた状態で発したキレのある台詞セリフは、怒声の全てを切り裂き静寂を作る。


「もちろん何とかします──」


 俺はゆっくりと頭を上げ、静まった客席の冒険者を見渡す。


「ですので1週間だけ猶予をくれないでしょうか。さすれば元よりも凄いギルドにさせましょう」


 出来るかも分からないことを、大見得切って放つ。


「おいおい、どうすんだ? 」

「そんな事出来んのか? 」

「だがあの堂々とした態度。時間があれば出来る口ぶりだぞ」

「でもどうやって……? 」


 ざわ、ざわ……客席が不穏と疑念に包まれる。


 しかし誰も俺には何も言ってこない。


 これで俺の勝利か?


「おいあんた! 出来なかったらどうすんだよ! 」


 1人の冒険者が意を決して質問してきた。


「そ、そうだ! 」

「そうだ! どうするんだ!」

「出来なかったらどうすんだ! 」

「そうだ、そうだ! 」

「タダで済むと思うなよ! 」


 一匹目のペンギンが飛び込むとその後は次々と飛び込む様に、意を決した冒険者に乗じて多大なヤジが俺を攻める。


 だが相手のペースには持って行かせない。


「出来なかったら煮るなり焼くなり好きにしてもらって構いません」


 だから何の躊躇もなく言い切ってやった。


「きょ、キョータロー⁉︎ 」

「京太郎⁉︎ 」

「あの人……⁉︎ 」

「兄ちゃん⁉︎ 」


 全てが虚勢と知る4人は動揺している。


 だが突き通すしかない。嘘は突き通すと嘘じゃなくなるのだ。良い子のみんなはマネしちゃダメだぞ♡


「何なら私の貯蓄全額をここでばら撒いて自害してもいい」


「「「「「なっ‼︎‼︎‼︎‼︎ 」」」」」


 堂々と。圧倒的自信を見せつける。


「ど、どうする……」

「死ぬって本気かよ……」

「全財産ばら撒くってよ」

「ならやらせてみても良いんじゃないか?」

「あいつはかなり貯め込んでいると見た! 」


 全財産と命──天井を超えた上乗せ(ベット)に客は怖気づく。


 まあ、貯蓄なんて15万トルカ位しか無いけどな。最後の奴はヒトを見るセンスが皆無の様だな。


「ぐっ、分かったよ……」


 質問をした冒険者は、おずおずと手を下げ後退する。


「では、よろしいでしょうか? 」


 お淑やかに、宥める様に、でも下手には出ない口調で問いただす。


「……ちっ!」

「…………」

「くっ……」

「ぐぅ……」


 不満そうな顔をしながらも、反論は返ってこない。


 俺は客席全てを見渡し、口を開く。


「皆様ありがとうございます。約束はきちんと守ります」


 そして深々と頭を下げる。


(……くくく、勝った。執行猶予を得たぞ。これで第一段階完了だ(、、、、、、、)


 口角を三日月の様に吊り上げ密かにわらう。その顔は客席には見えないだろう。


 正直、賭け金が多大な気がするが……ここは魔法が使えるのだ。だからギルドを直すくらい絶対出来る筈なんだ。


 地球に居たらこんな約束は絶対しない。だって不可能だから。でも魔法が使えるのだ。いけない訳が無い。


 そして嗤いを抑え顔を上げる。


「続きましては私から皆様へ、謝罪の意を込めて一夜限りのパーティーを開きたいと思います」


「パーティー……? 」

「何だ? どうゆう事だ?」

「パーティーだってよ」

「何するんだ? 」


 またしても客席がざわめきだす。しかし今回は困惑の中に期待が混ざった騒めき。パーティーという言葉に少なからずの好印象を与えている。


(よし、良い食いつきだ……)


 恐怖で支配してはダメだ。勢いで丸め込んだってダメ。それだと誰も付いてこない。背中で中指を立て嘲笑う奴が絶えないからだ。


 だから与えなければならない。アメを! 溜飲を下げさせる何かを!


 これは一時的だが効果がある。だが、一時的でいい。ギルドが直る1週間の間だけで良いのだ。


「ここにいる全ての皆様を対象に、ギルドと連携して酒場のメニュー全てタダの夜会を開きます! 」


 ザワッ! と客席が荒れる。


「マジかよ! 」

「俺たち全て……200人は軽く超えてるぞ」

「大丈夫なのか! 」

「タダって何でもか! 」


(よし……好感触だ! )


 騒つく中、1人の男が手を挙げる。


「タダって事はメシも酒もか? 」


「はい。その通りでございます」


「ど、どれだけ食べてもか?」


「はい」


「て、って事は、ドルシャブランもか? 」


「……? 当然でございます」


「「「「「おおおおおおおお!」」」」」


 ドッと客席が沸く。ドルシャブランが何かはわからないが今宵は何を頼んでも全てタダ。だから堂々と宣言する。


「おおおお! すごいぞ! 」

「食べ放題だぞ! 」

「あのドルシャブランも飲み放題だ! 」


 そして客のウケも完璧に掴んだ。ぶち込むなら今!


「それでは、これよりパーティー開始致します」


「「「「「おおおおおおおおッ!」」」」」


「そして余興として、僭越ながら私 朝山京太郎が、本日そこのおじさんが釣り上げた竿殺し(ロッドアウター)ことピラルクィーンの解体ショーを行いたいと思います! 」


竿殺し(ロッドアウター)だって⁉︎ 」

「あのデカイ魚の解体ショーだってさ! 」

「って事は食えるのか! 」

竿殺し(ロッドアウター)を釣り上げただって⁉︎ 」

「おじさんってあのおじさんがか⁉︎ 」

「すげーぜ! あんたやるじゃねぇか!」


 おじさんに止めどない歓声が上がる。竿殺し(ロッドアウター)は釣り通なら誰でも知る大物なのだ。


「いや……釣り上げたのは俺じゃ──」


「さらに! 釣り上げたピラルクィーンを討伐したのは、そこの赤色コンビのガーネットとスカーレットだァ‼︎‼︎ 」


 おじさんの言葉を遮る様に、俺はガーネットとスカーレットの方に手を指す。


「「──えっ⁉︎ 」」


「何だって! 」

「あんな幼い2人がだと! 」

「ガーネットって……あのガーネットか⁉︎」

「ピラルクィーンって言ったら報酬700万トルカはする化け物だぞ! 」


 今度は赤色コンビに歓声が上がる。ピラルクィーンはレベルの高い冒険者なら誰でも知るモンスターでもあるのだ。


 たちまち3人の前に人が集まりだす。


「すげーぜ! あの川の主を釣るなんて! 」

「竿折りまくった甲斐があったな! 」


「いや……俺だけの力じゃ……」


「謙遜するなよおじさん! 」

「そうだぜ!  あんたはレジェンドだ! 」


 おじさんの周りには釣りバカ達が……


「君たち若いのに凄いね! 」

「中学生かい? よくあんな化け物を討伐したね! 」

「君たち本当に凄いよ! 」


「「い、いや……私は……」」


「もし良かったらウチのパーティーに入らないかい? 」

「いやいや、ウチのパーティーに来なよ! 大歓迎だ! 」


 アワアワするガーネットとスカーレットの周りには沢山の冒険者が集まる。そして色んな冒険者が勧誘活動に励んでいる。


 うんうん。ようやくガーネットの凄さに気付いたか。リーダーとしては鼻が高いぜ。


 数々の冒険者に褒められているガーネットを黄昏ながら見ていると、キッとした表情で見返された。


(……ガンバ! )


 だから声には出さず、グッと親指を立てて返してやった。


 これでガーネットが舐められる事は無くなるだろう。


(さて、そろそろ行きますか)


「それでは解体ショーを始めます。ガーネット! 」


 俺はガーネットの名前を叫ぶ。そして自分の杖をちょんちょんとつつく。


「仕方ないんだから……《風の精よ──」


 ガーネットは俺の意図を組み、杖を立て、呪文を唱える。



「──辻纏う風となりて舞い留まれ》ッ!」



 高速螺旋を描く密度濃い風が、杖に纏う。


「な、何だあの魔術は⁉︎ 」

「あの娘……即席で魔術を改変したんだ!」

「そんな事出来んのかよ! 」


 信じられないモノを見るかの様に騒めく冒険者。術を改変するのはそれだけ高度な技術なのだろう。


「さあ準備は整いました。これよりこの竿殺し(ロッドアウター)を1/4に解体していきます! ピラルクィーンの味に興味のある方は是非お駆け寄り下さい」


 そして俺はマイクを置き杖を構え深呼──


「ちょっと待った! 」


「んあ? 」


 竿殺し(ロッドアウター)を解体する手前、ローブを着た女性に止められた。


「ちょっと何を考えてるんですか! 」


「え? 解体しようかなーって思ってるんですが……」


 俺は何か不味いことをしただろうか?


「し、信じられない。あなたそれでも魔法使いですか! 」


「そうです、ただの魔法使いです」


 何故ここで魔法使い? ……確かに俺が着ているローブがボロボロで分かりづらいとは思うが。


「あなた杖を何だと思ってるんですか‼︎‼︎」


「まあ、バール(、、、)みたいな物ですかね」──と答えそうになった口を急いで閉じた。


 女はカタカタと震え、


「信じられません! 神聖な杖を何だと思ってるんですか! 同じ魔法使いとして恥ずかしいです‼︎‼︎ 」


「ウッセェエエエッ‼︎‼︎ テメェ等その神聖な杖ぶち壊しまくってる事を自慢してんじゃねぇか! たいがいにせぇや‼︎‼︎ 」──と、突っ込んでやりたいが、我慢、我慢しろ朝山京太郎。


 奴等は壊した杖の数をステータスにしているにも関わらず、よく杖を神聖な物と言えたな。


 ……と、本当は魔法を使いたくて仕方ない朝山さんは、そういった話題に非常にナイーブなので気を付けて下さいね。


「すみません。これはピラルクィーンを討伐したガーネットの力を見せる一つのパフォーマンスでしたが……いやはや、早計でしたね」


 隠しきれないこめかみの青筋は置いといて、あくまでも穏やかに、相手の怒りの琴線に触れない様に弁明する。


 そしてガーネットは空気を察し術を解除する。


 俺は杖をしまいステージ下の料理長から包丁を借り、ローブの女を見る。


「すみません、これで宜しいでしょうか? 」


「……はい、こちらこそ事情も知らずすみません」


 女はおずおずと下がっていった。


「それでは気を取り直し……4等分にぶった斬って差し上げましょう! 」


「「「「「おおおおおおおおお!」」」」」

「良いぞ! やれやれ! 」

「やってやれアンちゃん! 」

「その忌々しい竿殺し(ロッドアウター)に制裁を! 」


 既にお酒を飲んだ冒険者達や過去に竿殺し(ロッドアウター)にやられた釣り人達が盛り上がる。


「ヒューヒュー! 」

「やれやれ〜! 」

「良いぞ、もっとやれ! 」


 それにつられ辺りが歓声に包まれる。


「そんじゃあ行くぞぉおおおおお──ッ!」


 そんな空気に、俺まで悪ノリしてしまう。



「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ‼︎‼︎」」」」」



 ノリのいい歓声に、俺は一筋の刃をその肉に突きつけた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ──夜12時



 夕方5時から行われたパーティーは夜の12時を以って閉会した。


 結果を言えば大成功。皆が飲み、食い、満足して家に帰っていった。


 解体ショーの方も竿殺し(ロッドアウター)を4等分にした後、ギルドの主婦達が腕をまくり登場し、選りすぐりの料理へと姿を変えた。


 結局お前は料理してないのかよ! って突っ込んでくれるなよ? これは正義の三原則──『友情・努力・勝利』の友情に則っているのだからな。


「…………」


 相変わらずの詭弁っぷりにため息が出る。世界が変わっても、器が変わろうが、性格とは中々変わらない物だな……


 傾く月明かりを見上げながらふと感傷に浸る。


「無事終わったな兄ちゃん」


 声の方に首を向ける。


「おじさんか。そうだな俺もそこそこ酔っちまったよ」


 夜の11時を過ぎた辺りでガーネットとスカーレットの限界が来たのでロエに一緒に家に帰させた。


 その後の1時間は片付けに徹していたが、それまで俺はおじさんと竿殺し(ロッドアウター)を齧りつきながら酒を呑み過ごしていたのだ。


「兄ちゃん。今日は俺の一番の日となったよ。ありがとな」


 突然おじさんは頭を下げだす。


「おいおい止めてくれよ。月の光が反射するだろ」


 純粋に感謝を向けられると、気恥ずかしさからどうしてもふざけてしまう。


「かかっ、兄ちゃんらしいな」


「まったく、そうゆうのはシラフの時に言ってくれよな」


 多分シラフの時でもはぐらかすと思うがな。あまり感謝された事が無いので対応に困ってしまう。デレデレするベリルとは異なるが、根本は同じなのかも知れない。


「あーもう止め止め。とりあえず飲もうぜ」


「かかか! 兄ちゃん中々強いな」


 最早飲まずにはいられない。既に酔ってフラフラしているが……


「「じゃあ、乾ぱ── 」」


「あっ! 見つけました朝山さん! 」


 パタパタと奥から受付嬢が駆け寄ってくる。


「どうしたんですか? それより受付嬢さんも飲みますか? 」


「それじゃあお言葉に甘えて」


 受付嬢は耳に掛かった髪を優しく搔き上げ、妙に色っぽい声で微笑む。


「あれ……? あっ、ではここどうぞ」


 断られると思って冗談で言ったのだが……受付嬢もパーティーを楽しんだらしく、お酒で頬を赤く染め上げ無防備になる。


「それじゃあ乾杯! 」


「「乾杯! 」」


 俺と、おじさんと、受付嬢と。中々珍しい面子で乾杯した。


 席は薄暗い中のハイライト。足元の灯籠と夜空の煌きが混ざり合い、幻想的に照らす。


 そしてフワフワとした思考に連られ、グイッと3人が一気に酒を飲み干す。


「ああっ! 疲れ切った体に染み渡るぅ! 」


 今日も色々あったからなぁ。器が変わってからというもの、ゆっくり休めた記憶が無い。日常がブラック企業化している。


「朝山さん。どうせならドルシャブランを飲みましょう! 」


 そういって受付嬢は新しい酒を開封する。


 ギルドに居る時の親しみ易いが一線を置かれた感じの受付嬢とは違い、今宵はいつになく距離を詰めてくる。


「これが例のドルシャブラン……ワインだったのか」


「兄ちゃんドルシャブランを知らなかったのか? 」

「ええ! 朝山さんそれは損してますよぉ」


 2人が驚愕している。そんなに美味しいのか? いやね、俺ってそんなにワイン飲む方じゃあ無いんだよ? 分かってる? そう簡単に美味いって言わないんだからね?


 俺はグラスを持ち、一口、ドルシャブランを口に注ぐ。


「…………美味い。うまッ! 」


「だろ? 」

「でしょ! 」


 2人が自分の事の様に胸を張る。2人とも結構酔ってるなぁ。まあ、だから受付嬢さんもここに居るんだろうけどな。シラフだったら絶対断られてただろう。


 それとお礼も言っとかないとな。


「受付嬢さん。パーティーの件はありがとうございました」


「朝山さん。私にはレイネス=クリスティアという立派な名前があるんですぅ」


 両手で持ったコップで口元を隠し、頬を染めた受付嬢が、ジト目で俺を見てくる。


「レイネス=クリスティア……いい名前だ」


 俺も酔っている状態なので、シラフでは絶対言えない様な恥ずかしいセリフを平気で吐いてしまう。


「レイネス、でいいですよ」


 フフッと笑いながらレイネスさんは答える。


「良かったなぁ兄ちゃん! 冒険者の憧れの受付嬢とお酒が飲めて」


「それを言ったらおじさんも一緒に飲んでんじゃねえかよ」


 ゲラゲラと、しょうもない事で笑い合う。


「そう言えば、まだおじさんに自己紹介してなかったな。俺は朝山京太郎、ただの魔法使いだ」


「かかっ、珍しい名前だな。俺はアンドリューだ。呼びやすいようにアンじーさんでいいぜ、がっはっは! 」


「本当今更だなじーさん」


「おいおい、アンを付けろよ兄ちゃん! 」


 そんなたわいもない会話で笑いが出る。それ程に酔っているのだろう。薄暗い月明かりが雰囲気を醸し出し、更に酒が進む。


 今の時間は本当に心地が良い。


「それでレイネスさん。俺に何か用があったんじゃないでしたっけ? 」


「あっ、そうでしたね。これです! 」


 そう言ってレイネスさんはポケットから長方形の紙を取り出し、俺に渡す。


「何だ? 」


 俺とじーさんはその紙を覗──


「ブフォオオオオッ!!! 」


 じーさんは口の中のドルシャブランを盛大に吐き出す。


「兄ちゃん……俺は少し飲み過ぎたかも知れねぇ。その請求書(、、、)、0が何個あんだ? 」



 請求書 ¥ 2,000,000ー



「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、……じゅうまん、……に、にひゃくま…… 」


 次第に震えが起き、氷点下に叩きつけられた様に体が凍る。


「に、二百万トルカァアアアア⁉︎ 」


 一気に酔いが醒めてしまった。ロエに血を吸われた時の様に体の力が抜ける。


「あ、あの……レイネス……さん? 」


 カタカタとゆっくりと首をに向ける。


 するとレイネスさんは頬杖をつき、トロンとした妖艶な眼差しで──



「ごちそうさまです♡ 」



 フフン♪ と、小悪魔の様にはにかみウィンクする。



((ま、魔女だ……))



 俺とじーさんはそんな彼女に見惚れ、汗を垂らしながらそう思うのであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ