22 血液操作
今回は吸血鬼についてふれていきます
「それじゃあおやすみ」
「ああ、おやすみ」
時間は23時を回っている。15の娘は最早眠くて仕方ない時間だ。ガーネットは優しくて温厚な女の子だ。夜の校舎ガラス壊し回ったり、盗んだバイクで走り出したりはしないのだ。
というか15って中学生かぁ……
俺も中学の時は金曜日のおじさんが頑張って映写機を回してる最中に夢現になり、母ちゃんに『歯ァ磨いて寝ろ』って背中を蹴られてたなぁ……
今では日を跨ぐ前に寝るのは不可能になった。というか国が睡眠時間を5時間と前提としているからな。もう真っ暗。暗黒。アンダーグラウンドダークナイト。もはやドラゴンナイト。略してドラゲナイ。順接的に日本の未来はドラゲナイ!
俺と入れ替わった魔法使いも可哀想だ。
「魔法使い……か」
俺と入れ替わった魔法使い──仮名をAとしよう。Aは人間になって何がしたかったのだろうか。
魔法が使えないから、魔法が使えない人種になりたかった──
無いな。それは逃避だ、焦がれ待ち望んだ先に在るべき物では無い。Aは人間になる為に30歳まで童貞を貫いた。それはこのイケメンにとっては厳しい事だろう。
……やめた、考えてたら虚しくなった。激流の如く過ぎ去る時の流れに身を任せ、いつの間にか魔法使いになってしまってた俺に人権はあるのだろうか?
「京太郎、何で泣いてるの? 」
「ただの欠伸だよ」
はぁーーつらッ、この話終わり。
そしてそれを切り返す様にロエに尋ねる。
「なーロエ」
「どうしたの? 」
「もし、仮にロエが魔法使いとして生まれたとしてだな、それにも関わらず魔法が使えなかったらどうする? 」
「何それ、自分のこと? 」
「違ぇよ」
俺は生まれも育ちも人間だ、ただの人間。だから魔法使いの事、ましてやAの事なんて分かる筈が無い。
どうゆう理屈か、魔法使いは魔法が使える。これは『魔法使いだから』の一言で括れる事象では無い。人間には出来ない優れた能力だ。
そんな優れた能力を生まれつき持つ魔法使いが、人間になりたがるのだから何らか理由があるはずだ。
しかし──
「うーん、そうだなぁ」
ロエは人差し指を下唇に当て、天の方を向き熟考する。
「やっぱり諦められないんじゃないかな」
「ほう、……その心は? 」
「だってその種族に生まれて育ってきたんだもん。理屈じゃないよ……」
少し寂しげな顔ではにかむ。まるで──
「何だ、自分のことか? 」
「ち、違うわよバカ! 」
先ほどの儚げな顔はクルリと裏返り、慌ただしい表情になる。……図星だな。
「なーロエ、吸血鬼にも吸血鬼たらしめんとする特殊な能力ってのはあるのか? 」
俺は吸血鬼についても殆ど知らない。そもそも異世界にも突然飛ばされたのだ、分かる筈も無い。しかも素直に転移させてくれないっていうクソ仕様。どうせなら自分の器で来たかったぜ……
「一般に知られてるのは吸血かな」
「そうだな、吸血の鬼だもんな」
「そう、鬼なの。だから後でいっぱい貰うからね」
パチンっと、ウィンクをしながら俺を捉える。うぐっ……やはり覚えてたか。
「死なない程度でお願いしますね…… 」
「殺さないわよ」
ロエは「まったく……」と呟きながら、一つ咳払いをする。
「吸血鬼は己の、もしくは触れた血液を操作できるの」
「操作? 」
「そう、形状操作と特質操作の二つの操作」
「なるほど、さっぱり分からん」
俺が知ってるのはベクトル操作だけなんだが……まあ形状操作ってのは何となく分かる気もする。
「形状操作はその名の通り、血液の形状を操作する事が出来るの。例えば── 」
そういい、ロエは手をグッと強く握り締める。すると手の平から血液が溢れ、指と指の隙間からもポタポタと流れ落ちる。
「え、ちょっ、何カットしちゃってんの? 朝山さん相談乗るぞ? 」
「違うわよ! いいから見てて」
ロエのそんなセリフと共に、滴れていた血液が写真に収めたワンシーンの如く、空で止まる。液体が固体に成ったかの様に……
「それから……こうッ! 」
ロエは横一閃に腕を振るう。血液は飛び散る事なく軌跡上に停滞し、形を作る。
それはまるで一振りのつるぎのよ──
バシャッ!
……つるぎの様だった物は、今では地面を赤く染め濡らしている只の血液と戻っていた。
「どうだった? 」
「どうって……失敗してんじゃん! 」
一瞬だけ、ロエの手の平から溢れてきた血液が、斬れ味抜群の一筋の刃へと形状変化した。
しかし停止時間は一瞬だけ。再生ボタンを押された血液は、重力に従い垂直に落下した。
「もしかして出来ないのか? 」
「ギクッ! 」
「なるほどな」
「ちょ、ちょっと! 勝手に納得しないでよ! 」
何やら異論があるらしい。両手をブンブン振りながら怒っている。
「まあ、形状操作の方は何となく分かったよ。それで、特質操作ってのは何なの? 」
「私だって自分の血液の形状操作くらい出来るんだから! 」
「分かったから…… 」
まだ言ってたのか。
「それで特質操作なんだけど、簡単に言ったら性質を書き換えたり、付け足す事が出来るの」
「なんかチートの匂いがするな」
「例えばだけど、血液を燃えやすい性質に変えたりとか、人肌に触れると爆発しちゃう様な性質にだって出来るかもね」
「それは最早血じゃねぇよ! 」
そんな能力があるならクエスト楽チンじゃんかよ。
「でもね、性質を操作するのは一筋縄ではいかないの。だから特質操作が出来る吸血鬼はかなりレアなのよね」
そりゃそうか。性質──もとい特質をオリジナルに改変出来る奴が沢山居たら怖いな。
「なるほどな、大体分かったよ」
そして何となく分かった。ロエが吸血鬼について活き活きと楽しそうに、そして誉れ高く話す様を見ていると──
いつかピルクル乳酸菌が魔法は神聖な物と言った事を思い出すと──
固有の能力は種族の誇りなのだろう。他の種族にだって特有の能力はあるだろう。そしてそれはきっと誇らしい……
だからこそ──
「だからこそなんだよな…… 」
「ん? 何か言った? 」
「いいや別に」
ロエは『理屈じゃない』と言った。それは半ば真理に近い回答だろう。
「ロエは形状操作と特質操作を出来る様になりたいのか? 」
「それはそうね。って、私は形状操作は出来てるわよ! 」
「あー分かった分かった」
またしてもロエは両手をブンブン振りながら怒っている。
理屈じゃない──そう、理屈じゃないのだ。切り離す事なんて出来ないだろう。もちろんAだってそう思ってた筈だ。
何らかの理由を差し引いても、それは余りあるお釣りが返ってくる。
しかし、それでもAは人間なった……
「さっぱり分からんな」
これ以上考えても導き出せる気がしない。ならば早々と切り上げて寝た方が良い。
「それじゃあ寝るか」
重たい腰を上げ、伸びをしながら立ち上がる。
「待って! 」
リビングから出ようとした時、ロエに止められてしまう。
「京太郎、何か忘れてない? 」
「……歯を、磨いて……ナカッタカナ? 」
ロエは淫らな息をあげ、ゆらゆら近づいてくる。くそっ! やはり覚えてたか。
「ダメだよ京太郎。大事な事を忘れたら」
「そ、そうでひたね」
ロエの瞳はハート型になっている。血を吸いたくて仕方がないご様子だ。
「それじゃあ……」
「ちょっ、殺さないで」
美女に這い寄られるまでは役得なのだが、首筋の深くまで刺されるのは結構痛いのだ。 しかも今夜のロエは、無礼講とばかりに大量に吸うだろう……
「大丈夫だよ、私京太郎が好きだもん」
「はいはい、俺の血がだろギャァアアアアアアアアア──ッ! 」
「ちょっと京太郎、声が大きい! ガーネットちゃんにバレる」
「は、はい」
グッサリと突き刺さった首筋から血液が吸い取られていく。
「ぐっ……」
「京太郎、声が漏れてるわよ」
そんな男が言いそうなセリフを美女に言われると超恥ずかしい。俺は思わず両手で顔を隠した。
「フフッ、どうしたの京太郎。恥ずかしいの? 」
ねっとりと、俺の血液とロエの唾液が混じった液が糸を引く。
ヒイイイイイイイイイイ! 恥ずかしい、いっそ殺して。恥ずかし過ぎてロエの柔らかい感触を堪能する余裕もない。
「大丈夫よ、全て私に委ねてくれれば」
いやぁああああああああああああああ──ッ!
結局なすがまま、されるがままに吸血され、俺は首を犯されてしまった。
……もうお婿に行けないわ




