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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第2章 魔術師と猩々
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1 起死回生の一手


「……タロー」


 誰かが何かを言っている。


「兄ちゃん大丈夫かッ!」


「うん……? 」


 目を開けると、ガーネットとスカーレットとおじさんの3人が居た。そして先程までは無かった空が広がっている。


「ここはどこだ?」


「……ここはギルドの医務室(、、、、、、、)だよ」


 目を逸らしながらガーネットは答える。


「ギルドの医務室? 」


 医務室はミノタウルスの時もお世話になったが、何で今回はこんな青空教室みた……い──


 一瞬で顔面が蒼白する。思い出してしまった。俺は直ぐさま立ち上がり、状況を確認する。


「──なっ!」


 そして絶句する。


 天井が無く、更には柱や梁がバッキバキに折れ、壁も粉々に粉砕されたギルド……


「が、ががが、ガーネットさん……その魔法の力で、家とかって直せないですかね? 」


「…………」


 ガーネットは何も言わず首を横に振った。


「ごめんキョータロー。私、錬金魔法は使えないの」


「そ、そうか……」


 ガーネットが無理ならどうしようもない。スカーレットに頼むと全焼しそうだ。そして俺は魔法が使えない……オワタ。


「それと俺は何時間寝てた?」


「そうだな。転送して消えたのがお昼の11時位だったから4時間ほどだな」


 おじさんは時計を見ながら答える。つまり俺がベリルに振られ、魂が抜けて4時間が経ったと言う事か。


「私達がギルドに着いたらキョータローの怪我が全て無くなっててビックリしたよ」


「あなた本当に人なんですか? 」


 ガーネットとスカーレットは俺の体を、にわか信じ難い瞳で見てくる。


「俺はただの魔法使いだよ」


 回復したのは俺の力では無いがな。だが死鏡夢で大女神様に会って治して貰ったとか説明するのも大変だ。


「そんな事より金だ! 圧倒的に金が無い」


「聞いたぜ兄ちゃん。5000万トルカだろ?」


「ゴフッ……」


 やはり聞き間違えでは無かったのか。上から読んでも下から読んでも気絶しても5000万は5000万らしい。


 そして5000万という数字に、竿殺し(ロッドアウター)の前で勇敢に振る舞ったガーネットですらも戦慄している。


「それで兄ちゃん……所持金はいくらなんだ? 」


 おじさんは恐る恐る尋ねてくる。


「……15万トルカだ」


「ブフォオオオッ! 」


 俺の返答に、おじさんは堪らず吹き出す。


「じゅ……15万だって……? あ、兄ちゃん、貯蓄は無い……のか? 」


「日本の銀行にその全てを置いてきたよ」


 そう、財布も通帳も全て日本に置いて来たのである。なんか思い出したらイライラしてきた。俺の金を返せぇえええええ──ッ‼︎‼︎


「あっはは……」


 事情を知るガーネットは苦笑いをする。


「兎に角15万トルカはやべぇぞ兄ちゃん」


 おじさんは口をぬぐいながら話す。


 確かに言われてみれば15万トルカはやべぇな。釣り前は金持ちだと浮かれていたのに。


 財布がほっかほっか亭だ〜とか、略すとHH亭だ〜とか、再翻訳するとハイブリッドハートだァ! とか言ってた自分が恥ずかしい。なんて卑猥なんだ。


 もうこうなったら一発当てるしかねぇ。


「おじさん。この国にはギャンブルってあるのか? もしくは宝クジとか」


「あ、兄ちゃん……」

「キョータロー……」

「あなたって人は……」


 3人がゴミ人間を見る様な目で俺を見てくるんですが、大丈夫なんでしょうか?


「兄ちゃん……ギャンブルも良いが、まずアレをどうにかしないといけないんじゃないか? 」


「アレ? 」


 おじさんが向く方へ首を傾ける。そこにはアレが居た。


「あ──、あーアレかぁ……」


「そうだ。アレだよ」


 ギルドを半壊させた巨大な魚──竿殺し(ロッドアウター)である。


 全長20メートルをゆうに超える巨体、ギルドを半壊させて尚あり余る超絶ワガママなボデー。


「さ、流石兄ちゃんだ……な。しっかり下ごしらえが……お、終わってらぁ……」


 おじさんが要らぬフォローを入れてくる。


 顔が無く、腹を掻っ捌かれ内臓の処理も済まされた竿殺し(ロッドアウター)。確かに下ごしらえは完璧だ。さすがマジカルクッキングだぁ……


「と、当然だろ。俺は魔法使い(、、、、)なんだから……完璧なQEDだぁ……」


 震える声で強がってみたものの、現状の問題が解決される事は無かった。ただ虚しさが残るだけ。


「ガーネットさん。取り敢えず転送魔法で竿殺し(ロッドアウター)をどかしてくれませんか? 」


「う、うん……」


 これからの解決案が全く浮かばないので、工事の邪魔になるであろう竿殺し(ロッドアウター)をどかす事にした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ──午後3時



「兄ちゃん……どうすんだ? 」


「…………」


「どうするんですか⁉︎ 」


「…………」


「キョータロー……」


「…………」


 現状、ギルド半壊というニュースを知っている者は少ない。そして4時間経った今、警察に捕まって無い事を考えると、何とかすれば何とかなるのかも知れない。


 何とも淡い期待だが、藁よりはすがり易いだろう。


「おじさん」


「お、おう」


 不意に呼ばれたおじさんは身構える。


「ギルドの酒場にお客が来だすのは何時頃だ? 」


 それまでに出来る事は済ませておきたい。


「そうさな、大体5時頃から客は来だすな」


「5時……あと2時間か……」


「何か浮かんだのキョータロー? 」


 今俺が最も恐れている事はギルドに来る客の反感だ。以前ガーネットは町の中心と言っていた。だから利用する客や冒険者は多いはずだ。


 そんなギルドが半壊したのだ。少なからずの反感は来る。その客全ての反感を買っていたら俺はこの町で生きていけない。


 だから──


「するしかない……」


「「「する? 」」」


 挽回する名誉などは持ってない。だが返上しなければならない。この汚名を──


「今からこの建物を直すのは不可能だ。だが出来る限りは尽くす。起死回生の一手を打つ!」


「具体的に何をするの? 」


 心配げな顔でガーネットが尋ねる。


「客の溜飲りゅういんを下げさせ執行猶予を貰う」


「そんな事出来るんですか⁉︎ 」


 怪しげな目でスカーレットは問う。


「いや、するしかない」


 ここまで来ると、出来る出来ないではないのだ。


「でも、どうやって……? 」


 おじさんの言葉に俺は竿殺し(ロッドアウター)の方に指を向ける。


「おじさん。さっきはQEDって言ってしまったが、マジカルクッキングはあれで終わりじゃねぇ」


 そう、アレだけなら証明は出来ても納得は出来ないだろう。


「ここからが肝。俺が魔法を掛けてあのおぞましい姿を、誰もがあっと驚く姿に変えてやる」


 これぞ魔法使いの本懐という奴だ。魔法ってのは、どっきどき〜のわっくわく〜でないとな。


「ま、まさか……」


「そうだ。だからおじさんは出来るだけの客を午後5時にここへ集めてくれ」


 竿殺し(ロッドアウター)にもこの責任は取って貰う。


「わ、私は……? 」


「ガーネットは魔法の力で瓦礫の撤去。そして取り敢えずの仮設を建ててくれ。なに、土の壁の応用くらいで構わない」


「わっ、分かった」


「スカーレットも手伝ってくれないか? 」


「こ、今回だけですからね……」


 これから行うのは、ただの(しの)ぎでしかない。それでも猶予が与えられていると言うなら、やるしかない。


「全く、20メートル級の魚の解体なんてした事無いぞ……」


 兎にも角にも客の心を掴む必要がある。


 だからやるしかない!



 竿殺し(ロッドアウター)の解体。




 ──圧倒的解体ショーをッ!





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