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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第1章 魔法使いと入れ替わりました
22/89

19 童貞vsババァ

すみません、お昼爆睡してました



「よく来てくれたわぁ〜! 立ち話もなんだし、入って入って! 」


「……はぁ、はい」


 そういって奥さんは俺の腕を引っ張り、家の中に入れようとする。


 受付嬢から渡された住所に向かい、インタンホンを押した瞬間──何なら押すコンマ1秒手前でドアが開き、ピンポーンと鳴る頃には今のようにグイグイと玄関に連れられているのだ。


「ほらぁ〜、遠慮は要らないわ。どうぞ入って入って入って! 」


「お、奥さん、落ち着いて下さい」


 この奥さん……控えめに言って怖い。インタンホンの件といい、今も『絶対に逃がさん! 』と言わんばかりのギラついた目で俺を見ている。


 何か凄く嫌な予感がする……10万トルカは惜しいがここは退散する方が吉と見た。


「あっそうだ! 急用があったんだ。だから失礼── 」

「あぁ〜ら! すぐ終わるから大丈夫よッ!」


 グイっと俺の腕を握りしめる。こ、このババァッ! 力強ぇ!


「いやいや、本当に急いで── 」

「大丈夫よ、先っぽだけだから! 」


 ババァも必死なのか目を引きつらせ、逃げようとする俺の腕を力強く握る。握られた腕がメシメシ……っと悲鳴をあげている。リンゴなら握り潰せるくらいの力だ。


 このババァ……ヤベェ! 何たって目が本気だ。ルビはマジ


「遠慮しないでほらぁ! 」


 ババァは更に力を加え、リビングに引き込もうとする。


「ちょ──離せこのババァ! 」


 俺とババァは玄関で決死の攻防を繰り返す。リビングに連れられたら俺の負けだ。

 逆に俺はこの玄関から外に出れば勝ちなのだが──


「ほら! 入って入って! 」


 クソがぁ……バカつえぇ! なんちゅーバカヂカラなんだよこのババァ。


「用事があるから……離せ! 」


「いいから入って入って入れやァゴラァ! 」


「テメ、このババァ遂に本性を現したな! 」


「バレちゃあ仕方ないわね。あんた達パーティは絶対に逃がさないわ」


 一部始終を目撃していたガーネットは膝をプルプルと震わせながら固まっている。


 割と当然な反応だ。このやり取りを見たらこの依頼主がヤバい事くらい分かる。そんな依頼主のクエストなんか誰も受けようとは思わない。


「あんたがこのパーティーのリーダーと見たわ。だからあんたを引き込んだら私の勝ちよッ! 」


「このババァ…… 」


 ギリギリと、力強く握られた腕より下の血色がどんどんと悪くなっていく。


「諦めなさい、力比べで私に勝った者なんて居ないわ」


「ぬかせ、このババァがぁ」


 強がってみたものの、ババァの力は本物で少しずつ、少しずつと引き込まれていく。


「クソがぁ…… 」


「私に負けることは恥じゃ無いわ。そろそろ諦め──ハッ! 」


 なんと、ババァの背後にロエが立っていたのだ!


「──チッ、この娘いつの間に」


 ロエの存在により、ババァの力が一瞬、ほんの一瞬だけ緩む。


「はっ! スキを見せたなババァ! 」


 ババァの拘束をスルリと抜け、逃走の準備に入る。


「ロエ、良くやった! あとは撤退だ」


「逃走? 京太郎は何で家に入らないの? 」



「────はっ? 」



「今度はあんたがスキを見せたねッ! 」


「やべ── 」


「遅いよッ! 」


 今度は俺の両腕をガッチリと掴む。


「大人しく入って貰おうじゃないの」


「嫌だね、絶対入らねぇ」


 ここは絶対に負けられない。このババァはヤバイ。絶対にヤバイ。俺の危機感知センサーがビンビンに訴えかけている。


「京太郎は何でそんなに拒んでるの? この人が依頼主でしょ? 」


 こんのアホっ子がぁ、何でそんなにガバガバ警備なんだよ! センサーくらい設置しとけよ。


「ロエ、このマダムの目を見てみろ! 控えめに言ってヤバイだろ」


「誰がヤバイですって…… 」


「お前だよババあ──ッて痛い、痛い、痛い、痛い、痛いぃ! 」


 ババァは目を引きつらせながら更に力を加える。


「でも京太郎、今回はペット探しでしょ? 」


「バカお前! こんなバーナムクリムゾンライフルみたいな依頼主が飼ってるペットなんか猛獣──いだだダダダダダッ! 腕が千切れるッ! 」


「誰がクリムゾンライフルですって‼︎ 」


 ババァは額に青筋を浮かべ、俺の腕を捻りあげる。


「ガキ風情が調子乗るんじゃないよ! 」


「ふざけんな! 俺はもう30超えてんだよ」


「ふん、甘々なのよ! 私はとっくに40超えてガフォッ…… 」


 このババァ、自分の年齢を再認識した途端血を吐きながら落ち込みやがった……バカかよ。


「はっ、やっぱりババァじゃねえか! 」


「だ、黙りなさい丸コメ腐乱臭童貞がぁ! 」


「ガハァッ──! 」


 口ゲンカで童貞って言われると、かなりのダメージだ……うっかり吐血してしまった。


「え! え? え〜〜30超えて童貞なんですか〜? ウケるんですけど〜」


「やっ、やっかましいわ! ババァお前どうせ結婚してねぇだろ! 」


「ドキリっ 」


「そりゃそうだろうな、こんなエレファントエクスプロージョンと結婚する奴なんて現れねーよ! 」


「ウギャアアアアア──ッ! 」


 ババァは断末魔の叫びをあげながら地に膝を付ける。結婚出来ないの気にしてたのか……


「ゴフッ……あんただってどうせ結婚してないでしょ! 」


「ドキリっ 」


「そりゃそうよね、こんな臭いから漂うダイナマイト腐れ童貞なんて誰も結婚しないわよ」


「うごァハアアア──ッ!」


 ババァの攻撃によろめいてしまう。


「後ろのパーティーメンバーだって思ってる筈よ! 『うわっ、童貞臭がするっ! くっさww 』ってね! 」


「ぎゃアアアアアア──ッ! 」


 俺は両手をつき、戦意喪失してしまう。


 え……俺ってそんなに臭いのか? というか童貞臭って何?


「オーホッホッホっぽー! 私に勝とうなんて100年早いのよ! 」


 ババァは俺を見下しながら高笑いする。


「だ、大丈夫だよキョータロー。キョータローは…………臭くないよ! 」


 え? その間は何ですか? ガーネットの優しさが逆に仇となり、追い討ちのごとく俺に差し迫る。


「大丈夫よ京太郎! 京太郎、血は(、、)美味しいから! 」


「ゴフォォォッ! 」


 まさかのパーティーメンバーにトドメを刺された。血は美味しいからってどうゆう意味だ! 血は美味しいが臭いって事か? というかさっきから童貞臭って何だよ……


「ふん、あなたの負けよ。諦めてクエストの説明をさせなさい! 」


「うかがって何だがクエストは断る! 」


「え、京太郎なんでよ? 」


「ロエ……お前ちょっと察しが悪いぞ。どこかのラノベ主人公かよ」


 ヒロインがこんなに鈍感でいいんですか? だから残念ヒロインって揶揄されるんじゃないのか?


「考えてもみろよ、こんなマウンテンイスカンダルが飼い主なんだ。バーバリアン2号がペットでもおかしくないんだぞ! 」


「……あんたそろそろブン殴るわよ」


「でもペロちゃんって名前はかわいいわよ」


「そうなの! うちのペロちゃんはかわいいの! あなたは話が分かりそうだから── 」


 そういってババァはロエの腕をグイッと掴み奥のリビングまで引き連れて行った。


「待てこのババァ! 」


「この子を助けたかったらクエストを受けることね! 」


「こ、このババァ…… 」


 ロエがババァに連れ去られてしまった。


「き、キョータロー…… 」


「ああ、分かってる」


 もちろんロエは見捨てられないし、ガーネットにそんな顔で見られると断れる筈もない。


「はぁ……たく、話を聞くだけだぞ」


「うん! 」



 そうして俺とガーネットは嫌々リビングへと向かって行く。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ようこそ、我がリビングへ」


 ババァは両手を広げ、俺たちを歓迎する。ロエは既に出されているお茶とお菓子に手を伸ばし、くつろいでいる。本当に危機感ねぇな……


「それで、クエストの内容は? 」


「内容自体はギルドで聞いた通りよ、私のペット──愛しのペロちゃんの捜索よ」


「あー、バーバリアン2号のことね」


「あんた捻り潰すわよ? 」


 ババァの目が本気なのでこれ以上は止めておこう。それにしてもペロちゃんか……


「ババァのクセに可愛らしい名前を── 」



 ──閃光



 瞬きも許さぬ高速で、ババァの人差し指と中指が俺の両目を捉える。


「ウギャアアアアアアアアアアア──ッ‼︎ 」


 容赦の無い目潰しに、俺は叫びながら床を転げ回る。


「私の名前はリー=スライト。次ババァって言ったら貫くわよ、この腐れ童貞」


 目にも留まらぬ早業にロエとガーネットも震え上がる。そして直感する。



 このババァをキレさせたらヤバい──と。



「へ、へーー、ペロちゃんって可愛い名前ですね。すっごい可愛らしいです、リーさん」


 ガーネットはババァの機嫌を良くするために、ペロちゃんを褒め倒す。


「分かるかい⁉︎ ペロちゃんは可愛いんだよ! 小さい娘なのに分かってるね。そこのフルーツポンチ童貞とは訳が違うね! 」


 これでもか! ってくらいのお世辞すらも分からないクソババァはペロちゃんを褒められたと思い込み、上機嫌になる。


「ペロちゃんはね、それはもう可愛いの! 可愛くて可愛くて、可愛いところが本当に可愛いの! 」


「さっきから可愛いしか言ってねぇじゃねーか! 」


「うるさいよ、フルポン童貞! 」


「略すなババァ、言うならちゃんと言えや!」


「キョータロー、怒る所そこなんだ…… 」


 ガーネットは呆れ顔で突っ込んでくる。


「あれだ、最早ババァに何言われようが痛くもかゆくも無いからな。それよりババァの癖に言葉を略して若者ぶる方が許せん! 」


「小僧、貫くぞゴラァ! 」


「やってみろババァ。最早お前なんかの間合いは完ぺギャァああああああああ──ッ! 」


 またしても俺は目を押さえ、叫びながら床を転げ回る。


「京太郎…… 」

「キョータロー…… 」


 ガーネットとロエの呆れ声が聞こえる。目潰しされて見えないが、多分可哀想な子を見るような目をしているんだろうな……


「あんた達、こんなんがパーティーのリーダーで大丈夫かい? 脱退をオススメするよ」


 余計なお世話だ、このクソババァ!


「ま、まあキョータローはいい人(、、、)だから…… 」


 なんか今のセリフは聞きたくなかったな。女の子のいい人は他に褒める所が無く、大抵の場合どうでもいい人を指すのだ。


「……そうかい」


 ババァにまで気を遣われた。くっ殺!


「俺の話はどうでもいいんだよ」


 2回目ともなると痛みに慣れるのが早くなる。目をこすりながら立ち上がり話に参加する。


「それで、くだんのペロちゃんは一体何なんだ? 猫か? 犬か? 」


 正直ババァの名前とか、ペロちゃんが可愛いとか、俺がいい人(、、、)だとか、今はどうでもいい。ペロちゃんが何物なのかが最重要である。


 ペロちゃんが本当にバーバリアン2号だったり、野生の征服王だったり、鈴木み○るだった日にはこのクエストは破棄せざるを得ない。


「ペロちゃんは犬でも猫でもないわ、ただのサイクロプスよ」


「──はっ? 」


「だからただのサイクロプスよ」



「…………」









「……うん、見つかるといいね! お邪魔しまし── 」

「待ちなさい! 逃がすわけねェだろうが! 」


「フザケんな! 却下に決まってるだろ。ンなクエスト受けられっかよッ! 」


「お願い、頼むから! もう10万プラスするから! 」


「うぐッ…… 」


 10万プラスという単語に、不覚にも怯んでしまった。しかし、サイクロプスってアレだろ? 一つ目の巨人みたいな奴だろ?



 ……うーん、無理



「離せババァ! そもそもンなバカでかいモン見失うってどうゆう事だよ、バカかッ‼︎ 」


「ペロちゃんは無邪気で元気いっぱいなだけなの! 」


「そうか、それならばきっとどこかで元気にしている筈だな。それじゃあ── 」

「待て待て待て待て! だから何でさっきから帰ろうとするのよ! 」


 ババァは半泣き状態で俺の腕にしがみ付く。 こんなにも情熱的にしがみ付かれるのは生まれて初めてだ……ただしババァ! そうババァ! つまりババァ! 略してババァ! 略さなくてもババァ! したがってババァなのだ……


「止めろ、離せ! 俺はそんな物騒なモンと関わりたくねぇンだよ! 」


「大丈夫、大丈夫よ! ペロちゃんはいい子でいつも大人しいのよ! 」


「バカッ! そんなのジャンボリオンのお前が居る時だけに決まってんだろッ! 」


 展開は読めている。俺たちだけでペロちゃんに会ったらなんやかんやでバトル展開になるって事なんかお見通しだ。


 俺はサイクロプスみたいな神話に出てくるモンスターと戦うのは真っ平御免なのだ。


「お願い! 30万にするから〜 」


「あーうるさい! 30も出すなら他のパーティーに頼めよ」


「頼んだわよ! そしてどのパーティーにも断られたわよ! 今日が初めてなの。リビングまで連れ込めたのは! なんだか今日行けそうな気がするの! 」


「行けねーよ! 吟じてンじゃねぇよ! 」


「お願い。一生のお願いだからぁ〜! 」


「止めろ! すがり付いてくんな! 人のローブに鼻水付けンじゃねぇ! 」


「お願いだから〜! 」


「あーもう! 無理だ無理! というかそんなに呼び戻したいなら転送魔法でも使えばいいだろうがよ! 」



「「────…… 」」





「「…………」」








「「それだ──ッ‼︎‼︎ 」」


最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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