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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第1章 魔法使いと入れ替わりました
18/89

16 白衣の教諭・アスカ=ユグピエド


「え……うそッ」


 どうなんだ、一体何があったんだ!


「ちょっと見せてくれ! 」


 俺は先生から魔力測定器を取り上げメモリを見る。



『 00 』



「──はっ? ぜ、ゼロ……? 」


「な、何この数値…… 」


 ガーネットも横から見るが、初めて見る値に戸惑いを隠せない。そしてそれは先生の方も同じだ。


「こんな値は初めて見るわ…… 」


「故障したのか? 」


「故障……故障……? 」


 先生は顎に手を添え、ブツブツと喋り出す。


「故障なんてするのかしら……この器具は膨大な魔力キャパシティを誇る大魔導士の魔力をも測れるような──国公認の魔道具なのよ……。それが故障? 」


 ブツブツと、独り言が加速する。


「でも実際あんな数字見たことない。魔力が無ければ吸血鬼さんの時みたいに1の位のみ0と表示される。そしてそれもレアなケースだけれど幾度いくどかは見たことある。でも…… 」


 先生はチラリと魔力測定器を見る。


「『 00 』……確かにそう表示されてあるわ。一体どうして? 彼が強く握り過ぎたから? いや違う、それでも数値はきっちりと表示されてる。故障しているのかも怪しいわ。なら一体…… 」


 先生は魔力測定器を持ち、じっくりと確認する。


「いや、でも中のパーツが破裂しているわ。これは破壊箇所を調べて原因を突き止めるしかないようね。しかし何故中のパーツが破裂したのかしら? 今まででこんな事は一度も無かったのに…… 」


「あのー」


 置いてけぼりにされた俺たちは恐る恐る先生に話しかける。


「──はっ!」


 ガーネットの呼び声で我に返る。そして、


「ごほん! 」


 恥ずかしそうに咳払いをする。


「ごめんなさい、原因は分からないけど魔力測定器の方が故障したみたいだから、さっきの値は気にしないでほしいの」


「は、はは……はぁぁぁぁぁぁぁ」


 俺は安堵にも似たため息を、ドっと漏らす。


「はは……故障ですか、それは良かった」


 『 00 』と出た時、もう終わったと思った。だってゼロだから、魔力が無い──つまり魔法を使えない。使える見込みも無いという事だから……


 ロエの時とは表示が違ったのは違和感だが……それも故障というなら仕方がない。一先(ひとま)ず最悪を回避した気がする。


 しかし結局進展なし……か。


「あの、あなたのお名前を聞いてもいいですか? 」


 先生は俺を見つめながら問う。


「俺は朝山(あさやま)京太郎(きょうたろう)、ただの魔法使いです」


「私はアスカ=ユグピエド、アスカと呼んで下さい」


「えっ、あ、アスカさんよろしく──」

「アスカ……と、呼んで下さい」


 頬を赤らめ、モジモジと下を向きながら懇願する。


 ……え? これ何のギャルゲー? もしかしてモテ期? いや待て落ち着け! そこらへんの童貞ならころっと落ちる所でも俺は違う!


 既に敗北を知っている今の俺は最弱において最強。つまり神装機竜(バハムート)に乗ると無敗へと昇華するのだ。


 そんな俺が易々落ちると思ったか!


「それじゃあアスカ先生、よろしくお願いしますね」


「アスカと…… 」


 余裕の笑みを浮かべ手を差し出す俺を見て、アスカ先生は口を膨らませる。


「……こちらこそよろしくお願いしますね、朝山さん」


 しぶしぶと、釈然としない顔つきで俺の手を取る。


「それと朝山さん、今回の故障の原因を調べてみます。それについて何か分かりましたら、今度はお茶でも飲みながらゆっくりお話ししませんか? 」


「「──なっ⁉︎ 」」


 これにはロエとガーネットが反応する。


「ちょっと、うちの童貞をたぶらかさないでよ! 」


「「────ッ⁉︎ 」」


 ロエの爆弾発言に俺とアスカ先生が反応する。


「ちょ、おま──なんて事を言ってんだ! 」


「え! 朝山さんって童貞なんですか⁉︎ 」


「いや違っ……わないです、けど……」


 ゴフッ……何だこの罰ゲームは、キツすぎだろ。


 アスカ先生も顔を真っ赤にしてタジタジしている。ロエは未だに自分の爆弾発言に気づいてない。勇ましいな、オイ。


「あ、えーと…… 」


「違うんです、アスカ先生! 俺は心に決めた人に会うまでとってるだけですからね」


 半ばヤケクソ気味に誤魔化す。自分で言ってて吐き気がする。


「そ……そうですか……」


 しかもウケ悪かった……くっ殺!


「と、とりあえず測定器の方は調べてみます。分かり次第連絡しますので…… 」


「はい…… 」


「はい、それと── 」


 アスカ先生はロエとガーネットを一瞥し、その後俺をしっかり見据え



「──私はいつでもここに居ますから」



 挑発的に──もしくは誘惑的なアスカ先生のセリフはロエとガーネット、そして俺の心に突き刺さる。


「ね、朝山京太郎さん! 」


 衝撃流すようなアスカ先生の微笑みに、無敗の神装機竜バハムートがダメージ被害甚大なため蹌踉よろめく。


「は、はい、考えて……おきます」


 システムエラーのためか、変なことを口走ってしまった。

 どうやら俺にはまだ神装機竜バハムートは乗りこなせないらしい。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ──活動日誌



 ○○月××日



 今日は珍しいお客が来た。魔法科のガーネットさんと吸血鬼の方と私より年上そうな魔法使いの方……


 環境が環境だけに、私より年上のお客というのは初めてで、その相手も中々男前な方だったので緊張してしまった。なのでいつもより大人ぶってしまった。


 内容は魔力測定器の使用とのこと。


 つい最近の身体測定でガーネットさんはランク4という素晴らしい結果を出している。彼女は見た目が幼い事によりパーティーに入っても扱いは悪く、舐められる事がしばしと聞いていた。


 しかし今回のメンバーは、そういった感じは見られなかった。つまりパーティーのリーダーが彼女の力量を把握している、もしくは人を見る目に長けていると考える。そんな方の魔力量には少しばかり興味が出た。


 結果は、期待をいい意味で裏切られてしまった。なんと『 00 』、異例の数値だ。そして国公認の魔道具が故障など、初めての経験が一気に押し寄せて来た。


 そんな彼──朝山京太郎と名乗る、ここら辺では珍しい名前の魔法使い。さらには童貞らしく、顔が良いだけにビックリしてしまった。人を見た目で判断するのは良くなかった……反省。


 そしてそのパーティーメンバーの関係も興味深い。クエストに特化したパーティーでも無ければ、何か接点があるという訳でも無い。唯一、朝山さんのハーレム状態なのが気になるが、その為のパーティーという訳でもなさそうだ。


 ただお互い鈍感で見ていて面白いと思った。その中に優秀生のガーネットさんもいるのだから尚更だ。ああいった関係も悪くなさそうだ。少しばかり羨ましいとも思ってしまった。


 だからだろうか、変な事を口走ってしまった。それとも年上のお客に緊張してただけなのだろうか……私もついエントリーしてしまった。これからが楽しみである。


 話が逸れたが、魔力測定器の件は壊れたパーツを調べて原因を突き止めてみようと思う。


 今のところの可能性としては、本当に国公認の魔道具が偶然の故障。



 もう一つの可能性としては……



 いや、今考えるのは不毛な事だろう。調べがついたら彼に連絡しないといけない。


 それとも……





 またここに来てくれるだろうか──






 私は彼のセリフを思い出す。『考えておきます』と──



 本当に面白い方だった。


 また会ってみたいと思ってしまった。だから、そのためにという訳では無いが、活動日誌はここまでとして魔力測定器の方を調べてみようと思う。




           アスカ=ユグピエド




 最後まで読んで頂きありがとうございました!

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