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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第1章 魔法使いと入れ替わりました
32/89

29 我慢比べ



 ──少し時間を遡り



「ねぇ知ってる? 」


「何? 豆しば? 」


「豆しばってwww 」


「違う違う、すっごいニュースがあるんだって! 」



 いつもと同じ時間──



「えー何それー! 」


「ふふん! ビックリする様なニュースよ」


「えー、でもマリンちゃんはすぐ話を盛るから」


「今日は本当に大ニュースなの!」



 私の周りで喋る友達の会話──



「ホントかなぁww」


「ホントだってばぁ! 」


「「「ウケるwwwww」」」


 勿論この時間は大切だし大事にしたい。


 だけど何故だろう……? この時間に物足りなさを感じるのは……


 ズズズッ……


 私は紙パックの牛乳を啜りつつ、私の中に芽生える焦燥感について考える。因みに牛乳を飲み始めたのはつい最近。同じパーティーメンバーにスタイル抜群の吸血鬼さんが入った辺りから。


 私は自分の体を一瞥する。


「……うぅ、」


 一体どれだけの牛乳を飲めば良いのだろう……


 そう言えば、この焦燥感を抱き出したのも丁度その辺りだったかな?


「むぅ……」


「どうしたのガーネットちゃん? ずっと上の空だよ? 」


「あっ、えっと何でも無いよスカーレットちゃん」


「そうには見えないなぁ〜、ガーネットさん〜 」


 スカーレットちゃんはニマニマしながら私を見る。


「相変わらず、スカーレットちゃんには敵わないな」


 昔からスカーレットちゃんには嘘が付けない。すぐバレてしまうのだ。


「違うよ、ガーネットちゃんが分かりやすいだけだよ」


「「ぷっ、フフフっ! 」」


 思わず笑ってしまう。やはりこの時間は楽しい。楽しい……


「……っ、ガーネットちゃん、この後ギルドに行かない? 」


「──えっ⁉︎ 」


「フフっ、もう! 顔に出過ぎだよ」


「ええ! どんな顔してたの⁉︎ 」


「内緒! 」


「もーー! 2人とも聞いてるの? 」


 2人で話していたら、マリンちゃんが横からぷりぷりと怒ってきた。


「2人もこれ見てよ‼︎‼︎ 」


 そう言って私たちに携帯を見せつけてくる。携帯の画面には──



 ブフォオオオオ──ッッ‼︎‼︎⁉︎



「ちょっ、ガーネットちゃん⁉︎ 」


 飲んでいた牛乳を盛大に吐いてしまった。


「げほっ、げほっ、ごめん。何でも無い…… 」


 え⁉︎ え? キョータ…………えっ?


 ちょっと待って、どうゆう事? ダメだ思考が追いつかない。


 そして追い討ちをかける様に後ろから肩を叩かれる。そこには私と同様、プルプルと体を震わせたスカーレットちゃんが居た。


「ちょ、ちょちょちょちょちょ、ガーネットちゃん? 」


「お、おち、落ち着いて、すすっ、スススカーレットちゃん」


 いけない、平常心が保てない。だってこの写真──


「凄いでしょ‼︎ 今日全休のラピスちゃんがすぐ近くの川の上流で撮った写真なんだけど……って、2人とも聞いてる? 」


 ごめんマリンちゃん、全く耳に入ってこないや……


 思考回路のいたる部分が破壊され、思考が私の頭の中で暴れ回り、まともに考える事ができない。空いた口が塞がらない。体の震えが止まらない。


 絶賛ないない尽くしである。


「ガーネットちゃん……このどデカい魚に食われそうになってる…………というか食われてる人って……明らかにあの人だよね……? 」



 このローブ、この雰囲気、この髪型、そしてこの顔──



 私はスカーレットちゃんの方を向き、コクリと頷く。


「…………」


「…………」


 ひとしきりの沈黙のお陰で、ようやく思考が巡る。そしてそれはスカーレットちゃんも同様だったらしく、ガタッと、同タイミングで立ち上がる。


「……これは、ギルドに行ってる場合じゃ無いみたいだね」


「……そうだね」


「…………」


「…………」


 私たちは急いで駆け、教室を出る。またしても同タイミングで。


「ちょっと! 2人ともどこ行くの? 」


 急に教室を出て行く私たちに、マリンちゃんが止めに入る。


「冴えない魔法使いを助けにいくんだよ」


 腰に手を当てて、キリッと答えるスカーレットちゃん。


 スカーレットちゃんは昔からそうだ。困っている人を見ると、放って置けずにはいられない。


「ねっ、ガーネットちゃん? 」


「うん、そうだね! 」


 そして駆け出していく。近くの川の上流の写真が撮られた場所。そしてウチのパーティーのリーダーを助けに。


 私はいつだって勝手だ。



 こんな緊急事態だというのに、私の中の焦燥感がすうぅと消えていく、そんな感じがしたんだ──




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ──ッ‼︎‼︎ 」


 俺はひたすらに刺していく。貫通した穴からは真っ赤な血液が垂れ落ちてくる。


「オラオラオラオラ、オラァッ! 」


 さらに力を込めた突きは、竿殺し(ロッドアウター)の喉元深くまで刺さる。


「ハァハァ……クソッたりゃぁ……ちゃんとダメージ食らってんのか、こいつ? 」


 派手な外傷とは裏腹に、竿殺し(ロッドアウター)にダメージが与えられている感じがまるでしない。


 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄──ッ! と激しく押し返されるような、そんな感覚に陥っている。


「ハァハァ……ハァ……デカすぎんだよチクショウが! 」


 まずいな……杖だけじゃあ圧倒的に火力が足りねぇ。


「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎ 」


 竿殺し(ロッドアウター)も俺を振り払うために暴れだす。


「あ、ば、れんじゃ──ねぇよ‼︎‼︎ 」


 俺は両手で杖を持ち、高く振り上げ思いっきり地面に──赤白い肉に突き刺し、暴れる反動に持ち堪える。


「体内にいる限り攻撃を受ける事が無いから安心なんだが……本当に埒があかねぇな」


 おじさんが竿を持ってる限り、こいつが川に潜ることは不可能な筈だ。後は俺が攻撃して弱めるしかないんだガバババババババッ⁉︎


 突如天地が反転し、下から迫るように大量の水が流れ、竿殺し(ロッドアウター)の口内が完全に水で覆われる。


「がバァボボボボボボボ⁉︎ 」


 突然の出来事に戸惑いながらも、流されない様に突き刺した杖にしがみつく。


(がぼっ、どうゆう事だ? 竿殺し(ロッドアウター)がどんどん深く潜って行ってやがる。おじさんが竿を離したのか?)


 いや、おじさんが竿を離す訳がねぇ! だが……だとしたら何故こいつは逃げれるんだ?


「ガバぼっ、ボボボボボボッ! 」


 言ってる場合かよ! まずは息を整えろ! この後に及んで人の心配なんか出来ねぇだろ!


 俺は口に入った多量の水を吐き出し、肺に残った空気を逃さない様に一点に溜め込む。


(落ち着け、逃げるって事はこいつもダメージがある筈なんだ! ならばここで退く訳にはいかんだろうがよ)



 思い出せ──



 俺は下に刺していた杖を抜き、場所を移動する。



 思い出せ、俺が食われる一瞬の間で見た竿殺し(ロッドアウター)を──



 俺は口内のある位置まで動き、真上を見る。丁度、竿殺し(ロッドアウター)の目がある下側に位置し──



(一発で……)



 完全水中状態の口内で、突き刺した穴に足をロックさせ固定させる。そして口を抑えている手も離し、力強く杖を握る。



(……決まってくれや)



 酸素濃度も薄まり視界もぼやけていく中、見上げたワンポイントだけをロックオンさせて──



(ウォラァアアアアアアアアア──ッ‼︎‼︎ )



 狙った場所に寸分違わず突き刺す。


 杖を握る腕も減り込むほどに突き刺す。



「ぎゃぁああああああ‼︎‼︎ グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎ ギャアアアアアオオオオオオオオオオオオオ──ッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎ 」


 竿殺し(ロッドアウター)は今までとは比べものにならない程暴れまわる。


 ドロっとした感触が、水中でもしっかりと手の平に残る。今まで刺した感触とは違う感触……確実に目の玉を刺し貫いたのだ。


「ギャアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ──ッ‼︎‼︎‼︎‼︎ 」


「ガフッ……がぼっ 」


 これでイーブンまで持ってこれた。


 竿殺し(ロッドアウター)が苦しみで悶える様に、俺にも水中でのリミットがある。


 だが、俺の唯一の特権──そこらの奴には負けない、それこそ大魔導士にだって負けない俺だけの特権。



(さあロッドアウター…… )



 俺は刺した杖をさらに深くほじくり、竿殺し(ロッドアウター)を見据える。




(──我慢比べと行こうじゃねぇか!)





倒す方法が見つからなかったので、赤色コンビを呼びました。

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