35 竿殺しは二度刺す⁉︎
「はぁああああああああああああ──ッ! 」
不思議なくらい体が軽い。
「ギャァアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! 」
「ふんっ、遅い! 」
散々暴れ回ったお陰で盛り上がった岩に駆け跳躍する。
「ちょっと黙ってなッ!」
竿殺しの口を閉じる様に頭上から、かかと落としを振り落とす。
「ギャァアアアアアア‼︎‼︎ 」
そのまま一回転して背中に杖を突き刺す。さらに前転、前転、反転して受け身を取り、
「スカーレット、ガーネット! 」
「分かってます。指図しないで下さいッ! 」
「分かった! 」
荒っぽく叫ぶスカーレットと緊張した声で返事するガーネットは同時に杖を立て──
「《火炎よッ! 」
「《風の精よ── 」
ガーネットは目を閉じ心を落ち着かす様に詠唱する。スカーレットは対照的に力一杯杖を握り詠唱する。
漂う魔力に、ご自慢のポニーが浮かび上がる。さらに砂塵が舞い上がり、
「──その熱纏いて焼き放て》──ッ‼︎ 」
一足先にスカーレットの魔法が発動する。燃え盛る火球は竿殺しに迫り、追い越し、俺の突き刺した杖に着弾する。
そしてそのタイミングを見計らったかの様に──
「──息吹となりて舞い踊れ》ッ! 」
ガーネットの魔法が発動する。突き刺さった杖周辺に風が吹き荒れ、燃え上がる炎の威力が増大し渦を巻く。まるで剛火を纏ったトルネードの様、杖を媒介に内部を貫通し焼き焦がす。
「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア──ッッ‼︎⁉︎」
唸り、叫び散らす口からは内部にたまった火炎が放射される。
「……おいおい、なんつー魔力だよ」
「当然です。ランク5を舐めないで下さい! 」
「ランク5だとッ⁉︎ 」
ランクは魔力無しの0を含め、1〜10の11段階ある。将来有望株の成人のボーダーがランク5とされている。しかしスカーレットは15歳で既にランク5にいたっているのだ。
「マジかよ……おじさんにも分けてくれよ」
想像以上の火力に冷や汗を垂らす。これが中学生の火力だとは信じ難い。そして息のあったコンビプレー。
スカーレットの放つ技の強さにも圧倒したが、ガーネットも即興で技の火力を上げるという柔軟な思考と技のバリエーション……全然強ぇじゃねえかよ。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア──ッッ‼︎‼︎‼︎‼︎ 」
「いける……通じてる! 」
藻掻き苦しむ竿殺しに手応えを感じ、スカーレットは更に前に出る。
「バカ、前に出過ぎだスカーレット! 」
「大丈夫です。それよりダメージが効いてる今がチャンスです! 」
更に前線に駆け寄り杖を立てる。
「《業炎よッ 」
スカーレットは弱っている竿殺しに狙いを定める。
「《灼熱の業炎よッ! 」
一気にケリをつけるつもりか、詠唱時間の長い大技を繰り出す。
「近寄り過ぎだッ! 少し距離を置けッ! 」
確かに弱っている。だがこの竿殺し、底にある力が計り知れないのだ。圧倒的有利なこの状況で素直に安心させてくれない謎の蟠りが胸を掻き回すのだ。
「行けます。敵は弱ってます! だから私がトドメを────⁉︎ 」
「ギャァァァァアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオ──ッ! 」
「……えっ 」
「あのバカッ! 」
暴れ回っていた竿殺しは接近したスカーレットに狙いを絞り真っ直ぐに迫っていく。
「避けろスカーレットッ‼︎ 」
「ヒッ…… 」
しかし動かない。否、動けないのだ。猛スピードで迫り来る竿殺しに先程のトラウマが蘇って来たのだ。
「スカーレットちゃんッ! 」
ガーネットは風の魔法維持に集中していた為、反応が遅れる。
今から魔法を解いて転送魔法やら壁を出す時間は無い。それでは間に合わないし、竿殺しも2度目とあっては対応してくるだろう。
「──チッ、2度も失敗するかよ」
俺は背中の上を駆け──
「ガーネット。そのまま技を維持しろッ! 」
「──えッ⁉︎ 」
技を解こうとしたガーネットは困惑する。自分が行おうとした事と全く真逆の指示が飛んで来たのだから。
「わっ、分かった! 」
それでもガーネットは俺を信じてくれたのか、技を継続してくれた。
「よし。いい子だ 」
後は…………絶対熱いだろうなチクショウがッ!
「ええいっ!」
俺は全力で駆けながら息を吸い、剛火のトルネードの中に右手を突っ込む。
「キョータローッ⁉︎ 」
「あっっちぇええええええええええ‼︎‼︎ 」
助走の勢いは殺さず杖を抜き取り、更に加速していく。
熱い、熱い、焼ける、燃える、手が焼ける、焦げる、皮膚が死ぬ!
ガーネットの魔法が付与された杖は剛火の渦を巻き、一筋の槍と化す。
「うぉらぁああああああああああ──ッ! 」
右足で強く踏み跳躍する。そして全体重をかけ──
「その口閉じやがれッッ‼︎‼︎ 」
両手で槍を握り刺し貫く。槍は竿殺しの上唇を貫き、下唇をも貫き地面に突き刺さる。
「グォゴゴゴゴゴゴッ⁉︎ 」
杖に弾け飛ぶ程の衝撃が加わる。
ガリガリガリゴリガリ──ッ‼︎‼︎
突如掛かった急ブレーキに竿殺しは対応が出来ない。しかし元々のスピードが速過ぎた為、勢いが殺しきれない。杖は地面をガリガリと削り進んでいく。
「止まれ止まれ止まれぇええええッ! 」
右腕の皮膚は既に焼け焦げ、左手も右手の上から握ったにも関わらず燃える様に熱い。それでも必死に地面に突き刺し勢いを止めにかかる。
しかし、その距離は一瞬で縮まる。15メートル、7メートル、3メートルッ──
「やべッ! 無理だ! 」
1メートルまでに縮まり、俺はスカーレットに飛びついた。
「えっ……⁉︎ 」
「動くなッ! 」
そのまま両手でスカーレット抱きしめ吹っ飛ぶ。背中に竿殺しとぶつかった様な衝撃が走り更に吹っ飛ぶ。
「グォゴゴゴゴゴゴゴガガッ! 」
竿殺しはスカーレットが元居た位置をゴリゴリと通過し、その2メートル先で漸く止まる。
俺はスカーレットを抱き抱え5メートル程転がり漸く止まる。抱きつく瞬間に吹っ飛ばされたので上手く受け身が取れず、派手に体を打ちつける。
「あがっ……がっ、がはっ、スカーレット……大丈夫か? 」
「わ……私は大丈夫です。それよりあなたが……」
スカーレットは顔面を蒼白させる。自分を包む右手は無残に焼け焦げ、額や鼻からドクドクと流血している満身創痍の姿。
「ご、ごめんな……さい……」
「ハァ、ハァ……なんだ? 随分しおらしいじゃないか。可笑しくて肺がズキズキするだろうがよ」
「そ、それは私のせいでは……」
しょうもない冗談にも突っ込める余裕があるのでまだ大丈夫だろう。スカーレットは強い子だ。
俺は体中の痛みを堪えながらスカーレットを起こし、柄にもなく微笑んでやった。
「な……なんでですか? 」
「あ? 何が? 」
怯えながらも真剣な眼差しが俺を捉える。
「なんでそんなボロボロで……なのになんでそんなに……勇敢に立ち向かえるんですかッ? 」
「……ッ⁉︎ 」
何を言う出すと思えば……
「スカーレット」
「はい……って痛い! 」
ぺちん──とデコピンをお見舞いする。
「いいか、俺は30歳だ。言いたくないけど30歳だ。お前の約2倍だ。だからそう見えるだけだよ」
見えるだけ。そう、見えるだけ。俺はスカーレットの言う『勇敢』とは対極の存在なのだ。
怖いから戦う。臆病者に他の選択の余地は無い。戦うのが最善の一手。自分でも歪んでいると思う。
だが怖いのだ。スカーレットが死にそうになった時は恐怖で体が震えた。
ガーネットの時もだ。口では散々言っておきながら、無意識に後衛に送っていたのかも知れない。
「こんなのは勇気って呼ばねぇよ……」
「えっ⁉︎ 何ですか? 」
「何でも無いよ。それよりスカーレット立てるか? 」
「私は行けます」
「いい返事だ」
俺は宥める様に、スカーレットの頭を優しく撫でる。
「やめて下さい! 」
「あ……ごめんなさい」
ゴッフ、体のダメージより深刻だ。
「ギャァ……ギャァアアア……グァオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」
竿殺しは突き刺さった杖の拘束を、その肉を千切って解放する。
「ガガガガガガァア……」
グラグラと蹌踉めきながらも、俺たちを射抜く隻眼は未だ健在。竿殺しも限界が近いにも関わらず眼の色は死んでない。
「スカーレット、ガーネット。休憩は終わりだぞ」
「分かってます!」
「大丈夫だよ!」
「さて、どうしようか」
先程のセリフがブーメランとなって自分に突き刺さる。杖ではトドメは刺しきれない。完全に手詰まりだな……
あと少しが程遠く感じる。
どうする……?




