20 ただの人間・リー=スライト
お昼は爆睡してました
「「それだ──ッ‼︎‼︎ 」」
ガーネットとババァは同時に声をあげる。
「そうだよキョータロー。転送魔法だよ! 」
「あんた、童貞のクセにやるわね」
「童貞は関係ねぇだろうが! 」
歓喜の中でもひょっこり罵倒を挟んでくるババァはやはり嫌いだ。
「京太郎、転送魔法って何? 」
どうやらロエは、流れがかわった事に気付かなかったらしい。
「転送魔法はね、対象物を呼び寄せる事が出来るんだよ! それにしてもキョータローよく知ってたね」
「まあ、初めて見た魔法がそれだからな」
魂が入れ替わった初日に家で見た魔法。ガーネットが使ったのは具現魔法の方だと思うが。
それでもニヤリと、ガーネットを見ながら笑いかける。
「……バカ」
ガーネットは以前褒めちぎった事を思い出したのか、顔を赤くしてプイッと目を逸らす。
「こら、そこでイチャつくんじゃないよ! 」
「い、イチャついてねーわクソババァ! 」
「京太郎、一体どうゆう事かしら? 」
「どうもねーよ」
ロエはむぅっと口を膨らませ、何故か怒っている──みたいなラノベ主人公みたいな事は言わない。俺は鈍感系では無いのだ。むしろ敏感、鋭敏過ぎてすぐ逝っちゃうレベル。
だから敗北する。だからこそ分かる。
ロエは俺にそれらしい態度は見せるが、全く気が無い説!
ロエが好きなのは俺の血であって、俺では無い。なんだこの歪んだラブコメは……
今も学校に行く前に約束した事ばかりを考えてるに違いない。
「あれだ、以前ガーネットに召喚魔法を見せてもらっただけだよ」
「そ、それだけなの? 」
「特に他意はねーよ」
「……そっか」
ロエはふう……と、安堵のため息をつき表情を明るくさせる。本当、こうゆう所。並みの魔法使いならコロっと落ちちゃうからやめて下さいね。
「あんた、そのローブに腰に挿してる杖……魔法使いでしょ? さっさとペロちゃんを呼び寄せてよ」
「ぎくっ…… 」
昨日乳酸菌に言われてローブを着てきたのが仇になった。
「なんだい? あんた魔法使いなんでしょ? 」
「そうですよ、ただの魔法使いですよ」
「ならペロちゃんを呼び寄せてくれないかしら?」
バレる訳にはいかない……このババァに魔法が使えない事は絶対にバレる訳にはいかない。何言われるか分からん。
「ば、ババァ……転送魔法くらい自分で出来るだろ? 」
「あたしゃー魔法使いじゃ無いんだよ! だからさっさと呼びなさいよ」
「ぐぅ…… 」
「なに⁉︎ あんたもしかして── 」
「ンな訳無いだろ! はっ倒すぞババァ! 」
俺は全力でババァの言葉を遮る。
「キョータロー、その必死さが肯定しているようなものなんじゃ…… 」
ガーネットはやや呆れた顔で呟く。
「あれだ、今日は魔力使い果たしたんだ。だから転送魔法してやりたいのは山々なんだが残念だ。本当はしてやりたかったが残念だ、うん」
「それなら明日でもいいわ」
「いい訳無いだろ! それは良くない! 今日呼ぼう! それが良い、良いに決まってる! 」
「……あんた何でそんなに必死なのよ? 」
「バッカお前──そんなの早くババァにペロちゃん会わしてやりたいからに決まってんだろ」
「あ、あんた…… 」
「ババァ…… 」
ガシッと、俺とババァは手を握る。……何だこの茶番は?
「だからガーネット、頼んだ! 」
「分かったけど、ペロちゃんのイメージが…… 」
ユスタ曰く大事なのはイメージと決意──
「おいババァ、ペロちゃんの写真とか無いのか? 」
「あるよ! 見る⁉︎ 」
そういってババァはタウン○ージより分厚いアルバムを取り出しペロちゃんの自慢話を始める。
「分かったから、熱苦しい、アルバムを押し付けてくんな! 必要なのは俺じゃないから! 」
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「それじゃあ行くよ」
あの後ババァはガーネットにアルバムを全て見させた。だからガーネットもイメージは完璧だろう。見てて可哀想だったが……
「《我が魔力を持って、ここに召喚せよ》」
ガーネットの詠唱と共に辺り一帯が光りだす。
「くぅっ……魔力が── 」
ガーネットは強大な魔力を一気に吸い取られたのか、苦々しい声をあげる。バチバチと乾いた音をあげ、それは姿を現し始める──
「思ったよりデカイかも…… 」
ガーネットは冷や汗を垂らしながら、力一杯に杖を握る。
閃光と共に、徐々に徐々にと姿を現わす。
「お、おい──ちょっと…… 」
召喚されたそれは天井を突き破り、メシメシ……と大小の梁を歪ませていく。
「これはやばいんじゃ…… 」
しかしガーネットは気付かず続ける。
「あと少し……ハァアアアアアア──ッ! 」
「ちょ──ガーネットさんストップ! 」
──バキバキメキバキィッ!
歪んだ梁がへし折られ、スラブを貫通し、それは完全に姿を現わす。
「「あ、あああ……ああ、 」」
俺とロエは口をパクパクとさせている。
「ハァハァ…… 」
ガーネットは魔力を使い切り、息を切らしている。そのため、未だこの現状を把握していない。
「ちょ……ガーネットさん? 」
「どうしたの、キョータ──── 」
ガーネットの空いた口が塞がらない。
「ああ! ペロちゃん帰ってきたわ! 」
ババァは一人平然と現状を受け入れ歓喜している……
「「「ペロちゃんデケええ──ッ‼︎‼︎ 」」」
パーティーが結成されて全員がハモるのは初めてかも知れない。
「グァオオオオオオオッ! 」
ペロちゃんは突然召喚された事に機嫌を損ねたのか、手足を振り回し暴れだす。120角の家の柱がいとも容易く破壊されていく。
「やばい、避難するぞ! 」
ロエとガーネットはペロちゃんの圧倒的なサイズにより腰を抜かしていた。
「二人とも逃げるぞ! 」
グラグラと、立派だった家も悲鳴をあげる。天井からは仕上げ材の破片やら角材落ちてくる。
しかし、そんな状況も御構い無しにペロちゃんは暴れ続ける。
「ロエ、ガーネット、立てるか? 」
取り敢えずここから避難しなければ……この家はじきに崩壊する。巻き込まれる前にこの家から──
「グァオオオオオオオオオおおおお‼︎‼︎‼︎ 」
振り回されたペロちゃんの巨大な足が──
「「きゃあああああッ! 」」
腰を抜かした二人に目掛けて飛来する。
「させるかァあああああああああ──ッ! 」
俺は二人の前に立ち、左の拳を握り振りかぶる。
巨大という絶対的な圧力──勝てる見込みなど見出せもしない。
それでも──
俺の全力で振り抜いた拳が壊れてでも──
軌道くらいは逸らしてみせる。
「グォおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオ──ッ! 」
「うぉおおおおおおおおあああああああああああああ──ッ! 」
俺の拳が粉砕される瞬間、──完全に衝撃を止められた。そしてそれはペロちゃんも同様だ。
「全く……私に喧嘩を売ってくる割には弱いのねぇ 」
「──ンな⁉︎ 」
ババァは片手で俺の拳を、片手でペロちゃんの巨大な足を完全に受け止めたのだ。
「ペロちゃんもこんな若い娘に手をあげるなんてねぇ…… 」
「──ンゴぉおッ⁉︎ 」
4m級の巨人もババァの一声で消沈する。
「ババァ……お前一体何モンだよ…… 」
全力で振り抜いた拳を容易く止めただけにあらず、それ以上の衝撃も完全に吸収したのだ。
今──拳を前に押しきる事が出来ない。岩盤を押してるみたいだ。全くビクともしない……
「何モンって、さっきも言ったでしょ? リー=スライトよ」
「名前を聞いてんじゃねえよ、俺は── 」
「私はただの人間よ。それ以上でもそれ以下でもないわ 」
仕返しと言わんばかりのセリフを吐かれる。そしてババァはこれ以上何も言う気は無いらしい。
「はあはあ、そうかい。ならただの腐れババァってギャァああああああああ──ッ‼︎‼︎ 」
本日3度目の激痛に視界を奪われる。
「ほんと、こんなんがリーダーじゃあ、あなたたちも大変ね 」
「いえ……キョータローはピンチの時は助けてくれるし」
「ふん、そうねぇ……まあ及第点と言ったところかしら 」
ババァは鼻で笑いながら俺に目をやる。
「ほら、あんたもいつまで泣いてんのよ! 」
「テメェのせいだろ、ババァ! 」
俺は目をこすりながら立ち上がる。
「まあ、あれだ。依頼の件の30万だが、二人を助けてくれたお礼もあるから10万で勘弁してやるよ」
「あんたは本当に……いや、何でもないわ。ただ危害を加えたのはウチのペロちゃんだから報酬は30万でいいわ」
「はぁ? ババァ、危害加えた自覚があンなら50万払ギャァあああああああ──ッ! 」
「……調子に乗るんじゃないよ」
「キョータロー…… 」
「京太郎…… 」
「やっぱりあなたたち脱退をオススメするよ 」
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辺りはすっかり暗い。ペロちゃん召喚後、半壊したババァの家の修理も依頼され、文句を言いながら手伝っていたらいつの間にか夕日が沈んでいたのだ。
「……たくっ、あのババァ散々コキ使いやがって」
「いいじゃない京太郎! 報酬50万よ、50万! 」
「そうだね、当分お金には困らないね」
「フン、稼ぐだけ稼いどいて使う用途が無かった悲しいババァじゃねぇか」
「キョータロー……そんなにリーさんが嫌いなの? 」
「京太郎言い過ぎじゃないの? 」
「いいんだよ別に、あのババァとはお互い様だからな」
「「そうゆうものなの? 」」
「そうゆうもんだよ」
そんな訳の分からない理屈を垂らしながら来た道を折り返していく。
そして不意に、
「おーいロエ、50÷3は? 」
なんとなく、ガーネットは普通に答えそうだから不意にロエに尋ねてみる。
「え⁉︎ えーと……10と20の間くらい? 」
「えらく大雑把だな」
まあ、期待以上の回答で大満足です。
「16あまり2だね」
見兼ねたガーネットが横から答える。
「なら決まりだな」
「「何が? 」」
「メシだよメシ! あまり2でメシに行くぞ! 」
「やったーー! 」
ロエは両手を上げて喜んでいる。それとは裏腹にガーネットは何故か俯いている。
「どうしたガーネット? 酒が飲めない事でも気にしてるのか? 」
「ち、違うよ! そうじゃなくて……そんな毎日お金使っても良いのかなって思って」
「「うぐっ…… 」」
一番歳下のガーネットがしっかりしていると、歳上である俺たちの立場が……ダメさが露呈されてツライ。
「だだだ大丈夫だ。金が無くなったらまた増やせばいいんだからな! 」
「ちょっ、京太郎そんな考え方だからガーネットちゃんが心配するのよ! 」
くっ……こんなアホっ子にド正論を言われた。
「大丈夫よガーネットちゃん、こんな職業なんだもん。たまには贅沢したって良いんだよ! 」
優しく、包み込むような瞳でガーネットを諭す。
「う、うん……そうだね! 」
「うん! だからギルドに行こっか! 」
「うん! 」
「…………」
あれ? この人誰? 最早誰だよ! って突っ込みたくなる程キャラが変わったロエを呆然としながら眺めて──
「どうしたの? 」
「あっ、いや、何でもない」
俺はそんな彼女を直視出来なかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
vsババァはこれで終わります




